特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第158話:超力拳法

 ――扇雄介について同業者に尋ねると皆一様にこう言うだろう「そんなに、強いヒーローではない」と。

 

 大抵のヒーローの強さに迫る――みたいなインタビュー記事にはそう載っているし、実際、周囲の認識はそんなものだ。

 

 実際、彼の戦闘能力は決して高い方ではない、全体から見て中堅やや下程度、「10年続けてこれならば、才能がない。」そういう人間もいるだろう。

 

 実際、そこに関して、扇雄介本人も同じように答えるだろう、自分は強い人間ではないと。

 

 以前より語っている通り、彼に才能はない。

 

 戦いの才能もないし、断言してもいいが、彼は社会不適合者だ。

 

 そのうえで、では、彼は弱いのか?と思う人間もいるだろう。

 

 世間一般はそうだと言うだろう、実際、彼は目立った討伐実績もない人間だ、それも間違いではない。

 

 だが――同業者は、心から不思議そうな顔で、首をひねって言うだろう。

 

「いや、そんなこともないんだよな……」と。

 

 確かに、彼は弱い。

 

 ある程度以上の魔物には火力が足りないし、彼よりも格闘や戦闘において強いヒーローはそれこそ、ごまんといる。彼よりも短い経験で、もっと華々しい活躍を――まあ、勇者がいるので陰に隠れてはいるが――している者もいる。

 

 だが、そういった人間も、皆一様に口をそろえてこう言うだろう。

 

「強くは、ないんだけど……なんか、弱くもないんだよね。」と。

 

 

 

 

 

 廃工場の冷たいコンクリートが、両者の踏み込みによって爆発的に砕け散った。

 

 超高密度の魔力によって分子レベルの鋭さを持った妖霊の手刀が、夜空のごとき青き超人の首筋を刈り取らんと迫る。音すら置き去りにしたその一閃は、空間そのものに亀裂を走らせるほどの絶対的な殺意を帯びていた。

 

 超至近距離。互いの吐息すら届くこの間合いにおいて、扇雄介の最大の武器である「未来予知」は、その機能の半分を喪失している。

 

 2分先の未来を見通せる彼であっても、この距離、この速度域では、脳が事象を観測し、神経に回避の信号を伝達するまでのわずかなタイムラグが致命的な遅れとなるからだ。

 

 精神が肉体を凌駕している扇雄介と言えど、肉の枷は超えられない、どれだけエフェクトを盛っても人間はアニメのキャラにはならないのだ。

 

 だが、扇の動きに微塵の乱れも生じなかった。

 

 首元への横薙ぎ一閃は、しかし、彼の極少ない動きによって躱される。

 

 半歩。

 

 それが、妖霊と扇雄介の間にある距離であり、この紙一重と呼んでもいい極微細な――妖霊という人間をはるかに凌駕する生物をもってすれば、眼を開く方がはるかに疲れるだろう距離がどうしても埋まらないのだ。

 

 左手による一閃が、半歩後ろに下がることによって躱された直後、妖霊の右手が蠢動する――貫手、それも、肉体改造による遠隔攻撃。

 

 伸縮する腕によるその一撃は、なるほど、万物を貫く槍のごとき鋭さでもって扇の頭部を貫かんと中空を駆ける。

 

 それは、並のヒーローなら――いや、勇者であっても躱しえない一撃、ほぼ質量を消し去った一撃は、光速にほど近い速度で、蒼の人型に向けてしなやかに飛び出す。

 

 が、当たらない。

 

 まるで『予知されていることを予知している』かのように、扇雄介の動きには無駄がない――いや、無駄があるはずなのに、なぜか、その無駄を含めた紙一重が貫けない。

 

 瞬間的に腕を消し去る、引き戻している時間はない、次弾が――

 

「ゴヴッ……!」

 

 ――すでに着弾している。

 

 高速で生やした腕によるガードの隙間、まるで針の穴を通すかのように正確に放たれた裏拳を、扇雄介と同じように上体を逸らして躱して――反対の手によって放たれたボディブローが腹部をえぐった。

 

 そのまま、放たれるのはラッシュだ。

 

 引き戻す右腕の反動を使っての膝蹴り。

 

 後退した瞬間、折りたたまれていた足が伸び、みぞおちに一撃。

 

 さらに距離を取ろうと体を後ろに投げ出そうとした瞬間に放たれた念力によってこちらの足を止められ、足を戻しながらの右腕による拳打。

 

 拳を放った位置から、折りたたんでの肘。

 

 腰を回して右胸に左拳。

 

 そのまま振り上げた腕であごをかちあげられて、右腰に吸い付くように当てられていた右こぶしが喉を貫く。

 

『な、ぜ……?』

 

 予知が追い付かない?

 

 いや、予知は追いついている、そのはずなのに――なぜか、この男の動きに反応できない……

 

 ――妖霊を含めて、3人の超人以外誰も知らないことを教えよう。

 

 これまで、扇雄介を『超能力者』と呼び続けてきたことは、聡明な皆様ならばご存じだろう。

 

 では、超能力者とは何だろうか?

 

 念力を扱う者か?そうだ、だがそれだけではない。

 

 確かに、一見すると、彼は派手な念力を使い、未来を不安定に予知する『PK《キネティスト》』に見えることだろう。

 

 だが――実際は、少し違う。

 

 彼が生まれて初めて会得した超能力は、未来予知だった。

 

 今に比べてもなお、不安定で、うすぼんやりとしたそれは、しかし、明確に彼の中に宿った最初の超能力だった。

 

 彼自身、自覚していないそれは、ずっと彼の中に宿り、以降20年にわたり、彼の中でその力を発揮し続けてきた。

 

 2分、変身状態における完全なる予知を行える時間である。

 

 では、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 否、そうではない。

 

 確かに、変身中に比べればあやふやで、ずっと短い時間だが――彼は、平常時でも未来を見ている。

 

 1.7秒。

 

 それが、彼が『()』変身時に見ることのできる完璧な未来予知だ。

 

 そして、彼は20年の間――そう、ヒーローとして活動してきた10年を含む20年の間、彼は、この予知と共に戦い続けてきた。

 

 この世で最も『未来を見ながら殴り合う』ことにたけているのは、彼だ。

 

 その辺の、にわかの予知能力者になど負けようもないし――いわんや、肉体を得て、殴り合いを一度もしてきたことのない予知能力だけの女にこの距離で負けるいわれなど、彼には全くないのだ。

 

 それを、妖霊は知らない。

 

 知らないが――負けそうだということはわかった。

 

 ゆえに。

 

 ごぼり。と喉が膨れ上がる。

 

 圧縮血塊砲。

 

 とある理由から、魔法の扱えぬ今の彼女の使える最大火力の遠距離攻撃。

 

 それを――放つ。

 

 喉が破裂し、高圧で圧縮された一撃が、まるで剃刀のごとく空間を切り裂き、コンクリをまる豆腐のように割断する。

 

 自分の顧客から着想を得た一撃、人を丸々1人飲み込むに足る超威力の血液の放流に一瞬のスキが生まれる――

 

「と、思ってたんだろ?」

 

 ――と、思っていたのだ。

 

「さっきから思ってたが――どうも、未来予知は僕の方が上らしいな。」

 

 背中に衝撃、瞬間移動だ、一瞬で背後に回った超人の蹴りが、妖霊の体をはるか上空にいざなう。

 

「それから――電光操作もな。」

 

 飛んで行く妖霊を見ながら一言つぶやいた時、扇雄介の体はひと瞬きの間に、その体を飛んで行く妖霊の真上にいざなっていた。

 

 ――超力拳法――

 

「――雷撃。」

 

 拳が、落ちた。

 

 バチン!と音を立てて、限界まで増幅された生体電流と過剰に圧縮された念動の圧力が妖霊の体内で解放される。

 

 落雷が、落ちた。

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