ラムとレムと別れ、俺は帰宅をした。
家に入ると母が夕食を作っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
どうやら父はいないらしい。
そして、二人で食卓につく。
俺たちは黙々と夕食を食べる。
すると、食べ終わる頃に母が口を開いた。
「今日はなにをしていたの?」
「花畑で遊んでたよ」
「一人で?」
そこで俺は正直に答えてしまった。
「いや、ラムとレムと一緒に」
すると、母の身体が固まる。
同時に穏やかだった表情が険しい顔になっていく。
「あの、忌み子と一緒にいたの?」
俺はその瞬間に息を呑んだ。
このような母の顔を見るのは初めてだった。
母がレムとラムのことをよく思っていないのは知っていたが、ここまでになるとは思わなかった。
「これからは、あの忌み子とは遊んではいけません。あんなのと関わっていたら、あなたまでおかしいと思われてしまうわ」
「おかしいってなんだよ......」
俺がどうにかすればいいなんて考えていた。
実際に一緒にいたと確認された時まではその考えがあった。
だが、おかしいと言われ、俺の中の逆鱗に触れた。
前世で彼女たちを知って、今世で実際に関わってみて、ラムは頭が良い立派なお姉ちゃんで、レムは周りの視線を受けてもしっかりと努力できる強い子で。
そんな彼女たちをたかが意味の分からない里の掟ごときで否定されて。
そんな状況で怒りを我慢できるほど俺は大人ではなかった。
だが、感情を表に出すことはできるだけ我慢できた。
「ラムもレムも普通の子だ。悪いことをしているわけでも、彼女たちがいるせいで悪いことが起こるわけでもない」
「双子は不吉の象徴。これから悪いことが起こるかもしれないのよ」
「彼女たちが生きていて今までそんなことあった?たかが迷信程度でなんで二人を不幸にしなければいけないんだ」
俺と母は睨み合う。
「カル、あなたは天才なの。近い将来に鬼族の里を背負っていく立場にあるの。里を背負っていくあなたが習わしを無視するなんてあってはならないことなのよ」
「なら、そんな里なんて滅んでしまえばいい」
「んなっ!」
俺は立ち上がって、自分の部屋に向かう。
「待ちなさい。まだ話は終わって...「ねえ、母さん」」
俺は母の言葉を遮る。
「もしも俺が、母さんの息子が双子で、角が一本しかなかったら、同じような態度を取るの?」
「・・・それは今は、関係ないわ」
答えはなかった。
だが、それが答えでもあった。
「そっか」
俺は部屋に入り、扉を閉める。
布団に倒れ込み、奥歯を噛み締める。
悔しかった。自分が肯定した大切な存在を、一番身近な人間に否定されたことが。
それと同時に自分でも制御できないほどの冷めた感情が胸を支配していく。
親子ってなんなんだろう。
生まれてから4年間
良い関係を築けてきたと思っている。
母に頼ったこともあった。
だが、未だ俺にとっての親は前世のじいちゃんであり、ばあちゃんだ。
今の母と父は血の繋がっている他人でしかなかった。
その血の繋がった他人が俺の大切を否定するのであれば、俺にとって親とは敵でしかない。
決めた。
俺は絶対にラムとレムの味方でいよう。
家族なんかよりも、里なんかよりも。
例え里が滅びようと、鬼族が全滅しようと俺は二人を助けよう。
side母
今まで大した感情を見せなかった息子がその時は静かに怒っていた。
私の息子は天才だ。
生まれてすぐに私たちが喋っている言葉を理解しているように感じた。
泣くことはあまりないし、泣くときも理由がある場合だった。
生まれて半年になる頃には自分で意思を持って動いていた。
文字を勉強しているように見えた。
本当に天才なんて言葉では生ぬるいほどの子供だった。
だけど、息子は天才であるが故か、基本的に何事も自分でできるようになった。
息子が頼ってくれないと寂しい思いもした。
だから、息子が剣を習いたいと言った時は本当は反対だったが、剣の師匠となってくれそうな人にお願いをした。
そして、そんな天才な息子がマナを操った時は大人顔負けのマナ制御を見せた。
あの角一本の小娘程度ならすぐに追い越して、忌み子などこの里には必要ないと証明してほしかった。
だけど、そんな息子が忌み子たちと遊んできたと言う。
血の気が引いた。
私が排除しようとしている娘たちと楽しそうに遊んでいたと言われた。
賢い息子のことだ。
やめろと言えばやめると思っていた。
だが、息子は静かに怒りを見せた。
初めて見た息子の怒り。
何故そこまであの小娘たちを守るのか。
結局、私も息子も折れることができなかった。
そして、息子は自分の部屋へと入ってしまった
部屋へと戻った瞬間に、私と息子の間の距離が、とてつもなく遠い場所にまで離れてしまったような気がした。
手を伸ばせば開けられる一枚の扉。
けれど今の私には、その扉の向こう側が、世界の果てよりも遠く感じられた。
私はどうすれば良かったのだろうか。
あの双子を認めるべきだったのか。
それとも息子を自由にさせておけば良かったのだろうか。
その答えは何度考えたところでわからなかった。
私が分かっているのは、私はもう息子とは今までの関係ではいられないのだということだった。