月の兎は、春に追い縋る   作:花海咲季のファン

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 はい、5話の前編となります。
 ここで私は皆さんに謝罪しなければなりません。

 5話は前編後編の二部構成のつもりでしたが、構成の予定が狂っちまいまして……前中後編の三部構成にさせていただきます。
 前回のあとがきにも追記させていただいており、お詫びの追加情報もあるのでよろしければご確認いただければと思います。

 前編である、今回を【Quartet】後のそれぞれの様子、中編で予選のあれこれ、後編で本戦という流れに変更させていただきます。

 また、中編後編に関しては来週以降に公開させていただきます。

 原作からかけ離れた要素がややありますが、まあ前回の時点でやってるので今更ではあるかもしれません。

 では、本編をどうぞ。


5話:相剋の終曲(フィナーレ·デュエル) 前編

 【Quartet】のオーディション終了後、極月学園の白草四音は涙を流して、会場の通路の一角で花月櫻良へ抗議……否、非難を浴びせていた。

 

「ふざけるなよ! なんでだ、なんで僕も君も負けているんだ!! 君の実力はあんなものではなかっただろう!! なんで手を抜いたんだよ!! 月村手毬に負けない演技を、心を震わす人情と情緒あふれる練習の時のあの演技を、どうしてしなかったんだ!! 」

「いや、極めて個人的な事情で失敗したのよ。それは、後で言うわ、()()()()()()()()今はあなたの反省を──」

()()()()()!?()()()()()で済ませて良い訳がないだろう!! あの特訓の成果を、僕と君の努力の結実を()()()()()って言葉にするな!! 」

「……それは、そうかもしれないわね。ただ、誤解しないで欲しいのだけど、私にとって敗北(これ)はいつものことよ。だから、悔しさや情けなさは一旦切り捨てるようにしているの。そういう停滞は私にとって、邪魔になるから」

 

 その慟哭と激情は四音たちが辿った地獄の壮絶さを物語っていた。それでも勝てないという現実を受け入れたくなかったし、何よりも────そのなんでもないかのようなドライな表情(なんでいっしょにくるしんでくれないのか)に苛立った。

 

「君は良いじゃないか……明確な反省点があるんだろう? ()()()()()? 全力を出し切って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言うんだ!! 」

「それは──」

 

 櫻良はこの問いの答えを持っている。持っているが、四音を納得させるためにはどういう言葉で示せばいいか。悩んで言葉に詰まっていると、ツンと尖ったような鋭い声に救われる。

 

「それには私が答えてやろう、我が妹よ」

「げ、月花姉さま!?……なぜ、ここに?」

「そんなことはどうでもいい。先の演技を見たぞ、見違えたな。自身を鑑賞物に見立てるなどという方法は、私にはなかった発想だ。その慟哭こそがお前の弛まぬ努力の証だろう。もうお前を愚かとは言うまい。よくぞ、ここまで成長したな」

 

 それは、いつ振りのことだったか。もしかしたら、初めてなのかもしれなかった。いつも厳しく毒舌な姉(白 草 月 花)が、自分のことを認めてあまつさえ褒めるなどと、都合のいい夢か幻覚をみているのか。

 見たことがなかった姉の嬉しそうな誇らしそうな表情に面食らって、言葉が出ない四音に月花は続ける。

 

「今回の勝敗は、お前にとってさして意味のあるものではない。勝てば自信が付くなど、精神的に良い影響もあっただろうが、重要度は低い」

 

 櫻良はトップアイドルと呼ばれる者の洞察力に驚くと同時に、そこまで理解されているなら、特に横から口出しする必要もないと静観する。自分の口から伝えるよりも、その方が四音にとって良いと判断したからだ。

 

()()、お前にとって重要なのは、それを継続することだ。お前というアイドルの形を維持し続け、ファンと観客に()()()()を魅せ付けてやれ」

 

 四音は文句の一言でも言ってやりたかった。こんな時まで上から目線で、一方的に勝手なことを伝えてくる。

 だと言うのに、目から溢れる熱いものが止まらない。意図していなかったのに言葉に頷いてしまっていた。口からは嗚咽の様な泣き声しか出てこない。自分が認めた相手の名前しか覚えないし呼ばない姉が、本当に久しく四音の名前を口にしたというだけなのに。それだけで感極まってしまうとは、と悔しがりながらも涙は止まってくれなかった。

 

 月花は、微笑みながら四音から目を離して、今度は顔を強張らせながら櫻良に向かって声を掛ける。

 

「妹が世話になったようだな。競技者(アスリート)だったか? それに関しては礼を言っておこう」

「海外で大活躍中のトップアイドルにお礼を言われるなんて光栄ね。素直に受け取らせてもらうわ」

「しかし、お前自身の演技は酷いものだったな。形だけ何とか取り繕って、日和った結果だ。今まではそれで何とか誤魔化せるほど、他のアイドルが低水準だったというだけで、()()()()()()()()()()()だろう」

「……いや、なんともお恥ずかしい限りで。返す言葉もないわ」

 

 櫻良は自分の失点を見透かされて、素直に認めた。もとより否定するつもりもなかったし、前回から学んだことを活かせなかったのは事実であるのに加えて、彼女には()()()()()()()()()理由があった。四音や極月での練習を経て、アイドルとしての熱量を誤魔化す術を身に付けはした。それに失敗した故に、月村手毬に最初に見せた『初』と同じように精度が高いだけの、心の籠らぬ演技となってしまっていた。

 

「想いを込めようとして、急に恥ずかしくでもなったか? 」

「いや、どこまでお見通しなのよ。怖いわ! ──まあ、そんなところよ」

「お前は何故アイドルの舞台に立っているのだ? お前には()()()()()()()()()()()()()()、おおよそアイドルになって大成しようという気概もなさそうだ。お前はアイドルを馬鹿にしたいのか?」

 

 白草月花の威圧感が増す、アイドルという道を冒涜するのであれば、それは彼女にとって許しがたい敵対者だ。それを受けて、櫻良は冷や汗一つかくことなく少し考えてから言葉を返す。

 

「そう見えてしまうほどに情けない演技であったことは認めましょう。私がアイドルになれないというのもまあ納得するわ。でもね?」

 

 言葉を一度切って、白 草 月 花(トップアイドル)を相手に堂々と腰に手を当てて宣言するかのように言葉を再開する。

 

「私は()()()()()()()()()()()なんて、認めない。努力を重ね続ければ、そんなもの(さいのう)は越えられるわ。()()()()()()。そして、私はアイドルになるつもりはなかった。アスリートとしてアイドル達に挑みに来たのよ。でも──」

「なるほどな、心を籠めない演技でも()()()()()()無能ばかりだったから、水準を上げるために今日まで色々してきたというわけか。だが、このままではお前自身が上げた水準にお前だけが置いて行かれるぞ」

「言い方が酷いけど、まあ大体その通りよ。だから、後はここからまた追い返すまで努力を重ねれば良いだけの話よ」

 

 櫻良はそう言いながら、ニタリと笑っていた。その笑みは月花の背中に冷たいものを走らせる程度には不気味であった。四音の演技の源流は紛れもなくこの女であり、演技の精度やキレだけで言えば、既に現役のアイドル……否、トップアイドル(白 草 月 花)にも劣らず、自分にバックダンサーが必要な演技があれば、その人員の一人として即決できる程度には認めていた。アイドルの素養がなくとも、ファンサのやり方や感情の込め方次第で幾らでも化けるであろうし、何よりこの貪欲さは末恐ろしいものがあった。

 

「NIAで雛鳥どもの様子を見に来て、面白いアイドルがいれば、戯れるのも悪くないと帰国してきたが、黒井め。存外面白い珍獣を引っ張って来たものだな」

「珍獣扱い……いや、まあ、されても仕方ないことしてる自覚はあるけども」

「良いだろう、競技者(アスリート)。今のアイドル達と戯れるのも悪くないが、お前の演技を見られるものにする方が私にはいい経験になりそうだ。お前の限界の超え方を見せてみろ」

 

 そうして、極月学園のアイドルたちは、【Finale】や各々の最終オーディションに向けて、特訓と修練を重ねた。燐羽も佑芽の覚醒を目にしたため、契約を果たすため極月に戻ってアイドル達のサポートやトレーナーとして、各人の最終調整を手伝った。

 【Finale】の予選に参加出来る圏内にいるアイドルたちは、白草月花と花月櫻良の特別な指導のもと、その実力を磨いていった。

 

 時を同じくして、初星学園のアイドルも【Finale】に向けて準備を重ねていた。その中で最も焦っていたのは白草四音に勝ったはずの花海咲季であった。

 【Quartet】での白草四音との対決では、辛くも勝利出来たという経験が、佑芽の圧倒的な演技も相まって咲季を蝕んでいた。

 

「それで? プロデューサー、私が【Finale】で総合優勝するには何をすれば良いのかしら」

「この間の弱気が嘘のように平然とされていますね」

「平然でいられるわけがないじゃない!! 私、とても焦っているわ……【Quartet】のあの演技が今の私に出来る最善で、あれを超えるには【Finale】に間に合うか分からないんだもの」

 

 咲季はいつも通りを装ってPに意見を求めて、余計な一言をかけられて、逆ギレして弱音を零した。このPには隠し事はしたくないし、しなくてもいいと思っているが、競技者(アスリート)時代とは随分変わったものだと自嘲気味に思った。

 

「ええ、それでこそ咲季さんです。では、そんな咲季さんに問います。貴方が【Finale】で勝つための最低条件は何でしょうか」

「そうね。まず、【Quartet】での自分を超え、佑芽を超えると言ったところかしら、他の相手にはその過程で勝てるはずよ」

「概ね正しいですが、それで挑んだ白草さん相手に辛勝という結果でした。そして、【Quartet】の花海さんを基準にしては今度は置いていかれる側に回ってしまいます」

「じゃあどうしろっていうのよ。佑芽と櫻良と白草四音を含めた【Finale】本戦に挑むアイドル全員を比較対象にしたって同じことじゃない」

 

 咲季は動揺して、焦って自信を喪失していた。無理もない、意識していた仮想敵に近い相手に、競技者(アスリート)時代に櫻良と競い合ったかのような迫られ方をしたのだ。覚悟はしていたが、それで振り払えるような軽いものでは無かった。更には佑芽の覚醒も重なって、心が折れていないだけマシといった状態であった。このままレッスンやトレーニングをしても意味は薄いと考えたPは大胆な策を打ち立てた。

 

「咲季さん……そうですね。では、その答えを出すまで一切のトレーニングを禁止とします。代わりに過去の咲季さんの演技を鑑賞してください」

「正気!? ただでさえ時間を無駄にできないのに……いえ、貴方のことよ意図あってのことよね」

「ええ、貴方が"それ"に気付く事ができないのであれば、どれだけレッスンを重ねても勝てません。ただ、時間的猶予もないので今日含めて3日で見つけられないのなら、【F()i()n()a()l()e()()()退()()()()

「ちょっ……!!?? そんな勝手は許さないわよ!」

「咲季さんにこの【Finale】で負けてもらっては困ります。なので、()()()()()()()()()()()ように逃げるだけです」

「っ────!! プロデューサー、それを持ち出すのは酷いわ。最低よ!」

「ええ、その自覚はあります。ですが、咲季さんなら必ず答えを見つけてくれるという確信があるからこそ、です」

「グゥッ……! 良いわよ!やってやろうじゃない。私はもう逃げないって決めたんだから!!」

 

 その啖呵を切って、はや2日目。朝のルーティーンであるランニングさえも禁止され、花海咲季の事務所とも言える教室にて、画面の中の自分を齧り付くように鑑賞しつづける咲季は、Pの意図を探っていた。

 

(全くプロデューサーはどういうつもりなのかしら、これで調子を崩したら本末転倒でしょうに……)

(でも、あの人がくれた策や方針は私を確実に良い方向へと導いてくれた。だから疑う余地はない)

 

「──今までの、私の演技。こうやってじっくりと観察するように見る機会はそう言えば無かったわね」

 

 魅せつけるような王者の風格を漂わせながらも泥臭く立ち向かう曲『Fighting my way』。その演技を今まで受けてきたオーディションごとに分けて保存されている。

 昨日は【Quartet】の演技ばかり確認して、演技の粗や反省点を確認して伝えたが、Pはそういうことではないと咲季に不正解を告げた。つまりは、【Quartet】の演技だけではなく、他の演技も見なければ答えにならないということかもしれない。

 そう考えて、今日は一番最初に記録として取ったレッスン室でのデモンストレーションの動画から見返しているのだが、────

 

「あぁー!! もぅ!恥ずかしい、なんでそこのキレが甘いのよぉ!! いや、違うでしょ、そこのところはもっとこう──」

 

 過去の自分の演技の納得がいかない所を、恥じてひたすらダメだしをしていた。自分自身に対してはひたすら厳しい故に過去の醜態(と本人は思っている)に声を出さずにはいられなかった。

 

「うぅ……、ダメね。これは良くないわ。というかこれ以上、この時期の演技を見るのは苦行すぎるわ」

 

 過去から遡って2本分を見てから、当時の自分に対しての自己嫌悪と羞恥で立ち直れなくなりそうだったため、『初』の学内オーディションで佑芽に勝利した時の記録から見ることにした。時間にしてみれば、数ヶ月程前でそこからでも十分に記録鑑賞としての意味はあるだろうし、なによりそこからの演技であれば、それほど悪くはないという自負もあった。その筈だった。

 

「あれ、え? 当時も思ったけれど、私こんな演技で佑芽に勝ったというの?」

 

 今よりも演技の精度や練度が低いのは当然だ。しかし、想定よりもずっと水準が低い演技だった。

 Pの提案で【Quartet】の前の特訓では、一つ前の【GALAXYミュージック】での演技を超えることを意識して挑んだ。それで緩やかであっても成長はしていると自覚できていた。

 【Quartet】の演技は昨日、頭に焼き付く程に見たから分かる。このNIAの数ヶ月の期間で自分も急激な成長が起こっているのかもしれない。それを裏付けるために、NIA期間中の演技も改めて鑑賞しつづける。

 咲季に自覚は全くなかった、目の前の映像に映し出されているそれは劇的とも言えるほどの、変化だったというのに。

 

「私は、こんな、こんなにも──」

 

 咲季は自分が誇らしいと同時に、自信を失っていたのが恥ずかしくなった。自分が積み重ねたものはしっかり形になっていたというのに、目を逸らして、見ていなかったのだ。直視してしまえば、自分が如何に成長出来ていないかということを知ることになる、それが怖かったということを自覚した。

 

 いつの間にか、日が傾いて橙の陽光が教室を彩っており、そこにPが入ってきて咲季に声をかけた。

 

「咲季さん。答えは……みつかったようですね」

「えぇ。プロデューサー、ありがとう。貴方が居なければ、ファンの皆が居なければ、私はきっとこんなにも強くなれなかった」

「では、明日からはトレーニングを──」

「待って、答えは言わせて。言いたいの」

「分かりました。聞きましょう」

 

 咲季はいつの間にか溢れていた涙を拭い去ってから、強気な自分に切り替えて答えを謳い上げた。

 

「私はこのNIAを、いいえ、アイドルになってからずぅーっと長い成長期なの。だから、今まで通りに、今まで以上に積み重ねれば負けることはないわ!!」

「はい、100点満点の大正解です。流石は私の見込んだアイドルです」

「ふん! 当然よ。私は花海咲季なのだから!!」

 

 完全に復調した咲季は、2日分の強制休暇の隙を埋めるようにレッスンやトレーニングを再開したのだった。

 

 そして、迎えたNIA大型最終オーディション【Finale】、五枠を争うその枠組の1つ、同じブロックに花月櫻良と白草四音の名前が連なっていた。




 ご覧いただきありがとうございます。

 おかしい……プロットの段階では四音をこんなにもクローズアップする予定はなかったのに……。
 まあ、いいキャラしてるので救済作品はいくらあっても良いものとしましょう。うん。

 後は咲季覚醒となります。うむ、佑芽だけ覚醒描写して、咲季の方は描写しないのはバランスが悪いのでね。
 描けるタイミングがここが最後だったので急遽生えました。

 これで後は【Finale】の話に集中出来るというものですね。

 次回、【Finale】予選! 乞うご期待!!

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