シン・ワカメライダー。   作:ひつまぶし太郎

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本日3話目です。
一度書いた1-3話を加筆修整と時系列の整理も兼ねて再編集版として再投稿しています。
それなりに色々書き足しているのでもしよければ1話目から目を通して見てもらえると幸いです。


③しゅじゅうかんけい

 

 

月光が照らす校庭で、僕は魔法少女と向き合っていた。

 

「うわぁ…」

 

「ううっ」

 

まさか、衛宮の妹が来るとは。

それも魔法少女のコスプレをして。

 

羞恥で顔を赤らめ、何処となく涙目になるその少女を前に、僕は思わず天を仰いだ。

人によっては嗜虐心が擽られる一幕なのかもしれないが、色々事情を知っている僕としては居た堪れないのひと言に尽きた。

 

友だちの妹だし。

あのおっかない黒色のおっさんの娘だし。

奇跡の塊みたいな存在だし。

 

「とりあえずさ」

 

「は、はいっ」

 

そんなにおびえないで欲しい。

お互い喋ったことはなくても顔くらいは見たことあるだろうに。

 

「自己紹介しておこうか…僕の名前は間桐慎二。そこの後ろのポンのコツのうっかりバカを案内してサポートするだけの仕事をするはずだったしがない魔術師だよ」

 

「…え、えっと…その。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンでふ!」

 

噛んだ。

見る見るうちに赤くなっていく彼女の後ろから、羽根の生えた丸いおもちゃみたいなのが飛び出してくる。

後ろでは遠坂がプルプル震えてるし、ずいぶんとややこしい状況になっていた。

 

「ぐふ、ぐふふふ!いやー!可愛いですねぇ〜!ムフフですねぇ〜!魔法少女と僕っ娘男の娘魔術師との初邂逅!いよいよ物語が始まるって感じですよね!」

 

「ルビー!」

 

始まるのはとんちきぽんこつ珍道中だと思う。

 

え、ラブコメ?

ないわー。

もうヤンヤンブラコン妹と行き遅れ堅物脅迫お姉さんだけでお腹いっぱいです。

 

「そもそも聞けば知らない男の人ならいざ知らずお兄さんの知り合いなんでしょう?何を緊張する事があるんですか?」

 

「むしろだから恥ずかしいっていうか…そもそも男の人がいるって聞いてなかったっていうか!」

 

「いやールビーちゃんうっかり!前の主のクセが移っちゃいましたかね〜?」

 

「やっぱカスだろこのマジックアイテム」

 

まさかまさかの知り合いである。

それも、今のところはまだ一般人の。

神秘の秘匿とかその辺どうなってんですかね。

 

…遅かれ早かれ巻き込まれるとは思ってたけどさぁ。

今かぁ…。

今っつうか、魔法少女(ソレ)かぁ。

 

ずいぶんと色物枠でのエントリーですねアインツベルンさん。

あんたら歴史から名前消したはずだろ。

 

「揃っちゃったなぁ御三家…これなら僕いらないんじゃないの?偽御三家のヒヤッキーには荷が重いって…」

 

まぁ御三家と言っても、聖杯戦争は結局第何回だかは雲散霧消したし、出来る限り自分達を秘匿しようとどこの協会にも所属していなかったから、アインツベルンは無名な雰囲気はあるのだけど。

イリヤの名前を聞いて遠坂が反応しないあたり、あのちょび髭は何も伝えていないらしい。

 

ならある意味で、御三家全員が偽物という言い方も出来るのかもしれない。

記憶を封じられ遠ざけられた今は亡きアインツベルンの娘。

ただの霊脈の管理者として、協力していたことすら伝わらなかった遠坂の娘。

当主の代用品で全てが借り物な間桐の息子。

 

どいつもこいつも聖杯戦争なら三流の登場人物で笑けてくるな。

 

「…準備はいいわね?」

 

「いいんじゃない?失敗すれば逃げればいいんだし。ここにあるカードが無理でも他にいけばいいし」

 

イリヤにはカードのことやらなんやら、本当にざっくりとした説明だけはしてると聞いている。

そして、本人とバカステッキ曰く練習もしてきたんだとか。

 

頼もしい限りだ。

せいぜい頼りにさせてもらうこととしよう。

『付け焼き刃だからハートとタイミングでなんとかするしかない』なんて不安は、僕の知ったこっちゃあないのだから。

 

「ここにある?なんにもないんだけど…」

 

「ここだけど、ここにはないわ。場所は同じでも世界が違う。ルビー!」

 

「はいはーい。それじゃあいきますよー!」

 

そんな、ステッキの軽い掛け声とともに僕らは戦いの場へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

入れ替わった世界。

ある意味で鏡面そのものの世界とも言える異空間。

鏡面界と呼ばれるその世界は、不気味なほどに静まり返っていた。

 

その静寂を破るように、校庭の中心から化け物が生まれ落ち、僕らに向かって走り出す。

 

「な、なんかでてきた!」

 

「報告通りね…実体化した!くるわよ!」

 

くるわよ、と遠坂が口にした頃にはすでに間合いは敵の物。

意思はないのだろう。

思考もなく、ただ力を振るうだけの怪物は、その怪力を持って少年少女を叩き潰す───ことはない。

 

「はっ、バカだねーお前。正面からの力押しとか愚の骨頂だって教えてあげるよ!」

 

怪物の腕を、存在が不確かな『影』が受け止めていた。

意思があれば、また違った反応をしただろう。

だが、人形は困惑したように動きを止め、その大きな隙を見せた瞬間『虚数の刃』が襲いかかった。

 

怪力が、魔術という存在を概念ごと振り払う。

だが、幽世のモノ相手に僕の影はめっぽう強い。

それも、本物の英霊ならまだしも人形なら尚の事。

 

一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

そんな概念と、虚数という架空の概念がぶつかり合い、完全ではないが少なくない手傷を与えていく。

 

「…僕の影、とか。言っちゃうの、ほんと最悪」

 

自分のモノローグに苦虫を噛み潰したような顔をしながら、僕は腕を振るう。

かすり傷をつけられた程度で、向こうは表情を変えないというのに、まったく。

我ながら、未熟なことだ。

 

虫は敵ではなく支配する味方のはずだろうに。

 

「掠め取って、我が物顔で使う…ソレが家の魔術ってやつなんで!借り物でも便利に使わせてもらうよ架空元素───!」

 

吸収という特性の魔術。

支配し、束縛し、奪う。

そんな他の魔術と違って「他人から奪う」以外に用途が無く、他人の痛みだけを糧にし、他人の喜びを還元する教えがない虫けらの家。

 

そんな家のスペアとして用意されていた僕の人生でも、妹の重荷をすべて受け止め、助けられたのなら意味はあったのだろう。

 

そしてそれは、今この瞬間だって変わらない。

 

…戦いというものを正しく理解していない無垢な少女。

魔法少女が愛と勇気を歌うのなら、痛みを伴う苦しいところは大人が引き受けるべきなのだ。

 

───夜の校庭で、蠢く影に警戒心を剥き出す相手に、僕は笑った。

 

「僕だけで倒す、なんて。そんな主人公みたいな事考えると思った?」

 

計画通り、距離を稼いだおかげで余裕のできた少女が本領を発揮する時間だ。

 

「ど、どうにでもなれ───!!」

 

僕の頭上を光線が薙ぎ払い、純粋な魔力による攻撃がサーヴァントに大きな傷をつける。

 

「やりなさいイリヤ!逃さないで!」

 

即座に優先順位を変更したのだろう。

まるで生き物のように蠢く鎖と杭が校庭を暴れまわり、遠巻きに見る遠坂やイリヤに牙を剥く。

 

だが、その全てをことごとく僕が木刀で叩き落とした。

 

「やっちまえ魔法少女!危ないことは全部こっちがもってやる───!」

 

僕の後ろから、嵐のような散弾が校庭を破壊する。

 

さすがの人形も、ここまでされれば危機を感じるのか。

特大な魔力の高まりを感じ取った。

 

だが、遅い。

 

浮かび上がった魔法陣に影を纏わせ魔力を奪い、砕く。

 

「あめーよ」

 

宝具の発動にしくじり動きの止まった彼女を、虚数の影がいくつも突き刺さり、縫い止める。

 

万全の英霊ならこうはならなかった。

魔法少女という奇跡の存在がいなかったらまだ善戦できたはずだ。

だが、純粋な魔力の攻撃によって傷だらけになり、その傷の上からあり得るのに存在しない不確かな刃が食い込み、彼女の命を脅かしていた。

 

サーヴァントはもう一度魔力を練り、今度は別の宝具を発動しようとして───

 

「じゃあな、ライダー」

 

すでに懐に潜り込んでいた僕の拳が彼女の霊核をぶち抜き、その内にあるカードを掴み取る。

 

「…もしまた会うことがあったら、そんときゃ頼りにさせてもらうよ」

 

静まり返る校庭で、僕はニヒルに微笑んだ。

 

 

 

 

「…ええ、あの時のあなたはとてもかっこよかったですよ?ふふっ、本当に」

 

「は───ァ」

 

数時間前の殺し合いを、女はつぶさに耳元で囁く。

意地の悪い女だ。

一度負けた事すら利用して、自分という存在を僕に刻もうというのだから。

 

「あんなにたくさんのものに貫かれて、最後はあなたの逞しいものに心を奪われてしまいました」

 

「ひぅ……っ」

 

つつ、と女の指が僕の鎖骨から心臓までをなぞり、僕の心臓(炉心)の上で思いっきり爪をたてる。

 

快楽を伴う痛み()が僕を縫い止め、致命的な疵がつけられる予感に、熱い吐息がこぼれ落ちた。

 

「頼りになる先達として、ええ。とても素敵な姿でしたね…きっと、今のあなたを見られたら幻滅されてしまうでしょうけど」

 

思えば、桜とのアレはまだ優しかった。

初めてなのに容赦なく組み伏せられ、食べられて、とんでもない経験になってしまった、なんて思っていたが。

 

「私は今のあなたのほうが好みですよ?そう、私だけが」

 

ふぅ、と女の吐息が耳にかかり、先ほどまで女の舌に蹂躙され性感帯へと変じた耳が悲鳴をあげる。

 

「私だけが、貴方を理解して…受け入れてあげられるのですから…」

 

「あ──────」

 

無様にも使い魔に主導権を握られ、支配される快楽に、僕は間違いなく溺れていた。

 

僕の腰の上で踊る女は、女神のような美しさだ。

きっと、彼女が生きていた頃なら、何人もの男が喜んで贄になったことだろう。

怪物的な禍々しさが、かえってその美貌のせいで魅力に移る。

生まれついての支配層。

ヒエラルキーにおいて、人間よりも格が上だという事を嫌でも分からせられる。

 

もっと食べてほしい。

もっと、自分を見てほしい。

そんな浅ましい欲で、自分を見失う。

 

「怪物同士仲良くできそうで何よりです…ふふっ」

 

魔力供給という名の、主従関係を逆転させる下剋上は、物の見事に成功する。

 

 

桜を遠ざけ、快楽に耽ったその日の夜を、僕はもう二度と忘れることは出来ないだろう。

 

 

 

 

 

自分の部屋。

無駄に大きな窓から差し込む月光を背に、長身の女が尻もちをつく僕を見下ろしている。

 

「ふふっ、大丈夫ですか?」

 

「……ぁー…はぁ。まぁ…想定のリスクよりは…マシか」

 

先ほどまで、互いがつながっていた証しである銀の糸が、繋がりを失って視界から消える。

その事に少しの寂寥感が胸に去来し、追いかけるように思わず彼女の口元に視線が吸い寄せられたが、鋼の意志でなんとか引き剥がす。

 

「ええ。私としてもとても美味しい思いが出来て幸いです」

 

…どうしてこうなかったかといえば、まぁ。

僕の軽はずみな行動が理由でもあるのだろう。

もっと言うのなら、昨日の時点でしっかり喧嘩を止めて僕が前に出なくていいようにするべきだったのだ。

遠坂たちがしっかりステッキを使えてたなら僕は遠くから影で援護する程度で良かったはずなのだから。

 

だが、同時に。

魔術師としては確かな喜びがあった。

 

サーヴァントあるいは境界記録帯(ゴーストライナー)

少しだけ、このカードにまつわる言葉に思い当たる節があった僕は、爺の蔵から持ち出した魔導書を片手に実験をしてみたのだ。

 

結果、今冬木の地にばら撒かれたカードを触媒に本物の英霊…に似たなにかを呼び出すことができた。

どうやら妙な形ではあるが、聖杯戦争という儀式が起動している判定になっているらしい。

そこにうちの血筋と冬木の霊脈で乗っかってみたら出来たのだけど、ぶっちゃけ細かい理屈はよくわからない。

僕の心臓に聖杯の欠片を埋め込んだり、かつて途中で解体された聖杯戦争に参加していた名残だったり、そのへんが諸々偶然重なってなんかうまいこといったのだろう。

 

…無駄に執着されたりおそらく本来のサーヴァントよりかなり出力が下がってるのは予想外だが、まぁそこはそれ。

 

「くっそーでもせっかくライダーならイスカンダルとか呼びたかった…なんなら普通にセイバーとか召喚したかった…」

 

「おや?あんなに蕩けた顔をしておいて、つれないマスターですね。そもそも貴方が私を殺すからこうなったのです…身から出た錆、というやつでは?」

 

クールだ。

さっきまであんなに人を弄んで笑ってたのに。

召喚が成功して早々『魔力が無くなりそうです。早速ですが、魔力を頂きます』と食ってきたくせに。

 

いやまぁ、確かにシャドウサーヴァントのライダーをぶっ殺したのは僕なんだけども。

 

「殺した責任ってやつ?あとなんか日本語詳しくない?」

 

「貴方を依り代にしてるからなのか、貴方の血を頂いたからなのかは分かりませんが…とりあえず、世俗に疎くないというのは良いことです」

 

ではもう一度、と迫ってくるメドゥーサを押しのけながら、僕はこれからの未来に向けて頭を悩ませるのだった。

 

 

今回の学びは多分、好奇心は猫を殺す、とかだろう。

あるいは後悔先に立たずとかでもいい。

 

「鴨がネギを背負ってきた、とかでも構いませんよ」

 

「僕が構うんだよわかんないかなぁ…」

 

 

ただ一つ言えるのは、僕以外にも妹を守れる存在が出来たのは間違いなく朗報だった。

 

 




最新話は明日投稿させていただきます。
再編集版にお付き合いくださった方も新たにこの小説にたどり着いた方も、読んでくださった全ての方々に感謝申し上げます。
もしよろしければ、再編集版のここがすごい!みたいな感想やここすき、評価等を頂けるととても嬉しいです。
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