超いろはノート!〜寄せ書き増量版〜   作:お否さま

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私が私である理由

「それなんだけどさ彩葉」

 

ずっと夢に描いてきた。

あなたと再会することを1番の目標において、ここまで頑張ってきた。だというのに、彩葉はそんな私のちっぽけな野望すら飲み込むように、もっと大きなハッピーエンドへ手を引き続けてくれている。

ただ会って自分のことを伝えるだけと思っていた夢を、いつか描いた明日として現実にしてくれようとしている。それ以上を望んでいい、なんて誰が予想できただろう。

だからこそ。

 

元々は今の私のフォーマットごとかぐやボディに移植する構想を立てていた。彩葉を舐めていたわけでは絶対にないが、いまだ高校生としての彩葉が数年先までの細かくしっかりとした設計プランを持ってきた時は思わず目を丸くした。確かにあの部屋で過ごしていた時も夏休み期間中の予定とか立てていたけども。

その計画書の基本的な目標として、五感を搭載したボディに私を移し、ヤチヨは引退する成り行きだった。多分本当の再会をした時に私が『かぐや』として接してもらえて嬉しそうにしていたことを憶えていてくれたからだろう。

けれど。

 

「『自分』は『ヤチヨ』として残る?

かぐやの意思は尊重するよ、今はまだ頼りない計画に見えるかもしれないけど、いっぱい頑張る。ちゃんと休憩もとるし。私に無理させたくないからとかなら____」

 

彩葉が口を噤む。

口元に柔らかく人差し指を押し付けたから。

今更、私が彩葉を疑うなんてのはありえない。文字通り、地球の誰にもできないことをもうやってくれたから。

 

だから、ごめん彩葉。これは懐古厨な私の傲慢だ。

 

 

「彩葉の気持ちは嬉しい。もちろん、ヤッチョも彩葉と一緒に暮らしたい。でもね、義体を作ってもらうというのにわがまま言って申し訳ないんだけど、私は……うん、いちばん適切に言うなら。」

 

いつかのあの子と同じように。

 

「わたしは、私のことが好きなんだ」

 

だって、それが彩葉を好きになったわたしの原点で、ここまでみんなに連れてきてもらった私なんだから。

 

「私はね、彩葉。ヤチヨを置いていきたくないんだ。」

 

まとめるならそういうこと。ただそれだけの理由。

私自身にも整理が付いていなかった、これからの『月見ヤチヨ』に対してのアンサー。いつしか彩葉は私の手を取り、微笑みながら次の言葉を待っていた。

だから、私も君に聞いて欲しかった気持ちを続ける。

 

「私は絶対に忘れないけれど、それでも埃を被せておきたいわけでも、アルバムに飾っておきたい訳でもないの。

わたしは、ヤチヨと一緒にハッピーエンドに行きたい。

だって、『月見ヤチヨ』は他ならぬヤチヨ自身を含んだ、わたしが忘れられなくなった人たちの欠片で少しづつ作り上げたものだから。」

 

例えば、私を釣り上げた人。孤独の末に歌を聴いてくれた少年。古代日本の女王。歌人。お姫様に花魁。めちゃくちゃな先生に夢を描く小説家。少女と、スパイ。そして、8000年生きた末に同じ未来を歩む自分へもう一度夢を託した少女。

本当に多くの人と会ってきたが、8000年の中で個々の時間は瞬くほどとは言わないまでも一瞬のことだった。けれどもその短い中で彼らは、わたしを私たらしめる為のピースを惜しげも無く置いていった。自分のことで精一杯だったくせに、それでもわたしを大事なものとして扱って人間の先達として私の夢を祈ってくれた。

忘れられるわけがない。忘れてもいいなんて口が裂けたって言わない。これはもはやどちらが大事という話でもプライオリティの問題でもない。

みんなが作ってくれた『私』だから彩葉を支える1つとして、存在できたのだから。

 

「だからね、彩葉。」

「うん、もう大丈夫だよ。分かってる。

今まで私が、どれだけあんたを見てきたと思ってるの」

 

美しい顔だった。私が見惚れた顔に近く、けれどそれとは比べ物にならない温かさを持った優しい笑顔。

 

「ごめんね、ヤチヨ。実は私も、同じこと言おうと思ってた。あの8000年は、私が追体験したあれは、きっとあなたにとって本当に大切なものだったんだ、って痛いほど伝わってた」

 

かぐやが好き。

他に誰もいない空間に、ぽつりと落つ。

波紋冷めやらぬうちに、彩葉が私の目とその奥を見据える。虹彩はデジタルであるのに、何故かその暖かい感情は透けていた。

 

ヤチヨが好き。

私が何も出来なかった時にかぐやを助けてくれた人の思い出は私も残したいし、ヤチヨが嫌じゃなければそれを誇って私と一緒に生きて欲しい。

 

ぽたり、と水面に波紋が静かに広がっていく。

私とあなたがいる、それだけが全てだった。

 

ねぇ、好きだよ。

どれだけ時間が経っても、あなたの事が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----蛇足-------

「ねぇ、ヤチヨ?」

「ん、なんだいなんだい?」

「ヤチヨのことは置いていかないし、この辺複雑ではあるけど、私はヤチヨとかぐやが同じなのは知ってるからね。

ヤチヨとしてかぐやになって甘えていいんだからね」

「うん。

だからね、私に少し考えがあって。

結局もと光る竹から知識を持ってきてるのは変わらないからさー。プラットフォームだけ変えちゃえば解決するんじゃないかなって。」

「それって……?かぐやをベースにした人格と、ヤチヨをベースとした人格を抽出するってこと?」

「そうそう、今の私は年月が経ちすぎてて片手間にかぐやの人格ベースを出力するのはどうにもワンテンポ遅れちゃうんだよねー。

だからズレないように、最初のうちに凍結保存しておいた『かぐや』の人格ベースを出力先別個体として彩葉が作ってくれた義体にアップロードしたら私のやりたいことできる感じ? まぁ、彩葉が『私』も含めて大事にしてくれるって信じちゃったから出てきた案なのでございますけども」

「そ、そんなこと出来るの……?同じ経験があるならそれはやっぱりヤチヨになるんじゃないの?」

「そこは意識せずに積み重ねなければそうなると言いますか、ぶっちゃけ私もどうなるか分かってないんだよねー」

「適当じゃん」

「まぁ、一応これでも情報生命体なので、常人とは多少違うのですよー」

「まぁ、ヤチヨが分身するのなんていつも通りだしかぐやの体バージョンができるだけだから、私は全然問題ないんだけども。あ、でももし出来たらさ!」

「もちろん分かってるよー、彩葉。もし出来たら」

 

「「絶対3人で、またライブしようね!!」」

 

 

 

 

「あの計画書通りだと、28歳のアイドル彩葉が見れるってことか〜、勝ち確ぅ〜!」

「かぐや???」

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