月の兎は、春に追い縋る 作:花海咲季のファン
遅れた理由としては、咲季と佑芽のSTEP4が来たので、学マスで確認するために周回してたのが主です。
これで後は最終話を残すのみなのですが、リアルがごたついて来たので落ち着いてからの投稿となります。
一応今月中には完結させようと思っておりますので、引き続き応援をよろしくお願いします。
また、③までは伸びなかったので、決着までお楽しみください。
【Finale】本戦の演技は続く、アイドル達はここまで来て、あんな
その焦りは彼女らが本来、花月櫻良に勝るほどの輝きを持った武器を曇らせていった。
そうして、演技が終わってから
ただ一人の綺麗で圧倒される演技を見ただけで、アイドルとしての自分が揺るいでしまったという事実に対する恥とこの大舞台で保身に走るような演技を晒す醜態をファンに届けてしまったという自己嫌悪。
その中でも月村手毬の演技は、間違いなく彼女の本来の演技であった。
櫻良の演技の直後という一番期待と
現状の【Finale】本戦出場アイドルの中で、花月櫻良の演技の衝撃に対して、真っ向から対峙して己のアイドルの矜持を貫き通したのは月村手毬だけと言えるだろう。他のアイドル達は勝負の土俵にすら、立つことが出来ずに自滅していたのだから。
そんなライバルたちの状況をモニター越しに見ながら、咲季はプロデューサーと緊急のミーティングをしていた。咲季の表情は硬い、そして櫻良が魅せた演技に呑まれ、強く後悔をしながらも、それでも前に進もうという意思をプロデューサーは感じ取った。
「プロデューサー、櫻良はもう誰も見ていなかったわ。ただ美しい偶像に成り果てていた。あれも一つのアイドルのあり方なのかもしれない、でもね」
「ええ、あれをアイドルとしては認めたくない。そうでしょう」
「その通りよ。でも、勝つためには今のままでは無理、とは言わないけど厳しいわ。何か策は──」
「咲季さん。拝むように手を前に差し出してもらえますか」
「え? こ、こうかしら」
言われるがまま、手を差し出した咲季に対して、プロデューサーはその手を上から包み込むように覆って、勢いよく
「ひゃぅ!!? んな、何を……いえ。どこでこれを? 」
「花月さんから以前、教えてもらいました。緊張しているならこれをやれば、冷静になると」
「ぬ、ぬぐぐぐぐ。何を教えているのよ、アイツはぁああ!! 」
「一人じゃできない事が難点であることと、恥ずかしいだろうから咲季さんから提案することはないだろうし、大舞台の演技前にでもやってあげてと」
「余計なことまで教えてるじゃないのよぉ!? うぐぐぐぐぐぅ」
「落ち着きましたか? 」
「別のことで気を荒立てたおかげで、緊張はすっ飛んでいったわよ!! どうもありがとうね!」
表情はまだ少し硬いが、後悔や演技に呑まれたような雰囲気は和らいでいた。どうやら
「それで、緊張は今のでほぐれたけど。現実問題、櫻良に勝つための策は何かないの? 」
「付け焼刃で、彼女に勝てるわけがないことは、あなたが一番良く知っているでしょう。策でどうにかとかいう段階はもう通り過ぎています」
「じゃあこのまま、この不安を抱えたまま挑むしかないというの? 他のアイドルみたいに自分を見失うことはないとは思うけれど……勝てるかは不安だわ」
「どうしても勝ちたいのであれば、2つお伝えできることがあります」
「なによ! やっぱりあるんじゃない!! 早く聞かせなさいよ」
それまでの和やかで柔らかい空気から一転、引き締まったような雰囲気でプロデューサーは、咲季に助言を告げる。あまりの真剣さに、咲季は背筋を伸ばして話を受け止める準備をした。
「一つ目は、勝ち負けの意識を捨てて、純粋に自分の演技に没頭することです」
「それは……私にとっては、とても難しい課題ね……いいえ、やるわ。今日までの道のりの全てを、等身大の私を魅せ付ける。そういうことよね」
「ええ、その通りです」
「それで? 二つ目は?」
「二つ目は────」
一方その頃、佑芽も担当プロデュースをしてくれている星南とミーティングをしていた。
咲季とは違い、佑芽はやや興奮気味で楽しそうに自分の出番を待っていた。【Quartet】からずっと彼女はこんな調子だ。いい傾向ではある、好きこそものの上手なれともいうし、実際今の彼女の爆発力であれば、あの絶望なまでに完璧な『夜の女王のアリア』を越えられるだろうと星南は目算を建てられた。だが、何故だか不安をぬぐえなかった。
「佑芽。貴女の演技は咲季の後になるわ。調子は良さそうだけれど、油断はしないようにね」
「会長、今私、調子良さそうに見えるんですか? ────すごく複雑な感じなんです」
「複雑な感じ?」
「はい、櫻良ちゃんの歌。私に対して、詰め寄って逃がさないし許さないって言ってるように思えて……私、謝りたかったしありがとうって言いたかったのに、予選前の時言えなかったし。だけどそれとは別にワクワクしてるんです。凄い演技だったから、私も負けていられないぞって」
「なるほど、花月櫻良の演技に対してどう反応するのがいいのか板挟みになっている、ということね」
「はい。そんな感じ……? だと思います」
佑芽も咲季同様に、櫻良の演技に呑まれかけていた。それほどまでに花海姉妹にとっては彼女の演技は特別な物に映えていたのだ。しかし、その怪演から佑芽は後悔や委縮とは別に、それと競い合えるという事に対しての期待と興奮も高まりつつあった。どちらも彼女の本心であり、優先すべき感情が、分からなくなってしまっていた。
今の不安定な状態で、彼女を舞台へ送り出すことはできない。何を言えば、佑芽が安定するか。その答えは咲季のプロデューサーから共有を受けたある事実であると確信して、佑芽に語り掛ける。
「佑芽、あなたに伝えておかなくてはいけないことがあるわ」
「私に伝えなきゃいけない事……ですか?」
「ええ、花月櫻良が極月学園に編入した真意よ──」
時は【メロBang!】まで遡る。咲季が櫻良に宣戦布告をしたその後、咲季のPは櫻良に問いを投げかけていた。
『アスリートとしてのメディア出演の先駆けとして、961プロの事務所に所属とする交換条件として、極月学園のアイドル育成の強化要員を兼ねて自らもアイドルになる。それがあなたがアイドルになった経緯であると公表しているようですが、本当にそれだけですか』
『ふふ、理由がそれだけではないと言いたげね。あなたなら、真意も含めてもう見抜いているんでしょう?』
『花海姉妹への復讐のため、とさっきまでは思っていました』
『ふふ、ええそのとお、へ?……ふくしゅう?』
櫻良は不敵に笑って、その言葉を肯定しようとして、予想外だったのかキョトンとする。そして、可笑しいとばかりに笑い出す。
『あはははは、そんな単純な理由ならもっと別の嫌がらせしてるわよ。それこそイメージダウンのために、アスリート時代の過去の噂をファンの間に流すとかね』
『そうでしょうね。先程のあなたの2人に対しての姿勢を見て、違うと確信しました。むしろ
『ええ、今度こそ御名答よ。本人たちにはきっと伝わらないでしょうけどね。あいつらは私を
『……そうかも、しれませんね。なので、もし気付かなかったなら、
『好きにしなさい、ただ上手く使ってね。あいつらは割と繊細だったりするから、それを知って傷付いて上手く力を発揮できなくなるなんてこともあり得るわ。そして、そんなことになったなら貴方を許さないから』
『ええ、もちろんです。この情報を明かしてくれたあなたの信頼に応えましょう』
『任せたわ。じゃあ、早く咲季のもとに戻ってあげなさい。どうせこれからの事について、不安で怯えてるだろうから』
「つまり、花月櫻良は花海姉妹の成長、限界を超えさせるためにアイドルになったんです」
「……へ? あいつが、私の、私たちのために……?」
放心してしまうほどの衝撃が咲季を襲った。咲季にとって、櫻良は先を取り合う競争相手だ。ストイックで合理主義の櫻良は自分たちにアイドルを諦めさせて、アスリートの道に戻るよう促すためにやってきたのだとばかり思っていた。
プロデューサーが、自分を勇気付けるために嘘を言ったのかもしれないとまで勘ぐってしまう。
しかし、言われて思い返せば、櫻良は佑芽のため、そして自分のため、櫻良自身の短距離走や競技ダンスの時間を削ってまで自分たちの勝負にも付き合ってくれていた。そうして、目から熱いものが込み上げてくる。
咲季は上を向いて、ぎゅっうっと眉間の間に指を挟み込み涙を堪えた。泣くのは、今ではない。
「ごめん、プロデューサー。ハンカチをくれないかしら、
「はい、どうぞ」
「ありがとう……よし。大丈夫よ」
目に溜まった水分をハンカチに吸わせて、心を落ち着ける。深い深呼吸を一つ、吐いてから、改めてPに向き合う。少し震えた涙声で、Pに文句を垂れる。
「まったくもう、あなたも演技前にとんでもない爆弾を落としてくれたわね」
「まだ、不安はありますか」
「ふん! 今の話を聞いてそんなのはもう気にしていられなくなったわよ!! ……プロデューサー、ありがとう。あなたが居なければ、多分私は一生その事を知ることはなかったわ」
そう言った咲季の顔にもう迷いや不安の色はなかった。覚悟と決意を決めたやや
所変わって、佑芽の控え室でも、星南が同様に櫻良の真意を伝えていた。
「花月櫻良は、花海姉妹の成長、限界を超えさせるためにアイドルになったと、咲季のプロデューサーから聞いたわ。佑芽になら、それだけ伝えれば分かるはずと」
その言葉は佑芽の不安や恐怖から来る怯えを、優しく取り払った。カチリパチリと今までの事柄が、パズルのようにその言葉を示すように組み上がっていった。いつだって、櫻良は佑芽の味方だったのだ、故に疑う余地などない。安堵したような声で、嬉しそうにだが静かに言葉を漏らした。
「そっか……そっかぁ……」
「佑芽……どうかしら、心は落ち着いた?」
「はい……はい!! 大丈夫です!!! 迷いは消えましたぁ!!!」
「そう、それなら何よりよ。あなたの演技は咲季の後だったわね」
「はい!!! 今日こそお姉ちゃんにも櫻良ちゃんにも勝ちまぁす!!!」
佑芽は吹っ切れたかのような勢いで星南に返事を返した。
その返事から星南はいつもの調子を取り戻したと確信し、ほとんど咲季のPの功績ではあるが自分もPとしてすべきことが出来たのだと安心した。
その佑芽の表情には、夢を抱いた
会場の観客達はこの本戦のアイドルたちになにか物足りなさを感じていた。具体的には言い表せない物足りなさを、最初の花月櫻良の演技と続く月村手毬の演技で、ムードも雰囲気も最高潮であり、その後のアイドルたちの演技もまた素晴らしいモノである事には間違いなかった。しかし、どこかノリきれないというか、熱さが足りないというか、言語化出来ないもどかしさを感じていた。
そして、その不満は花海咲季のMCが始まったことで吹き飛ばされた。
「みんなぁ! 今日は【Finale】を観に来てくれてありがとう!! 初星学園の花海咲季よ!」
「私、最近気付いたことがあるの。皆に応援されて、良い競争相手が、指導者がいて、止まることなく歩み続けたから、
「だから、私の今までの歩みを、皆が応援して育んでくれた花海咲季を、ここまで連れてきたお礼として存分に見せてあげる」
「しっかりと受け止めてよね! 行くわよ!! 『Fighting my way』!!!」
MCの終了と同時に曲が流れ、咲季はポーズを決める。
「Now I'm Ready,I'm Ready to go.花が咲く時が来たんだ」
「Are you Ready? わかるでしょ、やってみせる。Make a through」
楽曲は『Fighting my way』無敵の自分を謳う曲だ。しかし、いつもとは違った。無敵の自分を歌いながら、声の抑揚や踊りの中に怯えや恐れが見え隠れする様な演技だった。それは彼女のアスリートとしての自分とアイドルとしての自分を全て込めた演技だった。怖気も奔るような、それでいて時折見せる弱さに魅了されてしまいそうな、空気を自分色に変える花月櫻良に劣らぬ技術と熱量を披露してみせたのだった。それは、櫻良が居なかったのであれば、きっと佑芽に敗北しなければ得られなかった境地であった。
続く、花海佑芽のMCでまた空気が動いていくような予感を走らせた。
「み゛な゛さ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛キィーーーイン」
というか音の振動とハウリングで物理的に会場が揺れたような感覚が観客を襲った。
手毬の数倍は大きな声で興奮したように声を張り上げてから、マイクトラブルを起こしたことに気付いたようで、少し声を控えめにしながらMCを続ける。
「ご、ごほん。あ、改めまして、みなさーん! こんにちはー!! 初星学園の花海佑芽です!!! 今日は【Finale】に来てくれてありがとう! あと、声大きすぎて、トラブル起こしてごめんなさーい!!」
「今までここで演技してきた、アイドルみんなすごい演技で! 私も負けてらんないぞぉおおって思って、自分が思ってたより大きい声になっちゃったみたいです!!!」
「ここに立てたのは、見てくれている観客のみんなとここに立って演技したアイドルのみんなのおかげです。ってみんな言ってて、私も同じことを言うけれど。でも本当にそう思います!!」
「私はいつも追いかける側で、この舞台に立てるほどになるなんて本当に夢みたいです!!!」
「でも、私はもう追いかけるだけで終わりません!! みんなが前から引っ張ってくれたから、私は
「だからみんな!!!! 私に、ついてこぉおおおおい!!! いっくよぉおおおおお!!『The Rolling Riceball』!!!!!」
それは、櫻良の想いを知らなければ、今の彼女にはできない決意と覚悟を示していた。咲季を超えなければ得られるはずのない傲慢さであった。【Quartet】で自信が付き、ずっと導いてくれた
曲が始まり、歌い始める。既に空気は花海佑芽のペースに変わっていたが、より色濃く空気が彼女の色に染まっていく。
「ギュッと、そうギュッと。思い込めてギュッと! あーたたかい手の中で」
「転がり続けるRolling Riceball」
最初は控えめなペースから始まり、ダンスも少しぎこちない。しかし、曲が進む中で加速度的に歌に抑揚がでて、ダンスのキレや動きも良くなっていく。花海佑芽というアイドル魅せる演技としては、最も良く映える見せ方だろう。日光のように場を温めながら、動きは爆発的なまでにキレキレで見入ってしまう演技であった。
その後に続く残り数人のアイドルたちを奮起させるには、十分な演技であった。
そうして、【Finale】の本戦が終わり、結果発表となる。
栄えある勝者は────
────花海佑芽と花海咲季の二人であった。
審査員評価と観客からの投票得点を合算した結果、二人の得点が同一であったのだ。櫻良の順位は二人に一歩及ばず3位であった。審査員からの評価が明確に低く、観客からの投票では1位だった。その理由について、運営の審査員たちが評論として表明することとなった。
「審査員より、今回の採点について、説明させていただきます」
「まず、花月櫻良さんの演技への得点を低く設定したことについてですが、こちらは花月櫻良さんがNIAのコンセプトから外れてしまったことに起因します」
「NIAのコンセプトは、『次に来るアイドルを決める』オーディションです。花月さんの今日の演技は、誰もが認めざるを得ない完璧なものでした。しかしそれは、今日この一瞬で命を燃やし尽くし、完結させてしまうような『完成された芸術』でした。観客の皆さんも、圧倒されるあまり息を呑んで見守ることしかできなかったはずです」
「そこには彼女の今後、『この先の成長や、ファンと共に歩む未来』を予感させるような余白がありませんでした」
「対して、花海咲季さん、花海佑芽さんの二人はいかがだったでしょうか。自分の弱さや泥臭さすらも曝け出し、観客の皆さんを一人残らず巻き込んで、この会場全体を『これからの未来への期待』で満たしてみせました」
「『今日ここで完成して終わる絶望的な美しさ』ではなく、『観客と共にここからどこまでも高みへ登っていく熱狂と未来』を示した二人こそが、今大会の提示する『次に来るアイドル』にふさわしい。それが、私たち審査員の満場一致の結論です」
「私たちとしては、花月櫻良さんの成長は大変誇らしく、この大会を牽引してくれた一人として深く感謝しております。しかしながら、今オーディションのコンセプトから逸脱してしまった彼女に高得点を付けることは憚られたという事情によるものです。故に彼女にはMVP賞を別途授与させていただきたく思います」
その理由に、櫻良に投票したファンや観客たちは納得してしまった。アイドルを見にアイドルのオーディションを観戦しに来たのにもかかわらず、別の完成した何かに圧倒されて、思わずそちらを選んでしまったというのは否めなかった。それに、彼女はそれを受け入れているし、MVPとしての特別賞が授与されるということで、ファンたちの溜飲も下ったようであった。
厳密に優勝者を一人に絞らなくていいのかという問題については、ファン投票の結果と審査員評価の合算の上で同点であるのなら、同時優勝という形が美しいだろうということで、そのままになった。
今年のNIAでは二人のアイドルが、『次に来るアイドル』として名を馳せ、優勝ライブとして『Campus Mode』を二人で演技したのだった。優勝者として、遜色のない素晴らしいコンビネーションの演技で大盛況でNIAの幕を閉じた。
最後、若干巻き気味かつご都合主義なのはお許し下さい。
まず、ご都合主義の花海姉妹同時優勝は、ここでどちらかの勝利とすることを選べませんでした。物語の美しさとしても同時優勝以上のものが思いつかなかったのです。
また、巻き気味な締めに感じるかもしれませんが、これ以上を描写するのは蛇足になりかねないので、最後の『Campus Mode』の姉妹ライブについては、皆様のご想像で補完いただければと思います。
そして今後の展開については、最終話を投稿して、その後は、自分の近況が落ち着いてから、不定期の更新とさせていただきたく存じます。
ここまでの花月櫻良と花海姉妹、また白草四音の物語をご覧いただき、誠にありがとうございます。
感想やここすき、評価等いただけましたら、今後の励みになりますのでよろしければ、お願いいたします。
感想に関しましては、面白かったやここが良かった、この表現が刺さったなど一言でも良いので、頂けると幸いです。
では、最終話にてまた会いましょう。この物語(一旦NIA編まで)の結末に乞うご期待!!
本編終わったら見たいのは?
-
本編の幕間集
-
手毬コミュ
-
他アイドルコミュ
-
√初星
-
本編後日譚(STEP3以降)