特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第13話:必殺技

『御影、大丈夫ですか?』

 

「……」

 

『御影!』

 

「え、あ、ぇう、うん!」

 

 魔物の前に突然現れた異常な巨体を前に、勇者たる黒土御影は初めて恐怖した。

 

 デカい。まっすぐ上を見上げているのに、まったく全景が見えない。

 

 大きすぎる。こんなもの、アニメでしか見たことがない。ほとんど山だ。

 

 怖い。

 

 あまりにも大きい生き物を前に、勇者としての自信はもうない。

 

 おぞましいほどの巨躯。自分などこの足の爪ほどの大きさにもならない。

 

 もし、これに潰されたら――自分はどうなるのだろう?

 

 潰れて死ぬ? そうかもしれない。自分はあまり戦闘が得意な方ではない。

 

 耐えられる? かもしれない。勇者とはそういうものだ。人によっては流れ星の直撃にすら耐えるという。勇者なら、この程度の質量、大したことはないのかもしれない。

 

 確かに、自分はこれを殺せる。断言してもいいが、それは容易い。そう理解している。

 

 自分の姉でもできるだろう。むしろ姉ならばもっと簡単だ。

 

 ただ――それはあくまで、圧倒的な上位者としての話。目の前にして、これほど大きいものを本当に倒せるのかと聞かれると――正直、自信はない。

 

 周囲にとって、自分たちは勇者だ。

 

 だが――自分たちにとって、自分たちは単なる少女なのだ。

 

 先ほどの友人たちはこともなげに語っていたが――信じてほしい。勇者だって怖がることくらいはあるのだ。

 

 だから――。

 

「大丈夫だよ、信じろ」

 

 ――そう言われて、不覚にも安心してしまった。

 

 罠を仕掛けて離れたあと、呆然としていた自分をさらっていた風の主は、苦笑しながら言った。

 

「10年もやってると、それなりに戦い方ってもんができるんだよ。あれも倒せる、大丈夫だから。そこで見てて」

 

 そう言って、彼は風を纏ってひゅるりと敵の真上に移動した。

 

 自分たちの模造品であるはずのヒーローが、本当に『正義の味方』に見えた。

 

 衝律具(しょうりつぐ)インパルス・バングルは、『慣性残響の精霊』とも呼ばれる『打ち響く波間の妖霊』の残骸であり、衝撃を統べる精霊の器物である。

 

 どこにあったのかわからぬ古い鎧武者の手甲に宿ったそれが、なぜ、七星一也を所有者として選んだのかはわからない。

 

 妖霊の意思を知る術など、人間にはない。

 

 だが――一つ、確かなことがある。

 

 この器物と、彼の相性は間違いなく最良であるということだ。

 

「――遅れまし、た」

 

「お疲れ、でかい」

 

「でかいですねぇ。雄介君、上で待機でしたっけ」

 

「おん、穿孔で行くわ」

 

 了解でーす。

 

 化け物を見上げる――30メートルはあろう巨体。異世界における『強敵』に相当するらしい存在。

 

 なるほど、この拳で殴られては、ヒーローなど一瞬で黒い染みになってしまう。

 

 前もって用意していた『光り輝く鎖』で拘束できていなければ、もっと焦っていたことだろう。

 

「準備は?」

 

「もうちょい。あれ、もしかして、そろそろ拘束やばい系?」

 

「いや、さすが勇者の魔術、まったく動きませんよ」

 

 実際、『召喚酔い』と呼ばれる行動制限期間は終わったにもかかわらず、いまだに石の巨怪は動く様子がない。

 

 もし動かれれば、街は一瞬で瓦礫の山だ。人々の住処も、そこに秘められた思い入れも砕け散ってしまう。

 

 どこから来たのかわからぬ不法侵入者にそれをさせるつもりはない――そのための自分たちだ。

 

「すげーよなぁ、キャッチリングみたい」

 

「ね、僕も使いたいもんですよ」

 

『僕も使いたい。STOP光線でもいいです』

 

「セブン?」

 

『エースの奴でもいいかな。』

 

『はいはい、特撮談義はその辺で――開始何分です?』

 

「あと30秒。瓦礫は御影……さん?ちゃん?に任せるでいいんだよな」

 

『あ、はい、えーっと、頑張ります』

 

 通信機から聞こえるのは、かわいらしい声だ――そういえば、まじまじと会話するのは初めてか? かわいらしい声をしていたのだなと、再確認する。

 

「はい、頑張って。あと25秒で跳ぶぞ」

 

「了解、送りますよ――」

 

 言いながら、友人の手をつかむ。

 

 たっぷり25秒、光を集める。

 

 御影への宣言から27秒後、天塚の足が動く。

 

 光に乗っての高速度加速。瞬きほどの間にトップスピードに乗り、そのままの勢いで――敵の体を蹴る。

 

 垂直に、まっすぐに、足場と化した岩の巨怪を踏み台にして駆け上がる――狙いは、ぐんぐんと大きくなるもう1人の友人、翡翠の英雄の元だ。

 

 風景は線に変わり、一瞬の不可視を経て――天に。

 

 足場がなくなる寸前、腕を前に振り、引き連れて来た七星を天に投げつけ、自分も空に向かって足場を蹴る。

 

 ――――三連――――

 

 間延びした声が響く。天に向かって跳び出した友人の声だった。

 

 翡翠の友人の脇を飛び越え、衝撃制御により、体を操り足を下に。

 

 そこに、翡翠の英雄の風がまとわりつく。

 

 導くのは回転、極小の嵐。そこに――男が飛び込む。

 

 ――――穿孔―――――

 

 そこで天塚が光から現れる――光のままでは物は蹴れない。

 

 七星をはさむように、天塚と扇が並ぶ。

 

 空中で縦方向に一回転――傍らで翡翠の英雄が同じ動きをしている。

 

 そのまま、回転する七星を、二人の足が蹴りつけた。

 

 肩を強く蹴りつけられた七星の体が、真下に向けて高速で打ち出される――光と風のおまけ付きだ。

 

 衝撃制御によって支配され、貯蓄された衝撃のすべてを込めた足先が、回転しながら突き進む。

 

 ――――キック!――――

 

 そのまま、蹴り足が岩の巨怪に激突して――岩の巨怪を掘り進む。

 

 切り裂くように、削り取るように。

 

 体を高速で突き抜けた銀と赤の閃光は、そのままの勢いで岩の巨怪を突き抜けて――地面に着地する。

 

 岩の巨怪が崩れたのは、それから2秒後のことだった。

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