特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第111話:見つからぬ敵

「――液体の、魔法、ですか。」

 

 そう言って顔をしかめたのはゆかりだった。

 

「ありえそう?」

 

「なくは、ない、かもしれませんね。」

 

 椅子の上で胡坐をかき、くるくると回りつつ腕を組んだ彼女の漏らした一言は、手放しの称賛とは言えないものでした。

 

「確かに、それなら、電子顕微鏡も、各種検査機器が使えなかった理由にもなります――が、先輩が見たという生物の恨みっぽい幻視はどう説明するんです?」

 

「魔法で、そういう……負の感情的なあれをかき集めたんじゃねぇかなぁと、新と合意を得た。」

 

「なるほど……そのために生物の遺体なりを使ったと?」

 

「そうなんじゃねぇかなぁと、僕と新は思ってる。」

 

「七星先輩は?」

 

「私は馬鹿です。ってマジックで顔に書いてた。」

 

「ああ……」

 

「ああ……」

 

 と、ゆかりは深く納得したようにため息をつき、椅子の回転を止めた。

 

「七星先輩、時々止まりますよね、こういう時。」

 

「基本、発想が脳筋マンじゃからね……」

 

 何せ、ヒーローになるために『とりあえず、山が動かせるぐらい筋肉があればいいじゃん!』というどこまでも筋肉に振った解決策を提示した男だ、面構えが違う。

 

「しかし、先輩たちの『負の感情を抽出した魔法』という推論は、怪人の行動原理とも一致します。人間のコンプレックスや欲望を肥大化させ、視野狭窄に陥らせる。それは純粋な化学薬品の作用というより、呪いか蠱毒に近い」

 

「趣味が悪いにも程があるな。妖霊ってのは、人間のドロドロした感情を食べて生きるバケモノなのかね。」

 

「単純に楽しみなんじゃないですか?体持ってないような連中ですし。」

 

「それはそれで普通に嫌。」

 

 言いながら、扇は手に持ったコップの中身――念力によって圧縮され、固化した氷の結晶を空中に浮かせる。

 

 初めての変身からこっち、ずっと続けているこの訓練も、いまいち成果を出しているとは言い難い――どうにか超能力を強めて、生身でも衝撃波とか出してみたいものだが……

 

「ですが先輩」

 

 そんな益体もないことを考える扇をしり目に、ゆかりがデスクに身を乗り出し、散乱した書類の山を指でトントンと叩いた。

 

「それが魔法の液体だとして、どうやって『H.A.D』っていう規格化されたカプセルに詰めているんですか? 魔法の泉から直接掬って配っているわけじゃないでしょう? ダークウェブで注文を受け、パッケージングして、指定の住所に配送する。そこには絶対に『物理的な製造・流通ライン』が存在するはずです」

 

「そこなんだよな」

 

 扇が目を細めた。

 

 いくら妖霊が超常の存在であっても、現代社会の物流ネットワークを魔法だけで構築することは不可能だ。協力者となる人間、あるいは操り人形となった人間たち――そんなものが存在すればだが――が稼働させている「工場」が必ずどこかにある。

 

「新が止めている以上、あの女がそうそう販路を広げられているとも思えん、できたとしても、網に引っ掛からない、極小規模かつ少人数への個別の売り込みがせいぜいだろう。」

 

「となると、どこかの国の工場を借りている――なんてこともないわけでしょう?」

 

「ないだろうな。」

 

 ともなれば……

 

「新ぁ、なんか情報は?」

 

『――それがないんですよねぇ。』

 

 困ったような一言が、スピーカーから響いた。

 

『七星君と暇なタイミングで、いくつか製造ラインをつくれる、製造できる企業に当たってみたり、忍び込んでいたりしたんですが……今のところ、新たに発注されたものに関しては、すべて、所在がつかめています。』

 

「ふむ、ってことは、前からあったところにある……か?」

 

『普通に考えるとそうなるんでしょうが……そうなってくると、厄介なんですよ、カプセルに詰めるだけだと、かなり古い機械でも対応可能なんですよね。』

 

「あー……」

 

 そうなれば、探すべき場所は遠大になる。

 

 距離から測ろうにも、自分と同じように空間を飛び越えられるあの女相手に、距離はそれほど意味のある判断材料にはならない。

 

 日本のどこか、あるいは世界中のどこにあるかもわからない古い廃工場や空き倉庫をシラミ潰しにするのは、現実的ではない。

 

「足で稼ぐには、ちょっと途方もねぇな。」

 

『ええ。ネット上の怪しい金とデータの流れは僕のAIが自動で叩き潰していますが、物理的な拠点の特定には、至っていません。』

 

「トレースバックとか言ったっけ、IP探る奴、あれできねぇの?」

 

『見つけたところに行くとぬけの殻なんですよね、空間移動で逃げているのか、単に中継点なのか。』

 

 いずれにしても、見つからないことに違いはない。

 

「困りもんだな……」

 

『ですねぇ……』

 

 通信越しに響いた天塚の深い嘆息が、特撮班ラボの重苦しい空気をさらに沈ませた。

 

 サイバー空間でも物理的な距離でも敵の尻尾は掴めず、時間だけが徒らに過ぎていく。どうにかして打開策が欲しいところだが、焦ったところで無い袖は振れない。

 

 じっとりとした沈黙を破ったのは、デスクの隅で山積みの資料を睨んでいたゆかりだった。

 

「そういえば天塚先輩。さっき叔母様……社長に呼ばれてましたけど、何の用だったんです?」

 

『ああ、そうそう、扇。』

 

「ほいよ。」

 

『政府からのお達しです、怪人を1体、水鏡の勇者に引き渡せと。』

 

「あー……治療実験か。」

 

『ですです。治癒能力に特化した水鏡の勇者の魔法で、怪人化のプロセスを逆行させ、人間に戻せるか試したいそうですよ。政府としては、怪人対策の主導権をなんとしても「勇者」の手に取り戻したいんでしょうね』

 

「フム……」

 

 面倒な話が来たものだ……思案する彼らの考えている事は一つだ。

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