こちらの医学と言うものは到底馬鹿には出来ないもので朝起きたときには全身を自由に動かせるようになっていた。これで大分自由さが戻ってきたわけだがどうにも落ち着かず、身体を動かす為に外に出た。
朝早いのが原因なのか人影は無く、場所には困らなかったから良かったが道の真ん中で長居するのもどうかと思ったので三つだけ演舞をこなし体を温めるだけに留めておいた。そろそろ中に戻ろうかとした辺りでパルスィが声をかけてきた。
「ちょっと?!憩夜か……髪の毛……それどうしたの?!」
「ん? 髪? 寝癖が酷いとかか?!」
「そうじゃないけど…まぁ、鏡見ればわかるでしょ、洗面所に行ってらっしゃいな」
「何やらよく分からんが分かった、行ってくるぜ。」
骨が折れてたために動けはしなかったもののパルスィが教えてくれていたので洗面台の位置くらいなら把握している、自分の状況を確認すべくやや足早に鏡を見るため向かう。
……確認して分かったことだが寝癖とかそういうレベルを超えていた……
「何じゃこりゃあぁぁぁ!?!?!?」
パルスィが言った通りだ、見ると俺の髪の毛が大変な事になっていた……
真っ白……そう、俺の髪の毛は未だかつて見たこと無いほどの白さを誇っていて、白すぎて発光してるのではないかと錯覚するほどだった。
「ほら、言った通りでしょう? 」
後ろからパルスィがひょっこり顔をだし、声をかけてきた。
「あれか!
「考えられるのはそれでしょうね……もしくはこっちの世界に来た影響か、ね。高確率で前者でしょうけど……」
「だよなぁ……どうすんだこれ……目立ってしょうがないぞ……」
「そういえばあんなにこの世の終わりみたいな顔してたのにすっかり普通な顔してるわね? 」
「いつまでも考えててもどうにもならないと思ったし、こうなっちまった以上はどうしようもないから現状を否定するより現状に適応する方を努力しようかと思ってな。」
「逞しいわね……妬ましいわ…」
「もうこれはこれで過ごすとするよ、それよりお前のその『妬ましい』っての直らないのな…?」
「言ったでしょう…?本分よ…生まれつきの……ね。」
初め会った時、彼女は何かにつけて妬ましいと語尾に付け加えていたが、ここ最近は回数も減ってきていて、なおかつ妬ましいと言った時少し哀しい表情をするのだ、最初は俺の思い過ごしかと思っていたのだが、気にしながら会話しているとそれが疑念から確信へと変わって言った。どんな悩みを抱えているのかは分からなかったが、聞くことだけでも出来ないかと思っていた。
「少しでもその話、聞かせてくれないか? 俺が聞いて力になれるかどうかは分からないがお前の悲しそうな顔を見るのはそろそろ辛くなってきたところなんだ……。」
「ん……そうね……仮にも一緒に住んでたわけだし隠し事は良くないのかしらね……?」
「いや、決して無理にとは言わないさ、風呂に入ってこようと思うからその間に話しても良さそうか考えておいてくれ。」
「わかったわ、考えておく。お風呂入りたいなら沸かしてあげようか? 」
「それなんだがな、近くで銭湯とかってないか? 」
「銭湯ね……そういえば少し行ったところに自然に温泉が沸いてるところがあるわ、『異変』が起きたときに出来たのよ、地霊殿が管理してるけどお金は取られないわ。異変の副産物だしね。」
「待て待て、銭湯一個を説明されるのに二つ知らない単語が出てきたぞ? 異変だとか
「結構話したつもりだったけど意外と教えてないことあったわね。いいわ、道中話しましょう。」
「お、おい、もしかしてついてくる気なのか? 」
「もしかしなくてもついて行く気よ? 何? 不満? 」
「不満とかじゃないが…あー…分かった説明頼むわ。」
「了解したわ。準備して行きましょう?」
「おう。」
妖怪だ何だと言っても女の子と一緒に風呂屋に行くのはあまりよろしくないのではないかと思ったが、よくよく考えてみたら男湯と女湯って銭湯なんだからしっかりと別れてるじゃないかと思い至ったため、脳内の天使と悪魔の意見が満場一致で『まぁ、いいか』にまとまったのだ。二人しかいないじゃないかとか言わないでいただきたい。
――――――――――――――――――――
「――――――――つまり地霊殿の
「なんつうか……つくづくこの世界って日常からかけ離れてるって気がするよ……」
「そう? お祭り事と大して変わりないと思うけど…? 」
「本気で言ってるのか?」
「楽しいわよ? そうだ、せっかく身体治ったんだからリハビリってことで少しだけ相手してあげるわよ!」
「弾幕ごっこ…ねぇ……命が幾つあっても足りないんじゃないのか…?」
「私と弾幕で遊べるくらいにならなきゃ生き残るなんて夢のまた夢よ? 」
「やるしかねぇのか……わかった、近いうちに頼むよ。」
「あら、随分物分り言いわね? 最初なんて疑ってばかりだったのに」
そうなのだ、最初は疑う事を前提に会話をしていたのだがおそらく永琳からもらったあの薬の影響なのだろう、混ざった魂が何を指し示すのかよくわからないが物事を多面的に見ることが出来るようになったというか、適応しやすくなったというか、言葉にするには
「良くも悪くも慣れてきたって事だろ、それに生きていけないなら生き抜く為のスキルは身につけておくべきなんじゃねぇの? 」
「なるほどね、生き抜く
会話をしていると丁度話題の切れ目で風呂屋に到達した。元々街の景観が江戸もしくは古都京都、といった風情なのでただの風呂屋がまるで温泉宿の様に見え、風呂好きの俺の心を最大限に高鳴らせる。中に入るとこれまた素敵な内装で、それに付随して鼻にくる
「へぇ、いいところじゃないか。」
ぽつりと呟く様に発したためパルスィには聞こえはしなかったようで、また後でね、などと言って一人パタパタと駆けていってしまった。
「それじゃあ、俺も久しぶりの風呂だしゆるりと入るとしますかね。」
ひとまず脱衣場で服を脱ぎ、タオル一枚を腰のお供につけて案内板に従って風呂場に向かった、そこまではよかったのだが言い換えればそこで問題が起こった。いや、気がついた、というのが妥当だろうか。
「脱衣場に入るとき……赤と青を見てないぞ俺……」
風呂屋に行ったなら誰もが見るであろう男女区分けの為に設けられた色の違い、それを見かけなかっただけなら異世界なのだから仕方ないで通るだろう、しかし入口が二つあっただけでその二つの入口に分かりやすい差などなかったような……。違和感は拭いきれなかったが俺の知らない区分けがあったのだろうと解釈し、気を取り直して風呂に向かう事にした。
「広いな!?」
うっかり大声で叫んでしまうくらいの大きさがあったのだ、わかりやすく言えば叫ぶとは言わないまでも比較的大きな声を出さないと反対側にいる相手に聞こえないだろうという程の大きさがあった。正午過ぎの今の時間帯で風呂に入りにくる人はいないのか見渡す限り人の気配はなく、貸切状態の風呂にテンションが上がったのでかけ湯をしっかりとしてから風呂に文字通り身を投げた。幸せの限りである、これだけの風呂を独占出来るとは至福の一言に尽きる。小さな幸せを感じながら浸かっていると後ろから不意に声をかけられた。
「風情ある風呂場ね~」
脱衣場での嫌な予感は見事に的中した、パルスィの声だ、やはり区分けなど存在していなかったのだ……何故か?少なくともここに住んでいるのは妖怪のみだからだ…区分けを設ける必要性が皆無なのだろう。
「マジか……」
「隣失礼するわよ~っと……きゃっ!?」
視界の隅の方で岩場から足が滑り落ちそうになるのがみえたので体を捻り、パルスィが頭をぶつけないように頭の下に腕を滑り込ませて抱きとめる、最終的に取ったのはお姫様抱っこの体勢だったのだがそれはいい、パルスィに怪我がなくてよかったと思う。しかし俺の動悸は治まることはなかった、むしろ跳ね上がる程だ。
「あ、ありが…と? どうしてぎゅっと目を閉じているの?」
「タオルの一枚くらい巻きつけてから入って来いよお前!!!??」
「身体拭くためのものでしょ? いらなくない? もしかして照れてるのかしら? 可愛い~ 」
パルスィはクスクスと笑いながら俺の腕の中から俺の頬を突っついてくる、役得なのかもしれないが心臓に悪すぎる……
「下ろすぞ? いいな?」
「いいわよ」
ゆっくり体を湯の中に下ろし、努めて視界に肌色を収めぬ様に相手に背中を向けた。
しばらく会話無く給湯口からお湯が流れ出る音だけが聞こえていたが、その静寂を破ったのはパルスィだった。
「憩夜には話しておこうと思うわ………」
「いいのか? 」
「えぇ、話そうともした事も無いけど別に気にする人もいなかった…気にしてくれたのは貴方が初めてだから……ね、いい機会かなって。」
えへへ、と気恥ずかしそうに笑っているようだが、その笑いには何処か寂しさと悲痛さが見え隠れしていた。歯切れが悪い当たりどんな反応を示されるのがわからない故に不信感がないわけではないのかもしれない。
「えっとね……初めに言っておくとこの世界にいる者は皆知られれば避けられるような過去を持っているわ、逆に言えばそういう過去を持っているからこそここに居られるの。貴方みたいな例外も少なからず居るけどね。」
「ふむ……… 」
「前置きはこんな感じで……本題の私なんだけど……ん……『
「いや、名前は聞いたことあるが、生憎詳しくは知らないんだ。それがどうかしたのか?」
「私が……私がその橋姫なのよ。昔一緒に居た男の心変わりに嫉妬して……その男も相手の女も、二人の縁者さえも手にかけたのが……この私…なの……。」
「おいおい…その話って平安とかそこらの話だろ? いくらこの世界が何でもありだからってそんなこと……」
「あるの!!!!」
「本当……なんだな? 」
「うん……ほんとなの……」
こんな悲痛で今にも泣き出しそうな声で言われてしまっては信じる他なく、ぽつりぽつりと話す内容に静かに耳を傾けていた。
「呆れちゃうわよね…元から嫉妬深かったとは言ってもきちんと話もせずに……一ヶ月近く川に浸かって…みんなみんな殺しちゃったんだから……結局
「聞いてて思ったんだけどさ」
後ろで驚いたのか恐怖故かパシャっと水音が一つしたが俺は構わず言葉を紡いだ。
「気づいたんだろ? 自分の間違いにさ」
「でも私は……決して許されないようなことをっ!……」
「確かにな、それはどう足掻こうと変わりはせんだろうよ。だがよ、お前積極的に人と関わろうとしてるか? いや、違うか、『男と』関わろうとしてるか?」
「……っ………してない……けどそれはまた同じ事を繰り返したくないからでっ……」
「良くも悪くも本当の意味での第二の人生をお前は手に入れた、やるべきなのは同じ間違いをしない為にその場で立ち止まることか? 」
「私に…前に進め…と? 」
「最後の最後で放り出すようで申し訳ないがそうは言わない、俺に出来るのは俺の考えを伝えることだけ。どうするかは結局お前次第だよ、パルスィ。」
「私……次第………か………」
「俺とは違って長く生きるんだから罪の一つや二つ
「ん……少し考えてみようかしら…私の在り方について……」
「おうよ!! 聞いておきたいことが一つあるんだがいいか? 」
「いいわよ? 今更隠し事しても意味ないものね」
「そうじゃなくてだな…一個前の人生で大切だと思った事を教えてくれないか? 」
「そうね……後悔しないこと……よ、私の見解を交えちゃうと伝えたい事が薄れちゃうからあえてぼかした言い方になっちゃうけどね……少なくとも私みたいな後悔はして欲しくないわ…」
「わかった、心に留めておく」
これほど自分を追い詰める人生を送って来た奴らがここには山ほどいる、そう考えただけでいたたまれない気持ちになってくる…人に相談も出来ず、言いたいことは胸の内にひっそりとしまい込み、命を終える。
俺の元の世界よりはいい場所だと思っていたが、案外そうではないらしい…
ちゃぷ…と水の音がしたと思った次の瞬間には俺の胴と腕の隙間から色の白い腕が伸びてきて体をしっかりと捕まえた。
「うおぉぉぉ………み、みみみ
「
「…じゃあパルスィ? 一体何をしてるのでせう? 」
驚きと恥ずかしさとで全身が
先程から風呂に浸かっているのにも関わらずパルスィの手がとても冷たく小刻みに震えていたからだ、俺に一連の話を打ち明けるのにどれだけ緊張し、恐れ、勇気を出したのかはそれだけでよく分かった。
「突然…ごめんね……でももう少しだけこのまま居させて………」
「あぁ……ゆっくりしていくといいよ」
―――――――――――全てが繋がり、全てに意味を持つ世界『
俺がこの世界に来たことにすら意味があるのだとすれば、自分の名前が
相変わらず飛ばされてきた意味はわからないままだが、当分の間は自分の名前を目的にしていこうと思った。
ちゃんとシリアスできてましたか?最後は少しネタをはさんでみました、わかった人は笑えた…かな?
そろそろ地霊殿行きたいなぁと思っておりますので近いうちに古明地姉妹が出てくるかと、お楽しみに!!!