特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

162 / 164
第162話:確執

「え”、マジで先輩がそういったんですか?」

 

「嘘ならさすがに話題には上げてないだろ、常識的に考えて。」

 

 食事会の翌日。

 

 出社してきた白雲ゆかりに七星は渋い顔で尋ねた。

 

 先立っての位置に、萎れたかいわれだいこんのようになっていた扇雄介の発した一言は、友人たる二人の耳に刺さり――棘のように、今日、この時間になるまで耳を苛み続けた。

 

 これはいけない――そう考えた二人が、直接的にゆあk理に話を聞きに来るくらいには、重大な爪痕を残したのだ。

 

「これまでも、彼が自分の死を予見したことはありましたが――さすがに、自分の後輩に殺されると予言したのは初です、昨日の食事会で何かがあったんでしょうが……何があったんです?婚約発表でもしましたか?」

 

「む、いえ、それは――先輩の誕生日にする予定なので。」

 

「え、マジで婚約したの?」

 

「?先輩は私の物なのだから、常に婚約はしてますよ。」

 

「……君も、結構変な奴だろ。」

 

「……?」

 

 心から不思議そうに首をかしげるゆかりに向かって渋い顔をする二人は、しかし、より緊急性の高い問題に取り組む決心をしたらしい。

 

「で?そうじゃないとしたら、何があったんだよ。」

 

「……先輩方も、先輩と私の実家の……揉め具合は知ってるでしょう?」

 

「あー……」

 

 さて、ここで少し、内々の話をしよう。

 

 扇雄介は、白雲の家――ひいては、黒土を除くその親類の家から蛇蝎のごとく嫌われている。

 

 なぜか?と言われれば、それは白雲家と彼のファーストコンタクトである『ゴブリン討伐事件』に端を発する。

 

 以前も語った通り、彼は幼稚園において起きた魔物召喚時、彼は、いの一番に幼稚園を飛び出し、襲われていた母子――そして、実はそばにいたものの何もできなかった父親を救った。

 

 それは、ひどく英雄的な行為であり、賞賛されるべきことだ――そのはずだった。

 

 だが――それは、果たして一般の人間にとって、どう映るのかを、彼はその時、考えられる状態でも、考えられる経験があるわけでもなかった。

 

 あの当時、まだ勇者も、ヒーローすらそれほど一般的でなかったあの頃。

 

 死神コルト登場からわずか数か月で作り出されたトランサーによって加速度的に増えたヒーローだったが、あの当時の世界にそれを全世界規模で作り出す余裕など当然なかった。

 

 特に、島国であるこの日本においては普及が遅れて――結果的に、魔物を枯れる人間の数は常に不足していた。

 

 つまり、魔物とは災厄の代名詞であり、断言してもいいが、一般幼稚園児が殺しうる生き物では断じでなかったのだ。

 

 そんな生き物を、幼稚園児が、その辺に落ちていたガラスと棒きれで打倒した。

 

 そんな人間に、一般の人間が与える評価は、決して素晴らしい物にはとどまらないものだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 白雲ゆかりの父は、恐怖と混乱とふがいなさを怒りにして扇雄介にぶつけた。

 

 白雲ゆかりの母は、あの日の恐怖を扇雄介に転化した。

 

 扇雄介は――それを、甘んじて受けた。

 

「……助けてもらった分際で……」

 

 苦々しくつぶやく白雲ゆかりの顔にさす憤りの色に、この問題の根深さが表れている。

 

「まあ、そこは、仕方ないのかもしれんが。」

 

 七星は肩をすくめる――仕方がないのだ、こればかりは。

 

 化け物を倒せるのは化け物だけだ、というキャッチフレーズを撃ちだした映画が過去どこかであったように。

 

 基本的に、人は強すぎる力に恐怖し、その前にひれ伏すことのある生き物である。

 

 ゆえに、それを打倒する者もまた――同じ扱いを、受ける者なのだ。

 

「……まあ、そこに関しては諸説あるとして――それが、なんだって、あいつが殺されるって話になるんだよ。」

 

「その……赤坂の親類ともめまして。」

 

「あー……」

 

 聞いたことがある、たしか――

 

「昔、世話になってた人だっけ。」

 

「世話、というか、打算交じりに子守をされていたというか。」

 

 あの二人にとって彼がどんな人間だったかはともかくとして――少なくとも、ゆかりにとって、あの男はその程度の相手だ。

 

 ゆえに、婚約者らしき人間を連れてきたことも、久々胃に開かれた食事会に自分が招かれたことも、気にはしていなかった。

 

 ただ、問題だったのは――

 

「……先輩と、もう付き合うのはやめるべきだと言われまして。」

 

「……まあ、そうだろうな。」

 

 でなければ、如歳のないこの娘が、他人ともめることなどしないだろう。

 

 大方「ご家族も心配してる」とか「あんな危険な人間」とか、まあ、そんなようなことを言われたのだろう。

 

「否定はできんわな。」

 

「こんな職業について「特撮ヒーローになります!」とかいってる人間ですからねぇ。」

 

 それは、十分納得のいく話だ――まあ、それでそれなりの実績を残しているのだから、心情的なものを除けば、彼だって否定された人間でもないのだが。

 

「で、もめたか。」

 

「……確かに、先輩が普通でないことは認めましょう、普通でない夢も持っているし、先輩たちの正体が世間にばれていない以上、妄想だと受け取られることもわかっています。結果オーライとはいきません。」

 

 ただ。

 

「あの人のそばにいるのは、私が決めて、私がそうしたいと思ったことです。それを他人にとやかく言われるいわれもないでしょう。」

 

「心配してんだろ。」

 

「私に一度も直に連絡してこない連中がですか?おばさまとあの二人以外親族とは没交渉ですし、それで困ったことはありませんよ。」

 

「将来のこととか考えてるんでしょう。」

 

「人生二回分の金は溜めました。現状、世の中に存在する最高の医療を今この瞬間から、先輩と二人で受けたってあの連中に迷惑はかけません。」

 

「……ま、あいつも金は持ってるが――プレ版ぐらいしか買わんし。」

 

「僕だけなんですよねぇ、お金ないの……」

 

 そっと遠い場所を見るように天塚がつぶやく――機材がね、機材が高くて……

 

「あの連中が私たちに対して口さかなく文句を言ういわれはありませんよ。」

 

「と、その赤坂の兄とやらに言ったわけか。」

 

「……いえ、まあ、その、そこまでは言ってませんが。」

 

 近いことは言った。

 

 そして、それは、黒土御影にとっては到底受け入れられないものだ。

 

 以前より語る通り、彼女にとって『かぞくでないもの』への感情は非常に希薄だ。何なら、殺していない理由が思いつかないほどに。

 

 そして――彼女にとり、赤坂の兄とやらは、家族なのだ。

 

『自分が望む「家族」』-『赤坂の兄』=『御影の世界の崩壊』である。

 

 つまり、御影の中である方程式が出来上がってしまったのだ。

 

『扇雄介が存在する限り、自分はのぞむ家族の形になれない』という方程式が。

 

 そして――『彼女は、自分の世界を侵す存在を許せる精神状態ではない』のだ。

 

「……面倒なことになったな……」

 

 渋い顔で七星がつぶやく――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「妖霊がかたずいたと思ったら、今度は勇者か……」

 

 面倒くさそうな顔で、七星はそっとため息を吐いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。