特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第126話:つらい決断

「……つまり、息子は……その、クスリのせいで……?」

 

「ええ、少なくとも、我々はそう考えています。」

 

 そう言って、厳かに相手を見つめる七星を、父親は震える視線で見つめていた。

 

「おまえ、お前は……!」

 

 そう言って脇に座り、小さく――本当に小さくなった息子に憤りに満ちた目線を向け……直後、見ていられないように逸らした。

 

 先ほどから、彼はずっとこの行為を繰り返している。

 

 超能力者《扇雄介》ならぬこの身に、この男性が何を考えているのかはわからない。が、類推することはできた。

 

 怒っているのだろう、自分の息子の不始末に。

 

 訳のわからぬ薬に手を出し、あまつさえ、自分の人生すら台無しにした、彼のこの惨状と短慮に、怒っているのだろう。

 

 嘆いているのだろう、自分の息子の弱さに。

 

 少しばかりの成績のよさのために、あるいは、自分自身の自尊心のために、薬になど手を出した息子に。

 

 そして何より――案じているのだ。

 

 息子の未来と、体を。

 

 彼が知っている息子とはあまりにも違うその姿に、彼が並々ならぬ心痛を感じているのはもはや疑いようがない。

 

 だから、見ていられないのだ、息子の……こんな姿を。

 

「この、この後、息子はどうなるんです……」

 

 絞り出すように、父親は言う。

 

「それなんですけどね……ちょっと面倒なことになってまして。」

 

 七星の頬をかきながらの一言に、灯や御影を含めた全員が首をひねる――普通に考えれば、彼の処分は1つしかないように思えた。

 

 即ち、警察による逮捕。

 

 違法で、明らかに不正な薬物に手を出したのだ、そうなるのが当然――そう、彼らには思えただろう。

 

 一面的にはそれは間違っていない。ただ問題は――

 

「現行法では、息子さんは『罪を犯してない』んですよ。」

 

 そこが、問題なのだ。

 

「ど、どういう、ことですか?」

 

「えーっと、ちょっと面倒なお話になるんで……悪い、新、説明。」

 

『ああ、はいはい――失礼します、お父さん、僕は天塚新、彼の同僚をしています。細かい部分のご説明はこちらで行いますね。』

 

 困ったように顔をしかめた七星の一言に、インカムのスピーカーモードから響く理知的な声が応じた。

 

 姿の見えない相手からの突然の通信に、両親は一瞬戸惑ったように身を寄せ合った。

 

『現在、国が勇者に関して特殊な法律を制定していることはご存じのことと思います。』

 

「あ、ああ、もちろん。」

 

 それは、この世界に生きる人間の常識だ。

 

 この法を犯した場合、速やかに他の勇者――それこそ、勇者狩りのような――に情報が伝達され、その勇者は『討伐可能対象』として始末されることとなる。

 

 ある種蠱毒のような法律だが――これ以外に、勇者を食い止める方法など、この世にはないのだ。

 

『ただ――この法律、対象が勇者だけなんですよね。』

 

「……?」

 

 それが何だというんだ?そう尋ねたいらしい父親の表情に、スピーカー越しに気が付いたのか、天塚は一言告げる。

 

『勇者が持ち込んだ『尋常ならざる物質』については法の及ぶところではないんですよ。』

 

 それは、急激に変化する社会における、ある種のいびつさの表れだ。

 

 要するに、国は『勇者を罰する法』は作ったが『勇者の持ち込んだ物品を規制する法律』ができていないのだ。

 

『この性質上、息子さんの使った薬は『特殊な効果を持つ物質』ではありますが、規制薬物として法律上扱われないんですよ。』

 

 となれば、彼を警察が捕らえることはできない――何せ、彼は法律上、『何もしていない』のだから。

 

 以前、水鏡の勇者と共にこの薬を追った際も、『薬そのもの』が対象ではなく、『薬を作ったとされる勇者』を追いかけたのだ――無論、その実体は薬の根絶ではあったが。

 

『よって、息子さんが警察から責任を追及されることはありません。』

 

 その一言に、父親と母親は顔を見合わせ、堰を切ったように安堵の息を漏らした。

 

「……よかった。それなら、すぐにでも大きな病院へ連れて行って、この子を治してもらえれば……」

 

 母親が涙ぐみながら少年の肩を抱き寄せようとした瞬間、天塚の冷やかな声がそれを遮った。

 

『お母さん。法で裁かれないということは、同時に「法によって保護されない」ということでもあるんですよ』

 

 ピタリと、部屋の空気が凍りついた。

 

「それは、どういう……?」

 

『現状の彼の症状は普通の病院では治療できません。魔法の作用によるものですから、政府が運用している特殊な病院に入る必要がありますが――お子さんはそこには入れません。』

 

 それが、法の及ばぬ場所に落ちた彼の制限ということだ。

 

『現在、政府の特殊医療機関が受け入れているのは「魔物による明確な外傷を負った被害者」あるいは「勇者による直接的被害者」のみです。アツシ君のように、自らの意志で出所不明の魔法薬を摂取し、自滅しかかっている人間を救済する法的な枠組みは存在しません。』

 

 天塚の声は、冷たく事務的だった。

 

「そ、そんな……そ、それじゃあ、それじゃあ息子は!」

 

 叫び、父親が立ち上がる――つかみかからんばかりの雰囲気だ。

 

「な、何とか……何とかならないんですか!」

 

『現状、それに対処できるのは限られた人材だけです。少なくとも、政府に公式の認可を受け、かつ、国の社会制度を使える範囲には彼を治療できる施設はありません。』

 

 そう告げる天塚に、灯が何か言おうと口を開き――それを、七星が止めた。

 

「な、なら……なら、何か、別の、公式ではない範囲ならどうにかなるんですか!」

 

『……ええ、1つ、心当たりがあります。』

 

「!」

 

『ただ、そこは保険もかかりません、すべて実費で莫大な金額を使うことになります、それでもいいですか?』

 

「もちろんです!家を売ってでも、何をしてでも……!だから、息子を助けてください!」

 

「と、父さ――」

 

「お前は黙っていろ!このままでは死んでしまう!」

 

 そう叫んだ父親の表情は鬼気迫るもので――そこには息子への少しいびつな愛が確かに感じられた。

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