特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第179話:英知の勇者

 部屋に入ってきたのは扇達と同年代だろう男、前髪が目にかかっている無個性――な気がしなくもないその顔で、なぜかやたらと出っ歯なのが特徴的だ。

 

『……?』

 

 首をひねる――少なくとも、こちらの予定では、この2人以外この場に参加する予定ではなかったはずだが……

 

 首から社章を下げてるから、恐らく会社の者だろうことはわかるが……こちらにも計画というものがある、予定外の人間が勝手に入って良いかは別の話だ、話してはならない事もあるし、内部事情を無用な人間に漏らしていい理由はない。

 

 無礼――の一言で済ませて良い問題ではない。

 

 ちらりと、傍らの赤坂を含めた向こう側の反応をうかがう――渋い顔だ。

 

『厄介者か……』

 

 実際、彼が入室した瞬間空気が変わる。特に上司だろう初老の男は怯えているようにすら見える普通の反応とは、とても言えない。

 

 男はそんな空気もお構いなしとばかりに、ずかずかと踏ん反り返りながら歩み寄る。

 

「まったくわかっていないな、愚物ども!この『英知の勇者』たる『伯楽卿』玻璃山颯馬が真理を教えてやろう!」

 

『ほう、爵位持ち。』

 

 珍しいことだ。

 

 異世界に置いて、何かしらの功績を上げ、その結果、爵位をもらい受けた勇者――というものがいる。

 

 その中の1人がこの男――ということらしい。

 

 名前から察するに、どうも知能亢進系の勇者らしい。

 

 要はあれだ、内政チート――とか呼ばれるタイプの勇者だ、設楽もこれに相当するが、こちらは何かしらの技術的な能力ではなく、純粋に知性が増幅するタイプの妖霊から加護を受けたらしい。

 

 相手がこういうタイプならば――

 

「……なるほど、それはありがたい、あなたのように聡明な方がお手伝いしていただけるとあればこちらとしても心強い限りです、して真理とは……?」

 

 下手に出る。

 

 ここで揉めるわけにはいかない、一般人が3人いる上に、こちらは変身可能状態ではない。

 

 超人体になることはできるので、最終手段としてはありだが……そうでないならそんな選択肢は取れない。

 

 おまけに――

 

『っち、女とみるや魅了を掛けるタイプか……』

 

 桜花乱舞が引っ掛かった。

 

 先ほどまでの苛立ちを消し、どこか陶酔したように男を見つめるその目には、奇妙な熱情が揺れる。

 

 ゆかりはこちらで守ったが、彼女までは手が回らなかった。

 

 この状態では、戦闘となれば、この女はこの男に味方する、断言してもよかった。

 

 となれば……ここは下手に出ておくに越したことはない。

 

 そう考えての行動に、しかし、英知の勇者とやらは気が付かない。

 

「っふ、殊勝な態度だ、いいだろう、教えてやる――あの男はな、薄汚い欲望の果てに死んだのだ。」

 

「ふむ?」

 

「あの男は、この会社における最高の美女たる栄子た……桐島英子に分不相応に懸想し、彼女にストーキングを行っていた。」

 

 知らない話だ。

 

 ちらりと同僚であろう2人を眺める。

 

 こちらも知らないと言いたげな顔だ、知らなかったのか――さもなければ、この男の適当な濡れ衣か。

 

「なるほど……ですが、それが一体どのように彼が違法薬物に手を出すことにつながるのです?」

 

「っち、間抜けが……わからんか――この俺の存在だよ。」

 

「……あー……」

 

 理解はできた、したくはなかったが。

 

「なるほど、つまり、その桐島英子さん……?はあなたに――」

 

「惚れている、断言してもいいだろう。」

 

「確認はされてらっしゃらない。」

 

「せずとも分かるだろう――このあふれ出るカリスマが、女どもを虜にしないわけがどこにある。」

 

 ここに。

 

 そう言いたい衝動を抑えてあいまいに笑う――典型的な勘違いだ。

 

 異世界の弊害といってもいいだろう。

 

 英知――知能亢進系の勇者にありがちな万能感の暴走と、それを後押しした『勇者への媚』が彼に『あらゆる美女は自分を崇拝するものだ』という妄想を与えている。

 

「あの男は、俺に勝ちたかったのだ、だからこそ、あの男は哀れにも、あの違法薬物に手を出した――完璧な推論だろう?」

 

「……なるほど。」

 

 穴だらけの推理だ、天塚《天才》ならぬこの身でも容易に分かる穴がふさがっていない。

 

 一体、普通の会社員が、どうやってあの薬を手に入れるようなつてが持てたのか?

 

 最も重大で、最も問題が大きい部分が明らかになっていない――言ってしまえば、こんなものはただの勇者の妄想以上のものではない。

 

「あいつは彼女を襲うため、そして、ひいては俺を害するため、薬を求めたのだ、それ以外考えられない!」

 

 堂々とした言い方が妙に説得力を持たせている――ように聞こえる、これもまた加護の力だ。

 

 思わず納得しそうになるだろう、一般人ならば。

 

 ――だが、その考えに納得できない人間が、1人、ここにいた。

 

「絶対にあり得ない!」

 

 赤坂猛――ゆかりの従兄にして、黒土家とも縁深い男の怒声が響く。

 

「彼は……小松君はそんな人じゃない。いいかげんな事を言うのは止めてくれ!」

 

「赤坂君、止めなさい!」

 

 初老の上司が止めようにも聞き入れない。もう我慢の限界だとばかりだ。

 

「玻璃山さん、あんたは彼に何の恨みがあるんだ。部署も違う、会ったことも、話したことだってほとんどないだろう!」

 

 唾を飛ばして語る彼に、勇者のこめかみがかすかに動く――まずい。

 

「――所詮、くずはくずか……そんなに群れたければ、あの世で——」

 

「――玻璃山さん、大変貴重なご意見でした、ありがとうございます。」

 

 沸き立つ魔力を振り切り、扇は赤坂と玻璃山の間に入り込む――さて、どうやって落ち着かせたものか……?

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