特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第149話:あとは任せて

 ――ここまで、3人の超人の戦いを見てきて、聡明なる読者諸兄は思ったことだろう。

 

『あれ、思ったよりも、この3人は弱いのではないか?』と

 

 実際、そう思われるに足る戦果であると、ここに断言しよう、そして、彼らの名誉のため、ここに付記しておきたい――彼らの全力は、けっしてこのようなものではないと。

 

 ではなぜ、このような状態になっているのか?

 

 それはひとえに、この次元が鏡面次元であることに端を発している。

 

 1度目の戦闘とは、何もかもが違うのだ。

 

 魔王や魔人たち、そして築造という戦闘に本来さほど向かない勇者との戦闘では、彼らはかなりの余裕を見せられた――なぜならば、彼らとの力の差は、それほどまでに開いていたからだ。

 

 考えうる限り最低の力で、最大限の注意を払いながらであっても十分すぎるほどの力を、彼らは発揮できたからだ。

 

 そして、同時に、力の『及ぶ範囲』の算定もできた。

 

 勇者はこの世に長く存在する言ってしまえば『研究の進んだ分野』の存在である。

 

 確かに、彼らのエネルギーたる魔力やパワーたる魔法は科学的に推し量ることのできない力ではあるが、彼らの行動の破壊半径を知ることはできる。

 

 そして、それよりも多少であれ弱いとされる魔王やその配下たる魔人の力も、勇者から逆算が可能だ。

 

 だが――妖霊は違う。

 

 この次元から人を浚う下手人にして、勇者たちの力の源、すなわち、勇者たちを凌駕する存在。

 

 その力のほどは、1当てして小競り合いを起こした程度では判断などできない。

 

 ゆえに、彼らは困っていたのだ。

 

『どのぐらいの力で戦えばいいのかわからん……!』

 

 それが、3人の総意だった。

 

 もしも、自分たちがフルパワーでこの連中と戦えば――いや、戦い始めただけで、この次元は崩壊する危険性があった。

 

 妖霊と戦う以上、ここ以外に戦場を選べなかったのは事実だが、同時に、ここに来たことで、彼らはその力に絶大な枷を掛けられたのだ。

 

 そしてその反動は間違いなく、水鏡の勇者と御影に向かう、魔法とはそういうものだ。

 

 ゆえに、攻めあぐねる――もしも、自分たち3人が同時に全力の1撃など打ち込んでしまえば、御影や水面が致命的な影響を受けるかもしれないのだ。

 

 だから。

 

 3人は待つ、その力を十全に扱えるその時を、じっと待った。

 

 

 

 

「――なので、私が何とかしてあげるわけですよ。」

 

 そう言って、胸を張ったゆかりを、どこかぼんやりと麗華は見つめた。

 

「何するん?うちが入っててもええけど。」

 

「いりませんよ、あの人たちに勝てる生物なんていませんし……私たちに要求されているのはあの領域の強度計算です。」

 

「そないなことできるん?機械やと魔法とか魔術とかようわからんのやろ?」

 

「ふっふっふ、わかっていませんねぇ、わかっていることから割り出せることもあるんですよ。」

 

 自慢げな女性に、麗華はなんと声を掛ければいいのかはわからない。

 

 謝れば、いいのだろうか?裏切ってごめんなさいと。

 

 あるいは、手伝いを申し出ればいいのだろうか?何かできることはないかと。

 

 さもなければ――

 

「――何もしなくていいですよ。」

 

 ――そう言われた時、麗華は一瞬自分に向けられた言葉だと思わなかった。

 

「えっ……」

 

「何もしないでいいです、あなたは私たちの作戦に巻き込まれた哀れな被害者、それでいいんですよ。」

 

 そう言って、こちらを見つめるゆかりの瞳に、責めを感じる色はない。

 

「で、も……」

 

「わかりますよ、私だって、この時代に生きているんですから。」

 

 勇者に狙われるのがどれほど怖いことか、きっと、狙われたことのない人間にはわからないだろう。

 

 それは、まるで、緩やかに堕ちてくる隕石に引きつぶされる瞬間を見せつけられているように恐ろしいものだと、彼女は知っている。

 

「わかります、だから、あなたはそこにいなさい。」

 

 そして、危険や危機や――恐怖に押しつぶされた人間が何をするのか、きっと、この場で1番詳しいのはゆかりだ。

 

 忘れもしないあの日、毎日通った幼稚園を見て帰る母との帰り道、突然現れた小鬼に母が叩き伏せられ、自分も襲われそうになったあの時。

 

 助けに来てくれたあの男の子を、自分は度を越える化け物だと思ってしまった。

 

 ほとんど脱落しかけた眼球が怖くて仕方がなかったし、頭蓋骨から噴き出している血は死人にしか見えなかった。

 

 そんな相手が、こちらを見て、笑ったような顔をゆがめて、こちらに近寄ってきて――彼女は思わず、逃げた。

 

 助けてくれたことに、お礼も言わず、ただ、恐怖の対象として、逃げ出して――そのままだ。

 

 そのあと、自分は半年ほど、あの幼稚園のある道を通れなくなった。

 

 あの時の恐怖の対象がまだいるのだと思うと、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

 だから、その相手が自分の家の前で、両親に叱られながら頭を下げている少年だなどと思い至ることも、結局なかったのだ。

 

 それがわかったのは半年後だ、偶然、町で自分を見かけたその少年に「怖がらせて申し訳なかった」と謝られた時に初めて、ゆかりはあの日、自分を助けた少年が扇雄介という名前だと知った。

 

 あの日見た恐怖の象徴は、その日から彼女の守り神になった。

 

「わかります、怖いと、何をしていいのかわからなくなるのも、極端な行動に走るのも全部。」

 

 だから――

 

「あなたはそこにいて、みていればいいんですよ、後の怖いものは全部、あの人たちが叩き伏せますから。」

 

 そう言って、笑うゆかりの背後で、彼女が弄り回していたノートPCが何かの終わりを告げる甲高い音を鳴らした。

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