特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第196話:妖霊の価値観

 精神空間の深奥。『忍び足で現れる腐毒』は、あっさりとその狂気的な企みを肯定した。

 

「いい案でしょー?平等ってやつだよねぇ……」

 

 けらけらと、声の主が笑う。

 

 老いていて若く、艶やかで枯れている、女であり男でもある声で、どこまでも魅力的で不快。

 

 およそ、生き物に聞かせるつもりのある声とは思えぬ不協和の異音が周辺の空間を揺らさずに走る。

 

「その割に、この娘の幸福には無頓着だったようだが。」

 

「えーだって、仕方ないじゃない、この子の夢を叶えるためにこの子に我慢してもらわないといけないんだから――もともといじめられっ子?ってやつだったみたいだし、多少の不幸はあっても仕方ないよね。」

 

「……だから、こいつに手を貸したのか?」

 

「ん?そうだよ?この子の夢が叶えば平等だと思って。人助けってやつだよねぇ?」

 

「ずいぶんと聞こえのいいセリフで自分たちのやってることを表現するね。」

 

 扇雄介は、夜空の青を湛えた肌に一切の感情を浮かべることなく、静かに吐き捨てた。多面体状の結晶の瞳が、声の出所を探るのではなく、この空間全体を満たす気配そのものを睥睨する。

 

「えー?だって、事実だし……この子の夢を叶えるのにも、人類にも必要でしょー?勇者の力。」

 

「何のために?」

 

「――世にはびこる病を根絶するために。」

 

 ずるりと、空間に腐毒が満ちる。

 

 それは、あるいは、この妖霊の心象の表れだ。

 

 勇者というものを呪い――そして、祝福している。

 

 自分の生む勇者という矛盾は許すが、ほかの妖霊が作った勇者は許さないと心から決めている。

 

「ずいぶんと勝手な話だ。」

 

「なにがー?」

 

「いろいろだ――なぜ、勇者を増やすことが、病の根絶につながる?まさか、世界の人間が全員病気なら、病気じゃなくなるなんて言い出さんだろうな?」

 

「……?違うの?」

 

 心から不思議そうに、妖霊の声がひずんだ。

 

「要するに平等性の話じゃないの?あらゆることができる人間は誰も害さないってよく言うじゃない?」

 

「聞いたことのない理論だ。」

 

「そう?割と言わない?まあいいけど、結局、この問題の根本は『ごく一部の人間が敵対的な意思に基づいて加護を濫用すること』でしょ?だったら『すべての人間が加護を持てばいい』単純じゃない?そうすることで格差は是正され、病は『平常』になる。そうなれば――」

 

 病は終わる。

 

 それが、この妖霊の理論なのだろう。

 

『精神の頂に立つことで、すべての人間は加護に振り回されない力を得ることができる』と豪語するディーラーのように、この妖霊もまた『全人類が力を持てば、病は根絶できる』と信じている。

 

 単純で、子供っぽく、負け惜しみじみているが――同時に、問題のいくつかは解決できるだろうその理論を、この化け物は本気で信じているのだ。

 

「つくづく勝手な理論だ。それでもし悪人に力が渡ったらどうなる?」

 

「?それはそっちの責任でしょう?私たちは病を治した。それで終わりじゃないの?」

 

「その原因は君らだと思うが。」

 

「……む?そういえばそっか、えーじゃあみんな死ななきゃなのかー……まあいいけど……あれ、でも、赤ちゃんとかに加護渡さなきゃだし……?うーん……?じゃあ失敗かな……?」

 

 そのまま、空間はむっつりと黙り込む――何かを考え込んでいるらしい。

 

 この会話でわかることが1つある――この妖霊は危険だ。

 

 あの赤いスーツの女――ディーラーに比べて圧倒的に『思慮が足りない』。

 

 あの妖霊もずれてはいたが、あれには明確な『人間への配慮』があった。

 

 だが、この妖霊は……違う。

 

 こいつにあるのは『目的意識』だけだ。

 

 同情はしているのだろう、こいつなりの尺度で。

 

 善意もあるらしい、こいつなりの尺度で。

 

 だが……同時に、それは『人の尺度』()()()()

 

 究極的にはこいつらは、この世のあらゆる生態系から切り離された()()()()()()()()()異質の塊なのだ。生物にとって絶対の終焉であるはずの死すら、この生物の歩みを止める抑止にならない。

 

 ゆえに――

 

「――うん、わかった、じゃあ終わったらみんな殺そう。」

 

 ――血の通った人間であれば喉を凍りつかせるような凶行の発想が、ただの予定を確認するかのような無頓着さで、当然のように出てくる。

 

「どうせ反対してくる連中は碌に動かないし、殺してもいいでしょ、必要なら生まれてくるし。」

 

 一片の躊躇もなく、事務的な効率化の延長線上で平然と同族の殺害計画を進めるこいつらに、人が――この世に生を受けたあらゆる生物が本能に刻んでいる根源的な恐怖は、逆立ちしたって理解できない。

 

 独善的な善意らしきものはあるし、実際にその力で人を救おうともするが、その慈悲の皮を剥いだ最奥、究極的にこいつらにあるのは――他者の存在を前提としない、あまりに純粋で傲慢な自己の満足だ。

 

 別世界とやらを救うのもそれが理由だろう。

 

 おそらく、この生物群には『自己を満足させること』と『人を救うこと』の違いが判ってない。そして――おそらくはそれを理解する気もないのだ。

 

「あいつの方がましとは……」

 

 恐れ入る話だ。

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