特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第177話:被害者と加害者と第三者

 翌日、扇とゆかりはとある部屋にいた。近頃ようやく着なれたスーツに長いテーブルと掃除の行き届いた白い壁。

 

 ここは会議室だった、それもそこそこお堅めな会社の。

 

 企業としては黒土製薬と比べれば小さい――というか、まあ、現在急成長中のわが社と比べてはいけないのだが――企業であるものの、それでも、世間一般では大手と呼ばれる製菓メーカーだった。

 

「やー助かるわ、怪人案件の後は話聞きに行くの義務になってたけど、知り合いのいないところに1人で飛び込むのちょっと気が引けるでしょ?」

 

 彼の隣にもスーツ姿の女性が1人。長い髪を1本にまとめた30代の女性――そう、いつぞや麗華を救ったヒーローである桜花乱舞が座っている。

 

 今回、彼がここにいるのはこの女性の依頼――というか、協力要請だった。

 

「いやぁ、うちの新人の暴走かばってくれたらしいから、これくらいならねぇ。」

 

「いいのいいの、私も相方も助かったしね、初めて会ったけど、やっぱ強いわ怪人。」

 

 からからと笑う彼女は、しかし、かすかに陰りを含んで見える。

 

 仕方のないことだ、彼女の相棒は現在療養中なのだから。

 

「怪人の1撃、もろに受けたんでしたっけ?」

 

「ガードしようとはしてたんだけどねー……さすがにねーあの年で全身打撲は堪えたみたい、復帰する気はありそうだし、体も治るけど……どうかなぁ……」

 

 コンビを組んで5年になる相棒は、今回が初めての長期離脱だ、正直、戻ってくるかはわからない。

 

 体はどうにでもなるのだ、どこぞの天塚大先生が作った薬品類は大変よく効く、問題は――心だ。

 

 1度、安寧とした暮らしを味わったとき、もう1度命のやり取りの場に戻ってこられるかは……わからない。

 

 誰もかれもが、夢だけを抱えて20年は走れない。わかり切ったことだった。

 

 それゆえ、彼女は現在、1人身で――だからこそ、怪人というものに造詣が深い組織に手伝いを訴えた。

 

「にしても……あの子、勝手に動いてるとは思わなかったわ、てっきりそっちの仕事だとばかり。」

 

「やー申し訳ない、実家で勇者がらみのごたごたでね、休職させとるんだ。」

 

「あー……今はねぇ、そういうのがあるからねぇ……」

 

 重い空気にさらなる重み――いや、不快感が乗った。

 

 少し前まで、よく聞いた話だ、魔王の来訪以降――正確には魔王を倒した不可思議な生物の登場から――勇者たちも鳴りを潜めているが、少し前までは本当によくあったのだ。

 

 大抵は泣き寝入りか――勇者狩りのような人間が現れるのを待つことしかできない。そんな、胸糞の悪い事件が、厳然と、世界にはあったのだ。

 

「まあ、こっちはいいけどさ、そっちも気をつけなさいよ?連中会社ごと更地にするぐらい平気でやるんだから。で、知り合いがいるんだって?」

 

「ええ、まあ、従兄が。」

 

 少し、顔に緊張をにじませて、ゆかりが告げる――それが、もう1つの目的だった。

 

 ノックする音が聞こえる。3人が立ち上がると扉が開き人影が2つ入ってくる。

 

 後ろの若い男性は見覚えのある顔立ちだった――おそらく上司と思われる初老の男性の後ろにいながら、彼の視線はなぜか扇雄介に向かっている。

 

「お待たせしました、商品開発部の赤坂です。」

 

「ヒーローの桜花乱舞です、お話は?」

 

「伺っています、弊社の小松が……H.A.Dの、密売現場にいたと。」

 

「はい、目下、怪人案件として、ヒーローによる調査を行っています――こちらは、黒土製薬所属の扇――」

 

「雄介さん、ですね、ええ、存じています。白雲ゆかりさんも、お疲れ様です、どうぞ。」

 

 ちょっと?と言いたげな視線が、雄介に刺さる――悪かったと思っている、結局、彼女は全く知らぬ話で孤立無援だ。

 

 こちらを見つめる若い男――赤坂猛は形容しがたい思いを抱えて、扇雄介を見ていた。

 

 お互いに一礼、お互い向き合うように座る。

 

「それで…………本当なのでしょうか?小松君が勇者ドラッグを?」

 

 恐る恐る、不安そうな口振り――当然だろう、H.A.Dは今や世界の脅威だ、人間を魔性に変え、その力はヒーローを凌駕する。

 

 それを使っていたとなれば会社としても大きなイメージダウンとなるだろう。

 

 桜花乱舞は鞄から書類を出すと赤坂に見せる。

 

「間違いありません。怪人治療薬による安静化後事情聴取したところ。中には免許証に保険証がありました。それに本日小松さんは出勤されていないはずです。」

 

「……はい、無断欠勤なんてなかったので、驚いていたのですが……なんてことだ……!」

 

 頭を抱え項垂れる。信じたくない、嘘であってほしい。その願いは打ち砕かれた。

 

 それが、知り合いの無残な姿から来ているのか、自分たちの会社を心配しての苦悩か、知っているのは頭を抱える男と――扇だけだ。

 

 そしてそんな空気に追い討ちをかける。

 

「まあ、いかにもな方ですから。」

 

 ポロリ――と桜花乱舞が言った。

 

 1瞬、驚いたような視線がゆかりから飛ぶ――この娘は昔から一言余計だ。

 

「っ!」

 

 その一言に赤坂は立ち上がった。

 

「小松君はそんな奴じゃない!撤回してもらおう!」

 

「……へぇ」

 

 激昂する赤坂と対極に桜花乱舞は冷静……いや、冷淡な目をしている。

 

 まるで、それは、心外だと言いたげで――そんな女の様子を見て、ふと思い出す。

 

「そう思うなら教えてくれる?なんで、あの男はあの場所にいたの?あそこは薬物の売買の現場よ?そして、私たちは彼と交戦している。つまり、彼は『違法薬物を持っていた』の、それは変わらないわ。」

 

「それは……!」

 

「それに、わかってるでしょう?あの薬は人の悪意を増幅させる。あれだけの怪人になったのなら、それはあの男にそれだけの悪意があったということ――不摂生な見た目だったもの、よほど周りに馬鹿に――」

 

「――桜花乱舞。」

 

 こういうのが嫌いで、自分たちはヒロイックアカウントにいたのだ。

 

「……何よ、別に私は――」

 

「――僕らはあんたの憂さ晴らしに同行したわけじゃない。」

 

 そして、こういったことが多いから、彼らは1つ所に留まれないのだ。

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