特撮オタクたちは、勇者を超越する   作:猿マン

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第2話:誘い

「――あした、地方に出張ですね?」

 

「は、はい、そうです。急な話で、なぜだか、不安なんです。」

 

「なるほど――では、九時三十四分の電車に乗るのはよしなさい。遅刻します。」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「ええ、ちなみに、お土産は虎屋の羊羹よりも洋菓子がいいと思いますよ。」

 

「え、そ、そうですか?向こうの方は洋菓子が嫌いだと聞いていますが……?」

 

「娘さんの誕生日だそうですよ。ちなみに、虫歯が発覚したので向こうの担当は何を持って行っても食べられません。」

 

「そ、そうですか……?」

 

「ええ、ああ、あと、同行される新人さんに『コピー機の中を見ろ』と言った方が良いかと――一枚、資料が抜けているようですから。」

 

「!あ、ありがとうございます!」

 

「いえ――あ、あと、パンツを一枚多めに持っていくといいでしょう。」

 

「はっ?なぜーー」

 

「同行される新人さんが忘れてくるので。」

 

 どこか畏怖を感じる視線を受けつつ、しかし、確かな感謝を告げて歩き去る依頼者の後ろ姿に手を振って、相談を受けていた小太りの男――占い師は伸びをする。

 

「お疲れ様です、信じましたかね。」

 

 背後で、控えている助手――という名の、眼鏡をかけた利発そうな男が疑念を漏らす。

 

「わからん――最後のほうはかなり信じてた気がするけどな。」

 

 そういって、細身の男――いずれも、決して美形とは言えない……占い師の男も含めてだ――が、占い師を見つめた。

 

 占い師は伸びを止めて告げる。

 

「僕がみた限りだと信じたらしいよ。」

 

 その一言に二人も「ならよかった」とばかりに頷く――その顔に、疑いの色はない。

 

「――失礼します。」

 

 そういって借り受けたテントに入ってきたのは一人の少女だ。

 

 身長が百四十ちょいの小柄な体躯に、一応目の上で切りそろえられているが、それ以上のことはされていないサイドだけ長めのショートヘア、ヨレヨレのシャツ。

 

 洒落っ気なんて言葉とは無縁に見えるのに、それでも美しい少女。

 

「――ここがよく当たると評判の占いのお店……でいいんですかね。」

 

「そう呼ばれることもあると聞いてますよ。」

 

 そう、穏やかに返事を返す占い師に、少女は鼻を鳴らして一言。

 

「人を探しています、探せますか?」

 

「人によりますね、お話だけ聞いても?」

 

「ええもちろん――名は扇雄介、この聡明かつ俊英たるこの私の先輩たちにあたる人の一人です。」

 

 そういって、沈痛な声で、少女は語り始める。

 

「一緒に働いていたのですが、会社の不義理でどこかに消えてしまって。」

 

「そうですか……不義理とは?」

 

「急に不法な解雇に遭ったんです、ヒーローと言えど、労働基準法は適用されるのに……」

 

 そういって、悔しそうに顔を歪ませる少女――いや、話からして、おそらく成人済みの女性に、占い師は苦笑混じりに告げる。

 

「おそらくは、会社側も苦渋の決断だったと思いますよ。」

 

「勇者が入社する、ただそれだけの理由で首を切られてもですか?」

 

 鋭い視線が、占い師を刺し貫いた。

 

 勇者。

 

 その名はこの世の中における希望と絶望を同時に内在する単語だ。

 

 2006年の魔物襲来から4年後の2010年に現れた最初の勇者からまれに現れるようになった『異世界帰還者』達。

 

 魔物と同じ領域に『連れ去られ』強制的に戦う力を与えられて、魔物と戦っていた哀れなる拉致被害者。

 

 そして――今は、天すら恐れぬ無法者たちの異名でもある。

 

 端的に言って、彼らはヒーローよりも強いのだ。

 

 ヒーローが五人必要な敵を、彼らは小指の先を動かす以下の労力で叩き潰せる。

 

 誰も咎める者はいない。彼らのおかげで魔物の被害を抑えられているのは事実だ。ヒーローよりも早く、より強い魔物を倒す事ができる。

 

 勇者がいなければヒーロー達はじわじわと圧され被害が拡大していただろう。

 

 だから彼らに頼り、媚び諂わなければならないのだ。

 

 今や勇者は法に縛られない天下人。力こそ、暴力こそ全ての世界を我が物顔で闊歩する魑魅魍魎にして救世主。

 

 それが――勇者だ。

 

「どこの馬の骨とも知らない、下らぬ勇者一人のために、ずっと追っていた夢を捨てさせられるのが仕方がない事なんですか?」

 

「……さぁ、どうでしょうね、それに、本人はあきらめてもいないかもしれませんよ?」

 

「……そうですね、荒唐無稽な夢を、いつも追いかけている人達ですから。」

 

 思い返すのは、人間離れした修行の数々、どれだけ体に悪いといっても、彼は――彼らはそれをやめなかった。

 

 そういって、懐かしむようにほほ笑んだ女性に、占い師もまたほほ笑んで尋ねる。

 

「――なぜその方たちを探しておいでなのですか?その話を聞く限り、彼はその会社に戻りたいと思っていないように思われますが……?」

 

「ん、ええ、そうだと思います――なので、別の働き口を探しておきました。」

 

「……ほう?」

 

「実は、私も、その会社を辞めまして、叔母の会社に再雇用されたんですよ。そこで、新しい事業の一環として、ある計画がありまして。そこに、ヒーローとして、参加してほしいなぁと思った次第です。」

 

「……なる、ほど?」

 

「ええ、そうなんですよ――どうですか『先輩方』、働く気、ありません?」

 

 そういって女性――占い師の……つい1週間前に首を切られた扇雄介の後輩である白雲ゆかりはゆっくりと手を伸ばす。

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