『HUNTER×HUNTER ─ 屠鴉 ─』   作:nls

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5話

――まるで、昔の自分達を少し重ねているみたいだった。

 

マチ・コマチネは小さく目を細める。

 

流星街。

 

何も無かった場所。

 

名前も、

戸籍も、

未来も無かった。

 

生きるために、

奪って、

傷付いて、

死にかけて。

 

そんな世界で。

 

アズは昔から、

少しだけ自分達より前を歩いていた。

 

ぶっきらぼうで、

面倒くさがりで、

口も悪い。

 

でも。

 

「……“凝”だけはサボるな」

 

そういう、

“死なないためのこと”だけは、

昔から妙にちゃんと教える男だった。

 

だから今の光景が、

少しだけ引っ掛かる。

 

ゴン達を見るアズの目は、

どこか昔に似ていた。

 

自分達がまだ、

何も持っていなかった頃に。

 

「ねぇおじさん!」

 

ゴンが身を乗り出す。

 

「また今度会えたら色々教えてよ!」

 

アズは煙草を咥え直した。

 

「面倒い」

 

「えー!」

 

「教わるなら眼鏡のとこに行け」

 

「でもおじさんの話面白い!」

 

「面白くねぇよ」

 

キルアは半目だった。

 

(ゴンのコミュ力どうなってんだ……)

 

普通、

ここまで自然に距離を詰めない。

 

相手はどう見ても危険人物だ。

 

なのにゴンは、

野生動物へ話しかけるみたいな感覚で接している。

 

アズは少しだけ空を見る。

 

夕方。

 

ネオンが灯り始めていた。

 

「……帰るぞ、じゃあなガキ」

 

「またね、おじさん!」

 

ゴンが大きく手を振る。

 

アズは振り返らない。

 

ただ、

片手を軽く上げただけだった。

 

その背中を見送りながら。

 

キルアは小さく息を吐く。

 

「……何なんだよ、アイツ」

 

ゴンは嬉しそうに笑っていた。

 

「変だけど面白い人!」

 

「いや絶対ヤバいって」

 

「でもキルアもちょっと気になってるでしょ?」

 

「はぁ!?」

 

キルアは反射的に否定した。

 

だが。

 

脳裏には、

静かな緑色の目が残っていた。

 

まるで。

 

巨大な刃が、

人の形をして歩いているみたいな男だった。

 

〜数分後〜

 

夕暮れの街を、

アズとマチは並んで歩いていた。

 

ネオンが黒いロングコートへ滲む。

 

アズは煙草を咥えたまま、

気怠そうに歩いている。

 

「……疲れた」

 

「大して歩いてない」

 

「人多い」

 

「ジジイか」

 

「だからおっさん言うな」

 

マチは少しだけ笑う。

 

その横顔を見ながら、

アズがぼそりと言った。

 

「……あの黒いガキ」

 

「ゴン?」

 

「ああ」

 

煙が夜へ溶ける。

 

「やっぱり変なガキだったな」

 

「アンタも大概変」

 

「そういう意味じゃねぇ」

 

アズは少し考える。

 

言葉を探すみたいに。

 

「……普通は逃げる」

 

マチは黙って聞いていた。

 

「俺見て平気な顔してる奴なんてそうそう居ねぇ」

 

「まあね」

 

「なのにアイツは近付いてきた」

 

アズはそこで少しだけ目を細める。

 

「勘はいい癖に、警戒が薄い」

 

「死にそう?」

 

「その内な」

 

淡々とした声。

 

でもそこに、

嫌悪感は無かった。

 

むしろ。

 

少しだけ、

気に掛けている響きだった。

 

マチは視線を前へ戻す。

 

胸の奥がまた少しだけざわつく。

 

理由はまだ、

自分でも分からない。

 

「……アンタ、気に入ったんだ」

 

「別に」

 

「嘘」

 

「何でだよ」

 

「アンタの顔、そういう顔してる」

 

アズは少し黙る。

 

そして。

 

「……昔のお前らを思い出しただけだ」

 

マチの足が一瞬止まりそうになる。

 

流星街。

 

何も持っていなかった頃。

 

血塗れで、

腹を空かせて、

それでも生きようとしていた頃。

 

アズは昔から、

少しだけ前に居た。

 

だから。

 

「……柄にもない」

 

マチが小さく呟く。

 

アズは煙草を指で回した。

 

「ガキは嫌いじゃねぇ」

 

「珍し」

 

「うるせぇ」

 

二人はそのまま夜の街へ消えていく。

 

遠くでは、

天空闘技場の歓声がまだ響いていた。

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