特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第164話:勇者狩りという男

 するりと、周囲を確認する――人っ子一人いない。

 

 隠避の領域。魔法の力によって引き起こされる人の無風空間。

 

 人の認知に介入し、特定範囲内に存在する人間たちをその場所に侵入不可能にするための術。

 

 この時間において、ひどくはた迷惑な術は、しかし、この男なりの慈悲だ――勇者同士の殺し合いに一般人が巻き込まれて、待っている未来は一つだけだ。

 

 勇者狩りの仕事の際に使われるお得意の秘術だ。

 

「相変わらずうまいことやるな。」

 

「相変わらず、お前たちには効かない。」

 

「そういう鍛え方でね。」

 

「お前たちが会社に提出した報告書を見た、妖霊はお前たちが捕まえたようだな、おめでとう。」

 

「どうも――これで、勇者召喚を多少でも止められるといいんだが。」

 

「まったくだ。」

 

「――さっきも言ったが、僕は被害者ってわけじゃない、あの子はまだ、『お前の討伐圏』には入ってないぞ。」

 

「……またそれか?勇者に更生など無意味だと何度も言ったはずだが。」

 

「僕らはチャンスを与えるべきだと何度も言ったはずだが。」

 

 肩をすくめる――数年前、この男がこの次元に帰還して8件目の事件で出くわして以降、彼との会話はこの平行線を繰り返している。

 

 以前、『典型的なパターンB:元来問題があった個体』として名を上げられた彼は、基本的には善良な人間だ。

 

 正義を重んじ、人道を解する、一般人の被害を極端に嫌い――というか、憎悪している――一般人に手を出させないためにならば、町一つを魔法の影響下に置くこともいとわない。

 

 そこだけ聞けば、彼は優れた……そう、絵にかいたように勇者と言っていいだろう。

 

 だが、実際の彼は、一般人から危険人物のレッテルを張られている――その原因こそが、彼を典型的なパターンBに分類している最大の理由だ。

 

 彼は、いじめられっ子だったのだという。

 

 元々、線の細い体だったこともあり、簡単にいじめの対象になったと、当時の同級生は語っていた。

 

 それゆえなのか、あるいは、異世界での経験が彼に何かを決心させたのか、さもなければ妖霊たちの加護が悪さをしているのか、単純にそれらすべてが併発しているのか――彼は、『勇者こそがこの世の害悪の温床である』という歪んだ認識を常に持ち続けている。

 

 たとえ話をしよう。

 

 道に一人の子供が歩いていたとしよう。

 

 その子は、ごく普通に道に歩き、ごく普通の不幸として道にある石につまずいた。

 

 もし、その光景を見た時、あなたは一体何がいけなかったと思うだろうか?

 

 ああ、かわいそうな事故だなと思うだろうか?

 

 大抵はそうだろう。

 

 道を施工した施工業者に憤りを感じるだろうか?

 

 それもあるかもしれない、あまり多くないが、そういった人間がいることは間違いない。

 

 その子の注意不足だろうか?

 

 少数ながら、そういう人間もいるだろう。

 

 石ころに殺意を抱くだろうか?

 

 本当に少数ながらそういう人間もいるかもしれない。

 

 様々な人間がいるが――その場に存在しない人間に、それも何ら関係のない人間に怒りを持つ人間はほぼほぼ存在しないだろう。

 

 だが、勇者狩りは違う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 嘘でもいいわけでもなく、彼は本気でそう信じているのだ。

 

 一切の脈略もなく、一切の蓋然性もないが、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、彼は勇者を殺す。

 

 魔物を狙わないのは『魔物はヒーローでも倒せるから』だ。

 

 だが、勇者は無理だ、ヒーローが束になっても殺せない。

 

 だから、自分が殺さなければならない。そこに一切の論理的な破綻はないと、彼は固く信じている。

 

 元々、権力者やいじめっ子によってゆがめられた『悪人こそがこの世における害悪である』という発想が加護によって『勇者という最大の悪徳を滅ぼすべきだ』という思考に固定された化け物――それが、勇者狩りだった。

 

 ゆえに、彼は『殺すべき勇者』を探すことに余念がない。

 

 その影響幅は秩序体現委員会に比肩する――集団相手に彼は1個人で匹敵すると目されているのだ。

 

 実際、勇者特措法において、殺害対象になった勇者の殺害数は彼の方が多いのだ、一個人でありながら。

 

 だから、彼は『あらゆる勇者が殺せる存在』でいるために並外れた力を維持している。

 

 その力は、秩序体現委員会の上位層全員と同時に戦ってなお、優勢だと謳われるほどであり、彼は間違いなく、この世界における最強の勇者の1人と言っていい力を有しているのだ。

 

 そう、彼は勇者として最高の強者だ――黒土姉妹ではとてもではないが手が出せない。

 

 ゆえに、この男の呪いの中に入ってまであの2人に手出しをさせないようにくぎを刺しているのだが――

 

『――今日の用はそっちじゃないな?』

 

 明らかに、この男の狙いはあの2人ではない、この状況になっても、自分の目の前に立っていることがその証だ。

 

 もし、あの2人が狙いなら、自分が情報を流す気がないと判断するや、即座に自分の目の前から消えているはずだが――その様子はない。

 

 となれば――可能性は1つだ。

 

「――笹藤 麗華の姉、笹藤 春華《はるか》を狙っていると言う勇者の情報をよこせ、俺が殺す。」

 

 ――こういうことだろう。




待っていてくれた方がいるかはわかりませんがお待たせしました!
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