俺は桜井景和。表向きは普通のフリーター。裏ではブジンソードとして悪人を斬っている。全ては女神の理想の世界を叶えるために。
俺は原作開始前に裏の世界で悪人を斬って回り、闇の世界の住人とコネクションを築いた。これも原作の事件の元凶である真島と吉松シンジの動向を把握するためである。
俺は喫茶リコリコから徒歩10分のアパートに身を寄せている。今住んでいるアパートは記憶喪失を装ってリコリコに近づいた時にミカ店長から借りてもらった場所だ。
お人好しの集まりのリコリコは俺を警戒することなく、むしろ可哀想な者を見る目で俺を助けてくれた。本当に好都合だ。これでリコリコの内部事情を探れるし、原作のイベント発生時を随時確認できる。
俺は洗面台の前に立ち顔を洗う。鏡に映る俺は表情や目が死んでいた。これでは不信感持たれてしまう。俺は無理やり笑顔を作り、いつもの好青年を演じる練習をする。
5分ほどしてようやく表情が完成すると俺は着替えをしてアパートを出る。今日は喫茶リコリコのバイトは休みの日だ。というより、強制的に休みを与えられた。
リコリコの皆んなはDAからの任務の他、「お客様の悩み事を何でも解決する」との建前で、一般人からの護衛などの依頼も請け負っている。俺にそれを悟られまいとこうして依頼がある日は店が臨時休業になるのだ。
既に原作4話までは終えている。井ノ上たきなの喫茶リコリコへの左遷とクルミの加入。いずれの原作イベントも俺がブジンソードとして介入することなく今のところは済んでいる。
ただ、地下鉄脱線事故は見過ごす事はできず、真島率いるテロリスト共は俺が斬り捨てた。悪は駆逐しないとな。
今日の原作イベントは、体を機械に繋がれた男・松下が自分の先が長くないことを知り、故郷の日本に観光のために訪れ、護衛依頼をリコリコに依頼すると言う内容だ。
実際のところ、松下という男はヤクの末期患者でそれを裏で操っているのが吉松シンジだ。わざわざカバーストーリーまで用意して、彼は錦木千束を殺しの天才として開花させるためにジンという暗殺者を送り込み彼女にそいつを殺させようとする。
錦木千束は現状覚えていないだろうが、幼い時に彼女が先天性の心疾患を患っていた時に吉松シンジに才能を認められたことにより、アラン機関の支援による最新型の無拍動人工心臓を移植された過去をもつ。
彼女は手術前に偶然接触した吉松の名前も真意も知らないまま自身を支援した恩人と信じ、会って感謝を伝えるべくDA本部を離れて喫茶リコリコを始め、恩人と同じ救世主となるべく不殺を通している。
皮肉な話だ。錦木千束本人は殺しを望んでいないのに、無理やり殺しの天才として開花させようとあらゆる手を尽くす吉松シンジ。2人の道は決して交わることはないだろう。
今回の話で俺が介入しようと思ったのは暗殺者ジンがいるからだ。奴はミカの知り合いでありながら、依頼されれば人殺しも辞さない。未成年である千束やたきなにも容赦はしないクズだ。どれだけ取り繕うとそれが変わることはない。奴は悪人だ。悪人は俺の手で斬る。
俺はブーストライカーに乗り込み、日本観光を謳歌している千束とたきな、松下をバレないように尾行しジンが現れるその時を狙っていた。
そして遂にその時が来た。
たきなが1人別行動を始めた。俺はそれを遠くで見ながらブーストストライカーを走らせる。やがてジンと接触したたきなが激しい銃撃戦を始めた。
たきながジンと共に工事現場へと落下する。俺はそれを見てデザイアドライバーを装着し、ブジンソードバックルを装填。バイクのアクセルを全開にして走る。
【SET AVENGE】
「変身!」
【BLACK GENERAL BUJIN SWORD!】
俺はバイクから飛び工事現場の柵を飛び越え中へと侵入する。そして、拡張武装『武刃』を生成し、逃げるたきなとジンの間に入り、撃ち込まれる銃弾を全て切り裂く。
【READY FIGHT!】
「なんだ奴は?!」
「あれは一体?!」
俺は刀を上段に構え、一気に踏み込みジンとの間を一瞬で詰めて奴を袈裟斬りにする。
「死ね」
「ガハッ」
ジンは血を吐き倒れた。俺はうつ伏せになっているジンを足で起こし仰向けにして死亡確認を取る。微かに呼吸をしている。踏み込みが甘かったか。なら、トドメを今刺してやる。
俺はジンの心臓に向けて刀を突き立てようと刀を逆手に持ち上げた。その時だった。
「やめて!殺さないで!」
ジンを庇うように俺の前に出た千束が邪魔をする。後ろをチラリと見れば車椅子で移動してくる松下もいた。完全に興を削がれた俺は武刃を鞘に納める。
「よかった……早く手当しないと!」
千束がジンの止血をする。俺はそれを見て踵を返し松下の元へと歩く。
「こ、来ないでください!」
松下の前に出てきたたきなが中をこちらに向けてきた。俺は体を黒い靄に変えて瞬間移動し、松下の背後へと転移する。
「残念だったな、吉松シンジ。お前の計画は俺が台無しにしてやったぞ」
『君はどこまで知って?!』
「なっ?!いつの間に?!」
松下の耳元へ呟き俺は今度こそその場を離れた。
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「結局、あの黒い人の正体は分からずじまいでしたね」
「うん、そうだねたきな……」
「千束?」
たきなの疑問に対し、千束は暗い顔で何かを思い出すように目を閉じていた。
「正体なら分かってるぞ」
「本当ですか、クルミさん?!」
喫茶リコリコのテーブル席でカタカタとパソコンを叩いていたクルミがパソコンをたきなに見せる。
「奴の名はタイクーン。悪人専門の殺し屋だ。裏の世界ではアンタッチャブルで超危険な存在。伝説かと思ったがまさか実在するとはなぁ」
「悪人専門の殺し屋……何故、彼が急に現れて……」
「そうか……タイクーンていう名前なんだね」
千束が身を開き、悲しそうな声で名前を噛み締める。
「あの人の背中、すごく寂しそうだった。きっと何か理由があるはず」
「千束……そう言えばミカさん。あの人の容態はどうなんですか?」
「一命は取り留めたが油断は許さない状況だ。後は私に任せて千束たちは帰りなさい」
「うん、わかったよ先生。それじゃ、行こっかたきな」
「はい……」
突如現れた悪人専門の殺し屋タイクーン。彼はなにを思いジンを斬り捨てたのか。何故、自分たちの前に姿を現したのか。疑念は積もるばかり。ただ、1人千束は考えていた。
「タイクーンの背中、景和さんそっくりだったな……」