特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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Bの拍動/親愛なる皆様へ
第161話:あれからしばし


 気温が高まっていく今日。

 

 夏休みも目前、世間ではバカンスの企画やらお盆の計画やら騒がしくなっていく今日この頃、不快な熱気はさることを知らない。

 

 暑い。

 

 もう夕方だと言うのにじめじめした空気が全身を包み、不快感がなめ回すように纏わり付く。

 

 そんな日々を過ごしているある少女達はリビングで氷の詰まったグラスを傾けている。

 

 片や炎のように明るい赤い髪。

 

 片や月明かりのように白い髪。

 

 汗に濡れた額を拭い少女はため息をつく。

 

「熱ない?」

 

「あついねー……張り付く感じ……」

 

「南極いかん?テレポートできるやん御影。」

 

「えー……つかれるじゃん……」

 

 ぐったりと、あるいは精魂尽き果てた様子ではソファーに寄りかかりながら空になったグラスを目の前で揺らし視線を移す。

 

 自分のいるリビングの先、台所では二つの人影が動いている。

 

 片や、髪型はサイドを長めに残したショートヘアで、前髪は目の上で切り揃えられている少女、目の下には深いクマがあり、前髪を無造作にクリップで留めていることが多い。

 

 が、今は少し様相が違う、サイドバングの部分がおさげのように長くなっている、目鼻立ちの整った美麗な少女―――に、見える成人女性。

 

 白雲ゆかり。

 

 基本的に実家を嫌っている彼女は、普段研究室から出てこないその体を、珍しく黒土家にその身を置いていた。

 

 彼女たちの姉――いや、まあ、厳密に言えば姉ではなく従妹だが――であるゆかりはもう二十を超えている。

 

 結婚も可能だし酒も飲める年だ、まあ、最も、基本的に酒を飲むこともないし、もっと言えば結婚など比とrを除いて男に興味もない彼女には縁遠いのだが。

 

 片や、黒土未来。体型のせいか若々しく見えるものの、顔にははっきりと小ジワがあり成人した子を持つ中年女性だ。

 

 母と姉、二人が夕食の準備をしているのを眺めていた。

 

 姉妹は料理はしない、台所には入らない。家事をしない訳ではない――が、する気はない。

 

 彼女たちが行う、ささやかな勇者としての家族への暴虐である。

 

「お母さん、今日の夕飯何?」

 

「今日はお客さんが来るから、ちょっと奮発したにしたわ」

 

「ん?お客?」

 

「そうですよーそろそろ来るんじゃないですかね。」

 

「……誰が――」

 

 その時だ、チャイムが言葉を区切るようになったのは。

 

「御影か灯、出てください。てぇ離せないので。」

 

「へーい……」

 

 だらっとした様子で、灯が扉に向かう――驚きに満ちた声が響いたのはその直後だった。

 

「――兄ちゃん!?」

 

 御影が、驚いてソファーから飛び起きる。

 

 兄。

 

 それは久しく聞いていない名だった。

 

 兄――と一言で言っても、直接的に兄というわけではないのだ。

 

 ゆかりと同じく、黒土家の従妹に当たる家、赤坂家の一人息子。

 

 忙しい母や父に代わり、小鬼に襲われたショックでしばらく火事ができず、面倒を見られないという理由で預けられていたゆかりや自分達姉妹とよく遊んでくれる自慢の兄だった。

 

 今でも白雲家に住んでいる両親と近い場所に住む彼は、ゆあk理と実家をつなげる数少ない線の一つでもある。

 

 そんな兄が帰って来る。大学を卒業し、就職し、独り立ちした兄がだ。

 

「聞いてないよ。お姉ちゃんも知ってたの?」

 

 むっとしたように唇を尖らせる御影に、ゆかりは一瞬首をひねってから。

 

「ん?ああ、言ってませんでしたっけ……最近、忙しかったですからねぇ。」

 

「あー……」

 

 こればかりは反論出来ない。

 

 妖霊の確保から一週間、ゆかりは初めて研究室から出て来たし、母だって三日ぶりの帰宅だ。

 

 一応水面――水鏡の勇者の手柄ということになっている妖霊の確保だが、それでも、協力した御影や灯、そして、彼女たちが所属している黒土製薬も、それなりの注目という物を浴びたのだ。

 

 結果的に、仕事は加速度的に忙しさを増し、特撮班三名は、生きてるんだか死んでるんだかわからない様子で今も仕事に励んでいる。

 

「……まあ、しかた、ないかな。」

 

 そう、御影が思うほどの激務だったのだ。

 

「ただいま。」

 

 そんな暗い気持ちを払拭するように玄関から男性の声が聞こえる。

 

「お兄ちゃんだ!」

 

 パアッと一気に顔を明るくする。だが御影の笑顔は続けて聞こえた声に凍り付く。

 

「おじゃまします」

 

「……………………は?」

 

 聞いた事のない若い女性の声に。

 

 

 

 

「……どうなってんだろうなぁ、食事会。」

 

「知らん……これ、書いてる内容会ってる?」

 

『否定、間違いが二十四か所発見されました。』

 

「……」

 

「リーダーが萎れている!」

 

「いや、ほんとに痩せだしてっけど大丈夫か……かっこつけて帰っていいとかいうから……無理筋だと、分量的に考えて。」

 

「……ヒサビサニアエルッテタノシミニシテタカライイダセナクッテ……」

 

「損する性分ですねぇ……」

 

「セイギノミカタダカラネ……」

 

「まあ、言えなかったんだから仕方あんめ、さっさと終わらせて飯食うだろ――って、お雨あれか、飯食えんの明後日か。」

 

「イイヨイイヨ、フタリデイッテラッシャイ……あ。」

 

「ん?なんです、修正液なら備品質ですよ。」

 

「ん、いや、そうじゃなくて――なんか、僕、御影に殺されるっぽいわ。」

 

「「――はぁ?」」

 

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