特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第174話:覚悟の決め時

「――で、情報を引っこ抜いてきたと。」

 

「ソウダヨー」

 

「なんかすごいやつれてないお前?かいわれだいこんみたいだろ。」

 

「フダンオコラナイカラツカレタヨー」

 

 萎れ切ったように扇雄介は答えた。

 

 いや、本当に体がやせ衰えているのだ――これもまた、精神が肉体を超えた弊害だ。

 

 首の骨を折られようとも死なぬ彼は、その実、精神的に疲れることが致命的な結果を産む――彼の肉体の代謝は、すべてが自己暗示と超能力の影響下にある。それゆえに、彼の超能力に陰りが出れば、肉体は衰え、死に瀕する。

 

 ゆかりが、異様なほどに彼を裏切ったことに対して謝罪の意思を持つのもそれが原因だった――彼は刺されても死なないが『裏切られたという事実』で死ぬことはあるのだ。

 

 最も、20年にわたる世間の冷えた目と無理解を乗り越えた彼がこの程度の疲れでここまでやせ衰えることはない、単なる演出だ――今朝がたから、どうにも厄介ごとが多いので、こうやって疲れ果てている体でいれば多少はましになるかと思っての、涙ぐましい愚行だった。

 

「あー自己暗示かけなおすの大変なんでしたっけ。」

 

「ソウダヨー」

 

「……で、なんでゆかりは雄介に張り付いとるんだね。」

 

「いや、その……妖霊に『あなたが欲しい』と言われ出した段階で半狂乱で暴れ出しまして……」

 

「ああ……」

 

 よくある発作だった、たまにあるのだ、自分の男に色目を使われると暴走する光景が。

 

 「あなたはわたしのです……」とのたまいながら、尺取り虫のようにひしと張り付いて離れないゆかりの頭を、カイワレのようになった扇雄介が撫でる光景は、何ともシュールだ。

 

「ああいうとこ見ると、御影たちの家族だなと思うなぁ」

 

「血を感じますよね。」

 

「ソコガカワイイヨネー」

 

「お前元気だな?」

 

 下らぬのろけに七星の目線が細まる――まあ、演技はここいらでいいだろう。

 

「まあ、まじめな話、妖霊共に裏の目的がないのがわかったのはデカいよ、純度100%善意でやってるはた迷惑な奴らってことだけはわかった。」

 

「よくはないですけどね。」

 

「「まあ、それはそう。」」

 

 善意100で拉致被害を連打されてはたまったものではない。こちらの迷惑というものを考えていないのだ、あの連中は。

 

「……なんかあれだな、思いやりのない光の巨人。」

 

「思いやりがないというか……歩み寄る気がないというか……」

 

「あれなんじゃよ彼ら、基本上から目線なんじゃよね『持ちつ持たれつだよ、井出』とか絶対言わないタイプの人。」

 

「あー……」

 

 言ってしまえば、それは、謙虚さの違いといってもいいのかもしれない。

 

 彼らが目指す先である300万光年のかなたに住まう彼らと異なり、妖霊たちには『自分たちも間違いを犯し、そして、それを自分たちよりも力のない種族は解決したり、乗り越えられる』という発想自体がないのだ。

 

「生まれた場所の差ってやつなんですかねぇ。」

 

「善意でやってるって割りに、自分らでピンチの世界に姿を現して戦おう!とはならんのよなあの連中。」

 

「まあ、物質領域に体をさらすのすさまじい苦痛らしいからなぁ……」

 

 少なくとも、ディーラー以外の妖霊2名はそれに耐えられずに勇者に拘束されている――ということになっている程度にはきついらしい。

 

「どんぐらいよ。」

 

「……直径0.0000001ミリの箱に無理から押し込まれて上から蹴られ続けるぐらい……?」

 

「ああ、そらむりだな。」

 

 一瞬で納得した――彼らにとり、この世界とはそういう場所だ。

 

「現地の人間に加護を与えるんじゃダメなんですかね。」

 

「だめなんじゃねぇの?多分あれじゃろ、向こうの人間も――」

 

「あー勇者みたいになったか。」

 

「で、異世界から浚って――」

 

「異世界に捨てるようになった。」

 

「まあ、そこが妖霊の発想なのか、異世界人側の発想なのかはわからん、一応異世界召喚とやらを能動的にやってんのは異世界人側なんだろ?」

 

「って話ではありますよね、なんとなくそれをさせるようにしてるのは妖霊な気がしますが。」

 

「またあれだろ、場当たり的に『これならリスクなしで救える!』とか思って授けたらこっちに被害きたからあわててんだろこれ。これまでの行動的に考えて。」

 

「だからって放置するなよ……変なの出てきてんじゃねぇか。」

 

 呆れに満ちた顔で告げる――3分しか活動できないほどつらい世界で戦う者たちへの尊敬が増すというものだ。

 

「で、麗華のねぇちゃん狙ってるって勇者の情報は?」

 

「あの分なら知らんな、手を貸してる妖霊の名前は出てきたが。」

 

「名前的に毒とか使いそう。」

 

「「ワカルワカル」」

 

 さて、こうなってくると取れる選択肢は2つ、その妖霊を探し出してとらえるか、さもなければお嬢様本人を守るか。

 

「一応、秩序委員たちも動いてはいるんだろ?」

 

「いる――が、妖霊に隠されると気が付けるのは僕らだけってことになる。」

 

「僕のドローンも、勇者連中には使えませんからねぇ、難しすぎて。」

 

「それはおめぇとゆかり以外誰も使ってねぇだろ。変身装置はお前しか使えんし。」

 

「となると、僕らが守るのが一番やりやすい話ではある。」

 

「で、御影の件と――ああ、そういえば、あの薬の件はどうするよ。」

 

「御影の学校の風紀に頼まれた奴?そういえば、まだ元締めまで入ってなかったな。」

 

「締めあげて、売れなくはしてるんですけどねぇ、隠れてるのか意外と尻尾が出てこない。」

 

「じゃあそっちもか……で、あとは――」

 

「――お前の件だな。」

 

 友人2人の射すくめるような視線に、扇雄介は苦笑する。

 

「僕がなんだよ。」

 

「いい加減、そっちの実家との確執どうにかしろよ。」

 

 七星の見つめる先にいるのは――ゆかりだ。

 

 何が言いたいのかはわかる、わかるが……

 

「……できないからここにいるんだろうに。」

 

 難しい問題なのだ、それができれば苦労はしていない。

 

「ゆかりは離れるつもりないんでしょう?」

 

「はい。」

 

「即答だもの、愛されてること……まあ、それはともかく、そうなってくると、もう避けられないだろ。」

 

「どうしろと?」

 

「嫌われてもいいから話して来いよ、覚悟はしてるだろ。」

 

 難しいことを言う。どいつもこいつも……

 

「……僕だぜ?」

 

「「お前だから押してるんだろ。」」

 

「……」

 

「先輩?」

 

「ん?」

 

「あなたが嫌になるまで、そばにいます、前も言った通りですよ。」

 

「……」

 

 こちらを見つめる後輩に、もう逃げられないことを悟った。

 

 いや、たぶん、もうずいぶん前から、この時が来ると―――

 

「――!?」

 

 眉間に鈍痛――未来予知?

 

「――ほう?いい度胸だな。」

 

 その一言と精神領域の奥から現れた念力がビル全体を覆ったのと天塚の監視機構から警報が鳴り響き、ビル全体が位相差形成防壁に包まれ、その障壁が何かを防いだのは同時だった。

 

「――ばれたか?」

 

「たぶん、秩序委員会と会って3時間、早いっちゃ早い方か。」

 

「予想通り毒の魔法でしたねぇ。」

 

 友人の声を聴きつつ、扇は顔をしかめる――覚悟を決めたと思ったらこれだ。

 

「やる事ばっか増えるな。」

 

 本当に面倒な日だ。

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