師匠から稽古禁止令が出てしまっていた俺は暇となっていた。
そこら辺に大の字で寝っ転がり、意味もなく天井を見つめる。
何かできることはないだろうか……
「そういえば......」
俺は自分の手の甲を見る。
若干手の皮が剥けていた。
夜中に全力で殴った時にこうなったのだろう。
逆にあれだけの威力で殴って、薄皮一枚しか傷ついていないのはすごいな。
俺には水の適性があるのだ。
回復魔法とか使えるのではないだろうか?
今まで傷を受ける機会などなかったので、完全に忘れていた。
手の甲の傷を水のマナを操作して治るように意識する。
すると、少しずつ傷が治っていく。
初めて使ったので、そこまで治りは速くないが、これは便利だ。
まあ、自分の傷は鬼化でほとんど治るんだけど。
「ほぅ、回復魔法か。また貴重なものを」
横にいた師匠が感嘆の声を上げる。
「鬼族で回復魔法を覚えてる者はほとんどおらん。その才は伸ばすべきだろう」
「魔法の訓練はいいの?」
「・・・まあ、身体に負荷をかけないのであれば良いだろう」
よっしゃ、魔法の特訓の許可は貰ったぜ。
そんなわけで、俺は今日一日中は魔法の特訓をして過ごすのであった。
一日中師匠の家に入り浸った俺は夜に師匠の家を出て、適当に散歩することにしていた。
朝以外に身体を動かしていなかったので、少しだけ歩きたくなったのだ。
里中を歩き回っていると、マナ操作をお披露目した滝壺の近くを通りかかった。
そこには、暗い中で一人、水飛沫を浴びながらマナ操作の練習をしているレムの姿があった。
そのレムはひどく焦っているように見える。
「レム」
「......カルくん」
俺に気づいたレムは一瞬驚いたが、俺だと分かると落ち着いた。
そして、再びマナ操作の練習を始める。
「無理してないか?」
マナ操作をしているレムの表情は焦りと疲れが見えた。
「無理をしないとお姉ちゃんに追いつけないから」
俺はその言葉になんて返せばいいのかが分からなくなってしまった。
ラムは特別だ。
レムだけでなく、俺を含めた全ての鬼族より上だ。
そんなラムに追いつくと言っているレムに頑張れという無責任な言葉を口にはできなかった。
「ラムはすごいよな。力もあって、頭も良くて」
「それでも、レムはお姉ちゃんに追いつきたい」
俺はレムを素質を底上げすることはできない。
俺の強さは才能があり、尚且つ前世の記憶により、早い頃から特訓をできたおかげだ。
それでも、俺はレムの力になってあげたかった。
だからこそ、俺は別の道を示すことにした。
「回復魔法なんてどうだ?」
「回復魔法?」
自分も先ほど初めて使った魔法をやらせてみる。
「レムには水の適性があるだろ?ラムには使えない回復魔法を特訓してみよう」
俺は魔法を使い、氷の短剣を生み出す。
そして、その短剣で自分の腕を浅く切る。
「えっ......」
レムば心配そうな声をあげる。
「大丈夫だ。じゃあ、回復魔法を試してみよう」
「回復魔法の使い方は分からない」
「俺の傷にマナを送って、傷が治るようにイメージするんだ」
「やってみる」
そうしてレムは俺の傷にマナを送り始める。
すると、だんだんと傷が塞がっていく。
完全には治しきれていないが、俺の回復魔法よりも速く傷が塞がっていく。
「おお、才能あるよ。俺が最初にやった時は今よりもゆっくりだったし」
「でも、まだ傷が残ってる......」
「大丈夫だ」
俺は鬼化をすることによって、大気からマナを吸収し、肉体の回復に充てる。
マナが自分の傷を回復させ、傷は完全に塞がる。
「・・・回復魔法を覚えたって、役に立たない......」
俺の鬼化を見て、レムはそう言う。
確かに鬼化がある鬼族にとっては回復魔法はほとんど意味をなさないものだろう。
「役に立たないことなんてないんじゃないかな?もしも鬼化ができない状態だったら?もしも鬼族以外の人が怪我をしていたら?そんなあるかも分からないもしものために特訓をしてもいいと思うんだ。もしもがあったら、レム以外に解決できないかもしれないんだから」
「そう、だね……レムにしかできないこと」
俺はぽんっとレムの頭の上に手を置く。
レムの瞳にほんの少し光が灯る。
「また特訓の時は付き合ってやるよ。魔法とかの練習も」
「いいの?」
「もちろん。ただし、俺がやったみたいに自分に傷をつけたり、自分で回復魔法の練習をするのは禁止だからな」
「カルくんはやってるのに?」
「俺は......剣術をやっていて、刃物の扱いとか慣れているからな」
剣の訓練とか一度もしたことないけど。
俺がこう言ったのは、レムは自分のことを軽視することがある。
自分が傷つくのは構わないと思うこともあるだろう。
だから、こうして釘を刺しておく。
「分かった。約束する」
「おう。約束だ」
俺はもう真っ暗になるからと言って、レムを彼女の家に送る。
そして、挨拶をしてから去ろうとしていたのだが、後ろから声がした。
「明日も練習、付き合ってくれる?」
少し懇願するような声。
「また明日。花畑でな」
「はい!」
そうしてレムは笑顔で家の中に入って行った。
俺も少しだけ用事を済ませてから帰るとするか。
「そろそろ出てきてもいいんじゃないか?」
俺は暗い木々の方向に声をかけるのだった。