特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第192話:種明かし

 ――実際、それは極めてシンプルで、古典的なトリックだった。

 

「お前がこの娘の精神の奥底に逃げ込んでいる以上、他の勇者の探知網からも外れる。だが『同時に、お前自身も元の世界を自由に観測できない』はずだと思った」

 

 片方だけが一方的に利益を得て、片方には何のリスクもない。

 

 そのような都合の良い事象は、いささか物事の道理に反している。

 

 魔力を持たぬ人間にはできない奇跡を起こす勇者であっても、絶対的な条理やシステムそのものの限界からは逃れられない。

 

 外界からの干渉を完全に遮断する絶対のシェルターに引きこもるということは、自ら目隠しをして耳を塞ぐことと同義なのだ。

 

「なのに、なぜかお前は自分を探っている俺たちの所在を正確に確認し、襲撃を仕掛けてきた。となると――お前は間違いなく、外の情報を得る手段を持っていた」

 

 どうやったのか。考えるまでもなく明白だった。

 

「お前は、この娘の精神に寄生している。つまり『干渉はできないが、観測はできる』」

 

 となれば、答えは一つしかない。

 

「――お前は、この娘の精神が触れたこと、見たもの、感じた情報『だけ』を、窓越しに確認できるんだと思った」

 

 だから、あの日扇を狙って放たれた妖霊の毒の魔法は、数時間も遅れてやってきたのだ。

 

 あの日、扇は日が昇る前に秩序体現委員会と接触し、朝方に黒土製薬へと戻った。つまり『人々が出社し、社会が動き出す以前の段階では、この男は扇の行動に全く気が付けていなかった』ということになる。

 

 もしも、超自然的能力で物質領域を感知できているのなら、扇が動き出した瞬間、あるいは天塚たちと通信を交わした段階で、見せしめとして即座に排除に動かなければならない。

 

 彼からすれば、精神空間まで追ってこれる勇者など『夢食い』を含めても片手の指で数えられるほどしかいないのだ。

 

 それ以外の有象無象が自分を嗅ぎ回っていると知れば、即座に潰して憂いを断つのが圧倒的強者の定石である。

 

 だが、あの男は対応に遅れ、あまつさえ自ら手を下すのではなく、わざわざ妖霊に頼んで攻撃を仕掛けさせた。

 

 朝になり、宿主である春華が目覚めて外部からの情報を受け取るまで、扇たちが自分を探っていることすら知らなかったからだ。

 

「麗華には毎日、俺たちの捜査情報が朝一で届く。お前に情報が洩れる危険性はあったが、彼女の精神安定には代えられんからな」

 

 そこで漏れたのだ。

 

 家族への情が強い麗華のことだ。見えない恐怖に怯える姉を安心させるため、「特撮班という凄い人たちが動いているから大丈夫だ」と、得られた情報を彼女に語って聞かせたのは容易に想像できる。姉を安心させるため、些細な嘘や希望的観測も交えていただろう。

 

「そしてお前は焦ったわけだ。勇者なのか、なんなのかわからない得体の知れない奴らが、確実に自分の尻尾を掴みかけていることに気が付いたから。」

 

 だからこその拙速な襲撃。

 

 その行動自体が、自分の弱点と所在のヒントを敵に明け渡す致命的な悪手だとは微塵も考えずに。

 

 圧倒的な加護の力を傘に着て、ろくな思考も戦略も練らずに魔物を蹂躙してきただけの、経験不足な素人の限界だった。

 

 ゆえに、扇と天塚はその「覗き穴」に完璧な罠を仕掛けた。

 

「――今、あの子は自室でVR装置を着けてる。それとわからないように、精巧にな」

 

 その言葉に、勇者の脳裏に一つの光景がフラッシュバックする。

 

 外出のために着替えている彼女の服が、普段の物と違った。

 

 そんな大層なことではないと、たまにはそういう服もあるだろうと、彼はそう思っていたが――あのなかに、そんな装置があったというのか?

 

 春華の視覚と聴覚を完全にジャックし、勇者に『大破した車内で絶望する麗華たち』という偽の映像を信じ込ませるための、罠が。

 

「彼女への状況説明は、お前にばれないようにこっちでやらせてもらった――どうやら、精神接続の練度は僕の方が上らしいな」

 

 夜空のような青い肌を持つ超人が、肩をすくめて冷酷に言い放つ。 そのどうしようもない事実を突きつけられ、勇者は顔を醜く歪ませた。

 

 屈辱、驚愕、そして圧倒的な恐怖。

 

 神の視点から下界の虫ケラを嘲笑っていたつもりが、最初から最後まで、自分は精巧に作られた水槽の中で泳がされているだけの観賞魚だったのだ。忌々しいという感情すら、扇の仕組んだ盤上の上で踊らされているに過ぎない結果だった。

 

「お前がアイテムボックスを使って、彼女たちに襲撃を仕掛けるだろうことはわかってた。あの家に戻させないといけないと思ったんだろう?」

 

 外は危険だと印象付ければ、誰が来るにしても相応の時間が稼げる――何より、この手の人間は自分の領域から出たがらないものだ、精神からも、この屋敷からも、出る気がないのだろうことは想像に難くなかった。

 

「正直、お前が、奇襲した段階で気が付けれるかと思ってたんだが……噂通り『アイテムボックスにものが入ったかどうかは確認しないとわからない』らしいな。それがわかったのもよかった。」

 

 肩をすくめる――視線の端に浮かぶアイテムボックスの中身には、確かにエンジンの記載が()()

 

 はめられたのだ――この『夢幻の勇者』が!

 

 夢幻の勇者は、自身の権能である虚空のインベントリを何度も、何度も確認した。

 

「騙したな……! 僕を、この『夢幻の勇者』である僕を、よくもコケにしてくれたなァッ!」

 

「そりゃこっちのセリフだ――人様のあたまん中に潜り込んどいて被害者ぶるなよ。」

 

「――――ほざけぇ!」

 

 叫び、たけり狂う力を放つ――この男は殺さねばならない、自分のために!

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