ゼンレスゾーンゼロ:革命の炎   作:豚足と豚骨の化身

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新たな依頼

なんて事ない日常。六分街のとあるビデオ屋にいる兄妹は、なんでソファーに座ってテレビを見ていた。最近はこれといったニュースも無く、加えてこの兄弟の「自営業」にも新たな依頼が入ってくることが無かった。要は暇なのである。

 

「ねぇお兄ちゃん……流石にそろそろまずいと思わない?」

 

「そうだね、リン。僕も丁度その事について考えていた。」

 

リンとアキラ。二人は口を揃えてこう言う。

 

「「仕事が無さすぎる!」」

 

ビデオの客足は元から少ない。インターノットで出されている依頼も、最近は何故か異様に数が乏しい。ただでさえ金のかかる昨今、伝説のプロキシ「パエトーン」であれその財布の中身は決して希望に満ちたものでは無かった。

 

「ただでさえ生活費にお金もっていかれてるのに、このままFairyの電気代も払い続けてたら私たち本当に飢え死にしちゃうかも…………」

 

少女は嘆いた。

 

「とはいえFairyをエコモードで運用すると、その当人が拗ねてしまう。僕たちの名誉助手にへそを曲げられると、その後が大変だ。」

 

青年もだいたい同じような感じだった。

 

「提案:もしも最悪の事態が起こった場合は、私の電気代を適当な家から引っ張ってくることをおすすめします。」

 

AIはカスみたいな解決策を提示していた。

 

現状を解決出来るものがいない。路頭に迷った兄妹は、それぞれ深くため息を吐いた。そんなことをして現状が変わるわけもないが、しかしそうせずには居られない。

 

そんな時、リンのスマホに一件のノックノックが舞い降りる。「羊飼い」という文字と、トーク画面に綴られた相も変わらず胡散臭い文章。しかしその胡散臭さも、今となれば地獄に舞い降りた蜘蛛の糸に見えるものだ。

 

「ねぇ見てお兄ちゃん!依頼だよ、これ!」

 

「なんだって!?内容はどんな感じだい?」

 

「それが、依頼は口頭で伝えるって。」

 

「ふむ、となれば今すぐ来てもらうべきだろう。僕たちが今すべきなのは、一刻も早くこの現状から脱却することだ。」

 

リンは頷き、「依頼を聞かせて欲しい」という旨の返信をする。その答えに、「羊飼い」からは微妙に可愛くないスタンプが返された。恐らくOKということなのだろう。

 

数十分後、黒と紫が特徴的な服を着た男がビデオ屋の扉を開く。仕事を欲するパエトーンは、両者カウンターにもたれかかって彼の到来を待っていた。開口一番、アキラは問う。

 

「依頼料はいくらだい?」

 

「羊飼い」はそれを聞いて、呆れたように返す。

 

「どうしたパエトーン、今日は随分と乗り気だな?いつもは若干俺のことを『胡散臭い』と弄り倒すフェーズに入るだろうに。」

 

「どうやら最近はパエトーンというブランドも大して意味をなさないようなんだ。その証拠にこれを見てくれ。一切依頼が入ってない。」

 

アキラは自らのスマホを「羊飼い」に向けた。その画面に表示されたインターノットの様子をみて、「羊飼い」は苦笑する。

 

「こりゃあ酷い。まぁだが安心するといいさ。今回俺が持ってきた依頼は、相当値が弾むだろうからな。なにせ、あのリヒトコーポレーションの社長からの依頼だ。」

 

「リヒトコーポレーション」、その名前にパエトーンの二人は聞き覚えがあった。と言うのも、先程見ていたテレビにその名前が出ていたのだ。ホロウ内で扱うあらゆる製品を製造する会社であると同時に、ホロウ災害を受けた被災者などのケアや新エリー都におけるホロウ災害に関する教育を子供に施すといった事業にも携わっている。

 

設立自体は最近だが、その目覚しい功績により今現在知名度と会社の規模を鰻登りにさせている。そんな会社の社長がする依頼…それは一体どんなものになるのか、リンは固唾を飲んだ。

 

「依頼者もここに呼んだからそろそろ来るはずなんだがな。」

 

「羊飼い」がそう言ったと同時に、何者かによって扉が開かれた。しかし、それは玄関ではない。私達がテレビを見ていた、パエトーンの工房が奥にある鉄扉だ。

 

その奥から現れたのは、白髪の気怠げな少女。年はリンと同じくらいだろうか。彼は目の下に深い隈を作っており、腰あたりまで下ろされたボサボサな髪の毛も相まって、疲れきったサラリーマンみたいに見えた。

 

「君たちが噂のパエトーンかぁ。よろしくね。私の自己紹介って必要なのかな……名前、知ってるよね?社長だし、名前公表されてるし。」

 

その少女は最も近くにいたリンに視線を向けながらそう言った。話の流れを汲んで、彼女にリンが応対する。

 

「パークスさん……だよね?」

 

「えぇ、おっしゃる通り。私こそがリヒトコーポレーション担う女、パークスだよ。」

 

「あ〜、気の所為だったらいいんだけど、さっき変なとこから出てこなかった?」

 

「変なところ?普通に君たちの仕事部屋じゃない?」

 

「そこ外から入る手段この扉しかないんだけど……」

 

「そうだね。だからこの扉から入ったよ。」

 

同居人のことは、二人が一番よく知っている。06号がドアマンという自らの仕事を完遂できないようなボンプでは無いことは確信していた。しかし、現に侵入者が自分達の仕事場へと入っていたのも事実。困惑するパエトーンの様子に気がついたのか、パークスは説明を加える。

 

「私ってなんか気配が薄いみたいでねぇ、近くにいるのに気づかれないって事がよくあるんだ。実際、私は『羊飼い』より早くにここに来てたんだよ?」

 

得意気に語る少女は壁に置いてあるビデオの数々を指指す。

 

「最初はアレ見て暇つぶしてたんだけど、実際に映像が見れないもんだから、どこかにプレイヤーが無いかと思ってね。」

 

続いて鉄の扉へと目を向ける。

 

「だからこの中のビデオを使わせてもらおうと思って中に入ったんだけど、その時に『羊飼い』が来ちゃって今に至るというわけだよ。」

 

それは説明になっているのだろうか。この場の誰もがそう思った。

 

「つまり君は不法侵入したことを認めるのか?というか、それは僕達に気付かれずに部屋に入れた理由になってないと思うのだけれど。」

 

皆を代表してアキラが言う。そして、当の侵入者はその言葉に不思議そうな表情で答えた。

 

「ん?気配が薄いって言ったよ?」

 

「君の所業は『気配が薄い』の一言では片付けられない。一体どうやって06号の監視を潜り抜けたんだい?」

 

「ん〜……そんなこと言われても、普通にその扉を開けて中に入った以上のことは無いからなぁ。私が入った時も、そのボンプちゃんは扉に張り付いて外を眺めてただけだったし。」

 

06号にアキラが視線を向ける。すると、「ンナ!ンナナ!」と06号は弁明した。翻訳するなら、「ちゃんと見ていたよ!」といった感じだ。そこに嘘は見えない。

 

「はぁ……どうやら僕たちは忍者を招き入れたらしい。」

 

「忍者?別に私は黒ずくめじゃないよ?」

 

「だが君は、現にいとも簡単に僕達の家へと忍び込んだだろう。」

 

「なるほど、見た目の話じゃないのね。完全に理解。」

 

その時、完全にパークスのペースで進む会話の空気を破るように、「羊飼い」は「そろそろ依頼の話をしないか」と提案する。依頼主は忘れていたと言わんばかりにハッとして、咳払いを一度した後、依頼の内容を語り始める。

 

「簡単に言うと、ホロウで落し物を探して欲しいんだよね。一辺30センチくらいの、立方体の金庫なんだけど。」

 

「……それだけかい?」

 

「そうだけど?もしかして、パエトーンのお兄さんは社長ならもっと凄い依頼を持ってくると思った?」

 

「そんなことは無い……といえば嘘になるな。」

 

「映画の見すぎだね。ビデオ屋の店長にとっては褒め言葉かもしれないけれど。」

 

呆れたように言いながら、パークスは懐から財布を取り出す。そして更にその財布からアキラに手渡されたのは、小さな小切手だった。表紙には数字を書き込んで下さいと言わんばかりのスペースと、その後に付け加えられた「ディニー」の文字があった。

 

「これはまさか……」

 

「依頼料。今回の依頼を完遂してくれたら好きに書いて持ってきて。現実的な値段ならいくらでも払ってあげるよ。」

 

アキラの手には今大金になりうる紙切れが握られている。それを覗き込むようにリンもいた。その二人の手は、あまりの驚きに意思と反して震えている。

 

「お、お兄ちゃん。わ、わわ私こんなの映画でしか見た事ないんだけど!?現実かな……」

 

「お、おお落ち着くんだ、リン。深呼吸を…………それとできれば僕の頬を捻ってくれないか。」

 

リンは言われた通りに兄の頬、それと自分の頬をそれぞれの手で思い切り引っ張った。鈍い痛みが走る。つまりこの状況は現実である。そんなままならない二人の様子を横目に、パークスは依頼の話を続けていた。

 

「場所はラマニアンホロウ。決行は明日の夜10時。エージェントに関してはこっちで揃えるから、君たちは案内をしてくれるだけで結構だよ。」

 

そこまで言い終えて、彼女は「それじゃあね」と言って玄関から去っていた。「羊飼い」とパエトーンが残されたビデオ屋の中、頭がフリーズしてその場に立ち尽くす兄妹が暫くは動かないであろうことを察して、「羊飼い」もその日は帰った。

 

 

結局、固まった二人はビデオ屋の愛らしいボンプ三人にビンタされて意識を取り戻したという。

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