特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第12話:勇者の不出来

「あ?俺の話聞いてんのか三流」

 

 電撃を纏い、威圧的に歩み寄る勇者・設楽に対し、天塚は――あろうことか、深々と頭を下げた。

 

「――おっしゃる通りです。いやはや、勇者様の獲物とは知らず、出しゃばった真似を。」

 

 そんなヒーローの姿に、勇者が満足げに鼻を鳴らす。

 

「あぁ?そんな謝罪ごときで許されると思ってんのか?」

 

 肩を怒らせる勇者は、しかし、その声に優越感を込めて叫ぶ。

 

「俺のような偉大な勇者の時間を浪費させておいて、その程度のやっすい頭ごときで何か意味があると思ってんじゃねぇだろうなって聞いてんだよ!えぇ!」

 

 ケチなチンピラですらやらないような脅し――しかし、勇者という存在はこれが明確な脅しになるのだ。

 

 もし、この男が本気を出せば、この場で天塚を、そしてその余波でおそらく後ろの猫宮を巻き込んで殺してしまうだろう。

 

 勇者とはそういう生物だ――特に『裂け目雲間を走るもの』である雷霆の妖霊の加護を色濃く受ける勇者は、そういった激発的な傾向にある。

 

「そう言われましても、万年金欠の哀れなヒーロー一人、何ができるというわけでもありませんよ。お許しください。」

 

「あぁ? うるせぇな、死ぬか――」

 

「それに、あなたのように高名な勇者様に、この程度の雑魚の相手などさせられないでしょう?」

 

「――あん?」

 

 ピクリ、と眉が動く。

 

「確かに彼女のピンチでしたが……あれは所詮小鬼。あなたのような偉人の手を煩わせては、こちらとしても気に病んでしまいますよ。あなたのような勇者様のお力は、もっと大きな個体にお使いになるべきですよ――ねぇ、猫宮さん。」

 

 言いながら、そっと通信装置のスイッチを入れる――耳に届くのは友人たちの言葉だ。

 

『おっ? 天塚? あ、やばそう?』

 

『一応、近くで待機してっけど行くか?』

 

「……そ、そうですよ、勇者様!小鬼なんか、あなたの敵じゃないでしょう?もっと私たちが倒せない――それこそ、オーガなんかを始末するのに使われるべきです!」

 

「ぁあ?俺の手助けがいらなかったとでも言うのかぁ?ああ?」

 

 友人たちの声と、勇者の言葉を聞き分けつつ、天塚は苦笑しながら続ける。

 

『あ、そこまでは大丈夫でーす。というか、猫宮さんが後ろにいるんで、できるだけ戦いたくないんですよね。』

 

「いえいえ、違いますよ。彼女が言いたいのは、勇者様のお力はもっと遠大な目的に使われるべきだという話です。」

 

「つまり、俺がお節介だってことじゃねぇのかぁ? ああ?」

 

『あー……雷霆系?』

 

『ですです。何とか猫宮さんだけでも逃がせば3人で殴るんですけどね。』

 

「違いますよ。下等な仕事は、我々のような勇者もどきにお任せください、という話をしているだけです。」

 

『無理だろ、あの加護持ち、大体性欲バケモンだぞ。猫宮ってシャドウだろ? あの顔は見逃さねぇんじゃねぇか……?』

 

『そうなんですよねー。あと何秒か確認しようと思いまして。岩ですよね、今回。』

 

「その下等な仕事に、テメェが手ぇ出してきたって話だろうがよ!」

 

『あー……あと10秒。』

 

『了解でーす。』

 

 喉だけで会話する、10年の間に覚えた特殊技能が火を噴いた――さて、あと10秒だが――面倒だ、妙な方向にプライドが高い。

 

 猫宮をかばいながら戦うのは避けたい。危険だ、巻き込む。庇いながら戦う余裕はない。

 

 となれば……。

 

「わかってやってください。あなたに手を煩わせたことで、彼女も混乱しているんです。どうかご容赦を。」

 

 これで3秒。あと7。

 

「――ずいぶん庇うなぁ。その女、お前の女かぁ?」

 

「まさか。僕のような男に、こんな美人の女性はなびきませんよ。それこそ、あなた方の担当でしょう?」

 

「ああん? わかってんじゃねぇか。なぁ、おい、それがわかってんならわかるだろ? 勇者様が何を望んでんのか――」

 

 ――10秒。

 

「――勇者様、あれを!」

 

 そう言いながら、またしても発光する魔法陣を指さす――現れたのは巨大な岩石だ。

 

 いや、それはただの岩ではない。よく見ると生き物の足のような形をしている。

 

 次に現れるのは胴体だ――人、というにはいささかずんぐりとしたその体には、頭がない。

 

 両手足と胴体だけでできた、不可解の巨人――岩の、悪鬼。

 

「――げっ、ストーンデビル。」

 

 猫宮の声が響く。

 

 そう呼ばれている魔物だ。

 

 苔にまみれた岩石の塊。対勇者用に作り出された異形の悪鬼。

 

 全高30メートルはあろう巨体を、人々は見上げる。まるで夢か幻かと我が目を疑うだろう。

 

 大型のモンスターが現れるのは比較的珍しいがないわけでもない。

 

 群れる習性のある魔物がまるごと地球に来るのもたまにある。

 

 しかし、それが同時に来るのは――そうそうない。第二次氾濫以来、15年ぶりだ。

 

 その姿に――勇者を名乗る男の顔が引きつる。

 

 そうだろう。土の魔物と雷霆の加護は、異様なほど相性が悪い。

 

 稲妻はほとんど通じず、物理的な攻撃も効果が薄い。

 

 倒されはしない――が、同時に、勝てないかもしれない。

 

 そうなれば、他の勇者は自分を愚弄し、嘲るだろう。

 

 雷霆の加護持つ勇者はそんなことには耐えられない。そういう人種だ。

 

 ゆえに。

 

「――お前、俺の力はもっと偉大なことに使うべきだと言ったな。」

 

「ええ、言いましたね。」

 

「――なら、ここはお前に任せる。興がそがれた。俺は……そう、お前たちの活躍を評価してやる。」

 

「そうですか? あれこそ、勇者様のお力が……」

 

「いいから、お前たちで倒せよ!俺を巻き込むな!」

 

 そう言って、男は現れた時と同じくらい唐突に――消えた。

 

「……え、逃げた?」

 

「逃げましたねー」

 

 計画通りだ。今日も扇雄介の占いに外れなし。

 

『ずらこきました。待機してます?』

 

『してますよ。拘束術は効果発揮中。』

 

『おや、ゆかりさん、お疲れ様です。』

 

『はい、お疲れ様です。雄介先輩は上空待機中です。』

 

『上空ってことは……あー穿孔キックか。了解です、すぐ行きます。』

 

「はっ?ちょ、待ちなさいよ。あんたあれと戦うの?死ぬって!」

 

 壁の内側をきょろきょろと見つめた猫宮が声を上げる――実際、一般的なヒーローにとって、あの魔物は恐怖であり、手が出せぬ存在だ。

 

 が――それで逃げるやつは、ヒーローにはなれない。

 

「大丈夫ですよ――僕らすごいので」

 

 そう笑って、再び光に乗る――さぁ、いよいよクライマックスだ。

 

『初陣ですし――』

 

 派手に決めよう。

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