西風への旅の中で   作:不穏パロスを壊滅したい

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西風の旅中

 畑を耕す。俺一人が生きながらえることができるだけの畑だ。小麦に、野菜。肉は狩りをして仕留める。前に生きていた世界では不便と言われるだろう生活だがこれはこれで満足している。娯楽がないのだけが難点だがそもそも娯楽を嗜むだけの余裕はない、だから生活としては質素だが不足のない暮らしをさせてもらっている。

 

 ブルル、と鼻を鳴らした馬が曳いていた鋤を自分で外して定位置に加えて引っ張った後俺の方に甘えるようにすり寄ってくる。大きな馬で軍馬と言われても納得できるほど大きな体をしている。4本の足にはそれぞれ翼が生えている、不思議な生物だ。漆黒の体を揺らして俺よりでかい癖に甘えるように顔を摺り寄せてくるので丁寧に撫でてやる。

 

「シイナ、わかったわかった。わかったから。上出来だ、ありがとよ」

 

 俺の言葉に満足したらしい馬、シイナは唇を使って俺の全身を毛づくろいし始める。天空から降りてきた時に唯一俺に突いてきてくれたこいつはもう、かけがえのない相棒だ。寿命という概念がひどく遠いこの世界……オンパロスにおいて俺の孤独を防ぐ唯一の家族だ。

 

「おっきいペーガソス~~……」

 

「……でかいだろ?」

 

 後ろから思わずといった感じで漏れたらしい声。後ろを振り向けば手作りの柵の隙間から覗き込むように紅い髪の小さな子供が目を丸くして俺とシイナを見ていた。んな馬鹿な、と関わり合いになるとは思ってなかった登場人物とのエンカウントに舌を巻きながらどうしたものかと考える。

 

 元は仕立てもよかったんだろうし頑丈だったから今までもってきたであろう服は旅の汚れにまみれてしまって見る影もない、重そうに背負った荷物はパンパンだ。花の飾りで彩った髪で片目を隠しているが露出している目はキラキラと輝きシイナを見ている。

 

「君は?」

 

「『ボクたち』はトリアン!ヤーヌスの半神にしてヤヌサポリスの神託の聖女!創成の神託を広める旅をしてるんだ!」

 

「そうか、俺はアズマ。しがない狩人だ。こっちはシイナ、まぁ一応ペーガソスってことになる」

 

 知っている、3人セットじゃないから驚いているしこんな苦労が形になった姿で旅をしているとは思わなかったけど、劇中の描写を見れば納得することはできる。そして、長年の俺の疑問が確信に変わった瞬間でもある。やはりここは崩壊スターレイルに登場するオンパロスだったのだ。

 

 崩壊スターレイル、RPGのゲームだ。ストーリーを追っている程度だから詳しくはなかったが主要人物の登場で疑いの余地はなくなった。タイタンだのエーグルだのセネオスだのと暮らしていたけどいやまあ、違うだろ?と自分を騙そうと思ったけど無理だこれ。ここスタレの世界だわ。何回目の永劫回帰だ今?まぁ次の俺は記憶ないか消去されてるからいいんだろうけど、ここで俺がトリアンと出会うのは変な関数になりえないだろうか。

 

 オンパロスの物語には変数が必要だった、だけどそれは開拓者という主人公であって俺のような木っ端ではない。物語がハッピーエンドではなく一部ビターな部分もあったがオンパロスで展開される物語は概ねいい形で終わることができた。実に美しい物語だ、それに塗りたくられる泥になるのはごめん、なんだけど。

 

 シイナが近づいて顔を下げるのを見て大喜びでシイナを撫でるトリアン、その装いはまさしくボロボロ。光暦3900……何年だったか。とにかくタイタンの火を追う旅が始まって割とすぐのタイミングだがトリスビアスが半神となり1000体の分け身になってからすでに260年近くにもなる。オンパロスの端っこの端っこだろう都市国家もないこの地に来た彼女はボロボロだった。

 

 率直に言えば良心が痛む。聖女なんて言ってはいるが見た目はホントに小さな子供なんだから。よく考えてみろ、小さな女の子が一人旅だぞ?ミサイルみたいなロケット武器ピラヴロスがあるとはいえトリスビアスは半神で英雄であっても戦士じゃないんだ。ここでハイさよならしたら俺は多分明日から美味しくご飯食べられない。ほら今もお腹なったじゃん、ぐ~~~って。

 

「……ほれ」

 

「うわっ!?パン?」

 

「に、適当な野菜と肉を挟んだ俺の昼飯の予定だったもんだ。子供が腹空かしてるのをみて何もせんでいるほど人でなしでもないしな」

 

「……いいの?」

 

 そう言って見上げてきたトリアンの顔は泣きそうな顔だった。おいおいおい、待ってくれよ。確かにここら辺はジョーリアの信仰が根強いけどよそ者とはいえ子供相手に何かするような馬鹿どもはいないぞ。どんだけ過酷な目にあってきたんだよ、それも一番明るい性格であろうトリアンがこんなになるなんて正直思いつかないぞ。

 

 遠慮せずに食え、そういうと俺のサイズに合わせて作ってあるのでトリアンにとっては顔くらい大きなサンドイッチにかじりつく。一口、二口、三口。食べ進めていくうちに彼女の瞳には涙が溜まって頬を伝って流れていく。いつの間にかサンドイッチはトリアンの腹に収まっていた。

 

「美味しかった!ありがとう!」

 

「ああ、良かった。なぁ、何があったか聞いてもいいか。そんなボロボロになってまでどうして旅をしてるんだ?」

 

「神託を聞きたいのか!?いいぞ!」

 

「いやまぁ、それもそうなんだが。お前のことについてもな。入れよ、茶くらい淹れてやる」

 

 彼女をこのまま旅に出すわけにはいかない、少なくとも体が回復するまでは引き止めないとどっかで野垂れ死ぬ。必死に引き止める言い訳をひねり出してぐしぐしと涙を拭うトリアンに声をかけると神託に興味を持ったと思われたのか少し跳ねるほど喜んでいた。背中の小さな羽根がぱたぱたと荷物の下で動いて可愛らしく、その様子に少し笑いが漏れてしまう。

 

 簡素な自宅ではあるが小奇麗にはしてDIYで家具も手作りした。だから人を招いても問題ない。暖炉の前に置いてあった安楽椅子を引っ張り食卓へ持っていく。そっから先に淹れておいた薬草茶をコップに注いでトリアンと自分の前に置く。

 

 それじゃ、語るぞ!とわざとらしい咳払いのあとにトリアンは創成の神託を歌い上げる。叙事詩のような形式で語られるそれは要約すればスタレで語られた其れと何も変わらない。暗黒の潮に呑まれる前に黄金の血が流れる英雄を探し、タイタンから火種を奪って創成の渦心に捧げて再創成を成し遂げよという内容だ。

 

「だから、ボクたちは旅をするんだ!多くの英雄を見つけて神託を実現するために!」

 

「なるほど。にしてもこんなところで何をしてたんだ?小さな集落はあるにしろ都市国家はないだろ。信仰の鞍替えは難しいしな」

 

「ここは旅の目的地じゃないんだ。オクヘイマに行きたくって」

 

「オクヘイマぁ?こんなところからか?スティコシアの方がまだ近いだろうに」

 

「うん、ボクたちがそこにいて、軟禁されてるの」

 

 それを言われてはっとした。そうだった、今の時代確かオクヘイマはカイザー・ケリュドラの独裁体制で第一次火を追う旅を始めたところだ。そしてトリスビアスの一人トリビーが運命卿という形でそこに所属しているものの実際は軟禁されている。王権を神権の代わりにするために。それを何とかするためだったのか。

 

「飯食って泣くほど辛いんならちょっと休んでったらどうだ。旅をするなら健康がいるだろ」

 

「んーん、そういう事じゃないんだ。昨日、ボクたちのうち3人が一気に西風の向こうに行っちゃったから……」

 

「そういうの、わかるのか」

 

「うん、ボクたちみんなでトリスビアスだからね!」

 

 トリスビアスは、感覚を同期している。一人がすっぱいものを食べれば他にもすっぱさが伝播する。死んでしまったこともわかる。俺は今まで波乱は有りつつもそれなりに平和に暮らしてきたつもりだ。過酷だ、過酷すぎる。トリスビアスの歩む旅路は俺には眩しすぎる。

 

 ケリュドラの火追いが始まったばっかりってことは、今は黄金戦争真っただ中でもある。劇中で描写されていたが黄金戦争でトリスビアスの大多数が死んだらしい。目の前のトリアンがそれの例外だっていうのは俺の前の知識から来るもので今のこの世界ではそれは全く証拠がない。

 

 ふわふわ生活してた俺だけど、こんなの見せられたら流石に現実というものを直視したくなる。もう黄金戦争の中盤あたりだろうが、恐らくまだまだトリスビアスは死ぬ。何回別れを経験したかは知らないがスタレ本編の彼女らは別れを明日の希望にしていた。だけどまだ今はそこまで行けてない。只の哀しい別離だ。

 

「……オクヘイマだな?」

 

「???そうだぞ!」

 

「わかった、連れてってやる。多分お前が一人で行くよりも速いだろ」

 

「歩きで行くならボクたちと君じゃそんなに変わんないぞ!」

 

「歩きならな。一頭忘れてるだろ」

 

 トリスビアスは空を飛べるが歩きで移動しているのを見るに長距離の移動は無理なのだろう。百界門も今の彼女じゃ使えない。ただ、俺も元は天空の民だから相棒がいるんだよ。そして窓から顔を突っ込んで話を聞いていたシイナが大きく嘶いた。そこでようやく忘れていたものを思い出したトリアンはぱぁっっと顔を輝かせる。

 

「乗せていってくれるのか!?」

 

「そういうことだ。準備があるから明後日出よう。今日明日は悪いが待っててくれ。風呂沸かしてくる」

 

「お風呂があるの!?ピュエロスじゃなくて!?」

 

「お前が想像してるようなもんじゃないけどな。公衆浴場はここにはないぞ。皆水浴びだ」

 

 どっこいせ、と風呂釜を見に行く。興味を持ったトリアンがとてちてついてくるがまあ問題ない。手製の大きな釜の下に火をつけ水を入れる。近くに川が通ってるからそこから往復だ。川から水を引き入れる形の風呂の中で仕切りを外し水を半分まで溜める。あとは沸騰したお湯を蛇口を捻る形で入れて温度を合わせれば……おし、できた。

 

「自分で作ったのか?」

 

「そうだ。先に入れ、タオルはそこにある」

 

「じゃ、一緒に入ろう!」

 

 ぶっ、と吹き出しかけるがそういえば文化的にそうだ。公衆浴場は混浴で服を着て入るものっていうのが常識だ。水浴びや沐浴は裸で行うプライベートなものだが風呂は別、前世の癖のせいでミスった。沐浴って言えばよかった。しゃーないか。ぽいぽいぽいと旅装束を脱いで薄着になったトリアンが風呂に入っていく。

 

 しゃーなしに俺も上を脱いで水を被ってあらかた汚れを落としてからトリアンの隣に座る。日本式の風呂として作ったつもりではあったがいつの間にかローマ式に早変わりだ。まぁいいけどさ。

 

「なぁ……なんでよくしてくれるんだ。ボクはその、よそ者だろ?」

 

「その創成の神託って奴、本気で叶えようってのは分かった。見た目が子供だからって中身までガキ扱いはせん。そうだなぁ……お前さんがどっかで野垂れ死んでオンパロスが助からないってなったら困るだろ、俺が」

 

「そんな微塵も思ってないこと言わなくてもいいんだぞ……?ボクたちだって人を見る目くらいはあるんだ。アズマがそんな考えじゃないことは分かる」

 

「そうかもなぁ。寝覚めが悪いからってことにしといてくれ。頑張ってるヤツを見るとつい、助けたくなっちまうんだ」

 

 半分本気で半分嘘だ。トリアンは生き残る、そしてどこかで死ぬのだろう。この輪廻が開拓者がやってくる輪廻でない限りトリスビアスは消耗して死ぬ。変わらない運命だ。結果が決まっているのに動きたくなるのは何なんだろうな。気に食わないから足掻きたいだけなのかもしれない。

 

「アズマ……君はきっとボクたちのこと知ってるんだよね」

 

「あぁ……ヤヌサポリスの聖女の話はここにも噂程度には流れてきた。創成の神託を謡う紅い髪の聖女ってな。まぁまさかこんな小さいとは思わなかったけどな」

 

「でもボクたちがいっぱいいるのは知ってた」

 

「自分でボクたちっつってるだろ。半分神様なんだから分裂の一つや二つできたって不思議じゃない」

 

 むぅ、と若干ジト目になってこっちを見るトリアン。あかん、鋭いな。キャラとしての彼女の情報を知っているから細かいところへのツッコミをスルーした結果なんで驚かないんだって疑われてしまっている。

 

「……此の際白状するが俺はもともと天空の出だ。エーグルとも近かった。タイタンの威光は身をもって知ってる。だからお前が半神っていうならどんな理不尽が起きても驚かん」

 

「そうなのか?じゃあシイナも」

 

「あぁ、盗んだりしたわけじゃなくて本当に俺の相棒さ」

 

 ペーガソスは天空に属する生き物なので天空にしかいない。何とか誤魔化せたかなとため息をついた。ちなみに隣のトリアンはなんかねむねむになってしまっている。やめてくれよこれで寝るのはという願いむなしく温かさに誘われてトリアンは眠ってしまった。どーやって着替えさせようこれ。




アズマ 

 晨昏の目出身、セネオスとはほぼ同期。セネオスがエーグルにブチギレてるところ一緒になってブチギレてたけど民もしょーがねーわこれとなってエーグルを殺しに行くんじゃなくて普通に都市国家から出ていった。薄々スタレのオンパロスだと気づいていたのでせめて変な変数になりたくなかっただけともいう。なお元は戦士なので弱い物を守るという意識が転生前の倫理並にこびりついている。

トリアン

 でっかい馬を見てたら変なあんちゃんに掴まったかわいそうな子。人を見る目はあるけどあんまり疑うことをしない聖女。クソデカ荷物の中身は半分以上がピラヴロスか部品。まだ百界門の門職人ではないため門は開けない。
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