特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第127話:責任の自覚/ひーろーごっこが終えられない

「――あれでよかったん?」

 

 帰りの道すがら、前を歩く七星に、灯はどこか沈んだ口調で尋ねた。

 

 住宅街を抜ける夜道。街灯のオレンジ色の光が彼らの影をアスファルトの上に長く引き伸ばしている。

 

「――これが、息子さんの治療を行ってくれる医者の番号です。ヒーローを兼業している男で、この手の異世界由来の治療に明るい、少々めんど……あー……気難しい男ですが、治療となれば頼れる男です、早くご連絡する方が良いでしょう。」

 

 そう言って、沈む居間から退席したのはかれこれ20分ほど前の話だ。

 

 先ほどの家での出来事が、まだ灯の胸の内に重いしこりとして残っていた。

 

 息子を助けるためなら家を売ってもいいと叫んだ父親の姿。それにすがりついて泣き崩れた母親。

 

 確かに少年は手を出してはいけない薬に手を出した。だが、あそこまで絶望的な宣告を突きつける必要があったのだろうか。

 

「あのオッサン、本気で家売る勢いやったで。なんやかんや言うて、あんたら大人って容赦ないんやな……」

 

 普段の威勢の良さはなりを潜め、灯はポツリとこぼす。隣を歩く御影もまた、無言のまま七星の広い背中を見つめていた。彼女の瞳にも、わずかながら戸惑いの色が浮かんでいる。

 

 そんな2人の非難めいた視線を背中に浴びながら、くたびれたスウェット姿の男は、夜風に吹かれながら立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

 

「――まあ、それっぽいこと言ったけど、基本もう料金払ってあるし……」

 

「はっ?」

 

「いや、お前、被害者に金銭負担させるわけいかねぇべよ。」

 

 しれっと、七星が告げた一言に、2人の少女は何を言っているんだこいつはと言いたげに驚きに満ちた目線を向ける――人の目というのはことのほか大きく開くことを、七星は久々に実感していた。

 

「え、じゃあ、何、あんだけ脅したん嘘なん?」

 

「いや、嘘ではねぇよ?本来ならこれぐらいかかりますよという話ではあるが――」

 

『――僕ら、どうせ金使いませんからねぇ。』

 

 耳元のインカムから、天塚の涼しげな声が会話に割り込んできた。

 

『嘘は言っていません。未知の異世界由来の薬物により異常な状態にある体を元に戻すのは非常に難しいことですよ、あほみたいな金額がかかりますし、正直、1個人にやるんなら心中の覚悟がいる金額だという点に嘘はありません――払わなくていいだけで。』

 

「……え、何、そっちタダで治すとかやなくて治療費被ったんか!?」

 

『言ったでしょう。僕らは金を使わないんです。給料も危険手当も、口座に振り込まれて数字が増えていくだけで、使い道がありませんからね。機材の購入費は会社持ちですし、食事は僕謹製の完全栄養食で事足りますし、まあ、飯食わないマンがいるので、基本的に必要経費もほとんどないんですよね。』

 

「こいつ特許料あるしなぁ。」

 

『あれだけで一生暮らせますからねぇ先輩方。』

 

『僕飯食わんしねー』

 

「どうしようもなかったら、俺が畑でも作って、適当に自給自足するし……」

 

『山岳救助隊とかから誘われてるからそっち行ってもいいし……』

 

『使わないんですよねぇ、お金。』

 

 適当に見える動きと数々のオタク言動によって忘れられがちだが――彼らは超人なのだ。

 

 ただ生きていくだけ――それだけでよければ、彼らはいくらだってやりようがあるのだ。

 

「それだと、あの人たち止めないと、本当に家売っちゃうんじゃ……」

 

「無理だな、そんなポンポン家は売れないし、まず借金から試すさ、それだってすぐに審査は下りない――金額だって聞いてないんだぞ。」

 

 貯蓄で足りないかどうかすら、彼らにはわからない――それに、あの心配っぷりだ、借金などするよりも、医者に会いに行くところから話が始まるのは明白だった。

 

「やったら、なんであんな脅しよんねん、趣味悪ぅ……」

 

『……あの両親――ひいては、あの少年には1度、取り返しのつかない事態になったのだという事実を骨の髄まで理解してもらう必要がありました。安易にタダで治してあげますよと言えば、あの少年が犯した罪の重さも、薬の恐ろしさも有耶無耶になってしまう。』

 

 そうなれば、あの少年は再び薬に手を出すかもしれない――人は変われると彼らは信じているが、それはひどく難しく、同時に大抵の人間はその難行をこなせないこともよく理解していた。

 

「……性格悪っ。」

 

 灯がドン引きしたように呟くが、その声には先程までの暗さはなかった。大人たちのやり方に呆れつつも、彼らが根本のところで誰よりも優しいことを理解してしまったからだ。

 

「まあ――」

 

『否定は――』

 

『できないな。』

 

 苦笑交じりに、3人は口を開く――正義の味方になりたくて、20年生きてきたが、それを、完全にこなすのはいまだに難しいままだ。

 

 そこはいいのだ、正直、彼らの問題でしかないのだから、問題なのは――

 

『薬の出所がわからん……』

 

 そこだ。

 

 あそこまで脅され、父親との会話を聞いていてあの少年が隠しているとは思えない、それは、あの視線の運動からも明らかに思える――となると。

 

『マジで知らないところから流れてきた……?だとしたら、この手の薬を売っているやつが、妖霊以外にもいるのか……』

 

 あるいは、妖霊側の何かしらのかく乱工作の類なのか……

 

 いずれにしても、この分だと面倒なことになるだろう。

 

『雄介の予知が外れていればいいけどな……』

 

 もし、外れていなければ、こちらの根を断つのは少し先の話になるだろう。

 

 おそらく、早晩自分たちは――

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