特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第117話:進展

 眩い青白き光が、地下テストルームを昼間のような輝きで満たした。

 

 水面雄太の放つ「睡蓮の華嵐」と、御影の『あるべき姿への回帰』の魔法によって生み出された燐光は、網膜に焼き付くほどの鮮烈だった。

 

「              」

 

 声にならず、しかし音があふれていることだけはわかる絶叫は、やがて静かな吐息へと変わっていく。

 

 剥き出しの粘土のようだった灰色の肉質が、瑞々しい人間の肌へと急速に再構成されていく。鋭利な金属の棘は光に溶けて霧散し、ドロドロの液体となっていた四肢が、確かな骨格を芯にして形を成した。

 

 光が収まった時、そこには1人の男が、糸の切れた人形のように静かに横たわっていた。

 

「……はぁ、はぁ……。やった、今度こそ……」

 

 魔法を解いた水面が、膝をついて肩で息をする。その顔には、先ほどまでの恐怖ではなく、1人の命を繋ぎ止めたという確かな安堵の涙が浮かんでいた。

 

「お疲れ。大したもんですわ。」

 

 変身を解いた扇が歩み寄り、疲れ果てた勇者の肩を優しく叩いた。

 

「いえ……皆さんのお膳立てがあったからです。僕1人じゃ、あの『棘』で殺されていました」

 

「まあ、チームワークってやつですよ。僕らの設立理由にかなう活躍で、こっちとしても満足です」

 

 同じく、変身を解いた天塚の一言に、力なく微笑んだ水面は、精魂尽き果てたといった風情で肩を落としていた。

 

「御影もお疲れ、悪いな、わざわざ降りてきてもらって。」

 

「あ、いえ、全然――で、どういう状態なんですか?」

 

「ん、まあ、あとでな。」

 

 肩で息をしつつ、杖を片手に握った彼女は何をしているのだろうか?と首をひねる御影に、苦笑しながら七星が答える――正直、今から説明するのは少々面倒だ。

 

「どんなもん?」

 

「……んー……たぶん、大丈夫だと思う。少なくとも、あれが中にあった時特有の視野狭窄は感じないかな……」

 

 少年の脈拍を測りつつ、扇はぽつりとそう告げる――無論、潜伏しているだけという可能性はあるが、それはさておき、少なくとも、問題があるようには感じない。

 

 扇が脈を測っているその手元で、少年の肌から、先ほどまで噴き出していたあの金属質の赤黒い輝きが完全に失われていく。

 

 残ったのは、長らく放置されていた古い粘土のように、カサカサと剥がれ落ちる灰色の塵だけだった。

 

「……よかった。」

 

 水面が、思わずと言った風情で告げる――彼の瞳は、横たわる男の静かな寝顔をじっと見つめている。

 

「で、結局のところ、さっきのあれ、使えそうか?」

 

「おそらくは――とは言っても、前提として『呪いが露出している』状態でのみ使えるようですから、ちょっとばかり面倒な話になりますけどね。」

 

「勇者の協力必須か。」

 

 最も高いハードルといってもいいだろう。勇者は往々にして自分の利益にならぬことなどしないものだ。

 

「……勇者のことさ。」

 

「んー?」

 

「怪人化してる時とこの状態って何が違うんじゃろうな。」

 

「……形。」

 

「いや、まあそりゃそうだけども。」

 

 

「質量が違うだろ。どう見てもこいつの元の体重より、あのスライム状態の方が重かったしデカかったぞ。物理法則的に考えて。」

 

「そこなんですよねぇ。」

 

 天塚が顎に手を当て、眼鏡の奥の瞳を細める。

 

「細胞が変異する、あるいは別の物質に置き換わるといっても、限度があります。無から有は生み出せない。だというのに、H.A.Dの服用者は明らかに己の質量を無視した巨体や、本来人体に存在しないはずの金属や植物の繊維を構築している。および――」

 

「でも、その話で言ったらそもそも液体生物も十分普通じゃなくねぇ?後、もともと怪人になった時から体積がどうこう、質量がどうこうはおかしかったろ、あんなに腕伸びてんだぞ。」

 

「……そういやそうだな。」

 

 ふと、思う。

 

 確かに、あの商業施設での戦闘時にも、明らかに腕の太さと長さが合致していなかった。

 

 となれば――

 

「本人の体が作り替わっていないことだけですかね、変わっているのって。」

 

「それなら、血管にじかにD.I.N.Tぶち込んだら同じ効果にならねぇ?」

 

「いや、それはもう試したでしょう。」

 

「……濃度が足りない、とか?」

 

「……あー……人間の限界量で計算してましたけど、怪人の限界値は試しませんでしたね、健康被害があったらまずいと思って。」

 

「試すか?」

 

「……やりますぅ?」

 

「情報モデルでわかるんだろ?」

 

「人に試すのとは違いますからねぇ……とはいえ、試すしかありませんか。」

 

 天塚は白衣のポケットから手を出し、ホログラムキーボードの上に滑らせた。

 

 薄暗い地下ラボの空中に展開されたメインモニター群に、先ほど採取した怪人の生体データ――『アバター』の構造式が、複雑な3次元モデルとなって浮かび上がる。

 

「人間の致死量の……ざっと10倍。これでシミュレーションを回してみます」

 

 エンターキーが小気味よく叩かれると同時に、モデル化された怪人の仮想血管に、致死量を超えるD.I.N.Tが注入される。

 

 画面の中で、青い光の粒子が赤黒い甲殻を内側から激しく侵食していく映像が、早送りで再生された。

 

 ピーッ、という電子音が鳴る。

 

 ホログラムの怪人が、ノイズにまみれてドロドロに崩壊する。および、エラーの波が収まった後――そこには無傷の「人間」のシルエットだけがポツンと残されていた。

 

「……うまくいってんの?」

 

「……データ上はね。人に実際に使っていいかは……まあ、もうちょっと考えます。」

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