特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第152話:光の裁き

 まるで流星群のように降りしきるケイ素の塊が、あらゆるものを撃ち貫いて爆進する。

 

 鏡面次元に構築された無人のビル群が、圧倒的な質量を持つ投射物の雨によって次々と粉砕されていく。

 

 アスファルトは抉れ、鉄骨はひしゃげ、偽りの都市景観が瞬く間に瓦礫の山へと変貌していく。

 

 音速を凌駕して飛来するそれは、ただの石塊などではない。巨大な浮遊要塞と化した高次元生命体が、自らの外殻を形成する高圧縮されたケイ素の一部を削り出し、絶え間なく射出している凶器の嵐だった。

 

 その圧倒的な弾幕の只中を、半透明の流線型の輪郭を持つ超人が、滑るような軌道で駆け抜けていく。

 

 天塚新の肉体は、変身を遂げたことで常識的な物理法則から完全に逸脱していた。

 

 血液の代わりに脈動する光が皮膚の下を駆け巡り、胸部に穿たれた三角形の穴からは、空間そのものを震わせるような深みのある燐光が絶えず漏れ出している。

 

 そして、この形態であるがゆえにできる超人的な技術というものが確かにあるのだ。

 

 その光景を、狂いかけた妖霊は苦痛の中で見つめていた。

 

『とん、とん……飛んでる。』

 

 飛んでいる。

 

 自分たち妖霊のごとく、物理法則を嘲笑う者たちにしかできないはずのその力を、この生き物も使っている!

 

『ゆ、ゆう、勇者。』

 

 なのか?

 

 自分たちの権能の一部を差し出した、この次元にありうべからざるもの。

 

 自分たちの慈悲の表れにして、触れられぬいとし子たちを救う救世の徒。

 

 いや、だが――それなら、なぜ、魔力を使っていない?

 

 魔力と成分とそして、精神の生き物である自分たちは魔力の流れを『粒』で察し、理解できる。

 

 触れることもできる、見ることもできる、聞くこともできる、それが、この次元生物における魔力というものだ。

 

 だからこそわかる――あの生き物は、まったくと言っていいほど魔力を伴って行動していないことを。

 

「お、おが、おかじい。」

 

 崩れ、まともに言葉も出なくなった喉がささやく。

 

 まるでゲリラ豪雨のように降りしきるケイ素片の弾丸が、全てを切り裂き、砕き、人1人分はおろか、紙切れ1枚縦に通せない弾幕を張る――だというのに、なぜかあの光の粒子はそれを無視したようにすり抜ける。

 

 ケイ素の破片は次々と鏡面次元の偽りの都市に直撃し、ビル群を粉砕し、アスファルトを抉っていく。しかし、回避を続ける天塚の視界の中で、ある致命的な異常が進行していた。

 

 標的を外したケイ素の塊たちが、そのまま地面に激突して運動エネルギーを散らすことなく、空中で急激に速度を殺し、不自然な座標でピタリと静止を始めたのだ。

 

 1つ、また1つと空中に留まる破片が増殖していく。それらは決して無秩序に散らばっているわけではない。要塞の中心で赤黒く脈打つ臓器――妖霊の核から放射される不可視の魔力ネットワークによって、完璧な幾何学模様を空中に描き出していた。

 

 瞬く間に構築されたのは、数万枚のステンドグラス状のケイ素片によって形成された、巨大で複雑な多面体の檻。

 

 それは単なる物理的な障壁ではない。透明度を増したケイ素の破片が、妖霊の意思に呼応して奇妙な角度で傾き、互いに乱反射する光の回廊を形成し始めたのである。

 

『ろ、おらえる!』

 

 バチンッ!と何かが響く。

 

 光の屈折率、反射角、エネルギーの減衰率。3次元の物理法則を強引に学習し、己の魔力で最適化した妖霊の最高傑作。

 

 その内部は、僅かな光の乱れすらも無限に増幅し、対象を焼き尽くす致死の万華鏡と化していた。

 

『カ、カカッ……!』

 

 臓器とステンドグラスの肉塊から、歓喜に歪んだ思念が周囲の空気を汚染するように漏れ出す。

 

 彼――『反響し崩れ行く者たちの長』の力、『反し響く』力で、過剰に増幅された光粒子は瞬間的に太陽に匹敵する熱量を放ちながら、その熱量を増していく。

 

 物質界を知らぬ妖霊に、それが、どれほど危険なことかはわからない。

 

 ただ、それが、一度起こりさえすれば、万物を粉砕するに足る力を持つことだけは、自分が加護を与えた勇者たちの姿から知っていた。

 

『太陽顕現』そう名付けられた力を、彼は勇者の数倍の力で放つ――瞬く間に太陽の表面温度を超えるその1撃に、周囲の物質がどろどろと溶解し、蒸発する。

 

『し、しん、死んだ!』

 

 そのはずだ――このまま、この太陽をあの忌々しい殺害対象にぶつけて、この世からも消し去ってやろう、あれは戦闘に向いた権能を持たぬ生き物だ、1撃で殺し――

 

「――?」

 

 キィィィィィィンとガラスをこすったような――妖霊はその音を知らなかったが――音が、太陽球の内側から轟く。

 

「な、なん……」

 

 だ?

 

 そう告げようと喉が震えるのと、体全体を焼き尽くすほどの光波熱線が太陽球の内側から飛び出したのはほどんど同時だった。

 

『け、け、けいそ……から、だが!』

 

 砕ける、溶ける。

 

 それは、全く想定していない威力の熱光波。

 

 熱に強く形成したはずのケイ素塊がでろでろと溶ける――止められない!

 

「――ああ、まったく、ずいぶんと熱い熱湯風呂ですね、バラエティー番組には出ない主義なんですが。」

 

 声が、聞こえた。

 

 妖霊は知らない。

 

 彼の体を覆う量子泡細胞《QF-Cell》によって形成された『子泡相制御膜《Q-Foam Membrane》』と呼ばれる超短距離の時空応力流動層である外皮が『熱を含むすべてのエネルギー伝達を自在に制御下における』ことを。

 

 妖霊は知らない。

 

 元の骨格の周囲に生成される薄い透明殻である慣性偏向格子《Inertial Shear Lattice》が衝撃を受け止め、流し、その衝撃をゼロに変えることができることを。

 

 妖霊は知らない。

 

 肺門に付随する弾性空洞器官である光圧導波器官《Luminal Compression Organ; LCO》から放出される熱量は下限で10²³ J――核兵器など物にもならない威力をさらに超えることを。

 

 知らないがゆえに――彼は、ただ肉体を焼かれることしかできなかった。

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