物語の流れなどというものは存在しておりません。その場のノリで全部書いてるので。
「やはりね、お飾りの火力など不要だと思うんだ。」
トリニティ総合学園、フォルティス分派専用校舎の2階テラス。
「お飾りの火力・・・ですか?」
「そうだ。具体的には示威だけが目的の大砲と言うべきだな。大きさと口径で相手の意識に脅威を植え付け、意識を分散させるだけの張りぼて。」
昼下がりの日差しに照らされたテラス席で、トリニティ指定の制服をきっちりと着こなし、その上からオーリブカーキの軍服を袖を通さずに羽織るという何ともトリニティらしからぬ出で立ちの生徒が自分語りの様に滔々と喋り続ける。相席する生徒もまた、それに何一つ疑問を抱くことなく言葉を返す。こっちはちゃんとトリニティの制服を着、妙なアレンジは加えていない。
「確か戦車やパワーローダーといった大型の兵器は良くも悪くも目立ちますからね。」
「目立つ事も戦場におけるデカブツの役割なんだろうが・・・それだけになってしまっては本末転倒だろうッ!!」
軍服を羽織る生徒が左手に持っていたティーカップを皿に置き、くわりと語気を荒く叫ぶ。
「ったく、本来あの巨体は巨砲を支える為の頑健なる足にして相手の砲弾から砲を守る為の障壁だというのに・・・それを歩兵の盾として運用しますだぁ?妄言を吐くのも大概にしろ!いいか、巨砲はな!本来!戦場を蹂躙する為にあるのだッ!!」
ダァンッ!と振り下ろされた掌により、机がびりびりと揺れる。相席する生徒が咄嗟にティーカップとポットを抑えなければ、今頃人肌には熱々の紅茶が飛び散っていただろう。
「戯けた八尺娘が!我々の保有する戦車は盾ではない!あれは巨砲だ!敵を装甲ごと貫徹し、万理全てを撃滅する武器なのだッ!!それを盾にして進めなどと・・・そんなに
「・・・そういうミエル様も、大層な胸部装甲をお持ちだと思いますが。」
「暗喩に決まってんだろうが!・・・と言いたい所だが、私はともかくハスミの胸は9mmパラベラム程度なら直撃でもない限り弾んで跳弾し、威力を殺し切れる。」
「・・・マジですか?」
「あぁ、この目で見た。というか実証した。」
空気が凍る。
「え・・・あ、う、撃ったんですか!?」
「合同演習の時敵として当たる事があってね、その時私の撃った弾が偶々あやつの胸に当たったと言うだけの話さ。・・・確かトリニティ入学時は平均の範疇に居たと記憶しているんだがなぁ。何があったのやら。」
「い、意図的に撃った訳ではなかったんですね・・・」
しみじみと過去を回想する軍服の生徒を他所に、相席する生徒はほっと胸を撫で下ろす。が――
「まぁ罰ゲームで枕代わりにした事はある。」
「って、結局ヤってんじゃないですか!」
「おいおい、ニュアンスが違うぞ。そもそもあれは煽られてキレた向こうが言い出した事だ。」
「煽ってんじゃないですか!!」
二転三転。巨砲がどうという話は何処へやら。
「いやだって、私がチェスに負けたら股でも何でも開いてやるって言ったら馬鹿な事を言わないでくださいとか言うから逃げんだ?副委員長様ともあろう者がって言い返したらノってきて・・・」
「・・・何故そんな馬鹿な事を。」
「面白そうだと思ったから。」
「おいたわしやハスミさん・・・」
特定個人のメンタルを大きく抉る余りにも最低な話を繰り広げながらも、軍服の生徒の声はやや厭らしい愉悦に弾んでいる。
「はぁ・・・全く、人の尊厳を破壊して面白いと感じるのはあなたくらいですよ。」
「おーおー酷い言い草だ。しっかし、チェックメイトかけられた時のハスミの顔、マージで面白かったなぁ。くくくっ、普段あんなでも、意外と可愛い所あるのよなー。」
「人の心とか──あぁ、初めから持ち合わせていませんでしたね、あなたは。」
対して相席する生徒の声色は呆れ果てている事が容易に見て取れる。人の機微に疎い素人が見ても、軍服の生徒の話にほとほと呆れている事が理解出来るだろう。
「そんな訳ないだろう失礼な。私だって陰湿なイジメに耐え続けるミカを見て知り合いとして何かできる事はないかと真剣に考えるくらいには善人だぞ。」
「ミカさんを苛める人達を大義名分の名の元に甚振りたいだけでしょう。考えてる事がミカさんに嫌がらせをする連中と同じですよ。屑です屑。ゴミ捨て場に転がる腐った生ゴミと一緒です。」
「本当に失礼だな君は。全く以てその通りだ。昨日分解状態で納入されたあれの的が欲しくてね。組み上がり完了の報告が待ち遠しい。・・・捕縛命令でも出そうかな。」
「屑が屑を嬲ってる様なんて誰が見たいんでしょうか。醜いなんてレベルの話じゃありませんよ。本当、どうしてこんなのが我らフォルティスの首長になんてなれたんでしょうか。」
「私が天才だから。知ってるか?結果と外面さえ良ければ多少人格が腐ってても英雄と評価されるものなんだよ。あはははっ、才能サイコー。」
「英雄なんて信じてない癖に良く言いますよ本当。」
凡そまともな人間がしているとは思えない人の膿を煮詰めた様な会話。しかし、二人はその聞いているだけで耳が腐りそうな会話の最中でも、その人格が歪む事はない。何故なら――
「当たり前だろう。戦場に英雄は居ない。私が信じるのは巨大で強力無比な砲だけだ。下らぬ思想を貫徹し、装甲諸共敵を灰燼に帰す砲こそが全てだ。」
―――大艦巨砲主義
巨大な砲を以て海上における決戦を制すという海上戦における戦略思想こそ、軍服の生徒───天橋ミエルが信仰よりも絶対とする心理であり、今のフォルティス分派が掲げる理念である。
「如何な謀略であれ、如何な汚濁であれ、巨大なる砲の前には全てが微塵。防壁も防郭も、万事は巨砲によって正と成る。非想非天、砲は絶対にして無二である。」
先程までの人として問題のある言動と表現から一転、鋼鉄の冷たさを体現した様な鋭利な目つきで、ミエルは信条を語る。フォルティス分派の生徒なら耳にタコができるほど聞かされた、大艦巨砲主義の理念を。
「非想非天はあなたの造語でしょう。」
「非想非非想天って長いんだもん。」
・・・台無しである。
「こないだのテストで自分の名前を書き忘れた分際で変な略語を作らないでください。」
「おいなんで知っているんだそれを。あれさえ無ければ浦和ハナコと並べそうだったのに。」
「あなたが迫撃砲に頭突っ込んで喚いてたせいで苦情が来たからですよ。誰が頭を下げたと思ってるんですか。っていうかまさか普通に0点を・・・」
「いや、あやつが一年の時にやった時の方。あと頭を下げたのは私ね?さも自分が下げましたみたいに言うんじゃない。」
再度折れ始める話の腰。が、これこそがミエルにとっての日常であり、彼女が参加するフォルティス分派のお茶会は概ねいつもこんな感じである。むしろ大艦巨砲主義の集いとも言えるフォルティス分派のお茶会において、ちゃんと巨砲に関する論議がなされた事の方が珍しい。
「というか私が頭下げたんだから別に問題ないのでは?逃げた訳でもないし。」
「そういう問題じゃないんですよミエル様。・・・それと、そろそろ行かなくて大丈夫ですか?あと15分で火力演習ですよ。」
そんな品位もへったくれもない弛緩しきった空気の中、ふとスマホの時刻を確認した生徒はミエルに問いかける。
「丁度の時間計算だ。準備は出来ている。君は?」
「今日は非番です。」
「そうか。・・・前線各位、配置に付け。」
それを受けたミエルは今の今までのだらけきった雰囲気から一転、表情を固め、歴戦の軍人の如き空気を纏って席から立ち上がる。懐から無線機を取り出し、圧を伴う声で指示を出す。
『こちらAチーム、全隊準備できております。』
『Bチーム、いつでも行けます。』
「宜しい。予定時刻よりやや早いが、これより火力演習を始める。一射必殺の気を以て場に臨め。私も10分後にそちらに着く。」
『『Yes sir!!』』
無線機から返ってくる了解の意をもつ掛け声を眉一つ動かさずに受け止め、ミエルは一息の後に口を開く。
「砲撃開始!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
トリニティ総合学園に数多く存在する分派の一つであるフォルティス分派を率いる3年生。
末期の大艦巨砲主義者であり、巨砲はこの世の全ての問題を一発かつ根本的に解決できるという戯言を常識として認識し、
彼女の私生活の殆どに砲撃か巨砲が絡んでおり、彼女の口から「砲」という言葉を聞かない日はない。更には朝に一回大砲か戦車の砲撃音を間近で聞かないとやる気が出ず、趣味は政治闘争と砲撃とかいう意味不明な生態を持つ。なんでこいつがトリニティ生なんだよ。
しかしその一方で、ミエルは非常に優れた頭脳と政治手腕を持ち、今日に至るまで数え切れない程のの政敵を謀略と政治用いて蹴落としてきた。
その辣腕は、当時の生徒会長――即ちティーパーティーの先代ホスト達をして"トリニティ1の政治家"と言わせる程であり、彼女を相手取った者達が口を揃えて言う【底無しの奈落】という揶揄表現は、今でも一部の分派の中で消えない記憶として刻まれている。
「・・・なぁ。あそこの中隊の端にいるトロい奴、こないだ加入した新入りか?」
「はい。彼女達は今日が初の火力演習になりますわ。」
だだっ広い平地にて、ずらりと並んだ数十両の戦車の一斉射撃を、ミエルは一つも見落とす事なく観測する。
「ふむ、戦闘は得意だと豪語した割に狙いがイマイチだな。まぁ治安維持部隊属の狙撃手出身ではないし、最初はこんなものか。」
「味方に向けて撃つよりは遥かにマシですわ。」
「君、自己紹介上手いね。」
隣に控える側近の生徒となんかそれっぽい事を駄弁りながら、ミエルは手元のメモ帳にガリガリと何かを書き込む。
「次、動体射撃。待機チームに通達しろ。」
「了解しました。・・・ぜんたーい!動体射撃――」
一通り何かを書き終えたミエルは即座に次の指示を飛ばし、指示を受けた側近の1人が無線機に向けて声を張り上げる。
「申し訳ございませんミエル様。付近でヘルメット団による抗争の報告が。規模と戦況から見てここも戦場になるとの事。」
が、丁度間の悪い所で邪魔が入り、砲撃音の余韻に浸っていたミエルの眉間に皺が寄る。
「ちっ・・・ヘルメット団か。規模は?」
「ヘルメット団同士の内紛なのであっても中規模が精々かと思われますわ。」
報告を聞き詳細を手早く尋ねたミエルは質問の回答が返ってくるや否や脊髄反射ばりの速度で連絡役の側近の1人から無線機を奪い取り、口を開く。
「全隊聞こえるか。たった今、付近でヘルメット団の内部抗争が起きているという報告が入ってきた。戦況の推移から見て、ここも戦場になるらしい。」
『ヘルメット団、ですか。』
返ってきた通信に応じる事なく、ミエルは淡々と命令を下す。
「よって命令変更だ。全隊戦闘態勢。ヘルメット団の移動方向を包囲し、ここに紛れ込んできた者を殲滅せよ。最も撃破数が多い車両には、私御用達の最高級ディナーの招待券を人数分進呈しよう。奴らのヘイローを破壊する気で撃て。」
『Yes sir』
「全武装の使用を許可する。C4特攻と死角からのRPGに注意しろ。・・・アウト。」
指示の傍ら、どさくさに紛れて金でやる気を釣ったミエルは、無線機を側近に返すと、自身が座っているキャンプ用チェアにどっかりと背を預ける。
「君達も椅子は持ってきているだろう?座って寛ぐと良い。立ちっぱは疲れるからな。」
指示により各々持参の椅子に座り始めた側近達から視線を外し、ミエルは眼下に広がる戦闘態勢に入った戦車部隊に目を向ける。
(・・・大体、200mくらいか。ワンチャン来なさそうだな。まぁでも―――)
数十両の戦車の奥、雑木林の茂みの向こうから時折見える銃火と炎。当初は戦車の隊列を眺めていたミエルだったが、ふと雑木林の方に視線を向けると何を思ったのかゆらりと立ち上がり、袖を通さず羽織った軍服の内ポケットからハンドガンと呼称するにはギリギリのサイズのリボルバーを取り出し、照準を雑木林の中へと向ける。
「・・・来ないなら来ないでこちらから出向くまでの話だ。私の時間を潰した咎、その身を的に捧げる事で償うと良い。」
引き金を引く。ガギィィン!!という凡そハンドガンから発された音とは思えない程の爆音が演習場の曇り空を劈き、シリンダーに収められた.500S&Wマグナム弾が銃口から吐き出される。
凄まじい運動エネルギーを纏って射出された50口径弾は一直線に空間を飛翔し、雑木林に到達。乱雑に生え茂る木々を抜け、植物の葉を貫き―――銃撃戦の真っ只中に居たヘルメット団の1人の頭部をヘルメットごと吹き飛ばす。
「当てた・・・!?流石はミエル閣下・・・!」
「・・・次から私の事を閣下呼びした奴はその日から私の選んだバズーカ使ってね。持ってる銃は押収するから。」
数百m先の動体をアイアンサイトでの照準で当ててみせたミエルに側近の生徒達からの世辞抜きの称賛が送られるが、閣下呼びは流石に嫌だったらしい。翌日、フォルティス分派内に定められら規律に「首長を"閣下"と呼ぶ事を禁ずる。違反者は現行の武装を押収され、大口径バズーカの使用を命ずる」という一文が付け加えられたそうだ。
え、ヘルメット団はどうなったかって?
そんなんミエルの射撃に感化された戦車部隊の先制砲撃で皆吹っ飛んだよ。
2話に渡ってギャグ要素薄めってマ?
天橋ミエル トリニティ総合学園3年生 フォルティス分派首長
個における純粋な戦闘能力は0.8イチカくらい。