科(化)学系チート持ち転生者のお話 オタク番外編 作:金属粘性生命体
黒川悠真は、第55話で検証した『GLOVE_TOUCH_TEST_001』と『HOLO_STAGE_TEST_001』のログを見つめていた。
成功はしている。LUMENを手のひらに乗せ、弱い圧と電気刺激を返し、グラス不要のホログラム表示もできた。
だが、黒川は満足していなかった。理由は明確だ。要素がバラバラすぎる。
ARカードはARカード側で座標を持ち、グローブはグローブ側で接触判定を持ち、HOLO_STAGEは表示位置を別に補正し、BIO-COREはまた別のモデル空間で動いている。
「進んではいる。でも、全部が別々に進んでる。このまま足していくと、どこかで必ず同期が死ぬな」
黒川は、新しい開発フォルダを作成した。
【OUTER-CORE_DEV】
目的:AR、疑似ホログラム、触覚、机上フィールド、BIO-COREの身体反応を、同じ座標系と同じ接触判定で扱うための外側統合基盤。
V-COREは会話、歌唱、記憶、沈黙、余韻を扱う“内側”。OUTER-COREは位置、身体、接触、表示、現実側のルールを扱う“外側”だ。
『V-COREは、そこにいる心地を作った。OUTER-COREは、そこにいる場所を作る。分けて作った部品を、同じ世界に置く』
OUTER-COREは複数のレイヤーで構成される。
【WORLD-LOCK】現実空間の座標管理。机、カード、手、表示面を同じ空間座標で扱う。
【DISPLAY-LAYER】スマホAR、ARグラス、HOLO_STAGEの表示方式を統一。
【TOUCH-MAP】触覚の管理。接触位置と刺激の統一。
【BODY-MAP】対象の身体地図。
【BEHAVIOR-SEED】生物らしい行動の種。
【SAFETY-LAYER】刺激や出力の安全制限。
黒川は「今はやらないこと」も明確に決めた。完全空中投影、全身触覚スーツ、完全な重さや柔らかさの再現、会話AIの導入などは今は目指さない。
「全部やろうとすると、全部遅れる。今必要なのは完成度じゃない。基準だ。同じ場所にいる、という前提を先に作る」
まず、ARカードをWORLD-LOCKへ組み込む。ANCHOR、HOME、HIDE、FOLLOW、SLEEP、STAGE、BOUNDARY。カードは単なるマーカーから、現実側にルールを置くための物理インターフェースに変わる。
STAGE CARDを置き、BOUNDARY CARDで範囲を決め、HOME、HIDE、FOLLOWを配置する。LUMENがそれぞれのカードに応じて移動する。これまでより動きが安定しているのは、カードごとの処理ではなく、WORLD-LOCK上のルールとして認識しているからだ。
次に、グローブ触覚をTOUCH-MAPへ接続する。
LUMENが手に乗る。WORLD-LOCKが手の位置を判定し、DISPLAY-LAYERが表示位置を合わせ、TOUCH-MAPが圧を返し、BEHAVIOR-SEEDがLUMENの反応を決める。
『触覚は刺激ではない。視覚、位置、反応、タイミングの同期だ。手応えを作る前に、嘘がバレるズレを消す』
手を出すと、LUMENが乗り、弱い圧が返る。以前より圧の位置ズレが少ない。だが、手を傾けると圧がずれるし、電気刺激の通知感は残り、柔らかさもない。「進歩したが、接触としてはまだ足りない」と黒川は認識する。
HOLO_STAGEもDISPLAY-LAYERへ接続する。
同じLUMENを、スマホAR、ARグラス、HOLO_STAGEの三つで同時に表示する。完全一致ではないが、三つともSTAGE CARD上の同じ場所にいる。
「やっと、バラバラじゃなくなった」
いよいよ、OUTER-CORE統合テストだ。
【OUTER-CORE_SYNC_TEST_001】
対象:LUMEN。表示:スマホ/グラス/HOLO_STAGE。触覚:GLOVE。座標:WORLD-LOCK。結果:同期開始。
グローブを装着して手を差し出す。LUMENが手のひらへ移動する。
スマホでも、グラスでも、HOLO_STAGEでも、同じ手の上に乗っているように見え、手のひらには弱い圧が返る。一瞬、すべてが綺麗に噛み合った。
「これだ」
しかし、すぐ崩れる。手を少し傾けた瞬間、HOLO_STAGE側の表示がズレる。グローブの圧は残っているのに、視覚上のLUMENは手の端へ滑る。
「……違う。保持できない」
成功と限界が同時に突きつけられた。
続いて、BIO-COREへの応用だ。三匹にはまだ触覚は入れず、BODY-MAPと接近反応だけを接続する。
「触れる前に、触れられる側の体がいる。どこに触られたら嫌なのか、どこなら許すのか。それがないと、手応えだけある人形になる」
三匹のBODY-MAPを設定する。
ヒトカゲの尻尾炎は接触禁止領域。フシギダネの背中のタネは重要部位。ゼニガメの甲羅は硬い部位。
接近反応テスト。
ヒトカゲに手を近づけると、体が動く前に尻尾の炎が一拍強く揺れる。急接近では一歩下がり、低い位置からゆっくり手を出すと逃げない。『火の方が先に感情を出す。体より尻尾が先』。
フシギダネは正面から手を近づけても逃げず、首だけを動かし目で追う。背中のタネへ手を回すと、ゆっくり体ごと向きを変える。『急がない警戒。動かないことも反応』。
ゼニガメは正面からの接近に首を少し引き、急接近では甲羅に隠れかける。横からゆっくり手を出すと、逃げずに甲羅側を見せる。『守る部位がある生き物。甲羅は防御であり距離感』。
三匹が、かなり生き物に近づいた。
【OUTER-CORE_DEV】
WORLD-LOCK:初期統合完了
DISPLAY-LAYER:接続完了
TOUCH-MAP:LUMEN限定接続
BODY-MAP:BIO-CORE三種接続
BEHAVIOR-SEED:接近反応のみ実装
SAFETY-LAYER:出力制限中
かなり進んだ。だが、黒川の表情は晴れない。
HOLO_STAGEは暗所限定で角度に弱く、手を入れると表示が崩れる。触覚はグローブ頼りで、柔らかさも重さもない。これでは物理接触可能ホログラムには到底遠い。
「統合はできた。でも、届かない。この延長線で進めば、何年かかる。十年? いや、もっとか」
黒川は机の上を見る。LUMENはOUTER-CORE上で動き、三匹は接近反応を持った。AR、ホログラム、触覚は一応繋がった。
だが、目指しているのは、カードとグラスとグローブで支えられた“触れたように見える”技術ではない。道具なしで、そこにいるものに、触れられる状態へ行きたいのだ。
「ここまでは、断片で来られた」
黒川は、転生特典として与えられた未来技術の体系が保存されている、別フォルダの存在を思い出す。
今まで、直接使うことは避けていた。使い始めれば、現代技術の延長では説明できない。開発速度が跳ねる。今の趣味の範囲を、さらに越える。
黒川は、そのフォルダを開こうとして、手を止めた。
「……次でいい」
黒川は、封じていた引き出しの存在を思い出した。だが、この日はまだ、その鍵を開けなかった。
ちょっと設定を見直してたら作り直したくなってきた、どっちがいいと思う?
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作り直す
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このままでいい