特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第188話:仮説一/勇者の不在証明

「――精神の中に入れる勇者……ですか?いるって話は聞いたことありますよ、会ったことは……ないですけど。」

 

 日曜の朝、普段の習慣で9時に起き出していた水鏡の勇者――水面は、突然の電話にも、至極あっけらかんと返した。

 

「『夢食い』さんは限定的に自分のことを夢とか精神に投影できますし、その中である程度自在に動けるって聞きますよ、夢の中だと万能だとかって言ってたって聞きました。」

 

『ほぉん、ニチアサみたい。』

 

「あー……今のライダーそんな内容だって言ってましたねこの前。ええ、まあ、それぐらいはできると思います。」

 

 扇の整理に苦笑と共に返す――普段は真面目なのだが、どうも、特撮関係だと馬鹿なのが、この3人だ。

 

 なんでも特撮で例えるのやめた方がいいと思う。

 

『でさ、君らアイテムボックスって持ってんじゃん?』

 

「はい、便利なんですよあれ、魔力が許す限りいろいろ持てますから。」

 

『あれってさ、例えば、鏡面次元とかの別次元で、その場所――例えば、君の部屋の鏡面次元から『物質次元に向けて開くこと』ってできんの?』

 

「……あー……?」

 

 水面は一瞬、首をひねった。

 

 つまり、こういうことだろうか?

 

「ええと……例えば僕が、現実世界の『この部屋』にいるとします。で、扇さんが、誰もいない『鏡面次元の同じ部屋』にいるとしますよね」

 

『うんうん』

 

「その鏡面次元の部屋の中で、扇さんが勇者の『アイテムボックス』に荷物を入れたとします。それを、現実世界にいる僕が、同じ場所でアイテムボックスを開いて取り出せるか……という意味ですか?」

 

『そうそう、いや、正確には逆だし、俺はここにはいないけど。要は鏡面次元で取り出す操作をしたとき、現実世界にものだせんのかなって。』

 

 要するに、アイテムボックスという「次元の隙間にある共有倉庫」を経由して、隔離された別次元(鏡面次元)から現実世界(物質次元)へと、直接モノを送り込めるかという裏技の確認だ。

 

「……試したことないですね……ちょっと待ってもらえます?」

 

『あ、いや、わからんなら別に……』

 

「いや、ちょっと僕も気になるんですよねそれ……」

 

 言いながら、水鏡の勇者は自分の部屋にある大型の姿見に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

「――できますね。アイテムボックスは術者の魔力に紐づいているだけで、空間の座標には縛られませんから。あー……これは全然知らなかったなぁ……」

 

『――なるほど。』

 

 何かに得心したように、電話の向こうで扇が告げる。

 

「これ、噂の徳光の娘さんの一件ですか?」

 

『んー?いや、知らん方がいいぞ、いつ狙われるかわからんちんだから。』

 

「これでも一応、僕勇者なんですけど。」

 

『存じてるよ――でも、勇者狩りと喧嘩はしたくないだろ。』

 

「む……まあ、そうですけど……え、そんなやばい話になってるんですか?」

 

『見つかったらそうでもないが……見つからんからね、目下、一番注目を集めてる男だか女よ。』

 

「はぇー……僕もやろうかな。」

 

『……やめなさいよ、いくら君でも一般人に手ぇ出したらしばくぞ。』

 

「あはは、まさか、今が一番目立ってますから、そんなことしませんよ。」

 

 そう言って笑う彼の声に、しかし、冗談の響きはない。

 

 もし、今の状態よりもそちらの方が目立つとわかれば彼はためらいなくそれを実行するだろう――彼の加護は『目立つこと』を望む加護だから。

 

『あと何日かで事態は収拾する予定だから、手ぇ出しても意味ないぞ。』

 

「あー……了解です。」

 

 興味を失ったかのように声のトーンが落ちる――実際、興味がないのだろう。

 

『じゃ、お疲れ、よい休日をな。』

 

「はい、お疲れ様です、また、何かあったら。」

 

『あいよー』

 

 

 

 

「……あいつの加護も厄介だな。」

 

「目立つためなら何でもやりかねませんからねぇ。」

 

 通話を切った扇の呟きに、ラボのコンソールを叩いていた天塚が背を向けたまま応じた。

 

 水面雄太は善良だが、彼の行動原理の根本にある「目立ちたい」という加護の欲求は、時に善悪の境界すら曖昧にする――本人の自由意志すら無視するほどの衝動と摂動でもって。

 

 幸いにも彼が善良な人間であり、ある程度衝動の乗りこなしに成功しているがゆえに『国に所属すれば永続的に目立てる』と判断したがゆえに、この状態を保っているが……もし「悪逆非道な行為」の方が世間の注目を集めると判断すれば、彼は躊躇なくそちらへ舵を切るかもしれない。

 

 それが、勇者というシステムの恐ろしいところだ。

 

「で、実験は成功。」

 

「したねぇ。」

 

「ってことは……精神に潜り込んでる?」

 

「最低限夢にはいるな、今、あの部屋鏡ないんだろ?」

 

「おいてませんね。鏡面次元と接してると、入られるかもって話でしたし。」

 

「精神は潜れる勇者すくねぇからなぁ。」

 

「らしいよねぇ。」

 

 確かに、ここ10年、ヒーローを行ってきて、こんな能力の勇者は見たことがない――必要がないのだ、『戦う力を持たず、人の内的側面にだけ、アプローチできる勇者』など。

 

 そもそも、勇者とは魔物、ひいては魔王と戦う存在、あらゆる敵の中から最も色濃く強いものを滅ぼす決戦兵器だ。

 

 そんな連中において『戦う力を持たない』というのは大問題である。

 

 直接であれ、補助であれ、『魔王と戦う力』を持たなければ、勇者とは言えないのだ。

 

「それに、精神に潜り込んでる割りには、なんもしてこんしな、麗華も姉ちゃんも別にそいつにメロメロ!みたいなことにもなってないだろ。」

 

「直接的に干渉できんのじゃないかね、たぶん『夢の中にいる』ことはできるし、『夢の中で活動』もできるけど。『現実に干渉できない』んだろ。」

 

「あー……だから、精神にも夢にも干渉できないと。あくまでも『夢の中にいる人』なのか。」

 

「それも、『傍観するだけ』の人だ。じゃなけりゃ麗華の姉さんが同じ人間が夢に出てくるぐらいのことは言ってもいいはずだからな。」

 

「あー……ってことは、『夢の外郭でその夢を眺める事だけができる勇者』か。弱くない?」

 

「いやーどうだろうな、『夢の中、精神の中で戦う』勇者なら逆に――」

 

「夢の中での戦闘能力は高い?」

 

「かもしれん、さっきも『夢食い』は夢の中なら万能だっつってたしな。」

 

「……夢食いがやってるとか言わんだろうな。」

 

「いやー……あいつ、本以外何にも関心ないだろ、国立図書館から出てこんし、後――」

 

「?」

 

「――あいつ、腐女子だぜ。」

 

「あー……」

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