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エーデルフェルト。
噂では、あまり日本は好きではなかったような記憶があるが、どうやら好き嫌いを宝石翁からの任務に持ち込むほどガキではなかったらしい。
まぁ、味方を私利私欲丸出しで攻撃するところに思うところがないでもないが、いっそ清々しいまでに目的のためなら手段を選ばないというのは逆に好感が持てる。
「ようこそおいでくださいました、シンジ。歓迎いたしますわ」
「どーも。それで、昨日盗み見てようやく僕の使い道は決まったって感じ?」
「な、なんのことだか分かりませんわね…おほほ」
「それにステッキも見当たらないし、おおよそ遠坂と同じ状況ってワケだ」
全力ですっとぼけるエーデルフェルトの令嬢に呆れながら、僕は手元のお茶を煽る。
…うん、うまい。
冷たくて美味しい。
でも麦茶だこれ。
しかもつる◯のやつ。
普通こういうのって紅茶じゃないの?
洋風の茶器とあまりにもかけ離れてるのはなんなの?
工事直後で時間なかったのかな…。
「…やはり、あなたには少し可愛げが足りませんね」
「見た目だけで百点だからいーんだよ。で?このままはぐらかすなら僕は今後も遠坂とだけカード回収をしていくことになるけど」
「ええ、もちろん。全てをお話しますわ。そして、先日の戦闘には参加できず申し訳ありません」
「はいはい…」
しっかり鏡面界まで着いてきてこっそり覗き見ていたくせに、あくまでそこは認めないらしい。
別にいいけど。
「新しい契約者である彼女の個人情報は伏せますが、名前は美遊エーデルフェルト。今日から地元の小学校に転入しています。素養は十分。覚悟もあります」
「今日からねぇ。ま、いいよ身元はなんでも。幸いそっちのステッキは信用できる、ルビーとは違ってね」
「私といたしましても、そこだけは遠坂凛に同情しますわ」
「それにこの街は身元詐称に関しちゃ寛容だ。名乗りたい名前を名乗ればいい」
冬木市の管理を代理で任されたときにした1つ目が、このあたりの抜け道作りだ。
なんでそんなことをしたのかといえば、まぁ。
妹が遠坂を名乗りたくなったり、間桐と縁を切りたくなった時にスムーズにその選択肢を尊重するためだったりなかったり…は別にしない。
うん。
ないな。
そんな事実はない。
単に僕が昔間桐慎二になる時にややこしい手続きにうんざりしたのと、その際に余計な貸しを黒いおっさん相手に作った苦い経験から勝手にしただけだ。
「にしてもそっちも小学生かぁ…急に一般通過魔法成人女性とかに参戦されても困るからいいけど」
アイリさんとか、素質ありまくりだろうし。
今あの人が街にいなくてほんとよかった。
「ええ、たしかに。サファイアが選んだ少女が美優であったことは幸運だったかもしれません」
「…小学生を危ない仕事に巻き込むってのは正直気乗りしないけど」
「それは…」
昨日戦ってみて思ったのは、ライダーに関してはまず間違いなく場所と相性が良かっただけだ。
一つは、発動に召喚を必要とする宝具だったこと。
そして、もう一つの宝具である石化の魔眼すら発動に予備動作が必要なこと。
さらには意志のない彼女の鎖を生かせない開けた場所だったこと。
それらのおかげで、ただ魔術が効きづらい真正面から力押しをしてくる怪力人形へと成り果てていたわけで、英雄という現象を前に、今後もああもスムーズに戦えていけるなんて楽観視は許されない。
「でもそこは僕らの頑張りどころってやつだろ。幸い弱っちいけど僕の魔術も多少効くみたいだし?」
「…ええ。ふふっ、頼りにしてますわ。まさに架空元素使いの面目躍如と言ったご様子で、昨日は陰ながら手に汗を握りながら見させていただいてましたのよ?魔術だけではありません。あの踏み込みも大変素晴らしく、おそらくは剣が本領のようですが体捌きはまるで複数の達人の教えが根付いてるかのような…はっ!?」
「……お褒めいただき光栄だよ、レディ」
はっ!?じゃないが。
なんで覗きを勝手に自白して睨む先が僕なんですかね。
魔術も魔法も手品も使ってないが。
…あのバカステッキも言っていたけど、遠坂のうっかりって伝染るもんなんだろうか。
あるいは単にこの令嬢が遠坂と同族なだけなのか。
その辺はわからないけれど、さらっと僕に師匠がいたことを見抜くあたり、侮れない観察眼があるのは確かだった。
…肉体言語に造詣が深い魔術令嬢ってのも変な話だけど。
「───!?」
恥ずかしさをごまかすためなのか、淑女のポーズで手元のお茶を飲み干したお嬢が、目をかっぴらく。
「…こ、これ麦茶じゃないですの!!オーギュスト!?」
「執事たるもの、お客様の好みを一目見て把握してこそと存じます」
「オーギュストさんおかわりー」
「紅茶!紅茶を持ってきてくださいまし!エーデルフェルト家の令嬢として麦茶をゲストに飲ませたなんて許されませんわ!」
「いいじゃん美味しいし…」
「このお馬鹿さん舌!いいですわ覚悟なさい!今日は紅茶の授業と教育…いいえ、調教をして差し上げます!感謝は結構ですわ!オーホッホッホ!庶民を導くのも貴族としてのたしなみでしてよ!」
「悪役令嬢…紅茶調教令嬢…?」
●
「兄さん、これはどういうことですか」
「ちょっと心当たり多くてどれのことかわかんないな…」
あのあと、エーデルフェルト邸でいくつかの情報交換を改めて行ってから僕は屋敷をあとにした。
『な、何この豪邸!?こんなのウチの目の前に建ってたっけ!?…いったいどんな人が住むの…』
『あ…』
『ん?』
門を抜けた先で、気まずそうな顔をするイリヤと見知らぬ少女がいたりしたが、仲良く話すような関係でもない。
片方なんて初対面だし。
『うーすおつかれーす。じゃ、そういうことで…』
『まさかのスルー!?なんでお屋敷から出てきたとかの説明もないし!せめて大人として仲を取り持つとか…!!』
『え、いる?ガキ同士適当に仲良くすりゃいいじゃん。それともなんだよ、神父の真似事でもすればいいワケ?じゃあ誓いのキスでもしろよ』
『この人最低だよぉ!』
どうもあなたのお兄さんの最低な悪友です、なんて子供相手に大人げなく遊んだのが良くなかったのだろうか。
僕は現在、自分の屋敷で正座させられていた。
私怒ってます!と、頬を膨らませる桜も、学校ではおしとやかで通ってるんだから世の中わからない。
化けの皮を剥がせば情緒不安定なヤンデレブラコン女だと言うのに。
「で、改めて聞くけどどれのこと?」
「なんですか兄さん、そんなにとぼけたって無駄ですよ?どれだけその小首を傾げるポーズがあざと可愛くても罪は罪なんですから!」
「見上げてるだけでこの言われよう…」
「…ふぅ、あんまあざとさ出してると犯しますよ?」
「それが脅し文句として出るのってどーなのかなぁ!」
いやマジでどれのことなのだろう。
彼女の元姉と仕事をしてることは言ってるし、今日は仕事仲間の女性の家に足を運ぶことも伝えている。
いったい何が不満だというのか。
「…あ、下着漁った件?でも桜もいつも僕の洗濯物しれっと盗んでるし、謝りゃいいかなと思ってたんだけど」
「違います!あと盗んでません!」
「じゃあたまにお前の部屋から回収してる僕のパンツはどういう理屈なんだよ。羽でも生えて跳んでたって?」
「そうです!」
そうです、じゃないが。
「とーにーかーくー!」
「はいはいなんだよなんですか」
肩を揺らされ、されるがままの僕と桜のやり取りを聞くライダーが、思わずくすりと微笑んだのが見えた。
神話の女神には微笑ましくでも見えたのだろうか。
なんだよ、いつもだいたいこんなもんだぞ僕らの会話。
「なんで!そこのライダーさんの服を私にも選ばせてくれないんですか!あとなんでライダーさんのメイド服から兄さんの香水の匂いがするんですかっっっ!!」
「そりゃ桜、お前さん…」
…聞くのは野暮ってもんでしょうよ。
ただちょっと買い物行く前にメイドさんに食べられてただけなので…。
そう視線をそらす僕と、メイド服を着て少し離れた位置で佇むライダーの目線が偶然ぶつかり、微笑まれた僕は思わず目を伏せた。
「……な…な、なんですかその反応!NTRですか!?NTRなんですか!?うわーん兄さんの浮気者ー!私で初めて捨てたくせにいいいい!」
「ちょ、あぶな!?包丁振り下ろすなバカ!死んだらどうする!?」
「それにライダーさんの胸に無理矢理手を突っ込んだって聞きましたよ!そこは普通に人としてどうかと思います!突っ込むなら私にしてください!」
「ライダー!お前裏切ったな!?伝え方に悪意がありすぎる!」
その日の夜、カード回収に向かうまでに無駄にドッタンバッタン大騒ぎになったわけだけど、桜がやけになって最終手段を取るよりも早く、僕は転がるように屋敷を飛び出すのだった。
よかった…ドッタンバッタンで。
ルート次第だとズッコンバッコンしかねないからな…。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
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