特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第135話:夢から覚めた夢の中でも

「――否定はしないよ、お前の言うことは正しい。」

 

 そう言ったのは、宙吊りにされた扇だった。

 

 口の中にたまった血を吐き出し、まっすぐに目の前の妖霊を眺める――こいつの下働きにされてそうなあの怪人2人はどこだ?

 

「確かに、勇者はこの世界の病かもしれん。社会も、世界も、人も、その闇のせいで困ってる。」

 

 ちらりと、麗華を見つめる、自分たちの対応のせいで傷ついた少女であり、同時に勇者という病に侵された少女。

 

 思い返せば、あの怪人の奥方もそうと言えなくもない――あるいは、あの迷惑な魔物保護論者もか?

 

「直すべきだってお前の言説は間違ってないのかもしれない。」

 

「わかって頂けますか?では――」

 

「――だから、お前の話はうなずくに値しないんだよ。」

 

「――ほう?」

 

 断る。

 

 意外そうな顔で眉を顰める妖霊に、扇は貫くような鋭い視線――ではなく、問いかけるような柔らかい視線を向けた。

 

「お前の言うことは正しい、勇者は病だ――『()()()()()()()()。』」

 

 人の、善良であるなしにかかわらず、人という生命体の柔らかく、および濡れていて――触られたくない部分をえぐり出す、()()()()()

 

「確かに、自衛手段を持つのは悪いことじゃないんだろう、お前は正しいよ。ただその自衛手段に、人のもろくて、繊細で、それでいてたやすく転がってしまう、守らなければいけないもの《こころ》はたやすく間違ってしまうから。」

 

 それは銃の規制論と似ているのだろう、銃から身を守るために、野生動物のような人間よりも強いものから身を守るために銃は絶対に必要だ。

 

 だが、銃があれば、犯罪も横行する――どうすればいいのか?

 

「おなじなんだよ母さん、何も変わらないんだってやつだ――お前は知らんか。古い漫画だから……」

 

 変身後の体のモチーフになった大超能力者が、母親に言ったセリフ、超能力を持たぬものを選定する選ばれた者たちに対する言葉。

 

 一般人も、超能力者も変わらないと、同じ心を持つと語ったあの話とおんなじことだ。

 

「一般の人には、僕ら《超人》も、勇者も、怪人も、魔物さえ、一目では変わらん。全部が脅威で、全部が敵だ、日常を侵食する恐怖の塊で、いつだって自分の人生を台無しにする化け物――それが、僕らだ。」

 

 大抵の光の巨人が、劇中において人に疑いの目を向けられるように、人は自分とは異なるものを敵視し、恐れるものだ、および――それは、たぶん間違っていない。

 

 誰だって、わけのわからない化け物と自分が同じだなんて、信じたいはずがないのだから。

 

 あの日見た、光の巨人の劇中だってそうだ、巨人を神とあがめる者も、敵視する者もいたが――人だと思うものは結局ほとんどいなかった。

 

「早すぎるんだよ、お前の案は。」

 

 人は、あの過大な力を受け入れる土壌がまだない。

 

 あるいは人間という種が、それを使ってなお自制が利くと確信できるのならその選択肢もありだろう、だが、今は――まだ、人にはそれは過ぎた力だ。

 

「では、あなたたちが救えないものは壊されても仕方がないとおっしゃるのですか――あの、娘のように。」

 

 そう言ってやはり視線は麗華に向いた。

 

「そうは言わん――まあ、僕らが頼りないのは認めるが、一応、それなりに対策は取っていたんだ。」

 

「それが、彼女には不十分だったようですよ?」

 

「そうだろうな、天塚や七星ならともかく、こんなろくでなしが何を言っても安心などできまい。」

 

 だって、それは自分が一番感じていることだ――彼が、毎晩夢に見ることだ。

 

 超能力があったって、彼の劣等感や情けのなさは変わらない、どれだけ、最良だとわかっていても、彼はより良い――もっと、都合のいい結末を求める、ただの少年のままだから。

 

 いつだって、彼は同じ夢を見る。

 

 超人の姿に変身しようとしたとき、誰かが何事かを囁いて――彼は、自分の家のベッドで目覚める。

 

 そこには、超能力などなく、七星や天塚と友人でもなく、ゆかりに先輩と慕われることのない哀れな夢を捨てられない自分だけがそこにいる。

 

 その男は何もできない。

 

 仕事は完ぺきにこなせず、いつだって叱られて、果たせなかった夢を見て――それでも、諦められない夢に狂う。

 

 同じように絶食しようとして、緩やかに死に向かって、恐怖にまみれて死ぬのだ。

 

 そして、毎日目を覚ます――そんな夢を、彼はいつでも見続けている。

 

 扇雄介はそんな男だ、いつだって、彼は完ぺきにも、素晴らしい人間にもなれない。大抵の人間は彼の夢を笑い、馬鹿だと罵るだろう。

 

 なれないけど。

 

 そんな夢を見る男でも、結局、捨てられない夢だけはあるのだ。

 

 夢から覚めた夢の中でも、彼は――

 

「――それでも、お前の薬はあの子には使わせない、信じてくれとも、わかってくれとも言わんが……それでも、お前の薬になど頼らせないし、勇者の好きにもさせるつもりはない。」

 

 ――いつだって、彼はあの日見た光の巨人になりたいのだから。

 

「どうやるというのです?この世のすべてのよくないことを、あなたたち3人で止められるとでも?」

 

「無理だな、ただ、目の前でひどい目に遭う人がいるんなら僕らは止める。」

 

「今、降りしきる雨に耐えられない人すべてに私が傘を与えられるのに?」

 

「その傘の下で、人が死にかけてちゃ意味がないし――あんたの場合、傘を渡すんじゃなく、雨が気にならない体に変えるだけだろうが。」

 

 雨そのものを晴らしてやらねば、人は救われない。

 

「お前のそのたくらみは、雨を雨だと思わせなくなるだけだ、それを解決とは言わせない。っそんなことを差せるぐらいならすべての悲劇は僕らが止めよう。」

 

 そのための超人で、そのための自分たちだ。

 

 正体がわからなくてもいい。

 

 誰にも、感謝されずとも構わない。

 

 善良で素晴らしい、もしかすると、この世の中では数えるほどしかいない人間のために。

 

 善行を成す過程で、この妖霊やあの鳥の怪人のような道理の分からぬ者たちに邪魔され危害を加えられるすべての者の代わりにその悪逆を止めるために。

 

 悲しみを利用され、この女の手ごまのように扱われているあの哀れな夫人のために。

 

 および何よりも――そうやって戦う誰かにあこがれたあの日の少年《自分》たちのために。

 

「ほかの誰も、それがこなせないのなら。」

 

 自分たちがやろう。

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