特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第100話『正義の味方』の失態

「……そういう話か?」

 

「僕の見立てではな。」

 

「……だとしたらまずいですね。」

 

 意図するところを理解したのだろう、3人の超人たちは珍しく一様に顔をしかめた。

 

「どういうことです?」

 

「……僕らがさ、警察に呼ばれて勇者の死体見に行ったの知っとろう?」

 

「ええ、はい、置いて行かれましたからね。」

 

「いや、だって君忙しそうだったし……」

 

「置いて行かれましたからね。」

 

「……ゴメンナサイ」

 

「結構――え、そういう話です?」

 

「そういう話ですよ。」

 

 まるで、巨大な筒で砂に穴をあけたようにバッサリといかれていた。あの光景は、とてもではないが未成年にも、女性にも……いや、まともな人間には見せられない。

 

 そんな死体の傷と、目の前のオークの傷は―彼の目には同じものに見えた。

 

「お前、あれ怪人って言わなかったっけ。」

 

「言ったねぇ。」

 

「……あいつ、勇者認定されてんだよな?」

 

「されてますね。」

 

「……えー……」

 

 まずいことになった――と言いたげに顔をしかめる。

 

 4人ともだ。

 

 当然だろう、つまりあの男は――

 

「怪人か?」

 

「僕のサイコメトリーを信じるならな。」

 

「じゃあ確定じゃないですか……」

 

 それは、由々しき事態であることを示している――即ち、あの男の力は……

 

「……これ、動画の差し止めってできるか?」

 

「いやー無理だろ、もう上がってんのずいぶん前なんだろ?」

 

「ええ、2週間前です。」

 

「変身しないと力使えないとばかりと思ってたー……」

 

 やらかしたとばかりに、天塚が天井を仰ぎ見た――まずい事態だ。

 

「これ、こいつが怪人だってバレると大問題ですよね。」

 

「そらね、こいつが勇者として認定されているとなると、こいつは少なくとも『勇者だと思われる力』があるってことになる。」

 

 ――ここで、勇者認定というものについて説明しよう。

 

 現在、幾度となく告げられている通り、科学は勇者の力の源を厳正に特定できていない。

 

 あまり認めたくないことではあるものの、かなり非人道的な行為もあったと、彼らも知っている。

 

 死体をサイボーグにしての蘇生――無論、人が思い浮かべるような代物ではないが――しようとしたり、手足臓器の移植、はては体をミイラ化して粉砕し、それを呑み込んだという話もあったくらいだ。

 

 それでも、加護というものは他者に伝染しなかった。

 

 即ち、ウイルスやバクテリアのようなものではなく、それ自体が物質的ではないものに帰属することを意味している。

 

 それはあるいは『魂』や『心』と呼ばれるものかもしれない。

 

 科学では特定不可能な何かが、彼らに力を与えている――ゆえに、『勇者であること』の特定は非常に難しい。

 

 同じ勇者達ですら、「勇者であること」の証明はほとんど不可能である。

 

 嘘を見抜く勇者は存在する――が、同時に、『真実だと信じ込んでいることを嘘だと見抜けるわけではない。』という致命的な欠陥も存在する。

 

 一昔前の成年向け薄い本でよくいた『能力や力を無視し、強引に強行におよぶ』勇者――勇者狩りが世間に周知される最大の原因にもなった狂人がいたのだ――なども存在する昨今、彼らの存在を『明確に』特定することは不可能に近い。

 

 では、どうやって勇者を特定しているのか?

 

 答えは単純だ。

 

「勇者だろう力を見せつけたら、そいつが勇者だ。」

 

 あまりにも雑で――しかし、同時に明確な指標。

 

 ヒーローを超え、かつ、勇者であることを示す最低限の力を持つという『絶対に偽装が付かない』指針を持つその精度は今まで1度の誤りもなく勇者を見つけ出してきた。

 

 七星が先立って語った「勇者選定の基準がガバガバ」とはそういうことだ――だが、間違いはなかった。

 

 今日までは、そうだったのだ。

 

「……まずいよなぁこれ。」

 

「まずいねぇ。」

 

 かなりまずい事態だ。

 

 これまで、国も政府も薬を規制し、葬ろうとしてきたのはあの薬の力が『勇者以下』だったからだ。

 

 ヒーローよりは強いが、同時に勇者よりも弱い、厄介な敵――それが、現行の怪人というものの周囲の認識だ。

 

 魔物よりも質が悪い、魔人相当の敵。だからこそ、政府も警察も、これを規制し、葬ろうとしている。

 

 だが、もしも――もしも、勇者を倒せる『武器』足り得るのなら?

 

「どこの国も、これを欲しがる。」

 

 いま、世界には勇者がはびこっている。

 

 そう、はびこっているのだ――害虫のように。

 

 それを、奪われ続けてきた勇者ならざる者たちは決して愉快に思ってはいない、それは自分達の最も新しい仲間たる少女が証明してしまっている。

 

 もし、そんな人間たちに、この薬の真の効能が知られてしまったら?

 

 いや、奪われた人間でなくてもいい、もう一度、自分達の栄華を取り戻したいと願うかつての富裕層たちがこの事実に気が付いたとしたら?

 

 そうなったとき、この薬は表からは消え去り――

 

「国や富裕層たちが奪い合い始める。」

 

「勇者が殺せるのなら暴走しても構わないと思う人間は多いでしょうしね。」

 

「……面倒なことになったな……」

 

 心から煩わしそうに、七星が告げる。

 

「そして、あの娘が社に入社してきたタイミングを加味すると、さらに面倒なことになる。」

 

「――この薬があると思ってんのかアイツ!?」

 

「たぶんね、もうちょっと頭の奥まで読むんだったかぁ……」

 

 渋い顔で扇が後悔を口にする――考えてみればそれは当然の錯誤だった。

 

 超人化した自分たちの姿は明らかに勇者とは異なっている、人間を大きく逸脱し――ともすれば、怪人のそれに見える。

 

 何も知らない少女が、()()()()()()()少女が錯誤するには十分な異形の姿だ。

 

 そして、扇たちは自分たちの正体を彼女に話さなかった。

 

 そのことで彼女はこう考えたのだ――『口にできない事情がある』と。

 

 扇たちにとってそれは、勇者への抑止力のための隠ぺいであり、そこに、一切の後ろ暗い部分などない――が、彼女にはそう思えなかった。

 

 大抵の人間がそうであるように、彼らにもまた後ろ暗い部分があり、そのために正体を隠したと誤認した。

 

 そのうえで、あの怪人騒ぎだ。

 

 おまけに、自分たちは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 

 彼女はこう確信したはずだ――「あの時に現れた存在はきっとこの会社で複製されたH.A.Dによって生まれた怪人なのだ」と。

 

 だから、彼女はこの会社に来たのだ。

 

 存在しない、H.A.Dを手に入れるために。

 

 こうなっては彼女は自分たちが真実を語っても受け入れないだろう――目の前により彼女自身の納得できる真実があるのだから。

 

「……やらかした……」

 

 3人がそっと頭を抱える――正義の味方の、明確な失態だった。

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