月の兎は、春に追い縋る   作:花海咲季のファン

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週1投稿としては少し遅れ気味の投稿で許してほしい。

また、今回も前編後編の2話構成ですが、後編は来週に上げます。
今話の前編は各学園での修行フェイズで、後編で決戦という構成となります。

ちょっと内容とか歌の抽出個所とか色々考える上で、今日とか明日とかに出力できるほど単純な話にはならないので、申し訳ないですがご了承ください。

それと本作、次の五話ともう一話やって一旦の区切りとさせて頂きます。
今回でQuartetで次回がFinaleだからね。

その後は反応次第で幕間の話とか、色々書くかもとだけ言っておきます。


4話:不屈の第三楽章(コン·フォーコ·トリオ) 前編

 

 【GALAXYミュージック】のオーディションから数日、極月学園でのボイストレーニング室の一つでは、白草四音と花月櫻良の2人が合同でレッスンを行なっていた。

 というよりは、櫻良が四音のトレーナーとして指導を行なっていた。

 数多のオーディションで合格に至らなかった他の生徒たちよりも、結果を残した四音や藍井撫子などのレッスンやトレーニングにより重点的な指導が入るというのは至極当然な理屈である。

 しかし、結果を残せなかった生徒たちに対しても、基礎的な体力の改善、ダンスや歌のトレーニングの指導は続いており、個別の指導が入っていないだけで極月の水準は大きく高まり続けていることには変わりなかった。

 

 結果を出したか否かの最大の違いは、より過酷なトレーニングや提案されたレッスンを受ける選択をしたかしなかったかの違いが大きい。

 当初は燐羽による物真似(デモンストレーション)によるレッスンや初星式の効率の良いトレーニングを四音はプライドから否定していた。同調する極月の生徒たちもおり、櫻良はその様子を見て、忠告した。

 

『貴方たちがしたくないというなら、それは構わない。他の方法を提示するわ。でも、初めのうちに言っておくと、一回否定したのなら二度とこちらから提案しないし、その分の成長機会は失われるわ。基礎的なトレーニングの積み重ねよりも効率の良い提案を否定し続ければ、その分置いていかれることは承知して置いてね』

 

 燐羽が櫻良に対して、行った物真似(デモンストレーション)は、行う回数が10回にも満たない内に燐羽の力量を櫻良が越えてしまったことや競技ダンスを櫻良より高い精度で行うのは不可能だったため、今は歌の指導もとい相談だけになっている。

 歌やダンスに関しては同じく教わる側にいた彼女が、それらを教える側の立場に転じるのは彼女らが極月に編入してから、1週間が経過したくらいのころだった。

 そんな櫻良の発言は、強い説得力を伴っていた。言い訳を並び立てて、否定し続けた者たちの末路は単純な基礎的なトレーニングの積み重ねによる地道なステップアップ以外に選択肢が残らなかったのである。

 

 故により高みを目指す為のステップアップのために、プライドを捨てて、提案されたレッスンをうけ、自分からやはりこのトレーニングをしてみようと思うと口にして白草四音は、初星のアイドルたちだけに留まらず、他校の有力なアイドルたちも退けて大型オーディションの合格枠を勝ち取ったのだ。

 

「それにしても、正気ですか? (さくら)と同じ楽曲で演技をするなんて、【Quartet】で合格したいなら、貴方にはもっといい曲があるでしょうに」

(しおん)の声で、口調まで真似するのはやめろと言ったはずだぞ! 頭ン中こんがらがるから! ……んん、良いからレッスンを続けてください。貴方の最適解は(しおん)の最適解でもあるのでしょう?」

 

 櫻良はいつの間にか、燐羽の物真似(デモンストレーション)をモノにしていた。精度は燐羽に劣らないほど高くはあるが、準備に数時間真似る対象の声や歌の録音などを聴きながら調整する必要があり、レッスン中は声を戻すことができない制約付きだ。

 それでも、同じ事を出来る奴がいるなら、極月の方のレッスンは全部任せたと燐羽は、極月でのトレーナーやサポーターとしての仕事をサボタージュをしていた。

 櫻良の事を便利屋か何かと勘違いしているようなので、櫻良としては後で彼女の声で問い詰めてやるつもりである。

 

「──態々難易度をあげる必要はないですし、(さくら)と貴方はアイドルへの向き合い方(アプローチ)も似ているようで異なります。ここまで貴方に付き合ってきたから分かるんです」

「一度したくない、と言ったらもう提案しないと言ったのは貴方でしょう。あんな完成度の高い演技を披露しておいて、お前(しおん)には向いてないからやめろと、諦めろと言うの? それに貴方は(しおん)を止めるくせに『お前には出来ない』とは、一言も言わないじゃないか!」

 

 ここまで四音が食い下がる理由は、彼女が極月学園のエリートであるというプライドを捨てた理由でもあった。至極単純に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というだけだ。

 姉からも、家族からも、自分の理解者の黒井理事長ですらやり方を変えたほうが良いと指南されたそれを、花月櫻良は唯一肯定した。

 

『貴方のファンに媚びない姿勢は別に間違いじゃないと思うわ。ただ、その道を選ぶのであれば、自分を鑑賞物に落とし込む程に高い演技力と魅せる支配力が必須条件よ。審査員に媚びるのではなく、評価させなさい』

 

 四音が別にアイドルを始めた理由なんて、姉というアイドルを引き釣り落とすための道具に過ぎない。姉への復讐と周りを見返すことを考えて、アイドルの道を歩み始めた。

 そして、その思想に対して、都合の良い教え方を知っている教育者(トレーナー)が、実際にアイドルたちの立場を貶めつつある先駆者が、自分の肯定者が次に目指す道を、四音は正しいと思った。だから自分もどんな茨の道であろうとその道を共に歩みたかった。自分は凡才だ。櫻良に勝る演技はきっと出来ない。

 でも、彼女の、櫻良の歩んでいる道を今一番に辿れているのは自分なのだ。姉に勝ち得る(みんなにみてもらえる)手段として、最も有効な方法だ。その為に、彼女はエリートであるという、自尊心を保つためだけの偽りの誇りを捨ててまで、櫻良の提案した特訓や忌々しい初星のレッスンまで受け入れてここまで来たのだ。

 

「──貴方の今回の目標は【Quartet】での合格者に選出されること。貴方の求める手段で、その条件を満たす水準の演技をするのであれば、最低限オーディション当日における、(さくら)の全力のダンスに着いて来る必要があります。出来ないとは言いませんが、際限のない地獄を見ますよ。それでも、ですか?」

 

 櫻良は日々上達を繰り返し、精度とキレを増していく、そのダンスに振り回されず食い付いて行けなくてはならない。花海(かいぶつ)姉妹は妹が2週間、姉が3日程度で当時の櫻良の全力に追いついてきたが、参考にもならない。

 いくら、アイドルとして下地があるとは言っても、順当に大型準最終オーディションと名高い【Quartet】の参加者を圧倒する程の演技をするのであれば、そう選択肢は多く無い。四音はその中でも、飛び抜けて過酷な道を選ぼうとしている。しかも、調整や実力がオーディションまでに間に合わなかった場合のリカバリーもほとんど不可能だ。

 故に櫻良は最終確認として、彼女にとっての自問自答にもなるように四音の声のまま、覚悟を問うた。かつて、自分も見て、今も歩んでいる才能と適性を得るための地獄を歩む覚悟を。

 

「それでも、です。(しおん)がアイドルとして、見下してきたやつを見返すのなら()()()()()

「──分かったわ。じゃあ、この楽曲を歌う上で貴方に一つアドバイス。自分でも、他の誰かでもいい。その人の事を想って歌うことを意識しなさい」

 

 四音の声真似をやめて、指導者として櫻良は自分の調整と四音の調整を共に行うことにした。共に努力の道を歩く同志として。

 

 

 

 一方、その頃。初星学園のレッスン室の一角では、極月での指導をサボタージュ中の賀陽燐羽が、花海佑芽のトレーニングに付き合っていた。

 

「はい、一回休憩よ。それにしても恐ろしい上達速度ね」

「まだ! まだやれるよ! もっとお姉ちゃんに勝てるくらいにならないと、お姉ちゃんにも櫻良ちゃんにも追いつけなくなっちゃう……極月の藍井さんって人にも負けちゃったし、もっと練習しなきゃ!!」

 

 佑芽は焦っていた。先の【GALAXYミュージック】では合格者に咲季がおり、エキシビションでは現役の他のアイドルたちと遜色のない演技をした櫻良を目の当たりにした。そんな中、自分は極月学園の水準が高くなったアイドルの一人に敗れるほどに遅れを取っていた。

 このままでは、NIAの最終オーディション【Finale】への参加が出来たとしても、本戦や決勝に恐らくは足を掛けている状態の咲季や櫻良に挑む前の予選で落ちてしまう可能性すらある。それほどに今のNIAのレベルは上がりつつあった。

 その強いモチベーションから、佑芽の成長速度は、今の自分を()()()()()()()()燐羽の限界に、ここ数日のレッスンで追い付きつつあった。

 

「いいから、休みなさい。休憩もレッスンのうちよ。調子が狂った状態で勝てる相手じゃないでしょう?」

「だって、疲れてないもん! 」

「私にも休憩は必要ってことよ、体力おバカ」

 

 燐羽はそう言って、スポーツドリンクに口を付けて、指導は一時お預けと言わんばかりの態度を示す。

 それを見て、佑芽はかつて櫻良が自分に指導をしてくれていた時の事を思い出した。

 

『まだ行けるというのなら、そうね。改めて、フォームの確認をしていきましょう』

 

 彼女は佑芽がまだやれる、もっと教えて、と求めたなら、それを止めたり遮ったりせずに、佑芽の成長に繋がる次のステップを即座に示して、体力的に少し陰りが見えたタイミングで休憩を言い渡して来た。全ての指導者が櫻良のように出来るわけではないし、燐羽の指導方法も成長を重ねる方法としては、自分の血肉になっているということを実感出来るよい手法のはずだ。

 だが、数年間受けた指導とのギャップに、佑芽は二の足を踏んでいた。このままではいけないのではないか、進める分だけ進まなければ、このNIAの期間で姉に二度と追い付けないくらいに差をつけられてしまうのではないか、と。

 

 そんな不安と焦りで身を焦がしているアイドルの許に、彼女たちが利用しているレッスン室にノック音が鳴り響いて、すっと現れたのは、佑芽のプロデュースを担当している星奈であった。

 

「焦っているようね、佑芽。咲季のP(プロデューサー)から、話は聞いているわ。貴方のこともね、賀陽燐羽」

「会長......」

「あらあら、初星の生徒会長様じゃないの。この前のライブを『弱いものイジメ』と叩かれて、しょげているのかと思っていたわ」

「ずいぶん安い挑発をするのね。佑芽の指導をしてもらっている時点で、貴方がただ悪感情で初星を去った理由(わけ)では無いことは分かっているわ。照れ隠しかしら」

「──ウッザ……」

 

 星奈は燐羽からの強い嫌悪感を示した呪詛のような感情を込めた睨み付けを何でもないように受け流しつつ、一つ呼吸を零してから佑芽に対して向き直る。

 佑芽は星奈の真剣で改まった雰囲気に何故だか、櫻良に意地悪を突き付けられた時のような悪寒を感じ取る。

 

「佑芽、あなたの一番大切な時に貴方と会話できなくて、あなたを導けなくてごめんなさい。最初の大型オーディションの時点で気付いて、伝えなくてはならないことだったわ。私もまだまだプロデューサーとしては未熟者ね」

「え? あの、えっと。どういう……」

 

 佑芽が困惑していると星奈はそれを受けてノートパソコンを取り出して開き、三つの映像データを表示させて説明をする。

 

「まずはこの三つの映像を視なさい。一つは学内オーディションであなたの姉、花海咲季と競い合った時の花海佑芽の演技。二つ目は【メロBang!】のオーディションの時の演技。三つ目はこの間の、【GALAXYミュージック】のオーディションの時の演技よ」

 

 曲は全て、等しく『The Rolling Riceball』だった。これは舐めてかかっていたというわけではなく、単純に佑芽が一番力を込めて演技できる楽曲であるがために、ここ一番のオーディションでは使用しているという理由だった。それ故に()()()()()()()は歴然であった。

 

「え、これって─────」

「なによこれ。明らかに演技(パフォーマンス)のテンションとキレが違うじゃない。佑芽、アンタ手を抜いたの?」

「手を抜いてなんてないよ! いつも通り、全力で……」

「だとしたら、事態は思っていたよりも深刻ね。佑芽、良く考えて答えてちょうだい。咲季と競う時のオーディションと競わない時のオーディションどっちの方が力が入るかしら」

「それは、やっぱりお姉ちゃんと戦うときの方が......え、あれ?」

 

 星奈の質問に答えて、佑芽は違和感を感じた。

 

 じゃあ、()()()()()()()()()()時は……? お姉ちゃんと競い合わない時は、私は()()()()()()()()()演技をしていただろうか。

 

 その目を反らしていた事柄に向き合って、星奈がそれを言葉にして突き付けた。

 

「そうよ、佑芽。貴方は咲季が相手にいる時とそうでない時で、無意識に出す力をセーブしてしまっている」

「ええ、なにそれ。どんだけシスコンなのよ」

「そっか、私。櫻良ちゃん相手にも本気を出せてなかったんだ……。だから、櫻良ちゃんはあんなに私にがっかりしたような目で見てきたんだ……」

 

 佑芽は全力であっても本気は出せていなかった。数値を付けるのであれば、学内オーディションでの咲季との競い合いでは実力の120%を出し切っていた。【メロBang!】のオーディションでの櫻良との競い合いでは105%ほどを、直近の【GALAXYミュージック】のオーディション時は実力の100%を、と対戦相手によってテンションと出す実力が下降していたのが、佑芽のここ最近の不調の理由であった。無論本来であれば、そこまで気にするような差ではない。しかし、高水準の今の環境では、その差が如実に結果にも作用してしまっていた。

 その理由を自覚して、佑芽は自分が恥ずかしくなった。つまりそれは、姉以外の相手を軽視して、甘く見ていたということに他ならない。しかも、意識的な物ではなく無意識のうちにそれを行っていたのだからなおさら(たち)が悪い。そして、櫻良が掛けてくれた、彼女曰く最後のアドバイスを思い出す。

 

『一番の強敵に勝ちなさい、よ』

 

 一番の強敵とは咲季のことではなく、佑芽自身。つまり過去の自分に打ち勝たないことには、咲季にも、負けてしまった櫻良や極月の生徒たちにも、勝つことはできない。

 故に櫻良は佑芽に指標を渡したのだ。いつでも、だれに対してでも本気を出し切れるような指標を。ここまでお膳立てしてもらったのに、佑芽は応えられていなかった。応えなくてはならない。

 

「燐羽ちゃん、星奈会長。私、もう負けません。今までの私自身にもう負けない! そうして、今度こそ、今度こそは! お姉ちゃんに勝つぞぉおおお!!」

 

 その誓いは、レッスン室の外に響くほどに通しにみなぎったものだった。それを見た、星奈と燐羽はやれやれと顔を合わせて、佑芽のトレーニングを再開した。

 

 決戦は、【Quartet】の舞台。同ブロック内での有力な面子は、Aブロック・花月櫻良vs月村手毬。Bブロック・花海咲季vs白草四音。Cブロック・花海佑芽vs秦谷美鈴vs藍井撫子。各々が各々の想いを胸に三重奏曲(トリオ)が奏でられる。




ご覧いただきありがとうございます。

 もしかしたら、気付いていた方もいらっしゃったかもしれませんが、ここで3話前編の伏線回収です。
 佑芽がもし、櫻良を咲季と同じ以上に扱っていたら、櫻良的にはどっちが勝つか読めない感じでした。しかし、そうはならなかった。故にシンプルにショックを受けて、佑芽に若干失望してました。
 そして、3話後編で四音が合格していた理由は、理解してくれる指導者と揺るがない指標が出来た故のメンタルバフが理由です。覚醒(学Pあり)した他アイドルが居たら、紙一重まで迫ってくるくらいには強化されてます。
 因みに美鈴が勝ち上がったブロックでは手毬との元Sing Up!最強決定戦が発生してました。咲季は燐羽に勝って燐羽が勝手に妹になり、佑芽の面倒を見るという原作準拠な流れですね。

さて、次回は決戦【Quartet】! 乞うご期待!

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