『HUNTER×HUNTER ─ 屠鴉 ─』   作:nls

5 / 5
5話

――まるで、昔の自分達を少し重ねているみたいだった。

 

マチ・コマチネは小さく目を細める。

 

流星街。

 

何も無かった場所。

 

名前も、

戸籍も、

未来も無かった。

 

生きるために、

奪って、

傷付いて、

死にかけて。

 

そんな世界で。

 

アズは昔から、

少しだけ自分達より前を歩いていた。

 

ぶっきらぼうで、

面倒くさがりで、

口も悪い。

 

でも。

 

「……“凝”だけはサボるな」

 

そういう、

“死なないためのこと”だけは、

昔から妙にちゃんと教える男だった。

 

だから今の光景が、

少しだけ引っ掛かる。

 

ゴン達を見るアズの目は、

どこか昔に似ていた。

 

自分達がまだ、

何も持っていなかった頃に。

 

「ねぇおじさん!」

 

ゴンが身を乗り出す。

 

「また今度会えたら色々教えてよ!」

 

アズは煙草を咥え直した。

 

「面倒い」

 

「えー!」

 

「教わるなら眼鏡のとこに行け」

 

「でもおじさんの話面白い!」

 

「面白くねぇよ」

 

キルアは半目だった。

 

(ゴンのコミュ力どうなってんだ……)

 

普通、

ここまで自然に距離を詰めない。

 

相手はどう見ても危険人物だ。

 

なのにゴンは、

野生動物へ話しかけるみたいな感覚で接している。

 

アズは少しだけ空を見る。

 

夕方。

 

ネオンが灯り始めていた。

 

「……帰るぞ、じゃあなガキ」

 

「またね、おじさん!」

 

ゴンが大きく手を振る。

 

アズは振り返らない。

 

ただ、

片手を軽く上げただけだった。

 

その背中を見送りながら。

 

キルアは小さく息を吐く。

 

「……何なんだよ、アイツ」

 

ゴンは嬉しそうに笑っていた。

 

「変だけど面白い人!」

 

「いや絶対ヤバいって」

 

「でもキルアもちょっと気になってるでしょ?」

 

「はぁ!?」

 

キルアは反射的に否定した。

 

だが。

 

脳裏には、

静かな緑色の目が残っていた。

 

まるで。

 

巨大な刃が、

人の形をして歩いているみたいな男だった。

 

〜数分後〜

 

夕暮れの街を、

アズとマチは並んで歩いていた。

 

ネオンが黒いロングコートへ滲む。

 

アズは煙草を咥えたまま、

気怠そうに歩いている。

 

「……疲れた」

 

「大して歩いてない」

 

「人多い」

 

「ジジイか」

 

「だからおっさん言うな」

 

マチは少しだけ笑う。

 

その横顔を見ながら、

アズがぼそりと言った。

 

「……あの黒いガキ」

 

「ゴン?」

 

「ああ」

 

煙が夜へ溶ける。

 

「やっぱり変なガキだったな」

 

「アンタも大概変」

 

「そういう意味じゃねぇ」

 

アズは少し考える。

 

言葉を探すみたいに。

 

「……普通は逃げる」

 

マチは黙って聞いていた。

 

「俺見て平気な顔してる奴なんてそうそう居ねぇ」

 

「まあね」

 

「なのにアイツは近付いてきた」

 

アズはそこで少しだけ目を細める。

 

「勘はいい癖に、警戒が薄い」

 

「死にそう?」

 

「その内な」

 

淡々とした声。

 

でもそこに、

嫌悪感は無かった。

 

むしろ。

 

少しだけ、

気に掛けている響きだった。

 

マチは視線を前へ戻す。

 

胸の奥がまた少しだけざわつく。

 

理由はまだ、

自分でも分からない。

 

「……アンタ、気に入ったんだ」

 

「別に」

 

「嘘」

 

「何でだよ」

 

「アンタの顔、そういう顔してる」

 

アズは少し黙る。

 

そして。

 

「……昔のお前らを思い出しただけだ」

 

マチの足が一瞬止まりそうになる。

 

流星街。

 

何も持っていなかった頃。

 

血塗れで、

腹を空かせて、

それでも生きようとしていた頃。

 

アズは昔から、

少しだけ前に居た。

 

だから。

 

「……柄にもない」

 

マチが小さく呟く。

 

アズは煙草を指で回した。

 

「ガキは嫌いじゃねぇ」

 

「珍し」

 

「うるせぇ」

 

二人はそのまま夜の街へ消えていく。

 

遠くでは、

天空闘技場の歓声がまだ響いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

死ぬ気で戦ったら宿儺に親友認定された件(作者:雨天)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦のファンだったオリ主が平安時代に転生し、生まれ持った強さから両面宿儺討伐に参加することになり、仲間達がやられても戦い続けたら宿儺に親友と呼ばれるようになった話。▼ 活動報告はXで行っています。▼ → https://x.com/uten80▼タグは随時追加


総合評価:3452/評価:7.62/連載:6話/更新日時:2026年07月19日(日) 02:00 小説情報

夜食に薔薇の毒はいかが?(作者:キャンディマン)(原作:HUNTER×HUNTER)

別に彼奴みたいに、何かを欲しいと思ったわけじゃない。ゴミ溜めの中で笑って希望を持てるほど強くないから。▼何時か出ていく、それだけの場所でも、それなりに愛着がある奴等がいた。▼皆さんが死ぬのはそれが理由です!


総合評価:9528/評価:8.14/連載:17話/更新日時:2026年07月24日(金) 23:02 小説情報

転生したのに念能力が使えない男(作者:ゴリラ廻戦)(原作:HUNTER×HUNTER)

ざけんなや オーラが無いんじゃ ドブカスが▼


総合評価:5031/評価:6.26/連載:10話/更新日時:2026年09月04日(金) 12:00 小説情報

割に合わない仕事と契約について。(作者:アメイジング長なす)(原作:HUNTER×HUNTER)

 ノストラードファミリーに雇われている女の話。▼ ※不定期更新の自己満小説です。


総合評価:344/評価:8.43/連載:3話/更新日時:2026年09月10日(木) 22:56 小説情報

かめはめ×ハンター(作者:波動待ち)(原作:HUNTER×HUNTER)

子供の頃、俺には夢があった。▼ かめはめ波を撃つことだ。▼ 当然、出なかった。▼ 何度構えても、何度叫んでも、掌から出るのは気合だけ。やがて俺は大人になり、かめはめ波なんて撃てないという、つまらない現実を受け入れた。▼ そして二十七歳で死んだ。▼ 気がつけば、俺は見知らぬ世界の赤ん坊に転生していた。▼ 巨大な獣、見たことのない国、妙に身体能力の高い人間たち。…


総合評価:7111/評価:7.53/連載:14話/更新日時:2026年09月25日(金) 17:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>