特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第184話:ある気付き

 いつものオフィス、1人足りない正義の味方は、どことなく重い空気を纏っていた。

 

 理由は――考えるまでもない、ゆかりに車で襲われた扇が、まだ完全に復調していないからだ。

 

 ゆかりが膝の上に乗り、ひたすら頭を撫でている――扇が困っているように見えるが、まあ、それはいつものことだ――今でさえ、彼はどこか浮かない表情のままだ。

 

「ま、正直、この話を相手に理解させるのは不可能ですよ。ゆかりさんはあなたから離れませんし、ご両親の危惧自体はそれなりに正当ですから――まあ、僕も、話すべきではないと思いますけどね。」

 

 そう言って肩をすくめた天塚に扇は頭を抱えた状態で反応しない――またいつものあれだ、本人は気が付いていないが、落ち込むと周囲にプレッシャーのようなものがかかるのですぐにわかる。

 

「わかってるでしょう、勇者には『カリスマ』がある。あの連中の『被害』は正常に認知されにくいことを。」

 

 わかっている。

 

 勇者は加護を受けた時点で『カリスマ』とでもいうべき特異なオーラを纏う。

 

 それは、勇者への好意を増幅し、『彼らの存在を……ある種楽観視させる』ものだ。

 

『勇者だから』『勇者ならば』そういった思考を発生させるこの力は、ある概念と組み合わせると途方もない面倒を産む。

 

「あのカリスマが正常性バイアスと結びついた時、人間は『勇者の被害を他人事のように扱う』……嫌というほど見てきたでしょう。」

 

 今現代社会があの連中を受け入れている最大の理由といってもいいだろう。

 

『重大視できない』のだ、だから、勇者の被害が1年であれだけ出たのに、彼らとの絶滅戦争になっていない――なれない。

 

 それでもいま勇者が腫れもののように扱われているのは、ひとえに勇者が人間にもたらした被害があまりにも大きいからだ。

 

 逆に言えば、『腫れ物のようにしか扱われない』のだ。

 

 それが、勇者のカリスマのなせる業だ――それを、『対象を絞って』効果を発揮すると、いつだかの灯や設楽のように、他者を自由に操れる『魅惑』の力になるのだ。

 

 それが、扇たちが妖霊の薬をすべて否定できない理由でもあった――もし、人間全員が、あの薬を副作用なしで使え、その力で他者を弾圧しないと確信できたなら、彼らは喜んであの薬を配るだろう。勇者とはそういう生物なのだ。

 

「ゆかりさんはあの連中を天災と例えましたが――そんな生易しいものじゃありませんよあの連中は。知ってるでしょう。」

 

 知っている、ただ、道を歩いていたカップルが勇者に見初められただけでどうなったかを。

 

 男は今でも精神病院で入院し……彼女は路地裏のゴミ箱で見つかった。

 

 極端な例だ、極端な例だが――それが今の世の中だ。

 

「あれは『悪意を持った』災害です、それゆえ、ご両親の警戒は当然ですが――家に籠るだけでは耐えきれない。シェルターが必要だ。」

 

「それが、僕らだって?」

 

「そのために超人になったんでしょう?『人類の自由と――』」

 

「『――平和を守るために』だろ?だとしても……」

 

「身近にいると危険?」

 

「そうだろ?」

 

「ええ、ですが『いなくても危険』ですよ、そして、『近くにいなければ彼女を守る手を届かせられないかもしれない』――まあ、今の僕らにそれはほとんどありませんが。」

 

 それでも、近くに置いておいた方がいいのは間違いない。

 

「ご両親の危惧はよくわかりますが……それでも、勇者がいる現状、ゆかりさんは僕らと――ひいては人の悪意や未来を見抜く君のそばにいるのが安全ですよ、正直、ドローンの代わりに君を1家に1台配布したい。」

 

「はっ?」

 

「アッゴメンナサイナンデモナイデス。」

 

 こちらの発言に反応1つせず頭を撫でていたゆかりが1瞬でこちらに目線を向ける――瞳孔が完全に開いている、怖い。

 

「……だとしても、僕らの生き方で勇者に喧嘩を売るのは止められないだろ。」

 

「……そこがわからないんですよね。」

 

「?」

 

「赤坂さん……でしたっけ。あの人、何を根拠に君が喧嘩を売ったといっているんです?」

 

 疑念に満ちた声だった。

 

 これまでのなだめるためのそれ――まあ、本心ではあっただろうが――とは明確に異なる、何かに引っ掛かった時の声。

 

「……?そりゃ、止めに入ったことだろ。」

 

「でも、こっちで確認した音声記録に、君が勇者のことを非難する音源はありませんでしたよ。」

 

「まあ、あそこでもめて周り巻き込むわけにもいかんからな。」

 

 あの時、扇の背後には民間人が4人いた。

 

 1瞬で超人体になれるとはいえ、あそこで戦うのは危険だ、1ミリだって被害を出さない自負あるが、危ない目に遭ったという事実そのものは消せないのだから。

 

「でしょう――つまり、君は勇者に喧嘩を売ってないんですよ。」

 

「……いや、でも、ほら、勇者に意見して殺された奴もいるし――」

 

「なら、赤坂さんはどうなんです?」

 

「……!」

 

「最初に突っかかっていったのは彼でしょう?」

 

 言われてみればその通りだった。

 

 あの時、小松何某さんのことに切れ、食って掛かったのは彼だ。扇は、そこに不快感を感じこそすれ、意見はしていない。

 

「間違わないでくださいよ、君は『赤坂さんをかばって』勇者に意見したんですよ、そして『勇者を怒らせずに』場を修めた。理想的な対応ですよ、『喧嘩を売ったのは彼だ』。」

 

 そう考えると、あの男の『僕たちの家に帰って普通の人生を』というくだりそのものが疑問になる。

 

 ――超人的能力もなしに勇者に喧嘩を売る人間は、超人的能力有りで勇者と戦う覚悟を固めた人間とどれほどの違いがあるのだろうか?

 

「……や、でも……あー……」

 

「もしも、彼が、僕らの活動を知っていてこの話をしているというのなら、話は変わります、が、それは勇者だって知らないこと、もし、御影さんたちが漏らしていたとしても、なら、あの段階でその話に至らないのがおかしい。」

 

 少なくとも、彼は『ヒーローごっこ』という話はしたが『自分たちが超人になれる』という話はしていない。

 

「確かに、僕らのこれはヒーローごっこだ、ただ『明確な実績があり』そして『それを叶える力も計画もある』。」

 

「……れ、麗華の姉ちゃんはまだ助けられてないぞ……」

 

「ですが対策はしてる、そして、もしも直接的に攻撃を仕掛けてきたら対処する用意もしてある、彼みたいに無策で意見をして勇者の機嫌を損ね、かつ君に助けられるようなまねはしてませんよ。」

 

「……ぬぅ……」

 

「どっちがましって話じゃないですが、あの調子で人様に喧嘩を売る男のもとに返すのが得策だとは、僕は思いませんね。君の1万分の1だって自制心があるようには思えない。」

 

 そして、だからこそわからない――あんな人間が、なぜ、勇者のいる会社で長生きができている?

 

 言い方は悪いかもしれないが、彼のようなタイプは確実に勇者に嫌われるタイプだ、殺されはせずとも、それなりに冷遇されていてしかるべきはず、だというのに、何も行われず、見逃されている。

 

「……調べてみた方が、いいかもしれませんね。」

 

 ぽつりと、こぼす――何やら、妙な気配がしていた。

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