さらに2年が経過した。
やっていることは今までと変わらない。
地味な反復練習だ。
流石にもう一度本気で魔法を使おうとしたらバレるかもしれないと思い、あれから家を抜け出すようなことはしていない。
その代わりに、魔法の特訓を両親の前でもするようになった。
そのおかげで、マナの制御は相当に上達したと思う。
その結果、両親は俺のことを神童だと言って、お隣さんなどに自慢したりしている。
そろそろ俺は魔法以外も鍛えたくなってきた。
具体的には体術とか剣術とか。
だが、俺にはその特訓の方法が分からない。
木剣すら持っていないので、剣を振るうことはできない。
体術に関しても、前世で格闘技などをやっていたわけではないので。どうやって身体を動かすのが正解なのかが分からない。
まあ、身体作りは今までもしてきたので、鬼化を使えばそこそこ形にはなるかもしれないけど。
そんなわけで、困った時は親に相談してみよう。
「ねえねえお母さん」
「なあに?」
「剣がやりたい!」
ストレートに伝えてみる。
別に強くなることを誤魔化す必要はないのだから。
「剣?まだカルには早いと思うなぁ〜。それに、カルは魔法の才能があるのだから、そっちを伸ばした方がいいんじゃないかしら?」
「どっちもやりたいの!」
こういう時は、冷静に理論で説得するのではなく、感情に訴えかけるように言う。
上目遣いで、少しだけ目に涙を溜める。
これが4歳の子供の最強の武器だ。
「おねがい」
「はぁ、仕方ないわね。カルは一度言ったら聞かないんだから。剣を教えてくれそうな人にお願いしてみるわ」
「ありがとう」
作戦成功。
大人がやったら気持ち悪いが、子供の身体だったら、甘えだと見られるからな。
子供の特権はしっかりと享受しておこう。
そんなわけで2日後
母が剣の師匠になってくれる人を見つけたと言って、俺を家から連れ出した。
そして、連れてきた先には立派な髭を蓄えた爺さんがいた。
だが、素人の俺が見ても分かる。達人だ。
「ほぅ。この子がお前の言っていた天才か」
「はい。私の息子のカルです」
「カルです。よろしくお願いします」
紹介されたので、とりあえず挨拶をしておく。
「礼儀正しいのぉ。これはお前さんが自慢したくなる理由も分かるな」
俺のことをじっと見つめてそう言ってくる。
母はその言葉に嬉しそうな表情を見せる。
「カル。ワシの名前はアーグ。これからお前に剣術を教える。これからワシのことは師匠と呼びなさい」
「はい!師匠!」
そうして俺に師匠ができた。
これで、もっと実力がつけられるぜ。
心の中では暇な時間が減ってありがたいと思っている部分もあるが。
そして、剣の授業が、始まらなかった。
俺の肉体は未だ4歳
鬼化をすることで、かなりの身体能力を得ることができるが、まだ身体は出来上がっていない。
こんな肉体で剣を振るえば、身体が壊れてしまうと言われ、とりあえずは身体作りを中心にやっていくと言われた。
最初の一週間は走ったり、筋力を伸ばしたりした。
すると師匠がこんなことを言った。
「お前の身体は既にそこそこ出来上がっておるのぉ。何かやっていたのか?」
「普段からよく走ったり、暇な時間に筋トレをしていただけです」
「・・・変な子供じゃのぉ」
別に普段から走ったりすることは子供として不思議なことではないだろ。
筋トレする子供は変かもしれないけど。
「それに加えて、マナによる身体能力の強化も熟練している。あやつの神童という評価には間違いはないな。本当にただの子供じゃないかと思えてくるぞ」
その言葉に一瞬ビクッとした。
転生者のことがバレているのではないかと。
まあ、冗談っぽく言っているから、大丈夫だと思うけど。
「なあ、お前はなぜ剣を学ぼうと思ったのだ?」
急に師匠がそんなことを聞いてきた。
何故か……やっぱりそれは……
「大事な人を守りたいからですね」
「そうか。お前の両親も良い息子を持ったな」
「・・・」
両親か......
もしも、両親かラムとレム、どちらかしか助けられない状況が来たら、俺はどちらを助けるのだろうか。
両親はここまで俺を育ててくれた。
剣術の師匠も紹介してくれた。
師匠からの質問に対して答えた時、俺の頭の中に両親は含まれていなかった。
俺は実際に育ててくれた両親よりも、画面の向こう側、今世では話したことすらない少女たちを考えていた。
俺はあの人たちの息子になれているのだろうか?
その答えは俺には分からなかった。
数日後、俺は族長に呼び出された。
呼び出された先には大きな滝。
そして、数人の大人と、桃色の髪と水色の髪の少女。
そういえば、原作で魔法の腕を見せるみたいなものがあった気がする。
それかな?
「カル。まずはお前の適性を調べる」
そう言った族長は俺の頭に手を乗せた。
「ほぅ。お前の適性は水と陽じゃな。2属性とは珍しい」
よう?YOU?
俺は今まで水属性しか使っていなかったけど、別の適性もあったとは。
「陽属性ってどんなことができるんですか?」
「そうだな。自身の肉体を強化したり、熱線を放つことができるぞ」
熱線か。
氷よりも速射に優れていそうだな。
特訓に陽属性も追加しておこう。
そして、俺とラムとレムの才能のお披露目が開始された。
滝壺の水をマナで操って、どれほどの規模になるかを見ているようだ。
最初はラムが前に出た。
すると、滝壺の水が巨大な柱となっていく。
化け物だな。
生まれた頃からマナ操作の練習をしている俺でもあんなにでかいものは作れない。
これが本物の天才というやつか。
周りの大人たちもラムの実力に惚けている。
次にレムがマナを操作した。
レムも水の柱を作るが、その大きさは角一本としての平均くらい。
つまり、同族よりも小さい。
ラムとは比べものにならない。
周りの大人の反応もラムの時とは大違いであり、蔑みに視線であった。
レムもそれが分かっているのか、顔は常に下を向き、暗い表情をしている。
今、俺がこれを解決することはできない。
できないと分かっているが、非常に悔しい気持ちになる。
そんな中で族長が話しかけてくる。
「次はお前の番じゃぞ」
そう言われた俺は同じように水の柱を作る。
全力は出さず、平均よりも少し大きいくらい。
魔法の神童と騒がれるのはごめんだからな。
周りの大人も好印象な感じだが、やはりラムが衝撃すぎたようだ。
「その年でそれほど操れるのは見事じゃ」
族長は誉めてくれた。
それに合わせて、周りの大人も肯定的に俺への賛辞を送ってくれた。
だが。ラムだけは表情の読めない目でこちらを見つめていたのだった。