特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第114話:一つでダメなら―—

 製鉄場で熱せられた鋼板が蛇のようにのたうつさまを作業員が必死になって操ろうとしている動画を、見たことがあるだろうか?

 

 赤々と燃える、まるで地獄の炎のようにしなり、のたうつ灼熱の蛇を、半袖の作業員が鉄の器具で挟み込んで曲げるための機械に導いているあれだ。

 

 目の前の怪人の攻撃は、ちょうどそんな感じだった。

 

「ー・ー ーーー ・ー・ ーーー ・・・ ・・・・ ・ ー・ーー ・ー ・ー・ ・・ー ーー・・ーー ーー ・ー・ ー・ー ・ー ・ーー ・ー ーー ・ー ー・・ ・ー」

 

 かすれるような……ちょうど、虫の羽音に近い音と何かが詰まったような音を、言葉――および、おそらく、あれは真実、この生き物の言葉なのだろう――のように発しながら、その生き物はのたうつ蛇のごとく、腕を機敏に遣い、敵たる翡翠と銀灰色の英雄の首を狙った。

 

「熱いのは勘弁してほしいんだがね。」

 

 翡翠の超人、ウィンドヴェーラーこと扇雄介が軽く息を吐く。

 

 迫り来る灼熱の金属鞭を前にしても、彼の足は一歩も動かない。ただ、首元からなびく『風圧帯』を操り、極度に圧縮した暴風の断層を空間に展開しただけだ。

 

 ギィィィィィンッ!

 

 甲高い金属音と共に、扇の鼻先数センチで赤熱した鞭が弾かれる。分厚い大気の壁に叩きつけられたかのように、金属の蛇は勢いよく後方へとのけぞった。

 

「いっ、っよ!!」

 

 弾かれた鞭の根元、怪人の懐に潜り込んでいたのは、銀の装甲を纏ったインパルス・バングル――七星一也だ。

 

 赤黒い金属の鞭が全身からせり出したハリネズミのように見える胴体へ向けて、七星は一切の躊躇なく拳を放つ。

 

 踏み込みは深く、小指から強く握り、腰を回し――打つ!

 

 ゴンッ、とけたたましい音が響く。

 

 硬質の手甲の内側、それよりも硬質な拳がハリネズミの針を砕き、敵を撃ち砕――

 

「――おっと。」

 

 ――けない。

 

 先ほどまで、超硬度の金属だったはずのそれは、まるで揺蕩う水面のように波紋を生み、まるで液体のように衝撃を分散する――まずい!

 

「――ぜぇぁ!」

 

 発声。

 

 次いで、足を大きく踏み鳴らし外力を腕に――王心七征拳・震脚。

 

 勇者によってもたらされし硬化金属の床すら揺るがす一撃によって帰ってきた反力を使い、拳を呑み込み、砕こうとしていた超水圧を肩と腰の回転で強引に振りほどく。

 

 そのまま、反対の脚を使って真後ろに跳ねる――まったく……

 

「あぶねー……何、あれ。スライムのハリネズミかよ。」

 

「まあ、液体怪人ですしおすし。」

 

「液体人間……」

 

「あれのラスト、悲しい話よね。」

 

 言いざま、扇は風圧帯を制御し、即座にかまいたちを2筋放つ――が、金属音が響くだけだ。

 

「……あれさぁ、まさかと思うけど映画で見たやつじゃね。液体金属的な……」

 

「あれ2作目のほうが敵強いよな……で、どうする?」

 

 その一言が示す先は1つだ――即ち、変身するか否か。

 

 放たれる触腕を蹴りで振りはらい、再び銀の英雄が肉薄する――とはいえ、敵も2度3度同じ手を食う気はないらしい。

 

 即座に、棘の先端から放たれたのは――髪の毛ほどの細さの金属針。

 

 まるで雨のように降り注ぐそれを、緑の嵐が阻む。

 

「してもいいけどな……あいつ、この前会ったとき僕らのこと知ってたろ。」

 

「あー……ああ、ってことは俺らの変身に反応する罠があってもおかしくねぇな。」

 

「それがねぇ、困るのよねぇ。」

 

 困ったように告げる扇は、風圧帯を制御し、大気圧の壁を生み出す――とはいえ、阻めるのはせいぜい触腕の一撃や細かい針ぐらいのものだ、今の怪人はすでに勇者に攻撃が通せるほどの力を秘めている、連撃は止められない。

 

「占いパワーでどうにかしてくださいよぉ。」

 

「そんな都合いいパワーじゃったらこんな苦労していないのよねぇ……」

 

 襲い来る液体金属の鞭を体を半身にして躱しながら、扇は目の前の敵の未来を探る――さて、どれが一番いい未来だろうか?

 

「中の人間は『見た』感じ怪我もしていないっぽいから別にいいんだが……」

 

「……?痛い痛い言っていなかったか?」

 

「言っていたが――どうも、怪我はしていないらしい、治療に当たった人間の手を止めさせるための仕込みぽいでやんすねぇ。」

 

「いやらしい真似しよる……」

 

 そこまで考えて、ふと、思いつく――なぜ、治療に当たった人間の手を止めさせる必要がある?

 

 こんなトラップを用意しているのだ、黙って起動させて、不意打ちで殺してしまえばいい、だというのに、なぜわざわざ……

 

「――効かないわけじゃないのか。」

 

 だから、手を止めさせる必要があった。

 

 わざわざ、痛い痛いと言っているのもそれが原因だ――とすれば。

 

「――ゆかり。」

 

『――はい。』

 

 扇のインカム越しの呼びかけに、別室のラボでモニターを監視しているゆかりが即座に応答する。

 

「御影来てる?」

 

『ええ、いますよ――御影!』

 

『あ、はーい……なに、ゆかりお姉ちゃん。』

 

 通信の向こう側で、事態の深刻さをまだ把握しきれていない、間の抜けた少女の声がした。

 

 そんな彼女に、しかし、扇は即座に指示だけを伝える。

 

「御影、悪いけど、変身して地下来てくれ、ちょっと面倒なことになった。」

 

『へ?あ、はい……?』

 

「新」

 

『聞いていましたよ、水面君は了承済みです。』

 

「よし、新、一也、僕らは準備が済むまであれを押さえる――倒すなよ。」

 

「あいよ。」『了解でーす。』

 

 銀と光の超人たちから返ってきたのは、散歩にでも行くかのような、あまりにも軽い了承の返事だった――まったく、頼もしい話である。

 

「1つでダメなら――」

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