特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第18話:魔人の足音

「社会性のある軍勢を組んで、かつ、こちらに集団的な敵対行動をしてくる魔物を制御できる集団。」

 

 彼らが知る限り、そのような集団を作り出せる存在は一つ。

 

「魔人か」

 

「もしくはその下にいる魔人――ん?これだと二つか」

 

「まあ、少なくともその二つのどっちかですよね」

 

 ――2010年にこの次元に帰還した勇者曰く、『魔王とは複数存在する』らしい。

 

 それぞれが独立して領土を持ち、かつ、それぞれが相手の領土を奪い去ろうとする敵としての側面を持つ領主たち。

 

 魔物を統べる王、ゆえに魔王。

 

 要するに、戦国時代の日本に近い形――と言えばいいのだろうか。どこもかしこも方々で揉め倒している蛮族である。

 

 そして、それらの魔王は例外なく配下を作り、それらに力を与える――これは例外がないらしい。『魔物から魔王という生物に進化するのだ』とは、帰還した初期の勇者の言説だ。

 

「そういえば、異世界から勇者が来るまでは魔王も人型じゃなかった説とかありましたよね」

 

「あー、最初の勇者から5人ぐらいは獣の魔王としか戦ってないとかってやつ?あったね」

 

「まあ、ありそうな進化ですよね。天敵になる可能性のある勇者に媚を売るために、人型に収斂進化する」

 

「そこで近い体になって勇者に勝とう!とかじゃないあたり、魔王側も諦めが入っているよな」

 

「何か、こう……エルフが、旅とかしそうな感じ……」

 

「それ以上はいけない」

 

 閑話休題。

 

 そして、人型になった魔王、もしくは力を与えられた魔物――通称『魔人』は、皆等しく優れた知性を有するようになる。

 

 それらが軍事行動をするがゆえに武器を持たせた――とすると、あの連中の武装もあり得ぬ話とは言えない。

 

「オーガの持ってた金槌とか明らかに加工されてたしなぁ」

 

「人間側の持つ獲物であれだけの膂力に耐えられるとも思えませんしねぇ」

 

 それは間違いない。となると――厄介なことになる。

 

「これまで一度たりとも恣意的に攻撃をしてこなかった異世界側が、こっちに目を付けたってことに、なるのかね」

 

「可能性はあるでしょうね。向こうからすれば、こっちは勇者の本場であり、戦えない勇者を虐殺できる唯一のチャンスですから」

 

 もちろん、帰還している勇者はいる。いるが――同時に、非戦闘員も掃いて捨てるほどいるのだ。

 

「向こうで勇者が善人として振る舞ってるんだとすると――」

 

「――そこを突けば倒せると思ってる魔王がいても、おかしくはない。か?」

 

「ありそうな話ではありますね」

 

 扇の膝の上で、ゆかりが締めくくる――さて、そうなると、どうしたものか。

 

「とりあえず、叔母さんには話を上げておきますし、情報も周りに流しますが……勇者が勝手に動くと面倒ですよね」

 

「むしろ、『ピンチに颯爽と!』とか言って被害を放置されるのがまずい。魔人とか来たらヒーローだけで対処できんぞ」

 

 ここにいる3人すら、1人ひとりでは魔人と戦えないのだ。となると、一般的なヒーローたちでは……。

 

「新しいコピュラ、作り方はもう公表したんでしょう?」

 

「ええ、まあ。とはいえ、かなり新技術が入ってるので、再現に苦労してはいるみたいですね」

 

「ふむ……」

 

 となると……勇者にもある程度動いてもらわねばならない。

 

「魔人までは『秘密兵器』があるからどうにでもするんだが……魔王はどうだろうな」

 

「こちらの世界に来た記録自体がありませんからねぇ。勇者の電文はあてにもなりませんしねぇ。それなりの対策はしてますが、勝てるかどうかは出たとこ勝負ですよ」

 

「ふむ」

 

 困りものだ。天塚の聡明すぎる知性と扇の『占い』の力でやれるだけの対策はしたが、こればかりはどうにもならない。

 

 配られたカードで勝負するしかないのだ――良くも悪くも。

 

「先輩たちの『隠し玉』は?」

 

「僕のがねぇ、ちょっとねぇ、機材が足らなくて……」

 

「できはするんですか?」

 

「まあ、20年もかけてますからねぇ。ほぼほぼ完成はしてますよ。あとは、エネルギーのチャージが必要って感じですかね」

 

「俺の方は、まあ、調息が乱れてるのを何とかすれば?」

 

「雄介先輩は?」

 

「いけるような気がする。ぐらい」

 

「試してないんですか」

 

「いや、なんか、いけそうな時といけなさそうな時があって、いけそうなとき大抵それどころじゃないのよね」

 

「あー……」

 

 いまいち締まらないが、仕方がない。前人未到の偉業を達成しようとしているのだ。こればかりは身を委ねるしかないことだ。

 

「……まあ、とりあえず、報告は上げる。推定敵勢力は魔人級。魔王が来たら――」

 

「灯女史に頼るよ」

 

 そう言って、プロジェクターが消える。

 

 後に残ったのは、仕事に戻る3人と、休憩時間を満喫する少女のような女性だけだった。

 

「わーありがとう、黒土さん!」

 

 渡した色紙に、見た目に反して飛び上がるほど喜んだ少女の笑顔がまぶしい。

 

「わー……本物だぁ……」

 

 そう言って煌めく視線に、何やら悪いことをしているような気分になった灯は、おずおずと告げる。

 

「あー……のさ」

 

「んー?なに?」

 

「その……天塚さん?そんなにかっこええ人やない思うんやけど……?」

 

「えー?かっこいいじゃん。あらゆる大学機関からの誘いを断って人助けしてる偉人だよ?」

 

「む、いや、まあ、そうなんやけど……」

 

「かっこいいよね。モンスター倒すより、人助け優先のヒーローもっと増えてもいいのに」

 

 そう言って笑う少女に、灯は不思議そうに告げる。

 

「人助け優先?」

 

「あれ、知らないの?」

 

 疑念を漏らすように彼女が言った。

 

「天塚博士のいる『正義の味方』はね、あんまりモンスター討伐数が多くないんだけど、その分、人の救助数がすごい多いんだって。天塚博士のWikiに書いてあったよ。すごい人とお仕事してるんだからさ、黒土さんもすごい人なんだよね。頑張って!」

 

 そう言って笑う少女に、灯はかすかに苛立ちを感じながら手を振る。

 

 後に、彼女はこの雑な別れの挨拶に一抹の後悔を覚えることになる――この別れから4時間後、放課後になってしばらくのことだった。

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