特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第104話:数日後

 数日後。

 

 放課後の喧騒に包まれた駅前のファミリーレストランで、周囲から浮きまくっている一角があった。

 

「……なるほど、これが庶民の愛する『ドリンクバー』というシステムですか。原価率を極限まで抑えたシロップの調合に、炭酸ガスの刺激で脳を錯覚させる……実に資本主義的な暴力の味がしますね。」

 

 およそファミレスには似つかわしくない、仕立ての良すぎる清楚な制服に身を包んだ笹藤麗華が、プラスチックのコップに注がれた毒々しい緑色のメロンソーダを、まるで最高級のヴィンテージワインでも嗜むような優雅さで口に運んでいた。

 

「……あんた、それ褒めとるんか貶しとるんかどっちなん。」

 

 向かいの席で山盛りのポテトをつまんでいた灯が、呆れたようにジト目を向ける。

 

 その隣では、御影がストローを咥えたまま、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。

 

 日曜朝のヒロイン2人と、大企業のお嬢様。

 

 合同パトロールという名目で顔を合わせるようになって数日。ギスギスしていた初対面時に比べれば、こうして同じテーブルを囲む程度には関係性は軟化していた。

 

 もっとも、麗華の目的は「友人作り」などではない。

 

『彼女たちから、あの3人の超人……特撮班の真実を引き出さなければ。』

 

 麗華はソーサーのないコップを静かに置き、完璧な営業スマイルを浮かべる。

 

 あの夜、怪人を無傷で捕獲し、巨大なゴーレムを一刀両断にした男たち。彼らがH.A.Dの「成功例」であると信じて疑わない麗華は、彼らに最も近いこの双子の勇者から、何らかの端緒を掴もうとしていた。

 

「それにしても、灯様も御影様も大変ですわね。魔物の討伐だけでなく、学園内の薬物調査まで押し付けられるなんて。例の風紀委員長からの依頼……でしたか?」

 

「んー、まあな。天塚のオッサンが『調べといて損はない』言うからやってるけど……正直、めんどいわ。」

 

 灯がポテトを乱暴に口に放り込む。

 

「リストに載っとった奴ら、確かに成績や運動能力は上がっとるみたいやけど、それ以外は普通なんよ。怪人みたいに暴れ出す気配もないし。ただ……」

 

「ただ?」

 

 麗華が身を乗り出すと、それまで沈黙していた御影が、ふと視線をこちらに向けた。

 

「……目が、怖いの」

 

「目、ですか?」

 

「うん。テストの点数が上がった人も、部活でレギュラーに選ばれた人も……全然、嬉しそうじゃない。」

 

「ふむ……学校内で流通しているというその薬は、例のH.A.Dではないのでしょう?」

 

 周囲の喧騒から浮き立つような優雅な所作でグラスを傾けながら、笹藤麗華は静かに問いかけた。

 

 仕立ての良さが際立つ私服姿の彼女は、とても命懸けの怪人討伐部隊に志願した人間には見えない。だが、その瞳の奥には常に冷徹な観察者の光が宿っている。

 

「せや。天塚のおっさんが言うには、一時的に脳のリミッターを外すだけの代物やて。たぶん、異世界由来の薬やろいう話やけど……現物がないとどうにもならんのよなぁ。勇者なら、その程度の薬を作るのは造作もないことらしいわ。」

 

 向かいの席で灯がポテトを口に運びながら答える。

 

「問題は、なんでそんなもんが学校で配られとるんかや。風紀委員長、何を考えてうちらに調べさせたんやろ」

 

「単純にばらまいている人間が勇者だとしたら手が出せないからでは?」

 

 麗華が事も無げに放った一言に、灯は咀嚼を止めて彼女を見た。

 

「……勇者? あの優等生面した風紀委員長が、そんな危ない橋を渡っとるって言うんか」

 

「でも、あり得るかも。勇者認定さえされていなきゃ、基本的に一般の人と勇者って外見だと違いがわからないじゃない?」

 

 そう告げる妹に、灯は納得するしかない――自分も御影も勇者なのだから。

 

 麗華は優雅にグラスの氷を揺らした。彼女の瞳には、打算と冷徹な知性が同居している。

 

「隠れ勇者が学校に潜んで薬バラまいとるとか、特撮の敵組織やん。……で、うちらどうする? さっきのリストの連中、まだ泳がせとく?」

 

 灯が腕を組んで尋ねる。御影もストローから口を離し、真剣な表情になった。

 

「……天塚さんに報告して、判断を仰ぐべき、だと思う」

 

 御影が静かにそう呟いた、その時だった。

 

 パチッ、と3人の耳元でノイズが爆ぜる。

 

「ティータイムの邪魔をして申し訳ない。天塚です」

 

 脳内に直接響く、いつもの通り低血圧そうで、しかし明確な警戒を含んだ天塚の声。

 

「秘密任務中申し訳ないですが通常業務です、魔物が出ました。」

 

「おん?今日はうちら休みちゃうん?」

 

「その予定だったんですが――こっちはこっちで動く理由ができまして。」

 

「――怪人か、とうとう出たん?」

 

「ええ、どうも前もって買っていた人間のうち1人が抑制が効かずに薬を飲んだようです。」

 

「なるほどなぁ……それで、そっちは誰が行くん?」

 

 灯がポテトを放り出し、テーブルに両肘をついてインカムに問いかける。

 

「僕らで対応しますよ。だから、そちらのお嬢様方には、本来の予定通り『表』の魔物退治をお願いしたい。……場所は、現在地から南へ2キロの複合商業施設です」

 

「了解、車回してくれるん?」

 

「雨傘さんが待機中ですよ。」

 

「ほいほーい。しごとやてー」

 

「ん、行こっか。」

 

「ええ、了解です。」

 

 席を立つ3人の少女たちは、夕闇がネオンに染まり始めた街へと足早に駆け出していく。

 

 表舞台を彩る魔法少女と、裏で暗躍する特撮オタクたち。

 

 それぞれの戦場を駆ける彼らの陰で、1人の少女が歯噛みしていることに、魔法少女たちは気が付いていなかった。

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