特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第185話:質問/ある少女の異変

「――赤坂の兄ちゃん?いや、あんとき会ったんが久々やったけど……」

 

 そう言って、首をかしげる灯に、七星は片眉を上げる。

 

「何年かぶりだったのか?」

 

「せやねぇ、結構あってへんかったけど……何、なんかあったん?」

 

「んー……いや、なんか、その赤坂さん?の会社の奴が怪人になったらしくってな、調査に同行した雄介が会った時にちょっと話したらしい。」

 

「……兄ちゃんなんて?」

 

「ん、いや、まあ、そこは雄介とそっちの人の話だからあれなんだが……その時に赤坂何某さんが、こっちのこと多少は知ってそうな感じだったから、話したのかなぁって気にしてたから。」

 

 嘘ではない。

 

 扇に食って掛かったことなど話すべくもないし、勇者の一件など話さずとも言い――問題は、彼が『どういう人間か』なのだから。

 

「御影女史があそこまで暴走したのも、その……赤坂さんとやらと会ったからなんだろ?そんなに仲良かったのか?」

 

「ん、まあ、ゆかりねーちゃんとうちらと赤坂のにーちゃんは結構うちにおったからねぇ。」

 

「忙しいご家庭。」

 

「んーっていうか……ええ人みたいな?」

 

「ええ人、ねぇ。」

 

 七星は少し意外そうに首を傾げた。

 

 先だっての会議室で見せた、部下を庇って勇者に食って掛かる姿。

 

 確かにそれは「ええ人」の行動と言えるかもしれない。

 

 だが、扇に対するあの頑なな拒絶と、ゆかりを引き離そうとする執念には、単なる「いい人」では片付けられないような、偏執的な正義感の裏返しのようなものを感じていたからだ。

 

「まあ、親切な親戚の兄ちゃん、ってとこか?」

 

「せやね、うちはほら、言うたらあれやけど結構金持ちやん?お母さんあれやし。」

 

「ん、まあちょっと考えが付かん程度には金持ちね。」

 

「いや、まあ昔からああやったわけやないけど、余裕はあって、ゆかり姉ちゃんが家来るようになったときに一緒に預けられるようになってな。」

 

 灯は少し視線を落とし、過去の記憶を思い起こすようにゆっくりと語り始めた。

 

「常に一緒におったってわけでもないけど、割と面倒も見てくれたし……別におかしなところはなかった想うけどね。」

 

「ふむ……正義感あふれる御仁だったとか?」

 

「……ん-……そこまで印象ないわ。」

 

 考える。

 

 悪い人間だという話は出てこない――が、同時に、『勇者に食って掛かるほど正義感にあふれていたという話題もない。』面倒見はよかったのだろうが、そこどまりだ。

 

『小松何某さんの件で怒るってのは、まあ、面倒見がいいならわからんでもないが、それだけで、勇者に食って掛かるか?』

 

 彼本人が言う通り、勇者に食って掛かるのは危険な話だ。目を付けられる。

 

 自分たちのように抗う力があって――まあ、なくてもやるが――やるならともかく、何もない人間が発作的に吠えたける相手とは言えない。

 

『……力……力か……』

 

 ふと、思いつく。

 

「そう言えば、その赤坂さん?とやらの会社に勇者がいたらしいけど、なんか相談とかされたか?怪人がらみだから扇が疑ってるらしいんだけど。」

 

「え、そうなん?……助けに行った方がええかな。」

 

「いらんいらん、また暴走されても困るし、動くな、そっちは扇達がやるさ。」

 

『……ふむ、この反応なら嘘じゃあるまい、ってことは、この2人を当てにして、たてついた――ってわけでもないのか。』

 

 それが、最も簡単な説明だ――時たまいるのだ、親族に勇者がいることをかさに着て、自分が優位に立てると思い込む人間が。

 

 無論、今回の件においてはそれは悪い意味合いではない。

 

 悪逆と無礼を働く勇者に意見するためやむを得ず名を使う、その程度のことで3人は目くじらなど立てないし、大抵の人間はそこを問題視はしないだろう――妹たちの自由意志に反するかもしれないと思うことはあっても。

 

 だが、この調子ならそれもなさそうだ――あるいは、自分が連絡を取れば、この2人が一も二もなく自分を助けに来ると思っているので同意を取っていないだけか。

 

『だとしたらずいぶんな『いい人』だな。』

 

 相手の都合を斟酌せず、相手を都合よく使う――まあ、善良な人間の行動とは言えない。

 

 なるほど、天塚は疑問に思うわけだ、聞けば聞いただけ違和感がある。

 

「ところで、いつになったら謹慎とけるん?」

 

「んー?そら妹御が落ち着いたらよ。」

 

「……おち、つくんかな。」

 

 思案げに、灯が告げる――その顔に、明らかな焦燥が見えた。

 

「あの子のことは、わかる、と、思っとったんやけど。」

 

 そう告げる口調は明らかに後ろめたげだ。

 

「……なんで、あんな極端に振れたんやろ。」

 

「扇の件か。」

 

「それ以外ないやん。」

 

 三白眼を向ける――自分も襲われているのだが……まあ、言わぬが花か。

 

「うちやって、ゆかり姉が家に戻ってきてくれたらなんやってかまわへんけど……ゆかり姉に嫌われることしたら、結局意味ないやん。」

 

「そうだな。」

 

「御影やってそれぐらいわかるんよ?うちより頭ええもん。」

 

「そうだろうな。」

 

「初めておっちゃんたちが来た時に、追い出そ言うたんうちやし。」

 

「そんな気はした。」

 

「せやけど、今回扇のおっちゃん襲う言いだしたんは――」

 

「御影だった。」

 

「……なんであんなこと言うたんやろ、あんな子ちゃうのに……」

 

 そう言って、膝を抱える――わかっていないのだ、なぜ、こうなったのか。

 

 それは、何も、彼女が現実に目を背けているからではない。

 

『向けられない』のだ、これもまた加護の影響だろうが――彼女は、『昔の』御影にしか目がいかない。

 

 過去の、自分の妹、勇者になる前の『普通の』妹。

 

 だから、妹の変化にも気が付けない――彼女もまた、『過去の家族』に執着する変異を抱えているのだから。

 

 ただ、その影響は他者に悪影響を与えないだけ。だから、ほとんどの人間が気が付かない。

 

 今だって、気が付いているのは精神をモニターしている天塚と扇、そして、その2人から話を聞いている七星とその天才性と付き合いの長さから違和感に気が付いたゆかりだけだ。

 

 実の母にすら、そのことは気づけない。

 

「……うちらも、怪人とか、設楽みたいに……麗華の姉ちゃん狙っとる勇者みたいになるんかな……」

 

 ――ただ、これは純粋な、少女の弱音だった。

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