特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第15話:天塚《博士》

 学校での日々は黒土姉妹にとって決して愉快とはいえない。むしろ、憂鬱な日々である。もとより決して好きなものではなかったが、特に勇者となってからの少しピントのずれた日々には辟易している。

 

 元来、彼女たちにとって、この学校という空間は気に入らない場所だ。

 

 人に合わせて笑うのも、あるいは、人を人に合わせて痛罵するのも、彼女たちにはどうにも受け入れがたい――そんな二人にとって、この場所は決して愉快な場所とは言えない。

 

 言えないのだが――どうも、今日は少し毛色の違うイベントが起きた。

 

「――あのさ、黒土さん」

 

 そう声をかけてきたのは、あまり親しくないクラスメイトの一人であった。

 

 顔を突き合わせることも少ない、やたら大きな眼鏡をかけた少女。

 

 そんな彼女が、どこか決意を固めた様子で、覚悟に満ちた視線と共に声をかけてきたのは昼休みのことだった。

 

「黒土さんってさ、黒土製薬の人、だよね。」

 

「おん?おん、せやけど」

 

「で、その、勇者様、なんだよね」

 

「ん、まあ、一応は」

 

 おずおずと、怖がっているように声をかけてくる少女からは、恐怖に近い感情が見て取れる――これもまた、彼女たちが学校を嫌う理由の一つだ。

 

 なぜかわからないが、やたらと自分たちにおもねる学生たち。気に入らない……。昔は、社長令嬢だからと距離を取られ、今は勇者だから恐れられる。

 

 そこが気に入らない――のだが、なぜかこの娘はその恐怖を抑えつつ、自分に声をかけてくる。

 

 何の用なのか……? と首をひねる灯に、それでも彼女はおずおずと尋ねる。

 

「それで、さ、その……新しいヒーローチームができる、って聞いたんだけど。」

 

「おん、できるなぁ」

 

「その、そこにさ、ルモス・ベセルがいるって聞いたんだけど」

 

「……るも……?」

 

 聞いたことがある気がする……、が……?

 

「あー……天塚……何とかのこと?おるけど」

 

「―――――ほんと!!!」

 

 機敏な動きだった。

 

 先ほどまで一定の距離を取ろうとしていた少女が、一体どこにそんな力を隠していたのか、凄まじい速度で灯の手を握り、顔をほとんど接するような位置に近づける。

 

「ほんとにいるの?天塚博士!」

 

「え、あ、博士?いや、うん、まあ、たぶんおると思うけど……?」

 

 困惑と混乱をまぶしたケーキのような顔になった灯に、しかし、少女は気が付いていないのか、興奮した様子で告げる。

 

「ほんとにいるんだぁ……! え、え、新しいお薬とか作ってるの? あ、ヒーロー用の装備とかかな! 理論物理学からも生体工学からも神経科学からも材料科学からも制御工学からも薬学からもしばらく手を引いてるから、ほんとに居場所がわかんなくて!」

 

「え、ぉ? お、うっ?」

 

「まだヒーロー続けるの? それとも、ゆっくり薬学に戻るのかな!」

 

「……!? ?」

 

 がっくんがっくん首を振り回される。勇者になってからは妹と母くらいしかこんな扱い方はしない。

 

「あ、あの、ごめんね、お姉ちゃん、そろそろ……」

 

「へ? あ、ごめなさい!」

 

 そう言って、妹によって制止された少女によって肩から手を離されるまで5分間、ひたすら首を振り回された灯は、勇者になってから初めて感じる吐き気に顔をしかめていた。

 

「その、ごめんなさい、私、趣味のことになると見境がつかなくて……」

 

「あー……いや……うん……?」

 

 まだグラグラと揺れる視界を抱え、それでも頭を振って意識を取り戻す――気になる発言があった。

 

「えーっと、何の話やったっけ。」

 

「天塚さんの話だよ、お姉ちゃん。」

 

「あー……せやったな。えーっと、あの特撮好きの兄ちゃん、なんかすごい人なん?」

 

 ただの漫才師にしか見えないけど、と首をかしげる灯に、眼鏡の少女はまるで化け物でも見たような視線を向けてくる――え、ここで?

 

「知らないの?天塚博士のこと……?」

 

「え、お、おう……知らんっていうか、その博士ってのもよくわから――」

 

「ほんとに!?もったいない!」

 

「ひぃ!」

 

 またしても顔を近づけてくる眼鏡の少女におびえる灯に、しかし、少女は気にもしない。

 

「いい?天塚博士はね――」

 

『――ん? ああ、そうですよ、天塚先輩は特許を……18でしたっけ。』

 

『ん? いや、この前26個目取ったよ。』

 

『ああ、そうでしたっけ……そう、特許26個持ってる結構な天才ですよ。金欠ですけど。』

 

 そう、あっけらかんと告げる姉に、二人の少女は驚きの声を上げる。

 

「え、ほんまに、あの特撮オタが!?」

 

『ええ、家で出してる製品……ああ、ほら、『傷に張り付いて一瞬で血を止めてかさぶたになる』軟膏があるでしょう。あれ、天塚先輩が作ったんですよ。で、私のコネでうちで売りました。』

 

『あれ造った時大変だったんだよ、金欠で。』

 

『あれだけ特許持っててなんで金欠なんですか。』

 

『いや、あたらしいAI組むのに設備が足らないって言って……』

 

 聞こえてくる言葉が、二人の耳から横滑りする――とてもではないが、彼女たちの中にある天塚新とは合致しない。

 

「ほんまにぃ?」

 

『ほんとですよー。信じられないのなら、あなたのお母さんに聞きなさい。特許の許諾書か何か持ってるはずですよ。』

 

 そんな気楽な一言に、二人は黙るほかない。

 

『大学院は出てませんから、正確には博士ってわけでもないんですが、論文の査読前の意見交換みたいなのはよく来るって言ってましたねぇ。』

 

『来る来る。よくお礼状と一緒に外国の酒とか来るんよな。』

 

 思ったよりも、自分の同僚は大層な人物だったらしい。

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