特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第159話:Dの終わり……?/幼少期の終わり

「――やはり、我々の領域外で『最初の方々』に勝るのは無理ですね……?」

 

 そう、困り果てたように告げたのは、すでに黒焦げになった妖霊の女だった。

 

 雷撃の余韻が空気を焼く焦げ臭い匂いとなって、廃工場に立ち込めていた。

 

 扇の放った超力拳法の直撃を受けた真紅のスーツの女は、もはやその精巧な人形のような外殻を保つことすらできていなかった。右半身の炭化は全身へと波及し、黒焦げの炭のようになって崩れ落ちていく。

 

 彼女の放った最期の思念は、3次元世界という物理法則の牢獄において、自分たちの高次元の力がこれほどまでに通用しないことへの諦念に満ちていた。

 

 彼ら妖霊が弱かったわけではない。相対した人間たちが、狂気的なまでの鍛錬によって物理と精神の限界を突破し、特撮ヒーローという偶像を現実に顕現させてしまったがゆえの敗北だった。

 

 その力の差に愕然と、しかしどこか朗らかに、妖霊はその身が朽ちるのに任せて消え去――

 

「――死んだふりはよせ、この程度じゃ死ぬまい。」

 

 扇は無造作に腕を振り下ろし、崩れゆく女の残骸から漏れ出そうとする高次元の成分――妖霊の核たる魔力の集合体を、念動力の不可視の檻で包み込んだ。

 

 極限まで収束させたψ意識場の圧力を用いて、その周囲の空間座標ごと絶対的に縫い留める。

 

 この世に非ざる超圧力が、空間を圧搾し、時間に据え置かれる――ゆるやかに流れる時の中で、物理的な影響はこの次元に力を及ぼすことができない。

 

 このまま回収して、天塚の『装置』でプランクプレーンに落とせば、この生き物が暴れることもできまい――今の科学技術に限定しなければ、妖霊とだって渡り合えないわけではないのだ。

 

 空中に浮かぶ仄暗い赤色の球体が、真紅の女の成れの果てだった。

 

「あら、ばれましたね?このまま、気が付かずに放置してくれれば、こちらとしても逃げ出しやすかったのですが。」

 

「ぬかせ、お前は逃がさん。」

 

「ご婦人がいるのにそのような熱烈なプロポーズをなさってはいけませんよ?我々は皆さまの幸福を願う者、ご家庭に不和を招くつもりはありません。」

 

「……ごふじん……?」

 

「おや……ゆかり様も、ご苦労が絶えませんね?」

 

 などと楽しげに笑う妖霊を無視する――何を言っているのだろうこいつは?

 

 周囲を見渡せば、事態は完全に収束の時を迎えていた。

 

 羽毛をなくし、すっかりと元の人間の体に戻っている、ローンウルフの姿は惨めというほかない。

 

 彼は自らの絶対的な優位性が崩れ去った現実を受け入れられず、眼球を血走らせて身をよじっているが、扇の絶大なサイコキネシスによる重圧は、彼の筋繊維1本すら動かすことを許さなかった。

 

 彼に与えられたH.A.Dの力は、扇の徹底した制圧によってその影響の1ミリに至るまで消散され、その痕跡すら彼の細胞に残さない。

 

 もしも、治療薬ができていなければ、それなりに対策がいる状態だったが――あの分なら、早晩天塚が治療薬をばらまくだろう、ならば、こいつにはその『被検体』になってもらうことにすればいい。

 

 偽りの勇者として得た虚栄心も、信者たちに向けた肥大化した承認欲求も、すべてはこの廃工場の冷たい床に叩き伏せられ、二度と立ち上がることはない。

 

 彼を待っているのは、正義の味方たちによる容赦のない真実の公開と、社会的な完全なる死だけだ。

 

 そこから少し離れた安全な通路には、分厚い金庫のような装甲を解かれた美咲が、穏やかな寝息を立てていた。薬によって極限まで増幅されていた負の感情は、扇の緻密な精神操作によって深く鎮められ、今はただ疲労困憊した1人の母親に戻っている。

 

 彼女をこれ以上、理不尽な戦いに巻き込むことはないという静かな決意が、扇の青い肌から放たれる微かな波動から読み取れた。

 

 そして、その奥の物陰で気を失っている白雲ゆかりの無事を確認した直後、鏡面次元の空間が不自然に歪んだ。

 

 世はすでにこともなく、事態は収束した、そういっていいだろう。

 

「今回は完敗でした、さすがですね、『初めの方々』。」

 

「……前から思っとるけど、何なんそれ。」

 

「あら、存じませんか?」

 

「知らんね。」

 

「ふむ……そうなると、あなた達は真の意味で『幼少期が終わった』のでしょうね、素晴らしいことです、うらやましいですよ。」

 

「めっちゃ意味ありげなこと言って煙に巻くじゃん……」

 

「フフッ、お気になさらず『初めの方々』。」

 

「その名前嫌なんだが。」

 

「あら、ではなんとお呼びすれば?」

 

「ん?……そういえば、名前決めてないな……」

 

 顎に手を置き思案し始めた瞬間だった。

 

 大気が波打ち、2つの影が音もなく扇の左右に降り立つ。

 

 東の戦場で浮遊要塞を解体した天塚新と、西の戦場で鋼の巨人を両断した七星一也だった。

 

 彼らの手にはそれぞれ、扇が捕縛したものと同種の、妖霊の核が握られていた。

 

 天塚の手のひらの上では、ステンドグラスの破片と臓器の残骸を幾重もの光の層で密閉した立方体が静かに明滅している。

 

 それこそが彼独自の空間位相技術、プランク長レベルでのエネルギー制御の結晶であり、対象の干渉を完全に遮断する絶対の檻だった。

 

 王心七征拳の奥義による内部破壊を受け、構成成分の結びつきを断ち切られたその核は、もはや抵抗の意志すら示さず、ただ死に絶えた蛍のように微弱な光を放つのみだ。

 

「お疲れ、ぶった切ってんジャンそいつ。」

 

「仕方ないだろ、俺に拘束技とかないんだから、不可抗力だろ、常識的に考えて。」

 

「それでも殺してないあたり大したもんですよね。」

 

 そう言って、苦笑する天塚に同意する――さて、事ここに至っては事態の収拾は完了、エンドロールが流れ、スタッフロールと共に次の番組が始まる。

 

 あとは、家に帰るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ、妖霊捕まえたのって水面の奴ってことにしていいのかね。」

 

「あー……まあ、勇者3人が協力したってことならたぶん納得するでしょう、力の差とかわかってないでしょうし。」

 

「そこまで考えてなかった―……」

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