特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第165話:関与する者

「はい、そうですかつって渡すとも思ってないだろ?」

 

「できればそうしてほしいが。」

 

「断る――何度も言うが、勇者にだってやり直す機会はあっていいはずだ。」

 

 その一言が、彼とこの勇者の決定的で、譲れなくて――だから、この2人が共にいない理由だった。

 

「あれらは、確実に人を傷つけ、この世を汚染する――殺さなければならない。」

 

 それが、勇者狩りの主張だ、それは、ある意味とても妖霊の言っていたことに似ている。

 

 確かに、勇者は病だ。癒えることを知らず、癒されることを望まない。

 

 だが……だが、それでもと言い続けるからこそ、ヒーローというものは奇跡をつかめるはずだ。

 

「裏切られ続けても信じることをやめないでくれってのが、あこがれの人の訓示でね。」

 

「……」

 

 困ったような雰囲気が漂う――当然だろう、彼からすると味わったことのない状態のはずだ。

 

 先だって語った通り、勇者狩りは『()()()』一般人を巻き込まない――そして、その一般人とは、『勇者ではない人』を指す。

 

 そう、つまるところ――彼にとっては、ヒーローである扇雄介も『手を出せない相手』の一人なのだ。

 

「僕の思考がのぞけなくて困ってるんだろう?悪いが、読心関係の力なら僕の方が君より上らしいな――本気出されると、こっちも本気出すしかなくなるんだが。」

 

 それはお互い避けたいところだ。

 

 こんなところで勇者とそれを凌駕する超能力者が本気で精神波などぶつければどんな事故が起こるかわかったものではない。

 

 ゆえに、硬直――諦められない2人の男は、それゆえににっちもさっちもいかなかった。

 

「――お前でも見つけられないのか?」

 

 だから、扇の方から歩み寄ることにした。

 

「……ああ、存在している確信すら得られない。」

 

 あり得ぬことだ。

 

 言ってしまえば勇者狩りは1つの()()だ。

 

 あらゆる領域に対応し、不得意がなく、そのすべてが一線級を超える。

 

 この男を起点に、勇者の能力の上限が定められているといっていい。この男の能力を部分的に超える勇者を『天井組』などと呼ぶほどに、この男の能力は高い。

 

 そいつが、勇者1人見つけられない?ありえないことだ。

 

「そうだ、もしも、俺を凌駕する秘匿の勇者がいたとして――そんな人間が、女一人を狙って『手中に収めていない』のは明らかにおかしい。」

 

 外套の内で爛々と光る眼が細まる。

 

 誰もいない交差点。朝日がビルの隙間から差し込み、アスファルトの表面を白く焼き始めている。

 

 隠避の領域が生み出す異常な静寂の中で、扇雄介は吊り上がった多面体結晶の瞳を僅かに細めた。

 

「贈り物があったんだろ? 」

 

 扇の声は、乾いた風のように平坦だった。

 

 その言葉を受けた勇者狩りの反応は速かった。外套の影から覗く指先が、微かに、けれど鋭く動く。

 

「……そうだ。物質転送。あるいは創造の類。秩序体現委員会の『観測者』ですら、その座標の起点を特定できなかった。最初からそこにあったかのように現れたらしい。」

 

「『追跡《トレース》』は?あんたの十八番だろ」

 

 勇者狩りの能力は万能に近い。物体に残留した魔力や念の残滓を辿り、その主の居場所を突き止めることなど、彼にとっては造作もないことだ。

 

 だが、勇者狩りは答えない。ただ、深々と被ったフードの奥で、暗い殺意を煮え立たせているだけだ。

 

「辿れなかったのか。」

 

 扇の推論に、勇者狩りの肩が僅かに震えた。それは驚愕か、あるいは激しい憤怒か。

 

「何も残ってなかった、秘匿型の勇者にしても――異様だ。」

 

「だろうな、お前も秩序委員会も見つけられないとなると……」

 

 扇の言葉に、勇者狩りの気配が膨れ上がる。交差点の空気が、鋭いナイフを突きつけられたかのように張り詰めた。

 

「……妖霊か。」

 

「気が付いてたんだろ?だから僕らに話を聞きに来た――んだろうが、あいにく本気で何も聞いてない――というか、さすがに昨日の今日で妖霊に話は聞けん。ちなみに言っとくが、僕は妖霊の収監場所は吐かんぞ。」

 

「っち!」

 

「ありありと舌打ちしなさんなよ……妖霊には手ぇ出すなよ、お前でも勝てんぞ。」

 

「断る――勇者を生み出すのなら殺す。皆殺しだ。」

 

「……ま、そう言うわな。」

 

 だからこそ、こいつは勇者狩りなのだから。

 

「いいさ、お前の精神波は覚えた、ピンチなら助けに行くよ。」

 

「必要ない。」

 

「それは僕には関係ない。」

 

 扇は一歩、勇者狩りに向かって歩み寄った。

 

「いいか勇者狩り、お前がどう思ってるにせよ、僕はお前を死なせないし、ほかの勇者だって救いおおせるさ――黒土姉妹もだ。」

 

「……欲張りだな。何も手に入らなくなるぞ?」

 

「そう言われ続けて20年経ったが、欲しいものはほとんど全部手の内に収めたよ。」

 

 扇はそう言い残すと、背を向けて歩き出した――こちらの聞きたいことは聞けたし、向こうもそれは同じだろう。

 

 妖霊。

 

 超自然の長、偉大なる勇者の加護の源、あれが、またしてもこの事件にかかわり始めているのは間違いない。

 

 勇者狩りも、それが知りたかっただけなのだ――よしんば、それ以上の情報が出るかもと欲張ったのも事実だろうが。

 

 歩き去る――それぞれの目的を果たして。

 

 ここで妖霊の情報を得た以上、この男はこの案件に集中せざるをえない。そうなれば――黒土姉妹に手を出している余裕はなくなる。

 

 それに次に探すものもわかった――贈り物だ、サイコメトリーであれば何かしらの意味がある情報を引き出せるやもしれない。

 

「……扇雄介。」

 

 背後から、低く、押し殺した声が響いた。

 

「もし、お前が間違っていたら――その時は、お前から殺す。」

 

 その一言を聞いて、彼はふっと薄く笑った。

 

「――止めとけ、君はそういうタイプじゃないよ。」

 

 言いながら、彼はパチンと指を鳴らす――隠避の領域が、消える。

 

 超能力による解呪。

 

 隠避の領域によって放たれる精神干渉波をもう1つの波で打ち消すことで、魔術の発生を抑制し、結果的に魔術そのものをほころばせる超能力。

 

「!」

 

 その理屈は知らずとも、彼は生まれて初めて自分の魔術が他人に力づくで破られたことを悟った。

 

「たまには家に帰れよ勇者狩り、お母さん、まだお前のこと探してるぞ。」

 

 その言葉が聞こえた時には、すでに扇雄介の姿は雑踏の中に消えていた。

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