――まるで、昔の自分達を少し重ねているみたいだった。
マチ・コマチネは小さく目を細める。
流星街。
何も無かった場所。
名前も、
戸籍も、
未来も無かった。
生きるために、
奪って、
傷付いて、
死にかけて。
そんな世界で。
アズは昔から、
少しだけ自分達より前を歩いていた。
ぶっきらぼうで、
面倒くさがりで、
口も悪い。
でも。
「……“凝”だけはサボるな」
そういう、
“死なないためのこと”だけは、
昔から妙にちゃんと教える男だった。
だから今の光景が、
少しだけ引っ掛かる。
ゴン達を見るアズの目は、
どこか昔に似ていた。
自分達がまだ、
何も持っていなかった頃に。
「ねぇおじさん!」
ゴンが身を乗り出す。
「また今度会えたら色々教えてよ!」
アズは煙草を咥え直した。
「面倒い」
「えー!」
「教わるなら眼鏡のとこに行け」
「でもおじさんの話面白い!」
「面白くねぇよ」
キルアは半目だった。
(ゴンのコミュ力どうなってんだ……)
普通、
ここまで自然に距離を詰めない。
相手はどう見ても危険人物だ。
なのにゴンは、
野生動物へ話しかけるみたいな感覚で接している。
アズは少しだけ空を見る。
夕方。
ネオンが灯り始めていた。
「……帰るぞ、じゃあなガキ」
「またね、おじさん!」
ゴンが大きく手を振る。
アズは振り返らない。
ただ、
片手を軽く上げただけだった。
その背中を見送りながら。
キルアは小さく息を吐く。
「……何なんだよ、アイツ」
ゴンは嬉しそうに笑っていた。
「変だけど面白い人!」
「いや絶対ヤバいって」
「でもキルアもちょっと気になってるでしょ?」
「はぁ!?」
キルアは反射的に否定した。
だが。
脳裏には、
静かな緑色の目が残っていた。
まるで。
巨大な刃が、
人の形をして歩いているみたいな男だった。
〜数分後〜
夕暮れの街を、
アズとマチは並んで歩いていた。
ネオンが黒いロングコートへ滲む。
アズは煙草を咥えたまま、
気怠そうに歩いている。
「……疲れた」
「大して歩いてない」
「人多い」
「ジジイか」
「だからおっさん言うな」
マチは少しだけ笑う。
その横顔を見ながら、
アズがぼそりと言った。
「……あの黒いガキ」
「ゴン?」
「ああ」
煙が夜へ溶ける。
「やっぱり変なガキだったな」
「アンタも大概変」
「そういう意味じゃねぇ」
アズは少し考える。
言葉を探すみたいに。
「……普通は逃げる」
マチは黙って聞いていた。
「俺見て平気な顔してる奴なんてそうそう居ねぇ」
「まあね」
「なのにアイツは近付いてきた」
アズはそこで少しだけ目を細める。
「勘はいい癖に、警戒が薄い」
「死にそう?」
「その内な」
淡々とした声。
でもそこに、
嫌悪感は無かった。
むしろ。
少しだけ、
気に掛けている響きだった。
マチは視線を前へ戻す。
胸の奥がまた少しだけざわつく。
理由はまだ、
自分でも分からない。
「……アンタ、気に入ったんだ」
「別に」
「嘘」
「何でだよ」
「アンタの顔、そういう顔してる」
アズは少し黙る。
そして。
「……昔のお前らを思い出しただけだ」
マチの足が一瞬止まりそうになる。
流星街。
何も持っていなかった頃。
血塗れで、
腹を空かせて、
それでも生きようとしていた頃。
アズは昔から、
少しだけ前に居た。
だから。
「……柄にもない」
マチが小さく呟く。
アズは煙草を指で回した。
「ガキは嫌いじゃねぇ」
「珍し」
「うるせぇ」
二人はそのまま夜の街へ消えていく。
遠くでは、
天空闘技場の歓声がまだ響いていた。