評価をしてくださった方も、ここすき、感想をくださった方も皆さん本当にありがとうございます。
キャスターのカードを前に、歴史的敗走をした僕たちは、一応1日練習する期間を設けようという話になった。
…うーん、どうなんだろう。
どうなんだろうと言うか、どうするんだろうと言うか。
「それで、シンジはなにかするんですか?」
「なにかするつもりがあったらこんな風に暇してはないでしょ」
僕は現在、柳洞寺の裏から回って森へと続くハイキングコースを無駄にだらだらと歩いていた。
隣には僕が選んだ私服を着こなすライダーもいるけれど、別にどこかに修行しに行くという話でもない。
「…………」
というか、なんか。
デートじゃねこれ。
「どうかしましたか?」
「いや…別に」
なんとなく、昨日のライダーに言われた『見せびらかしたいのですね』なんて軽口が脳裏によぎっただけで、別にホントになんでもない。
黒のへそ出しタンクトップ(ほぼキャミソールだ)に、白い薄手のシアーシャツを羽織り、ジーンズを履きこなす彼女の隣で歩いてる身としては、視線が集まるのが誇らしい反面、見てんじゃねーよみたいなもやもやもあり、複雑怪奇な自分の感情に僕は振り回されっぱなしだった。
「……やっぱもうちょい身長欲しいな」
「おや、そんなにいいものでもないですよ?それに、シンジは今のままが一番ちょうどいいサイズだと思います」
「そうかなぁ」
個人的には、彼女の隣で歩くのに相応しい男になりたいところではある。
「むろん、あなたの息子の大きさもちょうどいい具合に…「はいストップ」」
このセクハラサーヴァントがよ。
油断も隙もない。
「それにしても、休日にハイキングとは。名ばかり家政婦にもほどがありますね…」
「いーんだよ、別に。料理は僕と桜が交代でやってるし、掃除は虫にしてもらってるし…洗濯物は人に任せると身の危険を感じるし…」
「そうですか…」
罪悪感が刺激されるからあんまり露骨にしょぼんとしないで欲しい。
真面目だなぁほんとに。
「そのうち虫だと掃除しきれないところとかやってもらうことになるから別に気にしなくていいって」
「はい…」
さて、森の奥までくれば完全に人の気配もなくなるというもの。
静かに歩きながら思い返すのは、昨日の戦闘。
鏡面界に転移した直後からすでに展開されていた数多の攻撃用の魔法陣。
さらに純粋な魔力という英霊にも届く攻撃への対策として有効な、魔力指向制御平面が空を埋め尽くす光景はいっそ悪夢だった。
『まっず…!』
『こっ、これはもしかしなくてもDieピンチってやつなんじゃ…』
…さすがに僕も隠し事は減らすべきか、と思わないでもない。
明らかに魔力障壁を突破してくる熱量の光線を前に、咄嗟に出来たのは4人全員を影で飲み込んで当座を凌ぐこと。
弾幕の切れ間に、無様に逃げ出すしか出来なかった。
不幸中の幸いなのか、攻撃陣も反射平面も座標固定型なため、魔法陣の上まで行ってしまえば戦えるだろうという見立てまでは立った。
…つまるところ、あの英霊をどうにかするには、空の上から叩き落とすしかないのだ。
「飛行かぁ…」
出来るなぁ、僕。
空飛べちゃうなぁ。
なんでか、イリヤも出来ていたけれど。
問題は、僕がそこまで彼女らを信用できるのか、という。
勇気の話に帰結する。
果たして自分が化け物だとバレた時に、それでも変わらず接してもらえるかなんて。
そんなナイーブな未来を予想したところで、結局出たとこ勝負にしかならないのだ。
「…ライダーはさ」
「なんですか?」
「……いや、やっぱいーや」
バゼット相手にバレたのは事故だったが、それでも彼女は信用できた。
なら、遠坂凛は?ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、美優エーデルフェルトは、果たして信用に値するのか?
───間桐慎二は、そんなに容易く人を信用する人間だったか?
「いや、信用する人間だろ僕は。面白おかしく生きる日常をこよなく愛する、ただの魔術師なんだから」
「あなたほどの属性でただの魔術師は無理があると思いますが…」
「うっさい」
答えなんて既に決まりきっている考え事をするために、柳洞寺の裏手を散策すること暫し。
だんだんと陰鬱な考えは消え去って、昔どこかの誰かとした木の芽を見つける遊びに興じたりして、僕は気が付けば郊外の森へとたどり着いていた。
どう考えても歩き過ぎである。
「…あ」
「およ?あ、シンジさん!」
森の少しひらけた場所で腰を下ろそうと踏み出した先に、妖精がいた。
その妖精は青空を背景に、誰よりも自由な少女。
彼女こそが愛と幸福を願う奇跡の───カット。
「…よーイリヤ。今日も元気そうで何よりだよ」
「…あの、あんまりしげしげ見られるとちょっと恥ずかしい…です」
「あ、そ」
背負っていくと決めた妄執への共感を一度切断し、意識を現実に引き戻す。
僕の眼の前にいるのはドレスを纏う白無垢の花ではなく、ひょんなことから戦いに巻き込まれて魔法少女のコスプレを恥ずかしげもなく着こなす一般小学生。
ただのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンなのだから。
「だんだん分かってきたけど、この人がこの返事をするときは全然話を聞いてないときだよね…」
「いや聞いてる聞いてる。親戚でも回り回って血の繋がりを感じるのって最悪だなって思っただけで」
「………?」
きっと、爺さんが恋焦がれた誰かも似たような
純粋なのに意志は強くて、その無垢さは穢し難い光に見えたはずだ。
五百年の妄執の果てに身を滅ぼしたあのジジイに理解を示してしまうのも嫌な話だが、たしかに五百年を賭けてたどり着いた末路としては悪くない。
…そう。
全人類の救済なんて壮大な夢は一つも叶わず、未だ人は人のままで、それでも一人の少女が健やかに育つというなら、僕はそれでいいと思う。
ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン。
マキリの運命を決定付けたその誰かの末裔の眩しさに目を細めながら、僕は小さく微笑んだ。
「あ、あの…デートですか?」
「……まぁそんな感じなんじゃない?」
少なくとも、僕はそう思うけど。
「おや、デートだったんですね」
「そんな感じってなんですか!?」
「やですねーこれだからモテる男は嫌なんですよ!」
小学生丸出しな質問に答えただけでこの言われようである。
あと、からかうような表情のライダーの目線がくすぐったい。
「基本、男女が2人で出かけてたらそうなんじゃないの?…あと別に僕はモテねーよ」
「ええ、そうですね。あなたそれで意外と根本が自己肯定感低いですからね。桜の裏工作も影響してるのでしょうが…」
自己肯定感低いというか。
偽物だし。
人のフリしてるだけだし。
「ふふっ、その分愛してくれる相手にはすぐ心を許して身体も許すチョロマゾ…可愛いらしくて結構なことです」
「シンジさんって、そうなんだ…あんなツンデレ属性で男の娘なのにまだ盛るんだ…」
「まぁあの手のタイプは既成事実さえ作っちゃえばこっちのもんみたいなところはありますよねー。監禁されても喜んで受け入れるタイプと言うか…生粋のマゾと言うか…傷つけられることすら愛だと思ってるんですよ私は詳しいんです」
なんだか女性陣が僕の悪口を言っていたような気がしたけれど、僕は女子会の空気から逃げるように離れた僕の耳には届かなかったのでノーカンってことにしておこう。
それにこのあと少女がヘリコプターから突き落とされるという殺人未遂事件に巻き込まれて有耶無耶になるしそんな些細なことを気にしてる場合ではなくなってしまったのだから。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました!
乞食作者なので、もししょうがねえなあって思ってくださる方がいらっしゃるならば評価、感想、ここすきを恵んでくださるととても嬉しいです。
お礼にワンと鳴きます。