死を告げる者   作:Spica@お星

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死を告げる者2

あとは、それを現実にするだけだった。 転移の光が消え、広間には蒼星だけが残された。砕けた姿見の残骸を一瞥する。もうそこに死者の影はない。薄紫の光も消え、白い石造りの広間には静寂だけが満ちている。

 

「……さて、本来の目的を果たしますか」

 

 メメントモリは前哨戦に過ぎない。

 

 死者に会える。死者を復活させられる。死者を蘇生できるアイテムがある。そんな噂に縋ってこの森を訪れるPLたちがいる。そして、その弱さを餌にする者たちがいる。

 ダンジョンへ向かう道中で待ち伏せし、傷ついた者を襲い、あるいは案内役を装って奥へ誘導する。

 希望に縋る者からアイテムを奪い、命を奪うPK(弱者)たち。

 

 蒼星がこの森にいた理由は、その連中を狩るためだった。

 

 彼女はダンジョンを出た。

 夜の森は静まり返っていた。だが、その静けさの奥に、複数の気配が潜んでいる。

 

 木々の間。茂みの陰。枝の上。

 蒼星は足を止めた。

 

「出てきなよ」

 

 返事はない。蒼星は小さく笑う。

 

「隠れるのが下手すぎる」

 

 短剣を何もない空間へ投げ込んだ。

 

 ──クリティカルヒット。

 

「バレてるぞ!」

 

「囲め!! 一人だ、数で押せ!!」

 

「グリム・リーパーだろうが関係ねえ!!」

 

 木々の陰から、茂みの奥から、枝の上から、PKたちが姿を現す。数は七人。前衛二人、弓使い二人、魔法職一人、斥候二人。待ち伏せにしては悪くない布陣だった。

 

 だが、蒼星は笑う。

 

「悪くない」

 

 その声には焦りがない。彼女はフードの奥へ手を伸ばし、白磁の仮面で顔を覆った。

 

 表情のない、何者でもない顔。目も、口も、感情もない。ただそこに在るだけで、見る者の認識を薄く撫で取っていくような無機質な仮面。

 

 装備名《無貌の仮面》。

 

 その効果は、姿を消すことではない。

 “見えているのに、認識できない”こと。

 

 次の瞬間、PKたちの視線がわずかに揺らいだ。

 

「……あ?」

 

「ロックが、外れた?」

 

「おい、どこ見てやがる!」

 

 そこに蒼星は立っている。見えている。見えているはずなのに、意識が彼女の輪郭を掴みきれない。

 赤い髪も、黒い衣も、大鎌も、確かに目の前にある。だが、顔だけが思い出せない。声を聞いても、姿を見ても、次の瞬間には認識が霧散していく。

 

 蒼星は仮面の奥で、静かに笑った。

 

「なら、少し急ごうか」

 

 次の瞬間、蒼星の姿がかき消えた。いや、消えたのではない。速すぎて、目が追いつかない。加えて、《無貌の仮面》が彼女の存在感そのものを薄めている。

 

 視線が滑る。ターゲットカーソルが定まらない。名前も、顔も、位置も、認識した端から零れ落ちる。黒衣の残像が森の闇を裂く。赤い髪が一瞬だけ月明かりを反射し、次の瞬間には別の場所に蒼星がいる。

 

 そして、大鎌の刃が閃いた。

 

 最初に倒れたのは、魔法職の女だった。

 

「──え?」

 

 本人ですら、何が起きたのか理解できていなかった。詠唱を始めようとした瞬間には、すでに蒼星はその背後にいた。赤い髪が、月明かりを一瞬だけ弾く。白磁の仮面が、魔法職の視界の端に映る。

 

 だが、遅い。

 

「魔法職から落とす」

 

 蒼星は囁くように言った。

 

「基本でしょ?」

 

 大鎌の刃が、首筋を撫でるように通り抜けた。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──背後攻撃補正発動。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 魔法職のHPバーが、一瞬で消し飛ぶ。

 悲鳴すら上がらなかった。身体が粒子となって崩れ、持っていた杖と装備品だけがドロップアイテムとして地面に落ちる。

 

「は……?」

 

 前衛の一人が呆然と声を漏らした。

 

「今、何が……」

 

「メイジが落ちたぞ!」

 

「ふざけんな、見えてただろ! なんで誰も止めねえんだよ!」

 

 PKたちの視線が乱れる。蒼星はそこにいた。確かに、さっきまでそこにいた。だが、誰も彼女を“敵”として認識しきれていなかった。見えているのに、捉えられない。目で追っているのに、意識が滑る。攻撃対象として指定しようとした瞬間、カーソルが霧のように外れる。それが《無貌の仮面》の効果だった。

 

 蒼星は魔法職の消えた跡を一瞥し、大鎌を肩に担ぎ直す。

 

「あと六人」

 

 白磁の仮面の奥で、彼女が嗤った気配がした。

 

「次は、誰から死ぬ?」

 

 その一言で、PKたちの空気が変わった。

 

 恐怖が、判断を鈍らせる者。怒りで、武器を握り直す者。

 そして──即座に逃走を選ぶ者。

 

「馬鹿かよ、付き合ってられるか!」

 

 斥候の一人が地を蹴った。

 

 判断は早かった。

 仲間を見捨てることに躊躇はない。魔法職が一撃で落とされた時点で、この戦闘がまともなものではないと理解していた。

 

 軽装。

 速度強化系スキル。

 逃走経路の把握。

 森での移動補正。

 

 斥候としての能力を全て逃げることに注ぎ込み、男は木々の間を縫うように駆ける。

 

「逃げんな!」

 

「クソガ!」

 

「弓使い! 足を討ち抜け!」

 

 仲間の声が背後に遠ざかる。斥候は振り返らない。逃げ切れる。そう思った。

 斥候職の自分なら、森の中で追いつかれるはずがない。まして相手は大鎌持ち。いくら速くても、こんな障害物だらけの森で自分を捕まえられるはずが──

 

「速いね」

 

 声が、横から聞こえた。

 

「──ッ!?」

 

 斥候は反射的に短剣を振るう。だが、そこにいた蒼星の姿は、刃が届く寸前でふっと薄れた。

 

 幻影。

 

「でも」

 

 今度は背後。

 

「逃げるには遅い」

 

 斥候は歯を食いしばり、さらに加速した。足元に風のエフェクトが走る。

 

 ──スキル《疾駆》発動。

 ──AGI上昇。

 ──移動速度強化。

 

 木の根を踏み越え、枝をかわし、倒木を蹴って跳ぶ。視界の端でターゲットカーソルが乱れる。仮面のせいで蒼星の位置が掴めない。それでも、斥候は逃げ続けた。速度なら負けない。速度だけは、自分の領域だ。そのはずだった。

 

「へえ」

 

 声が、頭上から降ってきた。

 見上げた瞬間、月を背にして黒い影が舞っていた。

 蒼星だ。

 

 彼女は木の枝を足場にしているのではない。空中を蹴っていた。

 

 一歩。二歩。三歩。

 

 何もない空間を踏み、落下すら置き去りにして、斥候の進路へ先回りする。

 

「な、んだよそれ……!」

 

 斥候の顔が引きつる。蒼星は大鎌を肩に担いだまま、軽く首を傾げた。

 

「速度勝負、する?」

 

 挑発。だが、斥候に残された選択肢はそれしかなかった。

 

「舐めんな!」

 

 斥候は短剣を逆手に構え、進路を変える。木々の密集地帯へ飛び込み、直線ではなく蛇行する。視界を切り、足音を殺し、罠用のワイヤーを撒きながら逃げる。

 

 斥候としては正解だった。

 

 追跡者の視界を潰し、移動経路を限定し、罠で足を止める。

 速度だけではなく、逃走技術まで使った完璧な離脱。

 

 だが。蒼星には届かない。

 

 ワイヤーが張られた瞬間、蒼星の足が地面から消えた。

 枝を蹴り、幹を蹴り、空を蹴る。罠の上を滑るように越え、斥候の真横へ並ぶ。

 

「悪くない」

 

 蒼星が言う。

 

「でも、逃げ方が素直すぎる」

 

「くそッ!」

 

 斥候は腰の投げナイフをばら撒く。

 狙いは蒼星ではない。木の幹だ。ナイフに仕込まれた閃光符が起動し、白い光が森を焼いた。

 

 視界を奪う。

 

 その一瞬で、斥候はさらに加速した。勝った。そう思った瞬間。

 

「見えてるよ」

 

 白光の中から、蒼星の声がした。

 

 斥候の背筋が凍る。

 視界が潰れているはずだ。誰にも見えていないはずだ。なのに、彼女は正確に追ってくる。

 

「音、足跡、呼吸」

 

 蒼星の声が近づく。

 

「逃げる時、人間は結構うるさい」

 

 斥候は最後の速度強化を切った。

 

 ──スキル《瞬脚》発動。

 ──短距離加速。

 ──クールタイム発生。

 

 身体が弾丸のように前へ飛ぶ。木々の間を一直線に抜け、森の出口へ向かう。

 あと少し。あと数歩で、開けた街道に出る。そこまで行けば転移結晶を使える。仲間のことなど知ったことではない。生き残れば、それで──

 

「宣告したよね」

 

 声は、耳元だった。

 

「君はここで死ぬって」

 

 斥候の視界が揺れた。

 いつの間にか、蒼星が前にいた。

 逃げていたはずの自分より先に、街道へ続く出口の前で待っていた。

 白磁の仮面。赤い髪。黒い衣。月明かりを受ける大鎌。

 

「なんで……」

 

 斥候の声が震える。

 

「俺の方が、先に……」

 

「うん」

 

 蒼星は小さく頷く。

 

「だから先回りした」

 

 斥候は叫びながら短剣を突き出した。逃げるための一撃。勝つためではなく、道をこじ開けるための攻撃。

 蒼星は半歩だけ身体をずらした。刃は届かない。代わりに、大鎌の刃が斥候の首筋へ吸い込まれる。

 

 すれ違いざまの一閃。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──速度差補正発動。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 斥候の足が止まる。

 

 数歩だけ惰性で進み、それから膝をついた。

 首と胴体が切り離され、身体が粒子となって崩れていく。

 

「ば、けもの……」

 

 最後にそう呟いた斥候へ、蒼星は静かに答えた。

 

「違うよ」

 

 白磁の仮面の奥で

 

「君たちへ死を告げる者だよ」

 

 斥候の身体が完全に消える。短剣といくつかのアイテムだけが、地面に転がった。

 

 蒼星はそれを拾わない。森の奥へ視線を戻す。まだ五人。

 彼女は大鎌を肩に担ぎ、何事もなかったかのように歩き出した。

 

「さて」

 

 夜の森に、黒衣が溶ける。

 

「次」

 

 

 蒼星がそう呟いた瞬間、森の奥で弓弦が鳴った。左右から二本。時間差をつけて放たれた矢が、蒼星の胴と足を狙って飛来する。同時に、前衛の一人が盾を構えて突っ込んできた。

 

「押さえ込め! 弓で削れ!」

 

「了解!」

 

 前衛が正面から圧をかけ、弓使い二人が左右から射線を通す。魔法職と斥候を失っても、まだ連携は崩れていない。だが、蒼星は笑った。

 

「悪くない」

 

 彼女は矢を避ける。大きく跳ぶのではなく、半歩ずれるだけ。矢は黒衣を掠め、背後の木へ突き刺さる。前衛の盾撃が迫る。蒼星は受けない。身体を低く沈め、盾の縁をかすめるようにすり抜ける。

 

「逃がすか!」

 

 前衛が追う。弓使い二人も、それに合わせて位置を変えた。蒼星を逃がさないように、射線を維持しながら森の奥へと踏み込んでいく。

 

 一歩。二歩。三歩。

 

 彼らは気づかない。蒼星がただ逃げているわけではないことに。彼女が進む先は、最初から決まっていた。ダンジョンへ向かう道中、蒼星があらかじめ仕込んでおいた場所。

 

 木々の間。低い枝。落ち葉の下。岩陰。

 月明かりさえ拾わないほど細い糸が、幾重にも張り巡らされた狩場。

 蒼星はそこへ、三人を誘導していた。

 

「左から回れ!」

 

 弓使いの一人が叫ぶ。もう一人が枝の上へ跳ぶ。前衛は盾を構えたまま、蒼星を真正面から追い詰める。

 蒼星はちらりと周囲を見た。

 

 前衛一人。弓使い二人。全員、罠の内側。

 

「はい」

 

 蒼星は足を止めた。

 

「到着」

 

 その瞬間、前衛の足元で何かが光った。

 

「──っ?」

 

 気づいた時には遅い。

 

 足首に糸が絡む。踏み込んだ勢いのまま、前衛の身体が前へ崩れた。

 

「糸か!」

 

 盾を地面に叩きつけ、強引に体勢を戻そうとする。だが、次の瞬間、腕にも、首にも、鎧の隙間にも糸が食い込んだ。蒼星が指を引く。森に張り巡らされていた糸が、一斉に締まった。

 

「ぐ、あああッ!」

 

 前衛の身体が木の幹へ縫い止められる。弓使い二人が即座に矢を番えた。

 

「罠だ! 離れろ!」

 

「撃て、止めろ!」

 

 だが、彼らが後退しようとした先にも、すでに糸はあった。枝の上にいた弓使いの足元で、糸が跳ねる。

 足を取られ、身体が宙に浮く。もう一人は横へ逃げようとして、弓を引く腕を絡め取られた。

 

「いつ張った……!?」

 

「最初から」

 

 蒼星は静かに答える。

 

「君たちがここに来る前から」

 

 彼女は大鎌を肩から下ろす。

 

「逃げ道も、射線も、立ち位置も、全部こっちで決めてた」

 

 前衛が歯を食いしばり、拘束を引き千切ろうとする。

 

「ふざけるな……!」

 

「力で切れる糸じゃないよ」

 

 蒼星は一歩、近づく。

 

「切りたいなら、気づくのが遅かったね」

 

 大鎌の刃が、鎧の隙間へ滑り込む。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──拘束対象補正発動。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 前衛の身体が粒子となって崩れる。

 

「くそッ!」

 

 吊られた弓使いが短剣を抜こうとする。だが、蒼星が指を動かした瞬間、糸が腕を締め上げた。

 短剣が落ちる。

 

「武器を持つ手」

 

 蒼星の姿が消える。次に現れたのは、弓使いの背後。

 

「まずそこから奪う」

 

 大鎌が首筋を撫でる。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 一人目の弓使いが消える。残った弓使いは、糸に絡め取られた腕を無理やり動かし、蒼星へ矢を放とうとした。だが、弓弦は引けない。いつの間にか、弦にも糸が絡んでいた。

 

「……っ、化け物が」

 

「違うよ」

 

 蒼星は弓使いの眼前に立つ。白磁の仮面には、表情がない。だが、その奥で彼女が嗤った気配だけがあった。

 

「殺しを楽しむ君たちの方が、よほど化け物だとは思わない?」

 

 刃が閃く。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 最後の弓使いの身体が、粒子となってほどけていく。森に静寂が戻った。

 蒼星は指を軽く払う。張り巡らされていた糸が、月明かりの中で一瞬だけ細く輝き、すぐに見えなくなる。

 

 残りは二人。

 前衛一人。斥候一人。

 

 蒼星は森の奥へ視線を向けた。

 

「隠れてるつもり?」

 

 黒衣が夜に溶ける。

 

「次は、そっちを追い込む番だよ」

 

 その言葉に耐えきれなかったのか、姿を隠していた斥候の女が木陰から現れた。武器を足元に落とし、両手を上げる。その顔には、さきほどまで獲物を狩っていた者の余裕など欠片も残っていなかった。

 

「降参だよ」

 

 斥候の女は震える声で言った。

 

「あんたには勝てない。今まで奪った物も渡す。だから、命だけは見逃してくれ」

 

 蒼星は答えない。

 

 ただ、白磁の仮面越しに斥候を見ていた。

 

「アイテムも、金も、装備も、全部返す。もうPKなんてしない。ここにも近づかない。だから──」

 

「それ」

 

 蒼星が静かに遮る。

 

「誰かに言われたことある?」

 

「……え?」

 

「命だけは見逃してくれ、って」

 

 斥候の女の喉が鳴った。蒼星は一歩近づく。

 

「君たちが狩ったPLの中にも、いたんじゃない?」

 

「それは……」

 

「死んだ恋人に会いたかった人。仲間を蘇らせたかった人。もう一度だけ話したかった人。そういう人たちが、泣きながら頼まなかった?」

 

 斥候の女は後ずさる。だが、足が止まった。いつの間にか、足首に糸が絡んでいる。

 

「命だけは見逃してくれ、って」

 

 蒼星の声に熱はない。怒りも、憎しみも、ほとんど感じられない。だからこそ、冷たかった。

 

「で、君たちは見逃した?」

 

 斥候の女は答えられなかった。蒼星は大鎌を肩から下ろす。

 

「奪った物は返せるかもしれない」

 

 白磁の仮面が、月明かりを鈍く返す。

 

「でも、奪った命は返せないよ」

 

「ま、待って……!」

 

 斥候の女が叫ぶ。

 

「情報を渡す! リーダーの居場所も、隠し倉庫も、全部教える! だから──」

「うん」

 

 蒼星は頷いた。

 

「聞かなくても、お前たちみたいなゴミの行きそうなところの見当はついている」

 

 斥候の女の表情に、絶望が浮かぶ。

 

「命乞いするくらいなら、最初から奪わなければいいのに」

 

 糸が締まる。斥候の女の身体が、逃げることも伏せることもできない形で固定された。

 蒼星は静かに告げる。

 

「殺される覚悟もない卑怯者」

 

 白磁の仮面には、怒りも憎しみも映らない。

 ただ、何もない顔が斥候の女を見下ろしていた。

 

「君はここで死ぬ」

 

 刃が、月明かりを裂いた。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──拘束対象補正発動。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 斥候の女は悲鳴を上げることすらできなかった。身体が粒子となってほどけ、足元には短剣と、奪ったものらしいアイテムだけが残る。蒼星はそれらを一瞥する。拾わない。今はまだ、その時ではない。

 

 残りは一人。

 

 重装の前衛。

 この襲撃隊のリーダー。

 

 男は森の中を走っていた。

 重い鎧が枝を折り、落ち葉を踏み潰す。背後から追ってくる足音はない。だが、だからこそ恐ろしかった。

 

 蒼星は音を立てない。

 

 見えない。

 聞こえない。

 だが、いる。

 

 それだけは分かる。

 

「くそ、くそ、くそッ……!」

 

 男が目指す場所は一つ。メメントモリがいたダンジョン。その最奥にある、転移結晶が使用可能になるエリア。

 

 そこまで行けば逃げられる。街へ戻れば、いくらでも立て直せる。奪ったアイテムも、隠し倉庫も、仲間の死も、全部後でどうにかできる。生き残れば、それで勝ちだ。

 

 男はダンジョンへ飛び込んだ。白い石造りの廊下を駆け抜ける。薄紫の光はもう消えかけていた。メメントモリが討伐された影響だろう。あの化け物が消えたなら、このダンジョンにもう危険はない。あるのは出口だけ。あるのは、生き残る道だけ。

 

「見えた……!」

 

 砕けた姿見の広間。その奥に、淡い青白い紋様が浮かんでいた。

 

 転移可能エリア。男は転がるようにその内側へ踏み込む。震える手でインベントリを開き、転移結晶を掴んだ。

 

「は、はは……!」

 

 間に合った。そう思った。男は結晶を起動する。青白い光が足元に広がる。転移まで、数秒。その時、廊下の奥から声がした。

 

「そこまで逃げたんだ」

 

 男の笑みが凍りつく。蒼星は、広間の入口に立っていた。先回りしていたわけではない。追いついたのだ。黒衣の裾を揺らし、白磁の仮面で顔を覆い、大鎌を肩に担いだまま、ゆっくりと歩いてくる。

 

「頑張ったね」

 

 男は盾を構えようとして、手を止めた。転移結晶を使っている。今、防御行動を取れば発動が中断される。だが、構えなければ殺される。蒼星は一歩ずつ近づいてくる。

 

「どうしたの?」

 

 青白い光が男の足元で明滅する。転移まで、あと少し。

 

「逃げるんでしょ?」

 

 男の喉が鳴る。盾を構えれば、転移は止まる。構えなければ、蒼星の一撃を受ける。転移可能エリアに着いた。結晶も起動した。希望は目の前にある。

 

 なのに、手が届かない。

 

「お前……!」

 

 男は叫びながら盾を構えた。その瞬間、足元の転移光が砕ける。

 

 ──転移行動が中断されました。

 

 蒼星は小さく笑う。

 

「残念」

 

 男の顔が歪む。

 

「ふざけるなァァァッ!」

 

 盾を前に突進する。重装前衛の全力の突撃。まともに受ければ、華奢な蒼星の身体など簡単に吹き飛ぶ。だが、蒼星は受けない。半歩、横へずれる。

 

 盾が空を切る。重い鎧が勢いのまま流れる。その瞬間、床に落ちていた鏡の破片に、細い糸が絡みついた。

 蒼星が指を引く。

 

 砕けた姿見の破片が跳ね上がり、男の足元で光を反射する。一瞬だけ視界が白く染まった。

 

「っ──!」

 

 その一瞬で十分だった。

 

 大鎌の刃が、鎧の隙間へ滑り込む。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──対象のHPが大きく減少しました。

 

 男はまだ倒れない。前衛職だけあって、耐久はある。蒼星はそれを見て、静かに告げた。

 

「一撃で死なないんだ」

 

 白磁の仮面が、男を見上げる。

 

「じゃあ、もう少しだけ苦しめるね」

 

 男は再び転移結晶を掴もうとする。だが、その手首に糸が絡んだ。

 

「転移したいならすればいい」

 

 蒼星は淡々と言う。

 

「でも、その前に君は盾を下ろさなきゃいけない。盾を下ろせば、私は斬る。盾を構えれば、転移はできない」

 

 男の呼吸が荒くなる。

 

「選びなよ」

 

 蒼星は大鎌を低く構えた。

 

「生きたいなら、死ぬ覚悟で戦うしかない」

 

 男は荒い息を吐きながら、砕けた転移光を見下ろした。

 

 逃げ道はない。仲間もいない。転移も間に合わない。

 ならば、選択肢は一つだけだった。

 

「……上等だ」

 

 男はインベントリを開く。取り出したのは、赤い回復薬と、黒金色の液体が揺れる小瓶。高位PLが決戦用に使う、一時強化薬。男は回復薬を一息に飲み干した。削れていたHPバーが大きく戻る。続けてブースターの薬を噛み砕くように飲み込むと、全身に赤黒いエフェクトが走った。

 

 ──HP回復。

 ──強化効果《剛体化》発動。

 ──STR上昇。

 ──VIT上昇。

 ──ノックバック耐性上昇。

 ──AGI低下。

 ──効果時間、三分。

 

 男は左手に大盾を構え、右手でハルバートを握り直した。先ほどまでの逃走者の目ではない。

 獲物でも、敗残兵でもない。そこにいるのは、いくつもの戦場を越えてきた上位PLの目だった。

 

「もう逃げねえ」

 

 男は低く告げる。

 

「お前を殺して、ここを出る」

 

 蒼星は白磁の仮面越しに男を見た。

 

「いい顔になったね」

 

 大鎌を低く構える。刃先は床すれすれ。重心は低い。いつでも消えられる姿勢。

 

「命乞いより、ずっとマシ」

 

 先に動いたのは男だった。大盾を前に押し出し、一直線に踏み込む。だが、それはただの突進ではない。盾で視線を塞ぎ、ハルバートの穂先を右後方に隠している。

 蒼星は半歩ずれる。その瞬間、盾の陰からハルバートが伸びた。突きではない。横薙ぎでもない。

 

 蒼星の退避先を読んだ、斜め下からの刈り上げ。

 

「へえ」

 

 蒼星は大鎌で受けない。刃の腹を滑らせ、軌道を逸らす。力で受ければ負ける。ブースター込みの前衛と真正面からぶつかるほど、彼女は愚かではない。

 

 金属が擦れ、火花が散る。

 

 男は即座に柄を返した。ハルバートの石突きが、蒼星の着地点を狙って跳ね上がる。

 

 二段目。いや、最初からこちらが本命。

 蒼星は空中で身体を捻り、石突きを紙一重でかわす。黒衣の裾が裂けた。

 

「惜しい」

 

「軽口叩く余裕があるかよ!」

 

 男が盾を地面に叩きつける。

 

 ──スキル《震脚盾撃》発動。

 

 白い石床に衝撃波が走る。回避ではなく、足場を潰すための攻撃。AGI型の蒼星に対して、地面そのものを揺らして姿勢を崩す判断。

 蒼星の足が一瞬、止まる。男はそれを見逃さない。ハルバートの穂先が、蒼星の胴を狙って突き出される。だが、貫いたのは黒衣の残像だった。

 

「幻影か……!」

 

 男は即座に背後へ盾を回す。

 金属音。大鎌の一撃を、盾が受け止めた。

 

「読んだぞ」

 

「うん」

 

 蒼星は短く答える。

 

「今のは良かった」

 

 だが、男の表情は緩まない。盾で受けた瞬間、男は身体をひねり、盾ごと蒼星を押し潰すように回転した。

 受けた後の反撃まで組み込んだ動き。

 

 蒼星は後ろへ跳ぶ。

 

 そこへ、ハルバートの穂先が追ってくる。

 

 間合いが長い。攻撃範囲が広い。盾で正面を潰し、長柄で逃げ場を狩る。

 ただ硬いだけの前衛ではない。

 

「なるほど」

 

 蒼星は床を蹴り、壁へ跳んだ。壁を蹴る。柱を蹴る。空中に張った糸を足場にして、軌道を変える。

 男の視線が追いつかない。だが、完全には見失わない。

 

「そこだ!」

 

 男はハルバートを投げるように突き出した。穂先が蒼星の進路を塞ぐ。

 読まれていた。蒼星は大鎌の柄を穂先に引っかけ、身体ごと回転する。刃と柄が絡み、一瞬だけ二人の武器が噛み合った。

 力比べになれば男が勝つ。だから蒼星は、力を入れない。絡めた大鎌を支点にして、自分の身体を滑らせる。男の懐へ入るための踏み台に変える。

 

「ッ──!」

 

 男が盾を下げる。間に合う。盾の縁が蒼星の進路を塞いだ。しかし、蒼星の手にはすでに短剣があった。大鎌は囮。本命は、鎧の隙間を狙う短剣。刃が脇腹へ滑り込む。

 

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──状態異常《裂傷》を付与。

 

「ぐ、ぁッ!」

 

 男は呻きながらも退かない。痛みに合わせて、逆に前へ出た。盾で蒼星の退路を塞ぎ、ハルバートの柄で彼女の足を払う。被弾を前提にした反撃。VIT強化中だからこそできる強引な読み合い。

 蒼星の体勢がわずかに崩れた。男の目が見開かれる。

 

「取った!」

 

 ハルバートの刃が、蒼星の首を狙う。

 

 直撃すれば終わる。

 VITもMINもない蒼星にとって、上位前衛の一撃は致命傷になる。

 

 だが、刃は空を裂いた。

 蒼星の身体が、糸に引かれるように後方へ滑った。

 

「残念」

 

 背後の柱に、細い糸が張られている。

 

「退路も、こっちで用意してる」

 

 男の額に汗が滲む。この女は速いだけではない。回避先も、誘導先も、反撃の角度も、すべて戦闘中に組み替えている。

 蒼星は大鎌を肩に担ぎ直した。

 

「強いね」

 

 それは煽りではなかった。

 

「君、逃げるより戦った方がずっといいよ」

 

「黙れ……!」

 

 男のブースター効果時間が減っていく。

 残り二分。

 

 蒼星は仮面の奥で、静かに告げた。

 

「でも、三分じゃ足りない」

 

 男が盾を構え直す。

 蒼星が姿勢を低くする。

 

 

「来いよ、死神」

 

 男が吼える。

 

「俺はまだ死んでねえ!」

 

 蒼星は笑った気配だけを残し、地を蹴った。

 

「うん、殺すね」

 

「私は告げる————死の宣告を」

 

 

 

 ただ、大鎌を低く構えた。その刃に、赤黒い火が灯る。炎ではない。だが、炎のように揺らめいていた。斬り伏せた者たちから喰らったHPとMP。メメントモリを討った時に喰らった異質な残滓。森の中で落とした弓使いと魔法職の断片。

 それらが刃の内側で混ざり合い、禍々しく燃えている。

 

 ──武装効果《魂喰らい》起動。

 

 男の顔色が変わった。

 

「……なんだよ、それ」

 

「君を殺すために残しておいたもの」

 

 蒼星は静かに答える。

 

 白磁の仮面には、表情がない。けれど、大鎌に宿る赤黒い光だけが、脈打つように強くなっていく。

 

 蒼星が一歩踏み込む。

 

死の宣告(エクゼキューション)

 

 刃に宿った赤黒い火が、さらに膨れ上がった。空気が軋む。砕けた鏡の破片が震える。大鎌の刃が、まるで処刑を待ち望むように低く鳴った。

 

 ──《魂喰らい》の蓄積を消費。

 ──次撃に処刑補正を付与。

 

 男は盾を構え直す。

 

「来いよ……!」

 

 蒼星は地を蹴った。黒衣が一直線に走る。今度は消えない。誤魔化さない。真正面から、男の盾へ向かう。

 

「正面からなら──!」

 

 大鎌の刃が盾へ叩き込まれる。

 

 轟音。

 

 広間が揺れ、砕けた姿見の破片が跳ねる。男の足が石床を削りながら後退した。だが、盾は砕けない。

 

「止めたぞ!」

 

 その瞬間、蒼星の身体が盾の上へ跳ねた。

 

 大鎌の一撃は、盾を破るためのものではない。防御方向を正面へ固定させ、男の視界と姿勢を縛るための布石。

 蒼星は空中で身を翻す。赤黒く燃える刃が狙うのは盾ではない。

 

 盾と鎧の接合部。正面防御の外側。上位PL同士の戦いでしか生まれない、ほんのわずかな隙。

 

「正面を固めたなら」

 

 蒼星が囁く。

 

「正面じゃないところから殺すだけ」

 

 刃が落ちる。

 

 ──《魂喰らい》解放。

 ──鎌魔スキル死の宣告(エクゼキューション)補正適用。

 ──クリティカルヒット。

 ──急所攻撃成功。

 ──防御貫通。

 ──対象のHPが全損しました。

 

 赤黒い火が、鎧の隙間から男の身体を焼くように走った。

 盾が床に落ちる。ハルバートが手から離れ、白い石床を転がる。

 

「……くそ」

 

 男は膝をついた。

 

「最後まで、逃げずに戦ったんだけどな……」

 

 蒼星は着地し、大鎌を肩に担ぎ直した。

 

「そこだけは、悪くなかったよ」

 

 男の身体が粒子となって崩れていく。蒼星は白磁の仮面越しに、その最期を見届ける。

 

「宣告通り」

 

 粒子が消える。

 

「君はここで死んだ」

 

 広間には、再び静寂が戻った。

 

 砕けた姿見。壊れた転移結晶。消えたPKたち。そして、白い石床に散らばるドロップアイテム。

 蒼星は大鎌を肩に担ぎ直し、足元に転がった大盾とハルバートを一瞥する。

 

「……そこだけは、悪くなかったよ」

 

 最後まで逃げなかったことだけは、認めてもいい。だが、それだけだ。

 彼らが奪ったものは戻らない。死者に縋って森へ来たPLたちの命も、砕かれた希望も、泣きながら伸ばした手も。何一つ、返ってはこない。

 蒼星は散らばったアイテムを拾い上げる。装備。ポーション。転移結晶。見覚えのないアクセサリー。誰かの名前が刻まれた小さな指輪。

 持ち主が生きているなら返す。死んでいるなら、せめて遺品として届ける。それが救いになるとは思わない。ただ、奪われたままにしておくよりはマシだ。

 

「……面倒」

 

 小さく呟き、蒼星は《無貌の仮面》を外した。

 白磁の仮面の下から、赤い髪がこぼれる。黄色い瞳が、砕けた鏡の残骸を一度だけ見た。

 

 死者と再会できるダンジョン。

 死者を蘇らせるアイテム。

 そんな噂に縋った者たちと、それを餌にした者たち。

 

 どちらも、この森にはもういない。少なくとも、今夜は。

 蒼星は転移結晶を取り出した。青白い光が足元に広がる。次の瞬間、白い神殿の景色がほどけ、視界が街の灯りへと切り替わった。

 

 夜の街は静かだった。大通りにはまだ人影があるが、昼間の喧騒はない。宿屋の窓から漏れる明かりと、遠くで聞こえるNPCの足音だけが、かろうじてこの場所が安全圏であることを思い出させる。転移門の前に、一人のPLが立っていた。

 

 塩宮。

 

 蒼星と同じギルドに所属する、攻略組の一人。そして、今の蒼星ができるだけ顔を合わせないようにしている相手だった。塩宮は蒼星の姿を見ると、静かに口を開いた。

 

「終わりましたか」

 

 その声に驚きはない。安堵も、ほとんど見えない。ただ、いつも通りの淡々とした口調だった。

 

「心配はしていませんでしたが、遅かったですね」

 

 蒼星は少しだけ目を細める。

 

「……待ってたの?」

 

「偶然です」

 

「転移門の前で?」

 

「偶然です」

 

「こんな時間に?」

 

「偶然です」

 

 蒼星はため息をついた。

 

「相変わらず、嘘が下手だね」

「貴女ほどではありません」

 

 塩宮は即答した。蒼星は言葉に詰まる。塩宮の視線が、蒼星の赤いカーソルへ向いた。安全圏の中でも、それは消えない。プレイヤーを殺した者。システム上、明確に罪を背負った者の色。

 

 レッドPL。

 

 たとえ殺した相手がPKであっても、システムは事情を汲まない。蒼星はもう、攻略組の隣に堂々と立てる色ではなかった。

 

「……近くにいると、迷惑かかるよ」

 

 蒼星はぽつりと言った。

 

「攻略組の人間が、レッドPLと関わってるって噂になったら面倒でしょ」

「面倒ですね」

 

 塩宮はあっさり頷いた。

 

「なら──」

「ですが、それは私が判断することです」

 

 蒼星の言葉を遮り、塩宮は静かに続ける。

 

「貴女が勝手に決めることではありません」

 

 蒼星は黙る。塩宮の口調は責めるものではなかった。怒ってもいない。ただ、淡々としている。だからこそ、逃げ道がなかった。

 

「喧嘩をした覚えはありません」

 

 塩宮は言う。

 

「追放した覚えもありません」

 

「でも、私は──」

 

「ギルドメンバーです」

 

 その一言で、蒼星の言葉が止まった。塩宮は蒼星を見る。

 

「少なくとも、私はまだそう思っています」

 

 夜風が二人の間を抜ける。蒼星は視線を逸らした。

 

「……物好き」

 

「よく言われます」

 

「私といると、面倒に巻き込まれるよ」

 

「もう巻き込まれています」

 

「私、レッドだよ」

 

「見れば分かります」

 

「攻略組の立場、悪くなるよ」

 

「その程度で崩れる立場なら、最初から大したものではありません」

 

 蒼星は小さく笑った。呆れたような、困ったような笑みだった。

 

「強情だね、塩宮は」

 

「貴女ほどではありません」

 

「私は強くないよ」

 

「知っています」

 

 蒼星が塩宮を見る。塩宮は表情を変えずに続けた。

 

「だから、待っていました」

 

 その言葉に、蒼星は何も返せなかった。しばらく沈黙が落ちる。やがて、塩宮が視線を蒼星のインベントリへ向けた。

 

「奪品は?」

 

「回収した。持ち主が分かるものは返す。分からないものは調べる」

 

「手伝います」

 

「迷惑かかるって言ったばかりなんだけど」

 

「聞きました」

 

「聞いてそれ?」

 

「はい」

 

 塩宮は当然のように頷く。

 

「一人で抱えるより効率的です」

 

 蒼星は少しだけ目を丸くしたあと、呆れたように笑った。

 

「そういうところ、変わらないね」

 

「貴女もです」

 

 蒼星はその背中を見つめる。

 

 レッドPL。攻略組。同じギルド。離れた距離。それでも、完全には切れていない縁。

 

「……そっか」

 

 蒼星は小さく呟き、大鎌を背に戻した。

 死者と再会できるという噂は、きっと明日にはまた形を変えて流れる。誰かが信じ、誰かが縋り、誰かがそれを餌にする。

 

 だから蒼星は、また死を告げに行くのだろう。

 けれど今夜だけは。

 

 死を告げる者は、同じギルドの仲間の背を追って、街の灯りの中へ歩き出した。

 

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