特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第181話:勇者の被害者

『――おおむねは、録画データで確認しました。が、確定であの男が犯人とは断定できませんね。』

 

「あら、ダメ。」

 

『いい線いってるとは思いますよ、ゆかりさんもそう言ったんでしょう?』

 

「言いましたよー私の宣言を信じてもいいのでは?」

 

「いや、疑っとりゃせんよ。だから手伝ってもらおうと思って天塚にかけとるんじゃろ」

 

 言い訳がましいな、と自分でも思う一言を吐きつつ、扇は顔をしかめた。

 

 インカムの向こうでは、天塚が相変わらずのマイペースでキーボードを叩く音だけを響かせている。

 

 証拠がないとはいえ、状況証拠は完全にあの自称『英知の勇者』の黒を示しているように思えた。

 

 が、天塚曰く、断言はできないという。

 

『あの勇者に罪を着せようとするもっと頭のいい連中の企み――って線もありますしねぇ。』

 

「あー……ありえなくはないか。迂遠じゃね?」

 

『だからこそ、気づかれない。』

 

「ふむ……」

 

 否定はできない。

 

 確かに、想定はしなかった――が。

 

「人まで殺すかね……?」

 

『あの勇者は殺してるっていうのが君の主張ですよ。』

 

「まあ、そらそうだな。」

 

 なら、ありえるか――そう思った扇の思考の端にもう1つの精神がかすめる。

 

「お疲れ、元気?」

 

 そう言って見つめた先には――ふらふらと扉によりかかったのは桜花乱舞だ。

 

「……マジなの?」

 

 フラフラと扉に寄りかかりながら、桜花乱舞が絞り出すように問う。

 

 玻璃山が退室し、強制的な『魅了』の魔力が解けた――正確には扇が勇者退室と同時に解いた――ことで、彼女の精神には強烈な反動が押し寄せていた。激しい羞恥と、自身を安っぽい術で操られたことへのやり場のない怒りだ。

 

 ギリッと歯を食いしばり、彼女は扇に尋ねた。

 

「さてね、まだ未確認の情報レベルの話だ。」

 

 その一言に、彼女が何を思ったかはわからない。だが1つ確かなのは――

 

「……信じらんないわね、見た目が似てるからってかばってんじゃないの?」

 

 彼女は、この説を受け入れられないということだ。

 

「あんただって褒められた体型じゃないもんね、豚同士かばいあって――」

 

「その豚に助けてもらわなかったら推定殺人犯に操られてケツ振ってた女が言いますかねそれ。」

 

「――あ”ぁ?喧嘩売ってんの小娘。」

 

「それはそっちでしょう、助けてもらった分際で偉そうに……蜘蛛巣はった処女でも差し出したいならよそでやってくださ――あだっ!」

 

 小気味よい音が部屋に響いた。

 

 扇が手刀でゆかりの頭を軽く、だが的確に叩いたのだ。

 

「痛いじゃないでしょう!?なんですか急に!」

 

「言い方よ。」

 

「ほんとのことでしょう!1から10まで先輩の仕切りで物事を進めておいて、今更出てきて文句を言う神経が知れま――ふげっ!」

 

「よせ、言うとるだろ。」

 

「ぬうぅぅ!」

 

「怒ってもダメです――お前もだぞ、桜花乱舞、そのまま、拳を振ってくるなら制圧する。」

 

 扇の声は、熱を持たない冷徹な刃のようだった。

 

 パイプ椅子に深く腰掛けたまま、一切の予備動作もなく放たれたその言葉には、歴戦のヒーローである彼女の動きを物理的に縛り付けるほどの圧倒的な重圧が込められていた。

 

「――勝てる気でいんの?」

 

「お前はどうだ、勝てそうか?」

 

 思い返す――負けたことはないが、勝てた記憶もない。

 

「ずいぶんでかく出てんじゃないの、試してみる?」

 

「別に構わんよ、そのフラフラな状態で勝負になると思うならな。」

 

 正対する――その圧に、桜花乱舞は顔をしかめる。以前から感じていた妙な圧が、さらに増えている。

 

 それが、精神干渉波による精神的重圧であることを、彼女は知らない。

 

「……っち……」

 

 桜花乱舞はギリッと奥歯を噛み締め、振り上げかけた拳を震わせながら下ろした。

 

「……お前が、なんで僕らみたいな容姿の人間を毛嫌いするのかはわかってる。同情すべき話だとも思う。」

 

 かれこれ5年半前、彼女の前の相棒だった男を、再起不能にしたのはちょうど、不摂生な見た目の勇者だった。

 

「ただ、それは、小松何某さんが屑であることの証明じゃない、少なくとも、僕は『善良で、裏社会とのつながりが一切ない男が、誰にも気づかれず、突然目玉が飛び出るほど高価な薬を、女欲しさに勇者を殺すために買う』なんて妄言よりは、巻き込まれただけだって話の方が信ぴょう性を感じる。」

 

 それは、桜花乱舞にもわかっているのだろう。

 

 だが。

 

「……それでも、あの男は屑よ、それは変わらない。」

 

「それが彼の意思だとしたら、つじつまが合わない。」

 

「どこがよ、捕まりたくなくて怪人になった、それだけでしょ。」

 

「薬を打つ瞬間を見たのか?」

 

「……?いいえ、私たちが現着した時、もう怪人だったわ。」

 

「通常、怪人は『打った時に最も強く激発する感情』を暴走させる性質がある――もし、お前たちが来る前から怪人だったならその時に考えてたのは『勇者の排除』のはずだ。」

 

「……!それは……に、逃げる密売人に言われて使ったのかも。」

 

「密売人は逃げきってるのにか?たどり着いた時は影も形もなかったんだろ?それに、密売人はそんな危険な真似はしない。」

 

「……それは……」

 

 否定はできない。

 

 確かに、影も形もなかったのだ。

 

「以上の理由から、あれは間違いなく他人による強要があったと僕は見るね。」

 

「――それでも!それでも私は!」

 

 吠える。

 

「あの男――不摂生で穢れた男はみんな悪人よ、あの男が悪いようにしか思えない。そうでないといけない!」

 

 それは狂った方向であり、狂った咆哮だった。

 

「私が証拠をつかんで見せる、あいつが、あの男が悪いんだって……あの()()が、あいつが悪いのよ!」

 

 それがどこに向けての宣言だったかもはや誰にもわからない。

 

 1つだけ確かなのは――彼女もまた、勇者によって狂った人間の1人だということだ。

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