科(化)学系チート持ち転生者のお話 オタク番外編   作:金属粘性生命体

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オタクの五十九歩

 

 

 黒川悠真は、外殻演算機《ガイカク》試作零号の稼働ログを確認していた。

 

【外殻演算機《ガイカク》試作零号】

同期核:安定

表示核:安定

触覚核:待機

行動核:安定

安全核:稼働

揺光セル:低出力運用

外部接続:遮断

 

 LUMENの座標同期は安定。生体核三匹の接近反応も短時間なら問題なし。汎用PCでは十二分で限界だった処理も、ガイカク接続後は三十分以上安定している。

 黒川は、ようやく次の段階へ進む。

 

「演算はできるようになった。なら次は、演算結果を現実に返す道具だ」

 

 まずはAR側。『触覚手袋 弐型』の作成だ。

 手首のマイコンを小型化し、重すぎた圧力パッドを削減。指先、指の腹、手のひらへ刺激点を分散させる。電気刺激を弱くし、圧と微振動中心に変更した。ガイカクが刺激位置を自動補正し、痛覚寄りになる前に安全核が強制遮断する。

 

『触覚手袋は、触感を完全再現する道具ではない。まず、見えている位置と手応えのズレを消す。本物の柔らかさはまだ作らない。触れたと思える位置を返す』

 

 ARグラスをかけ、LUMENをSTAGE CARD上に表示する。手のひらを出すと、LUMENが手の上へ乗り、手のひら中央に弱い圧が返る。指先を近づけるとLUMENが縮むように反応し、急に握ると手の中から逃げるように移動した。

 前よりかなり自然だ。圧の位置ズレが減り、手の傾きにも追従する。指先に返る反応も「通知」ではなく「そこに何かある」に近づいた。

 だが、限界はある。柔らかさはない。重さもない。質感もない。ARグラスが必要で、手袋も必要だ。

 

「AR接触なら、もう試作としては回る。でも、これは近道だ。目的地じゃない」

 

 黒川の視線は、前回作った透写台へ移った。

 透写台は机の上にLUMENを浮かんでいるように見せることはできたが、それはまだ「映像」だった。触ろうとすると崩れ、手を入れると投影光が遮られる。角度を変えると位置が変わる。空間そのものに存在しているわけではない。

 

「映すだけなら、もうできてる。でも、触れるには足りない。触れるホログラムには、映像じゃなくて、場がいる」

 

 ホログラムを「そこにある」ように見せるには、光を空中に留める媒体が必要になる。密閉箱の中なら、粒子濃度、湿度、温度、空気の流れを管理できる。

 だが、黒川が欲しいのは箱の中の幻ではない。普通の机の上。普通の部屋。手を伸ばせる場所。そこにLUMENを置きたい。

 しかし、机上の開放空間で粒子に干渉するのは極めて困難だ。空調で空気が動き、人間の呼吸でも粒子が揺れる。手を入れると気流が乱れ、湿度で粒子の挙動が変わる。粒子が濃すぎると煙に見え、薄すぎると光が乗らない。部屋中に粒子を撒くわけにはいかず、安全性も保証しなければならない。

 

「密閉箱の中なら、まだ楽だ。いや、楽ではないけど、管理はできる。でも俺が欲しいのは、箱の中の幻じゃない。手を伸ばせる机の上に出したい」

 

 黒川は、新しい機材『透写台 弐型』を組んだ。

 目的は、机上の開放空間に、ごく薄い粒子場と接触膜を作ること。

 黒い円形の台。中央に薄い透明リング。周囲に微粒子発生ノズル。側面に冷却管。下部投影装置、微弱気流制御、空間眼弐型、粒子回収機構を備え、安全核とガイカクへ接続する。起動すると低く唸り、中央に煙ではない薄い揺らぎが立ち上がった。

 

『煙を作るな。霧を作るな。見える空気ではなく、光が乗る最低限の粒子密度。粒子は表示のためだけではない。接触膜を作るための足場でもある』

 

 ここで、ガイカクの性能が火を噴く。

 部屋の温度、湿度、机上気流、粒子密度、ノズル角度、投影角度、光量、手の侵入速度、接触膜の厚み、安全上限。条件を入力すると、ガイカクが数秒で候補を出した。

 

【粒子場構築候補】

候補数:18,420。安全条件通過:312。表示安定候補:48。接触膜形成候補:7。推奨構築:候補6。

 

 黒川は固まった。

 

「今までなら、一週間かけても足りないやつだ」

 

『演算は成功を作るわけではない。失敗候補を減らす。道を絞る。最後に嘘を吐くのは、いつも現実』

 

 最初の実験。

 透写台 弐型を起動し、LUMENを表示する。

 粒子が濃すぎると、煙の中に映っているだけに見える。「違う。これは光じゃなくて、煙に映ってるだけだ」。

 粒子を薄くすると、LUMENがほとんど見えない。「薄い。部屋を暗くしないと見えないなら、前と変わらない」。

 手を近づけると、気流が乱れ、LUMENの輪郭が歪む。「触ろうとすると崩れる。これも前と同じだ」。

 

 ガイカクが再計算を行う。

【再構築】候補数:6,204。手侵入時崩壊率:低下。接触膜維持候補:3。推奨構築:候補2。

 

 再試行。

 今度は、手を近づけてもLUMENが完全には崩れなかった。輪郭は揺れるが、存在位置を保った。

 

「……残った」

 

 次に、粒子場の中に接触膜を作る。

 粒子場の中に作る、ごく薄い干渉領域。そこへ指が入ると、触覚手袋が刺激を返し、粒子場の光が揺れ、LUMEN側が縮むなどの反応を示す。

 黒川が指を伸ばし、LUMENの輪郭へ触れる。

 粒子がわずかに揺れ、触覚手袋に弱い圧が返る。LUMENが一瞬明るくなり、少しだけ逃げた。

 

「……前より、嘘が少ない」

 

 本当に触れたわけではない。だが、視覚、粒子の揺れ、手応え、LUMENの反応が同時に返ってきた。見えているものと手応えがバラバラだった前回とは違う。

 

【AR接触】

視覚位置:グラス側で制御可能。触覚同期:比較的容易。粒子制御:不要。問題:デバイス依存、裸眼不可。

 

【ホログラム接触】

視覚位置:空間側で保持が必要。触覚同期:粒子場と接触膜が必要。粒子制御:必須。問題:開放空間では不安定。利点:道具なし表示へ近づく。

 

「ARは近道だ。でも、最終目的地じゃない。ホログラムは遠い。だから、こっちをやる」

 

 生体核の三匹にはまだ使わない。LUMENなら粒子場が揺れても「光が揺れた」で済むが、ヒトカゲの輪郭が崩れれば体が崩れて見え、フシギダネのタネが浮けば偽物になり、ゼニガメの甲羅に硬さがないまま触れれば存在感が死ぬからだ。

 

「まだ三匹には使わない。LUMENで嘘を減らしてからだ」

 

 最終テスト。

 暗すぎない部屋。透写台弐型。開放粒子場。接触膜。触覚手袋弐型。ガイカク接続。LUMEN。

 黒川が手を伸ばす。LUMENは逃げない。指が粒子場へ入り、輪郭が少し揺れる。指先に弱い圧が返る。LUMENが明滅し、わずかに縮んでから戻る。

 黒川は、しばらく動かなかった。

 

「触れた、とはまだ言えない。でも、空気が反応した。ここまでは来た」

 

【透写台 弐型】

粒子場:限定形成成功。開放空間:短時間維持。接触膜:初期成功。LUMEN表示:改善。手侵入時崩壊:軽減。安全性:要監視。生体核適用:禁止。

 

【触覚手袋 弐型】

LUMEN接触:安定。粒子場連動:成功。圧返答:改善。電気刺激:低出力安定。柔らかさ:未対応。重さ:未対応。

 

【ガイカク】

構築候補生成:成功。最適条件算出:数秒。粒子場補正:有効。接触膜同期:有効。

 

「演算機があるだけで、実験速度が変わる。今まで手探りだったものが、候補を潰す作業になった」

 

 黒川悠真は、その日初めて、空気がこちらへ返事をしたような感覚を得た。

 




 ちょっとアンケート取りますねぇ、感想とか見てたら「確かに」となる部分が多かったので書き直そうかどうか迷ってます。

 どっちがいいかねぇ?

 一旦19:00で更新止めて、0:00まで様子を見ます

ちょっと設定を見直してたら作り直したくなってきた、どっちがいいと思う?

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