特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第178話:敵を作りやすい男

「……何、喧嘩売ってる?」

 

 会議室の重苦しい空気を切り裂くように、桜花乱舞が扇を睨む。

 

 まったく、血の気が多い。

 

『やっぱりあの法律結構無理があると思うんだよなぁ。』

 

 ヒーロー法に新たな条文が追加されたのはつい最近のことだ。

 

 怪人関係の問題に関してのみ、ヒーローは限定的な警察権力と同等の捜査権が与えられる。

 

 平たく言ってしまえばそう書かれた条文ができた背景には、警察の力不足――というか、能力的な限界があった。

 

 ヒーローの力の源である精霊、生霊と呼ばれる類の特殊生物は、なぜか警察権力に手を貸すのを妙に嫌う。

 

 それがなぜかはよくわかっていないが、厳然たる事実として、それが存在するのだ。

 

 その関係上、警察所属のヒーローというのは基本的に存在しない。極限定的な例外はあるものの、基本、警察は魔物や怪人に対処できないのだ。

 

 それゆえ、警察は怪人関係の調査を民間に委託する道を選んだ。あるいは、そうするしかなかっただけとも言えるが。

 

 そのしわ寄せが、ここに来ていた。

 

 桜花乱舞はこういった仕事に慣れたヒーローではないのだ。

 

 見た目の良さはあるものの、内面的には激情家であり、古き良き――やくざ稼業だった頃のヒーローとしての自分を誇っている部分がある。

 

 そんな人間に外回りなどさせれば、当然こうなる。

 

 30路を超えたベテランヒーロー――とはいえ、実は業界的には扇達の方が1年先輩なのだが――の、隠しきれない苛立ち。相棒を傷つけられた恐怖と怒りが、彼女の理性をすり減らしているのは明らかだった。

 

 だが、扇はパイプ椅子に深く腰掛けたまま、表情1つ変えずに彼女を見上げた。

 

「まさか、わざわざ人さまの前でそんなもんは売らん――が、この人たちに関係ないことでわざわざ責めるのが最近のヒーローなのか?」

 

「化け物には容赦しないもんでしょ。」

 

「太ってれば化け物か?」

 

 実際、先ほどの彼女の暴言はあまりにも暴論だ。

 

 不摂生な見た目をしているから犯罪者だろう――では、見た目がきれいな犯罪者はいないかのようではないか。

 

「あんたが何に怒ってるのかも、何を苛立ってるのかもわかるが、彼の生活習慣に口を出す権利はないし、よく知りもしない人間を痛罵していい理由にもならん。周りがそいつを愚弄してたと断言する理由もない。」

 

「……」

 

「冷静になれないなら、座ってろ、聞き取りはこっちでやる。」

 

 その一言に、一瞬殺意に満ちた視線を向ける桜花乱舞に、扇雄介は一瞥も返さない。

 

「――失礼しました、同行者がご無礼を。」

 

 扇雄介は立ち上がることもせず、ただ静かに頭を下げた。

 

 その声音には、桜花乱舞のような熱もなければ、相手を威圧するような響きもない。ただ淡々と、事務処理を進めるかのようなフラットな響きだけがあった。

 

 だが、その底知れぬ静けさが、逆に目の前の男――赤坂猛の怒りを削ぎ落とし、冷や水を浴びせたように彼を硬直させた。

 

「……いえ。小松君が、その……違法な薬物に手を出していたというのは、どうしても信じられなくて。彼は、本当に真面目な男だったんです。」

 

 赤坂は額の汗をハンカチで拭いながら、力なく椅子に座り直した。

 

 扇はパイプ椅子の背もたれに深く体重を預け、目の前の男を観察する。

 

 ゆかりの従兄。彼の実家が自分たち特撮班を蛇蝎のごとく嫌っていることは百も承知だ。赤坂自身も、扇の顔を見た瞬間に複雑な思いを抱いていたのは間違いない。

 

 だが、今はそんな私怨にかまけている場合ではないのだ。

 

「真面目、ですか。」

 

 扇は相槌を打ちながら、超感覚――ψ意識場をほんのわずかに室内に広げた。

 

 赤坂の言葉に嘘はない。彼が抱いているのは、部下(あるいは同僚)を信じたいという純粋な善意と、それが裏切られたかもしれないという困惑だ。

 

「ええ。確かに彼は、少し要領が悪くて、仕事でミスをすることも多かったです。体型のことや、ドン臭いことをからかう連中がいなかったとは言いません。ですが、彼はいつも笑って誤魔化して、遅くまで残業して挽回しようとするような……そういう、不器用な男だったんです。」

 

「なるほど――と、言うことは、あまり良からぬ人間とつながりがあったというようなことはなかったと。」

 

「ありません!……そう、思っていたんですが。」

 

「ここ数週間、彼は少し様子がおかしかったんです。残業を切り上げて定時で帰る日が増えたり、昼休みになると1人でどこかへ出かけて行ったり……」

 

 それは、明らかな異常ではあるが、同時に、犯罪とはつながらない程度の些細な変化だった。

 

「私はてっきり、彼女でもできたのか、あるいは転職活動でもしているのかと、軽く考えていました。上司として、もっと深く話を聞いてやるべきだった……」

 

 そう言って、肩を落とす――さて?

 

「と、言うことは、お付き合いしている女性は……」

 

「いた……のかもしれませんが、我々にはそのような話は。」

 

「同じ部署や会社内での交際はなさそうと。」

 

「その兆しは見えませんでした。」

 

「なるほど……」

 

 となると、彼女からHADにつながったというわけでもないらしい。

 

 現在、あの薬の流通はない。

 

 残っている在庫が掃けるのを待っている状態である、そんなものを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 となれば――

 

『どうやって取引にこぎつけた?』

 

 一瞬の疑念――

 

 その答えは案外に簡単に見つかった。

 

 どう反論しようかと頭を動かしていると、会議室の扉が勢いよく開く。

 

「違うな!間違っているぞ!」

 

 朗々と言葉を発したのは――1人の男だった。

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